(4)
ブーム。
それは何のきっかけで生まれるのだろう。
意図せず生まれるのか、作為的に育まれるのか。
この世界ではそういった潮流が何度も社会を揺らし、飲み込み、何事もなかったかのように引いていく。
流行りの曲。流行りのファッション。それはまるで真似事合戦だ。一つの光に集まる無数の羽虫のような嫌悪を感じる事もある。オリジナリティを失って同調する事は生きていく上で必要な力かもしれないが、皆と同じ事ばっかして楽しいだろうか。
本当は皆も分かってるんだと思う。そうした方が楽しいって。自由に思うがままに、オリジナリティを大切にしたいって。でもどうもこの世界は、オリジナリティの大切さを謳うくせには突出した存在や行動を煙たがり排除しようとさえする。訳が分からない。
だから皆怖がって枠におさまろうとする。もっと奥に進めば最高にスリルなビッグウェーブでサーフィンが出来るのに、沖合で水をぱちゃぱちゃする事に満足しようとする。
これがそれと同じ事なのかは分からない。
今僕達の間では、自殺が流行り出していた。
*
千佳が死んで8日後、3人が自殺した。僕はその3人とも面識はなかったが、きっと千佳が死んだ時の僕達のように、他のクラスの皆は悲しみに暮れている事だろう。
しかしこれは只事じゃない。高校に入った今まで、学校で死人が出るなんて経験はなかった。
それがどうだ。千佳が死んで、おまけに3人も死んだ。
ふざけるな。意味不明。
僕は無性に腹が立つ。
だいたいそれだけでも大事でイライラするのに、なんと隣の高校やら中学やら小学校、果ては幼稚園でも自殺が蔓延しているらしいじゃないか。
ますます意味不明。まだ高校生や、中学生なら分からなくもない。思春期の多感な若者がよく知りもせず経験も浅い人生やら生活やらに絶望したり行き詰ったり苦しんだりでもういいや死のうってなる事もあるんだろう。けど、小学生、ましてや幼稚園児が自殺?
あり得ない。でもあり得てしまっているのだ。
そしてそうやって死んでしまった誰一人その自殺の理由が分かっていない。
とうとうこの世界は本格的に狂ってしまったのかもしれないと、僕は本気で思う。っていうか実際こんなの狂ってる。
人生を漢字でどう書くかも知らない幼い子供が自分で自分を殺してしまうなんて。
*
そうこうしている間にもどんどんと自殺の輪は広がっていく。こんな異常な出来事で授業もクソもなくて、壇ノ浦からしばらく学校はお休みになるとのお達しが流れた。普段なら狂喜乱舞のニュースにも誰一人喜ばない。当たり前だ。もうこのクラスだけでもさすかっち、マイキー、村本っちゃん、長谷部、4人も死んでるんだ。
気が狂いそうだ。
「ああ、今日すげえ耳の調子悪いわ。耳クソ溜まりすぎたかな」
ってアホ面で何度も耳をほじってた村本っちゃんが死ぬなんて誰が思うか。
だから今僕は学校じゃなく家のベッドの上で何もする気が起きずにぼんやりと天井を眺めていた。
“あーたーらーしーいーあーさが……”
あら電話だなんて珍しいと表示を見るとマツタケだ。最近はなんだがマツタケばっかりな気がする。
「暇?」
開口一番マツタケは僕の今を当ててしまう。
「暇だね」
「話」
「おう、暇つぶしに付き合ってくれるのか?」
「僕じゃない」
「ん?」
「広重とコスモ」
「はあ?」
「図書室」
ぶつっと電話はそこで切れた。
広重コスモコンビの名がなんで今出る。唐突に飛び出た凸凹コンビの名が一体何に繋がるのか、非常に興味深い。
「どうせ暇だしな」
家に居て一人で憂鬱に浸かってたら自殺してしまうかもしれない。それなら外に出た方がましだ。
僕は私服のまま学校に向かった。