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―3.朝の習慣ー

午前5時

黒が支配する世界から淡い光が注ぎ込まれ、ようやく周りが一日の始まりを感じ始める頃

翔は快適な眠りの世界から現実世界へと覚醒した―簡潔言えばただ起きただけである

「よし、いつも通りの時間だな。ん~~っと」

寝床の横に置いてある目覚まし時計から時間を読み取ると大きく体を伸ばした

素早く着ていた寝巻きを脱ぎ上が半袖のシャツ、下はジャージとラフな格好に身を包み廊下に出た。そして一番奥にある階段を降りて玄関口で靴を履き、誰も起こさないようにドアを開け、いつもの日課をするために施設を後にした

翔の住んでいる施設はこのオオシマで唯一の孤児院|(通称ゆりかご)である。ここでは両親のいなくなってしまった幼い子供達を集め、一人前の能力者になるまで保護をする国が運営している

ここにいる子供達はほとんどが能力者の両親から生まれたため、遺伝子的に能力が使える可能性が極めて高い。そのためオオシマ以外での保護は認められず親族がいる場合でも在住していなければこの「ゆりかご」に迎えられることとなる

そのため下は1歳から上は18歳までと幅広い年齢層が同居しているのだ

以前、翔は普通に起きて玄関まで行こうとしているとき

物音が大きかったのか4歳の男の子が起きてしまい、泥棒と勘違いされ大声で泣かれてしまった

その結果、翔はこっぴどく怒られる羽目となり1週間の外出禁止を言い渡されてしまったのである

「さて今日も、いっちょ始めますか」

朝のストレッチを終えると施設からすぐにある道路に腰を落とし、陸上競技でよく見かけるクラウチングスタートの体勢をとった

「よ~い…ドンッ!」

自分の声でスタートを切ると、凄まじい加速とともに走りだした



翔は5年前から毎日約20キロのランニングを欠かさず行っている

ある理由から走らざるをえなくなくなってしまったが、続けているうちに早朝の風に当たりながら淡い光の世界を走ることへの快感を感じ、始めた当初は5キロほどであったが徐々に距離が伸びてしまい今ではハーフマラソン並の距離になってしまった

周りの景色を楽しんでいるうちに目標のランニングを終え、用意してあったタオルで汗を拭いた

すると翔の背後から円筒状の物体が後頭部目掛けて飛んできた

それを振り返らずに手で受け止めて、投げたと思われる方向に目を向けた

「おつかれ~。相変わらず早いね」

そこには幼馴染の鶴田夕実つるたゆみが笑顔で出迎えてくれた

朝日を浴びて輝いて見えるセミロングの栗色の髪。西洋の人形のような端正な顔立ちと白い肌。少し小柄ではあるがモデルも嫉妬するくらいのスタイル。その姿から微笑む表情はこの世の男性すべてを虜にできるではないかと本気で考えてしまうほどだ

「サンキュー。このくらいどうってことはないよ」

先ほど受け止めたもののふたを開けると翔は中身を飲みはじめた

これはいつもくれる水筒で夕実特製のスポーツドリンクがはいっている。こうしてランニングの後にはいつも夕実は渡してくれるのだ

「今回のも美味いなこれ」

「そう?今日ははちみつをベースにしてみたの」

「なるほど。いつもありがとな」

「いえいえ。それ私にもちょうだいね」

「あっこら!」

そういってまだ飲みかけの水筒を奪おうと水筒を持つ手に抱きついてきた

驚いて夕実のほうを見るとににやっと子悪魔のような笑みを浮かべていた

翔は抱きついている夕実の柔らかい感触に動揺していると、その隙に「いただきっ!」水筒を奪われそのまま直接特製ドリンクを飲み始めてしまった

(まったく、夕実はこういうの無防備なんだよな)

翔は照れたような呆れたような妙な感じになりながら夕実の頭に手を置いた

「へぇ!?」

「このばかやろうが、人様の飲み物を盗るんじゃない」

そのまま夕実の頭を乱暴に撫でると、白い頬を赤く染まった

「ごめんなさいは?」

「はうぅ…私がつくったやつだもん…」

「ご・め・ん・な・さ・い・は!?」

「はうぅ…ごめんなさい…」

「ふむ、それでよろしい」

反省したのかすっかり小さくなった夕実の頭を最後に優しく撫で、頭から手を離した

昔から夕実は翔に頭を撫でられると顔が赤くなり急におとなしくなるのである。そのためなだめたり悪いことを叱るときにはいつもこの方法を用いているのである

その後、顔の赤さも透き通る白さに戻ると少しの間、翔と夕実は世間話に花を咲かせていた


30分ほどが経ち、やがて翔が施設に帰る時間になり夕実と別れるとゆっくりとした歩調で施設のある方向へ体を向けた。そしてとびっきりの笑顔をこの世界に向けて

「今日の一日が特別な日になりますように!!」

大きな声で挨拶をして部屋に戻っていった


現在の時間。午前6時。

こうして彼のいつもの朝の習慣を終えて

これから学校へ行き勉強をし、友達や幼馴染や昼食を取り

そして下校してから施設の子たちをわいわい過ごしながら終わる

そんないつもの一日が始まるのだ



しかし、先ほどの宣言がまさか現実のものになることを彼はまだ知らない



彼の願いどおり今日という日が特別な日になるまでの

……いや、いままでの平穏な日々が崩れ去るまでの



――カウントダウンがすでにこのとき始まっていたということを――





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