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―8.悪魔の襲来―

一通り説明を終えると響はあっけに取られた目でこちらを見ていた。まあ無理もない、今の学校を見ればそんなことを感じることはできなかっただろう

どんな反応を示すか少し怖かったが響の言葉を待った。やがてゆっくりと響が口を開く

「すげぇ。おまえ…マスコミの前で大声出して恥ずかしくなかったの?」

「驚くのそこかよっ!?」

あさっての方向で驚かれて慌ててツッコミをしてしまった。確かに凄く恥ずかしかったけど!

「まあそれは冗談として。ちょっと教えてくれないか」

「ああ、いいぞ」

「すまない。なんであんな約束―――「俺と来年になるまで、話しかけないでくれ」なんてしたんだ?」

翔はこの質問が来ることは予想していた。実は以前に夕実からもされた質問である

普通に考えて今のクラスメイトには英雄として称えられてもおかしくない状況である

だがそれをあえて仲間はずれのように仕向けた意図が響にはわからなかった

「あれは俺の宣言が「独断」で行われたと思わせる必要があったからだ」

「どうしてだ?みんなの意見のほうがいいんじゃないのか?」

「理由は2つある。1つは校内反発への抑制だ。あんな事したんだ。かなりの人に俺は恨まれているだろうからな。それがみんなでやったとなるとまた、俺の知らない間に攻撃される可能性がある。でも俺個人であれば、あの実力の前に誰も攻撃してこないだろうからな。そしてもう1つは学校側への配慮だ。あんなの「みんなの意見です」って事がばれたら昔の白銀(差別社会)が公になったら洒落にならないからな。俺一人なら優勝者のわがままって事で通せるし、改革もしやすかっただろう。なんとかしたいと思ってたの白銀側も同じだからな」

「ほう」と相槌はうっていたが、頭の中ではこれまでにないほど驚いていた

(まさかその後の展開を予測していたとは…なんてやつだ)

翔という男は、自分のことは置いておいて他人を第一に優先できるやつと認識していたが、まさか学校のことまで配慮していたとは…想像していなかった

「まあ、その後に復讐というか「俺でも倒せるんじゃね?」とか考えるやつが急増して模擬戦を挑まれまくるのは驚いたけどな」

そう笑いながら話している様はいかにも年相応の少年なのに

「でもなんで「来年まで」だったんだ?」

先ほどのことは整理しきれていなかったが、すぐに次の質問を投げかけることにした

「あの状況だと俺には2つ名がつく可能性があったからな。襲名してしまえば俺に地位がつくからある程度のことは文句言われなくなるだろうし…こればっかりは嫌だったけどな」

この魔法社会において2つ名は勲章といっても過言ではないのだがその話をしている翔はほんとうに嫌そうな顔していた

(なんというか…オレはとんでもないやつと知り合ってしまったのかもしれないな)

そんな風に響は感じていた

「そんなに嫌そうなのに、なんで年末の大会も出場したんだ?あれで2つ名が決まったようなもんなのに」

「い、いや…それは…その…」

(あれどうしたんだ?))

先ほどまで雄弁に語っていた翔が一変して動揺し始めた。よくみるとチラチラと先ほどから話に加わっていなかった夕実の方を見ている

「翔ったら、いつのまにか私のお願いを聞いてくれてたの」

視線を感じたのか夕実は少し頬を染め、照れながら響の疑問に答えた

「わ、私が「翔のクラス」楽しそうだね。っていったら「じゃあ、夕実も来るか」って」

「はぁ?」

「し、しょうがないだろ!俺はそっちのがもっと楽しくなるんじゃないかとか…いやいやいや、俺は前のクラス編成の理不尽をなんとかしたくて…なぁ?」

「……お前らもう付き合っちゃえよ」

(こいつは…とんでもなく馬鹿だ!)

尊敬しかけていた認識を変更し、翔のことを「幼馴染バカ」と改めることにした


買い物をするために響と別れ、翔と夕実は商店街へと足を運んだ

この商店街はこの町で一番大きいため、この時間では主婦や会社員、カップルなど大勢の人でにぎわっている

しかし、そんな時間なのか翔達の周りには異様なほど人があふれているように感じる

それもそのはず。翔のそばに夕実がいるからである

その辺のアイドルよりも遥かに可愛らしい容姿を持っているため一目見ようと立ち止まる人も少なくなく、その姿に羨望のまなざしを送っている

以前はその後に一緒に連れている翔を見ると殺意に満ちた視線が集まるのだが、最近では魔法闘技会コロセウムでの事件と、2つ名の襲名以来殺意は薄れ、代わりに「お似合いね」「羨ましい」「リア充爆発」などの声が聞こえるようになった

ここには夕飯の買い物をする約束をはたすためにきたのだが、翔は今日夕飯の当番ではない

聖戦に入る前に夕実を安心させるために言ったことなのだがこのままでは嘘をついたことになってしまう。そんなことは絶対駄目だ!

(とりあえずみんなにおかずの一品を増やすことにするか)

そう決めて、とりあえずスーパーの中に入っていった


数分して、一品は唐揚げを追加することにして材料を買って2人はでてきた

買い物している間もずっと夕実は翔の顔を見ていたため翔の顔は赤くなっていた

「どうした。俺の顔になにかついてる?」

とうとう耐え切れなくなり翔は振り返りながら夕実に尋ねた

「えっとね。響くんに話しちゃってよかったの?」

「ん。なにを?」

「だって今日話したこと知ってるの私以外にはほとんどいないでしょ」

そうなのだ。このことはほとんど知られていない。そのため、今まで約束のために話していなかった翔が2年生になり急に話すようになってからまだ日が浅い

そのためクラスではまだ戸惑いが隠せない雰囲気を感じることが多いのだ。それでも翔は理由を今まで一度も語ったりしていない

「あいつはあの当時を何も知らなかったってのもあるんだけど…」

「ん?」

「あのとき俺にずっと話しかけてきたのは響だけだからな」

そうそっぽをむいて告げる翔を見て、夕実は花が咲いたような笑顔になった

(心が許せるともだちができたんだね)

翔は誰とでも仲良く話すが、友達のように親しく話せるのは夕実と施設の人たちしか知らない

そこにようやく友達が加わることを夕実は心から嬉しく思った

そんな彼を愛しく思い、買い物袋をもっていない右手を握ろうとして―


「ドオォォォォン!!」


商店街にふさわしくない音が響き渡った。ここからでは見えないがかなり近いところに発生源はあるみたいだ

続いて聞こえてきたのは悲鳴。そして「悪魔デーモン」だ!という声が聞こえると、翔の顔がみるみる強張っていった

「夕実。頼む!」

「えっ!?」

夕実の返答を聞かないまま先ほどの買い物袋を渡すと、翔は走り出した

そのスピードはあまりに速く、気づいた頃にはもうその後姿は小さく見つけるのが困難なほどになっていた


目的地に着くとそこには巨大な影が暴れていた

約5メートルの巨大な体を有し頭から禍々しい2本の角、簡単に人を切り裂くことのできる鋭い爪、邪悪なる翼に加え漆黒の体からは湯気が立ち込めている様は、まさしく神話などに存在している悪魔の姿そのものである

(まさかこんな人がいるところに悪魔デーモンが現れるとはな…)

周りを見渡す限り、いくつか建物は破壊されていたが幸いにも犠牲者は出ていない様子である。しかし、いつ襲ってくるか分からない状況では悠長に構えている時間はない

「俺が守護者ガーディアンが来るまで時間を稼ぐ。他の人は早く避難してくれ!!」

そう大声で言い放つと、その恐ろしい悪魔デーモンと向かい合った

そこに居た一般人は、一瞬固まったがすぐに立ち上がり、各々が避難を開始した

「ちっ、まだ人がいるか。めんどくせぇな!」

そう言い放つと同時に一足飛びで間合いを詰めると悪魔デーモンの顔面にハイキックを放った

攻撃が当たる前に左肘でブロックされると同時に、素早く右の鉤爪が翔を襲う。それを見越して体を捻ると、その空振って伸びた右肩にかかと落としを決めた。それが効いたのかうなり声を上げると1,2歩後ずさり体勢を立て直すと翔から間合いを取った

(間合いをとるとは…普通の悪魔デーモンとは違うのか)

自分の知識にある通常の悪魔デーモンとは異なる行動に心の中で舌打ちをした

(おそらくは高位悪魔ハイデーモンってやつか!)

そうこう考えていると今後はあちらから雄叫びをあげ攻撃を開始した


悪魔デーモンとはこの世界に魔法が発見されこのオオシマが誕生してから約年後に現れた怪物である。現れた原因、生態、出没条件などあらゆることがまだ解明されていないが、彼らは人々を襲い、生命の宝玉(ライフ。ジュエル)を奪う。実際に年間で何人もの被害が出ており、生命の宝玉(ライフ。ジュエル)を奪われたは誰一人生きてはいない…悪魔デーモンは所有者を殺害した後に奪われてしまうからだ

発見当初はかなりの被害が出たが、すぐにある組織によって討伐されることになる。それが守護者ガーディアンである。この役職が人気なのは高給であることではなく、オオシマの誇りだからだ。危険を顧みず奮闘する姿は誰もが憧れ、オオシマの男性なら一度は憧れる職業だ。また高位悪魔ハイデーモンなどには賞金や勲章がかけられ、富と名声が両方手に入る数少ない仕事である。守護者ガーディアンによって住民は守られ被害は最小限にすることができた


戦闘を開始してから5分程経過したが、いまだに守護者ガーディアンは現れる気配がなかった

(いくらなんでも遅すぎじゃないか!)

そう苛立ちながら、もう何度目か分からない鉤爪による攻撃を避けていた

この間にもこちらの攻撃は何度か命中しているのだがどうやら効果が薄いようだ。このままでは埒が明かない!そう感じながら今度は上から振り下ろされた拳を紙一重で避け、その反動を生かして左手首に回し蹴りを当てたところでありもしない音が聞こえた

「カキィィィン!!」という音に驚きとっさに今度は翔の方から間合いをあけた

(な、なんだあの金属音は!!)

とっさの出来事に翔は激しく動揺した。目は先ほど攻撃を当てた箇所に注目していた。それでも悪魔デーモンは痛みを感じないのかものともせず次の攻撃を繰り出した

(見えた、たしかに見えた――)

自分の目で見たものが信じられないといった様子で呆然としてしまった。戦いの最中には致命的なミスである。気がついたときにはもう相手の鉤爪が目前に迫っていた。人間の速度じゃどう考えても間に合わない――しかしこのコンマ何秒もない状況で、弓野翔は人間とは思えない速度で相手の攻撃を後方に移動し見事回避した

その状況に悪魔デーモンも表情がないが動揺しているかのように明らかに動きが鈍った。そんなこととは認識していなかった翔は自分の中である仮説を立てていた

(確かめるしか…ないな)

そう結論付けると戦闘中に破壊されてしまった店の中から包丁を見つけ出した。それを逆手に持ちかえると今度は悪魔デーモンに向かって反撃を開始し、執拗に左手を狙った。基本的に翔はカウンターを狙う戦法を多用するため両腕でしか攻撃してこない悪魔デーモンは攻撃速度さえ尋常ではないが、見極めてしまえば簡単に命中させることができる。何度か金属音とともに命中させていると、その漆黒の体の皮膚の一部が裂けた…その光景を見た瞬間、翔は真っ白になった


「そんな、ばかな!!」


今の光景が信じられない、その事実をを頭が認めない

そういった今の彼を物語るような悲痛の叫びが商店街に木霊した。

それは誰もが見たことのあるものがあり、今の生活には欠かせないもの



――その悪魔デーモンの腕には、生命の宝玉ライフ・ジュエルのついた腕輪が光っていた――










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