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―6.下校途中―

模擬聖戦シャーム・クルセイド後の余韻に浸る様子もなくすぐに制服に着替えなおし、夕実と合流しようと足早に出口に向かっていた

出口が近くなると先ほど会場で観戦していた夕実、響を初めクラスメイト達は翔が来るのを待っていた

真っ先に夕実が翔に気づくと聖戦前とは違い、晴れやかな表情でこちらに駆け寄ってきた

「おつかれさま。翔」

「ああ。思ったよりも時間かかっちゃったけど、まだ夕飯の買い物間に合うかな」

初めに発した言葉が聖戦のことではなく、先ほど何気なく交わした「約束」の話であることに夕実はやっぱり翔だなぁっと感じて、なんだか無意識に笑ってしまった

「えっ、なに。どうしたんだ!?」

その光景にわけもわからず混乱している翔は戦っている翔と同一人物だとおもえない様にいよいよ堪えられず声に出して笑ってしまった

そんな夕実の様子を見て、ますますわけがわらなくなり翔は首をかしげっぱなしである

そのときようやく他のクラスメイトがこちらに気づいた。すると待っていた全員が一気に押し寄せてきて一瞬で翔と夕実はみんなに囲まれてしまった

「すごかったよ!」「さすがだな」「かっこよかったね!」など賞賛の声が次々と飛び交っている様子にもみくちゃにされながら翔は苦笑いを浮かべている。ともかくこのままじゃいつまで経っても出れない

そのため「ありがとう」と感謝の言葉を各々かけて状況の収拾を図ったが収まる様子がまるでなかった

全員を落ち着かせるのに成功したのはそれから10分後のことであった


ようやく一息つき、みんなと解散すると翔、夕実、響の三人はともに下校していた

やっと落ち着ける状態になると翔は先ほどの剣幕を思いながらため息をついていた

「みんな興奮しすぎだよ。ただの模擬戦で勝ったくらいで」

その独り言を聞いてしまった響は目を見開き、開いた口がふさがらないといった様子で思わず翔の顔を二度見した。正直かなり変な顔である

「どうした。そんな顔してると通報されるぞ」

「いやいやいやいや。お前おかしいって!あの炎帝サラマンドラ相手に勝っちまうなんて誰が見ても興奮するって!」

通報へのツッコミを忘れるほどに響は興奮しているのがわかった。その様子からただ事ではないと判断して今の状況をよく考えてみた

確かに健吾先輩はかなりの使い手だった。特性を十分に発揮していた戦闘能力の高さは折り紙つきで、おそらく実践においてこの学校で彼に勝利はおろか対等に戦える相手はほとんどいないだろう。その環境において模擬戦ではあるが勝利したことは凄い事だということは理解できる…だが響も他のみんなの興奮の仕方を見ているとそれだけではないようだが…

翔なりに考えたが正解が出てこなく、隣の夕実に目をやった。夕実も分からないらしく二人して響を見て首を横に振った

「分かりましたお二人さん。説明いたしましょう!いいか?2つ名を持つ者に無名の者が勝利することは前代未聞の事件…革命といっても過言ではないんだよ!」

そういって響先生の解説が始まった


「2つ名制度」はこの白銀高等学校独自の制度である。基本的には戦績と魔法闘技会などの活躍により武力が認められるパターンと社会や地域に偉大な貢献を果たされることにより知力が認められるパターンがある。このいずれかを条件を満たしている場合にのみ審議され、可決されると理事長や校長によって正式に任命される。この2つ名を与えられることはオオシマでは多大な影響を持つ。この称号を有しているだけでまず生活に困ることはない。さらに就職先へは最優遇され、一般の人が入れない場所も立ち入り可能である。国の公共機関は24時間いつでも無料で使用可能など、その効果は計り知れない。

この称号を得たいがためにオオシマ中から入学希望者が後を絶たないのだ

しかし、その称号を手にするのは非常に難しく、現在在籍している生徒では5名のみである。これは近年では異例の豊作であり学校の歴史上該当者がいない年も多々あったのである

その称号を持つ角田健吾に勝利するということ…まさに超一流を無名の凡人が倒す…それは歴史的快挙、革命である


一通り響の説明が終わると、2人から拍手があがった。響はその様子に少し照れていたが、すぐに真剣な表情に戻り翔を再び見つめると

「つまり、翔。お前はこの学校で超有名人になっちまったってことだ!」

ビシッと指をさして、決まったといわんばかりのドヤ顔を披露していた。しかし、その事実に翔は驚かなかった。というか何も感じていなかった…そんなことは翔にとっていまさら(・・・・)の話である

翔はおろか夕実も反応が薄かったため、3人の前になんともいいがたい気まずい空気が流れていた

いよいよ耐え切れなくなって響が半泣きの状態で尋ねてきた

「す、すいません。翔さん夕実さん。なんで黙ってらっしゃるのでしょうか。そのよろしければ教えていただけないでしょうか」

説明していたときとはうって変わって低姿勢に可哀想なことをした反省している夕実が翔の代わりに質問をした

「桐同くんは秋に転入してきたから…昨年の夏の魔法闘技会は見てないよね」

「そうだね。オレが入ったのは10月だから見れなかったんだよ」

そうなのである。こう見えて響は白銀高等学校では非常に珍しいオオシマ外からの転入生なのである。どうやら後天的に魔法に目覚めたのだという。その話は今は置いておきさらに夕実の質問は続く

「うん。じゃあ冬の魔法闘技会は見たの?」

「それが偶然用事が重なっちゃって見れなかったんだよ…あんとき凄いショックだったよ」

今の質問から、翔と夕実は響が重要なところを見逃していることを確信した。

(どうりですぐに俺と話ができたはずだ)

いまさらながら響との出会いから今の友好関係を築くまでが早かった理由が判明した。しかし、それでよかった。そうでなかったら響とこんなに仲良くできなかったと今回の偶然に翔は感謝した

そんなことを考えている前で夕実が響の疑問を解決する最後の質問を唱えた

「じゃあ、そのとき優勝した人は誰か知ってる?」

「確か…「新月ネイアラ」の2つ名を持つ人だと聞いたよ…って、え?うそだろ…!?」

(「見事だ…「新月ネイアラ…」)

先ほどまで歴史に残る勝負を繰り広げ、最後まで勇敢に戦った真紅の男が意識を失う前に勝者を称えた一言が蘇ってきた

顔面蒼白な様子からすでに気づいたようだが夕実の口が肯定ともいえる一言を告げた

新月ネイアラ…それは弓野 翔の“2つ名”だよ」

その言葉が耳に入ると同時に響はその場で思考停止した。まさか、あの革命児、新月ネイアラが自分の目の前にいることを認識することができなかった

「まさか、たった1人で白銀を革命させた…」

「いいや。革命したというよりも前の白銀が気にいらなかったから喧嘩をしただけだ」

(け、喧嘩の規模が違いすぎる!)

響は友人のそっけない言葉に激しく心の中でツッコミをした。声に出して言わなかったのはこの弓野翔は本当に喧嘩して見事勝利を収めたのだ。しかし、そこでひとつ疑問が残る

「どうやって革命したんだ?一人じゃたかが知れてるぞ」

「だから魔法闘技会の、あの褒美を利用したまでさ」

にやりと答えた翔の姿はまるで子どもがいたずらを思いついたような無邪気さが感じられた

響はその姿を見て微笑ましく思った。しかし、考えていても魔法闘技会で優勝する事など到底現実不可能に感じる。その当時では翔は2つ名を持っていないし、ましてや「落第生」とまで呼ばれていた時代であったことは響も知っている。いや、それよりももっと根本的に妙な部分がある…

「どうして、喧嘩したんだ?だって翔、聖戦あまり好きじゃないよな」

そうなのだ。今まで何度も聖戦で戦ってきているのを観戦しているが、楽しそうな様子は一切感じられなかった。事実、翔は今回の聖戦以外では楽しく感じていなかった

そんなやつがどうして、革命するためとはいえ…魔法闘技会などといった戦闘をいくつもしなければならないものに参加しているのか不思議に感じていた

さすがにその質問には黙ってしまったが、横から夕実が出てきて優しい目をして答えた

「翔は、私を…ううん。あのときのみんなを助けるために、喧嘩してくれたの」

そう満面の笑みで、答えられたので思わず何もいえなかったが、確かに翔らしいと思った。こいつは人のために行動できる男だ。そんなことは付き合いが短い響でも十分感じていた。当の本人は夕実の言葉に真っ赤になって顔を背けているけど

「ほうほう。そこが一番聞きたい!翔は学校の何を革命するために喧嘩したんだ?」

「それはね…」

「革命したんじゃない。俺はみんなとの「約束」を果たしたんだ」

夕実が答えるのを遮って、翔は夕焼けの空を見上げていた


―時はまだ弓野翔が新月と呼ばれていない1年前に遡る―





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