その9
彼女と出会ってから、半年が経った。
そして、今は文化祭で、俺たちのバンドの演奏が終わったあと。
「俺の歌聴いてくれた?」
「うん。意外と歌上手かったのね」
「意外かよ」
「上手かったって、で、格好良かったかもね」
「かもねかい。もう少し素直に誉めてもいいんじゃね〜」
彼女が笑顔で言った。
「調子乗るからやめとく」
ヤバい可愛い。最近俺は、彼女の事を意識しまくっていた。
少し前までは、そんな事は無かったのにな〜。
そして、彼女は俺の事を信用しきっているようで、無防備だった。俺は男だというのに……。
最近彼女は、学校で笑う回数が増えた。
その結果、男たちの間で黒川人気が上がりまくりだ。
やってられん!
俺と付き合っていると言う噂も有ったりするらしいが、彼女との間には何も無い。
さらにやってられん!!
メインイベントだった(ほんとだよ)、俺たちのバンドの演奏も終わり。
文化祭が終わろうとしていた。
「あ〜片付けめんどくせ〜」
クラスの委員長と副委員長は、片付けなど色々忙しいのだ。雑用係なのでは? ほんと。
彼女が笑顔で言う。
「まあそう言わずにやろ〜むかつくけど」
こ、怖い。さっきの笑みと違うよ。
「そ、そうだね」
暗くなってきた。やっと終わりそうだ。委員長なんて引き受けるんじゃなかった。
けど、隣を見ればそんな考えも吹っ飛ぶね。やっぱり引き受けて良かった。うんうん。
そこ!? 男ってとか呆れないように。
「こんなもんでいいじゃない?」
「そうだね。先生に報告して帰ろうか」
つるちゃんのOKのサインが出て、俺たちは帰る事にした。
その時、廊下の窓から綺麗な夕日が見えた。
歩くのを止めて、彼女がつぶやくように言う。
「綺麗だね」
俺は、夕日ではなく彼女を見ていた。夕日に照らされる彼女は、綺麗で可愛かった。
心臓が跳ねる理性が飛ぶ。無意識に彼女の手を握ろうとした。
「いや!」
「……」
「やめて」
彼女は、手を握ろうとした俺の手を振り払った。
「なんで?」
彼女は、イヤイヤするように、ただ首を振るだけだ。
俺は途方に暮れるだけ。
何が駄目だったんだ。彼女は自分の手で自分の肩を抱いて、怯えるように俺を見ている。
その視線に耐えられない。俺は彼女から逃げ出す。
全速力で走った俺は、いつの間にか自分の部屋のベットに倒れ込んでいた。