(8)
「マツタケはもう十分反省したろ? それに一年以上も前の事だ。何もそこまで自分を戒める必要はないと思うぞ」
「……」
「人を傷つける事を言っちゃいけないって事が十分分かってるんだ。そこまで分かってれば、問題ないよ。不用意な言葉がどんな結果を引き起こすかをよく分かってる。マツタケはそれを知ってる」
「……」
「だから、もういいだろ」
マツタケは俯いたままで口も開かないが、僕の言葉はさすがに聞こえているだろう。
マツタケの単語喋りには慣れたが、やっぱり話しづらいし、前みたいにおもしろおかしく喋って欲しい。今やいつ誰がどこで自殺してしまうかも分からない状況だ。今横にいるマツタケも明日には自殺してしまうかもしれない。そう思うと、自分を許せないままマツタケが自殺してしまう事が、とんでもなく悲しく思えた。だから――。
きーーーーーーーーーーーーーん。
「ん?」
突然耳鳴りが両耳を襲った。驚いて僕は両耳に指を突っ込み、すこすこ空気を出し入れしてみるも耳鳴りは改善しない。
「あーもう急になんだよ」
鼻の穴を塞いで、鼻から息を吹き出そうとする。出口を塞がれたブレスが耳の奥を刺激するも、結果は変わらなかった。
「えっと、何だっけ。あ、そうだ、でさ、マツタケ――」
「終わり」
マツタケの顔は僕の方に向いていた。何の感情も流れていない能面のような表情に僕は思わずぞっとした。
「なんだよマツタケ怖い顔して。終わりって何がだよ」
「耳鳴りしたんだろ、今」
「え?」
――え、あれ?
「おい……マツタケ、今お前――」
「耳鳴りは、終わりの合図だよ」