~u b u t a〜
台選びの基礎はわかっているつもりだ。
一島あるその台のアタッカーを順に見て回る。
これもまた、懐かしい習慣だった。
アタッカーの両脇にある釘の開き方でまず数台に絞り込む。
ブランクはあるものの、過去に重ねた習慣は己の中で揺らぐ事の無い規則と化していた。
一通り見て回り一台に絞り込んだ。
台に着き、逸る気持ちを抑えて煙草に火をつけた。
これもまた懐かしい習慣だった。
煙草の煙を肺の奥深くまで吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
手持ちの千円を台脇の挿入口に入れ250発の玉を買う。
玉を打ち出すと同時にハンドルから伝わる規則的な振動に心震わす。
全てが懐かしく、さっき吸い込まれて行ったなけなしの千円の事など
既に忘れていた。
打ってすぐに台が騒がしくなった。
音と光、更には画面脇にある装飾がバタバタと揺れている。
これは、、、!
すぐに現実に引き戻された。
特にリーチもかからず次の回転へ。
その時の顔は小学生が見ても充分すぎる程、心情を読み取れるものだっただろう。
だらしなく開けた口を結びなおし、打ち続ける。
それから何度もキラキラガチャガチャと台は煌めくが
一向に当たらなかった。
打ち始めて僅か10分程で250発が終わろうとしていた。
きっと過去の自分ならもう千円、もう千円と財布の中にある金を
挿入口に押し込んでいただろう。
しかし、35歳でその日暮らしの男にはそんな勝負っ気は無く、
情けない程にあっさりしていた。
やはり勝利の女神様には随分昔に振られたのだ。
昔の恋人を思う様な心境で最後の玉を打ち出した。
台は先ほどにも増して煌めいていた。