番外編
本編を未読でも読めると思うのですが、できれば本編読後に読んで欲しいです。その1とその2の視点を変えた話になっています。
遥か彼方番外編『仮の私〜はじまりの時〜』
学校への登校中、ふと、昨日の事を思い出してしまった。物や母に当たる父のもの音が聞こえた。私は自分の部屋で目と耳を塞いで、嫌な時間が過ぎ去るのを待っていた。ただ逃げている私は卑怯者。あ〜だめだ。家での事は考えないようにしないと。学校ではただ静かにしていたい。目立ちたくなかった。
私は学校に着くといつも通りに自分の席に座って、MDプレイヤーで音楽を聴きながらお気に入りの作家の本を読む事にした。
新しいクラスになって一週間経ったが、私だけ孤立している。当たり前だ、誰か話しかけてきても無視しているのだから、その事で、女子の何人かに目をつけられたようだ。私は人と話すのが苦手だった。強がっているように思うかもしれないが、この静かな空間が楽だった。
私の席が、クラスの中で別の空間なら、違う意味で別の空間、明るい空間が一カ所ある。彼が居る所。彼はたった一週間でクラスの中心になっていた。誰とも仲良く話している。私は基本的に他人に興味は無い、けど、彼のことを知っていた。彼は去年の文化祭のステージで歌っていた。私はその声が好きだった。
そして、あるホームルームの時間、クラスの役員を決める事になった。彼は、皆から推薦されて委員長になったようだ。なぜか私も推薦されて副委員長になってしまった。ある女子を見ると、私の視線に気付いたのかバカにするように笑う。
むかつく、私の静かで目立たない学校生活が無くなった。何もかも嫌になった私はホームルームが終わっても帰りのしたくもしないで座っていた。
そんな時、彼が声をかけてきた。もう私たち以外は全員帰ったようだ。
「はじめまして?」
「……」
「これから一緒にクラスの委員をやるわけだから仲良くなった方が良いと思うんだ」
「……」
いつも通り無視した。話すのが嫌だった。けど、彼は諦めなかった。
「え〜と俺の名前は知ってるよね?」
私は黙って頷くと、彼は凄く嬉しそうに微笑んだ。
「黒川さんっであってるよね?」
今度は私の名前を言ってきた。少し驚きつつ頷く。彼は私の名前を知っていた。
「下の名前はなんて言うのかな?」
「○○○」
とっさに声が出ない。小さい声になってしまった。今日学校に来てから一言も喋ってない事に気付いた。
「え?」
やっぱり聞こえなかったようだ。自分にイライラする。鞄からメモ帳を出して名前を書いた。
「あ〜あさみね」
「俺の下の名前は知っている?」
私は首を振る。本当は知っているのに、なに私は嘘吐いてるんだろ。
彼は、私が名前を書いたメモ帳に自分の名前を書いた。
何でだろうか?いつの間にか二人で、喋りもせずにメモ帳を交換しながら夢中で筆談をしていた。私は自分の事を話すのが凄く嫌いだった。なのに自分の事や家族の事など書いていた。多分彼が何気なく自分が母子家庭である事を書いたから。私はさすがに例の事を書くのを避けたけど、たいした事無いんじゃないかと思えた。
いつの間にか外が暗くなっている。私たちは帰る事にした。
二人並んで校門から出ようとしいた時に、ふと、さっきの出来事を思い返す。急に可笑しくなった。私は笑いながら思い切って言う。
「あんた変わってるね」
彼はビックリしているみたいだった。彼は衝撃から立ち直ったのか、す〜と笑顔になって、笑いながら言った。
「おまえもな」
私も笑いながら返す。
「そのとうり」
あ〜私はやっぱり強がっていたんだ。この私が作った壁を破ってきてくれる。誰かを待っていたんだと気付いた。
彼と話しながら家に帰る。そして私の家の前で彼と「また明日」と言って別れた。
いつ以来だろうか……。明日が楽しみになった。