その1
「いや」
「……」
「やめて」
彼女は、手を握ろうとした俺の手を振り払った。
「なんで?」
彼女は、イヤイヤするように、ただ首を振るだけだ。
俺は途方に暮れるだけ。ここから俺たちの距離が広がった。
彼女との出会いは、一学期のクラスの委員長を決めるとき。
俺は昔からなぜか人に好かれ人気があった。
誰に対しても、気楽に声をかけられるし、楽しく話をするのは得意だ。
いつも俺はクラスの人気者のポジションにいた。
そんな俺だから、クラスの委員長に推薦され、いつの間にか委員長になっていた。
そして、いつの間にか副委員長になっていた女の子がいた。
その時、クラスの中で唯一話した事が無い子が、その女の子だと気付いた。
その後ホームルームは、つつがなく終わり。クラスの皆は帰り支度を始めた。
俺は軽音部に入っているのだが、今日は部室にいく前に彼女と話した方が良いよな〜と思い。
まだ机に座っていた彼女に話しかけてみた。
「はじめまして?」
「……」
「これから一緒にクラスの委員をやるわけだから仲良くなった方が良いと思うんだ」
「……」
俺は人と話すのが得意だと思っていたが、勘違いだったようだ。
彼女とは、どう話していいかわからない……。
「え〜と俺の名前は知ってるよね?」
彼女は、こくりと頷いた。
やっとコミュニケーションがとれた。
記憶に残っていた彼女の名前を言ってみた。
「黒川さんっであってるよね?」
また彼女は、こくりと頷いた。
今の所、俺は彼女の声を聞いていない。
「下の名前はなんて言うのかな?」
「……」
とても小さな声で彼女は言った。
「○○○」
「え?」
彼女は鞄からメモ帳を取り出し。それに、名前を書いた。
「あ〜あさみね」
「俺の下の名前は知っている?」
首を振る、彼女。
俺は、彼女が持っているメモ帳に、自分の名前を書いた。
そんなやり取りをしていたら、いつの間にか二人で喋りもせずにメモ帳を交換しながら夢中で筆談をしていた。
俺は彼女のプロフィールから家族の事までかなり詳しくなった。
彼女も俺の事を、同じくらい詳しくなったの思う。
そして、外は暗くなり下校時間になっていた。
「そろそろ、下校時間だよ。帰る?」かきかき。
「そうだね。帰ろう」サラサラ。
俺たちは、家に帰る事にした。
そして学校の校門出た時に、彼女は突然笑いだす。
びっくりして彼女を見る俺に彼女はこう言った。
「あんた変わってるね」
きれいな声だった。