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(7)

 コスモが自殺したと聞いたのは、コスモの答えを聞いた翌日の事だった。

 どこまでふざければ気が済むんだ。昨日あんなに砂糖をばりばりして、饒舌にべらべら喋ってたじゃないか。どうしていきなり死んじゃうんだよ。

 

 ここ最近1日1回誰かの葬式に出てる。

 もう嫌だ。葬式に広重の姿はなかったが、なんとなくそうだろうなと思った。コスモが死んだなんて広重は認めないだろう。

 遺影のコスモは眼鏡を外してにっこり笑っていた。

 やっぱ眼鏡外しといた方が正解だよ、コスモ。






「コスモまで死ぬなんてな……」


 葬式の帰り、僕とマツタケは公園のブランコでぎこぎこ揺られながら時間を消費していた。なんだか真っ直ぐ帰る気にはなれなかったのだ。


「罰」

「コスモに何の罰があんだよ」

「皆の罪、皆の罰」

「コスモに罪も罰もないよ。千佳にも」

「……」

「いや、ごめん。マツタケが悪いわけじゃないんだけどさ、もちろん」


 僕はやってしまったと少し悔いた。マツタケに当たってはいけない。特に今回の件が無責任な言葉によるものに起因しているのであれば尚更そうだ。


「マツタケ」

「何?」

「もう、許したらどうだ。自分の事」

「……」


 罪と罰。僕はもうマツタケがそんなものに苦しめられる必要はないと思っている。だが当の本人はいまだに自分に罰を与え続けている。

 

 マツタケの罪と罰。マツタケが単語でしか話さなくなった事は自分への罰。そしてマツタケが罪としているのは責任のない言葉で人を傷つけた事。

 マツタケは今でも、その事を引きずっているのだ。







 マツタケはもともとものすごくお喋りだった。マシンガントークという表現があるが、本物のマシンガンは打ち続ければ弾切れを起こす。だがマツタケの弾倉は無限だった。数だけではなく質量でも勝負の出来るトーク力はいつだって僕達を沸かせた。


 だが、それがマツタケの未来を大きく変えてしまった。


 マツタケには過去に一度だけ彼女がいた事がある。割と派手目な女の子で僕はマツタケすげえな、なんて思った。そんな彼女をマツタケはいつもいつも溢れるトーク力で楽しませた。だが面白ければなんでもオッケーと言うスタンスのマツタケは、ある時一人の女子をネタにしたトークを披露した。日頃おとなしいその女の子が実はあるバンドの熱烈な追っかけで、ライブ会場では豹変するという情報を聞き実際にその現場を観に行った時の話をして見せた。

 マツタケにして見れば下調べまでした渾身のネタだった。だが、彼女の反応はマツタケの予想と大きく異なるものだった。


「最低。死んだ方がいいんじゃない」


 その一言で彼女との関係は一瞬にして無に帰した。

 訳が分からなかった。いつもなら笑ってくれるはずなのに、今日に限って彼女は笑わなかった。それどころか酷く罵られる結果となった。

 

 後日マツタケは彼女に呼び出され別れを告げられ、涙を溜め震える、自分がネタにしてしまった女の子に土下座で詫びさせられた。

 

 理由は単純で、彼女とマツタケがネタにしたその女の子は実は友達だったのだ。そんな事も知らなかった自分自身、そして彼女を楽しませたいが故に安易に人の事をネタにするような毒舌に手を出してしまった事で彼女を失い、一人の女の子を無下に傷つけてしまった事を深く深く後悔した。


 そしてマツタケは罰を決めた。あんなにもべらべら何でも喋ってしまうから駄目なんだと。もう不用意に言葉で人を傷つけない為に、必要最低限の事しか喋らないようにしようと。

 その日から、マツタケは今の喋り方を始めたのだった。

 罪と罰を自分に刻み続ける為に。


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