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自分への罰とか戒めとか、それはあくまで最初のきっかけ。
確かにそう思って始めた事だった。最初は不便で仕方なかったけど、続けてる内に無駄に言葉を使わない生活の居心地さにどっぷりはまり込んでいた。
なんだ、これで良かったんだ。
そう思うと、馬鹿みたいに喋りまくっていた自分も、周り、もひどく滑稽でつまらなく思えた。
でももう昔の自分はいない。僕はもう誰も傷つけないし、言葉を間違えたりもしない。
【死ね】
ちょっとパソコンを開けば簡単にその言葉をぶつけている場面に出くわす。
それがどれだけ相手を傷つけているかも知らずに。
それを痛い程知った自分からすれば、考えられない発言だ。
引きずっているわけではないが、どうしても反射的に元カノとその友達の顔を思い出す。土下座をした時の床の景色を思い出す。あんな事を二度と引き起こしてはいけない。
「マツタケ」
目の前に座る壇ノ浦先生は普段通りの穏やかな顔で自分を見ている。
「大丈夫ですよ。先生」
「言葉は怖くなくなった?」
「使い方さえ分かれば」
「君を生き残らせたのは正しい判断だった」
僕は先生から全てを聞かされていた。あれから半年も経たない内に、学校にいる生徒の9割は自殺した。ちなみに隣の高校は全滅したらしい。
「あんな胃腸薬みたいなカプセルのおかげで生きてるなんて、信じられないですけど」
「自殺を促すモスキート音を感知させない為のものにすぎないからな」
「昔の僕なら、先生は薬をくれなかったんでしょうね」
「言葉で他人を傷つけた時のままのマツタケならね」
僕の過ちは結果として僕の人生を開いた。若いうちは失敗しろなんて言うけど、あれには言葉が足りていない。失敗をして、二度と繰り返すなだ。そこまで教えてあげているだけでも、もうちょっと自殺者は減ったんじゃないだろうか。
「死ねなんて簡単に言う奴らこそが、死ぬべきだ」
先生の言葉に僕は強く頷いた。
他人に容易くそんな刃を向けるような人間がいてはいけないと僕も思うから。
そして今、その大掃除がいろんな国で行われている。
言葉を大切にしない、言葉の価値を分かっていない者達の駆除が。
「言葉って難しいよな」
まるで独り言のように先生は呟いた。
僕は、先生が知る全てを教えてくれた日の事を思い出す。