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 蓮井千佳。

 通称、愛されビッチ。

 この通り名だけを聞けば、彼女は周りに卑下されるような存在に思われるかもしれないが、そこに関しては全力で否定しておきたい。

ビッチなんて言えば貞操観念のない頭のネジと股が緩いろくでなしに思うかもしれないが、ビッチだっていろんな種類がある。

 ビッチはビッチでも彼女は愛されビッチ。普通なら敬遠されるようなタイプかもしれないが、彼女はそうはならなかった。第一周りが彼女をビッチなんて呼んだわけじゃなかった。千佳自身が「あたしはある意味ビッチだから」と言った事が周りに定着したのだ。


 彼女の頭のネジはしっかり止まっていたし、自分の股だって認めた者以外には決してその守りを緩める事はしなかった。ちょっとばかし人より多く恋を求めただけだった。

 付き合った人数は両手だけでは足りないし、それだけで普通の青春を過ごしているつもりだった僕にとってはなかなか衝撃的なものだったが、だからと言ってそこから悪い噂が流れているのを僕は耳にした事がない。真面目なのだ、千佳は。

 

 千佳はいつでも正々堂々と恋をした。人の男には手を出さなかったし、誰かを汚い手段で出し抜いたりもしなかった。ちょっと大人びた雰囲気と完成したボディの魅力さはあったかもしれないが、それを一番の武器として振りかざしはしなかった。

 

 自慢出来るほどの恋愛経験値を積んでこなかった僕にだって分かる。彼女がいかに真っ直ぐ恋愛しようとしていたか。相手の感情の動きをいつでも見逃さないように余計な事には目を向けず、ただひたすら想いを追いかけ、そこに寄り添おうとした。

 

 彼女と心を共にした者なら分かる。蓮井千佳は本当に素敵な子だと。その一途さに、まっすぐさに。


 だったら何でそんなにも男をとっかえひっかえするんだという疑問が聞こえてきそうだから答えよう。

彼女はまっすぐすぎるのだ。

 あまりに真っ直ぐに相手と向き合う中で、千佳は気付いてしまうのだ。自分という存在が一番大切な人の時間を大きく縛り、自由を奪っていると。

恋人なのだから時間を共有するのは当たり前だ。共有すると言っても24時間ずっと拘束するわけじゃない。度合は人によってまちまちだろうが、多かれ少なかれ、恋人という関係であれば普通の事なのだ。でも千佳はそれに耐えられくなる。大切なのに、大切な人の時間を自分が奪っているというジレンマに苦しむ。癒せない病。どうしようもない心。訳わかんない。でも大真面目に千佳は苦しむのだ。そして耐えられなくなり、千佳は男を振るのだ。

 そして本当の意味で時間を共有出来る相手を探そうとした。残念ながらそれは叶わなかったが。




 教室を包んでいた歪な空気。

 それは蓮井千佳という愛がそこから消えてしまった事を、誰もが認めたくなかった証だ。

 

 死んだ。

 千佳は死んだ。

 それだけでも納得がいかないのに。

 

 事故で死んだ。病気で死んだ。

 そういうどうしようもない、抗いようもない要因ならまだしも、彼女の死はそういう類のものではない。


 蓮井千佳は、自殺したのだ。

 その事実が、皆を、僕を、酷く戸惑わせていた。

 

「なんでだよ、千佳」


 彼女は多くを愛した。

 その中には僕も含まれている。

 それはその他大勢という意味合いではなく、恋人という特別な存在として。


「もう、会えないのかよ」


 やりきれない言葉が涙と共に零れ、虚しく地面の中に吸い込まれていった。


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