放課後0時、デスゲームで ――異界学園での殺し合い――
目が覚めるとそこは、現実世界ではなかった。
いや、正確にいうなら、現実世界に似た異界だ。
なぜ、そう言い切れるのか。
それはきっと、目が覚めたこの教室の窓から見える空が赤黒く染まり、外には多くの墓のようなものが並んでいるから。
「はぁ…」
ため息をつきつつ、教室片隅にある椅子に座る。
さて…、この目覚め方のおかげで、ゲームのタイプの見当がついた。
と、なれば動かないのが得策なのだが…
教室の外…廊下を誰かが走っている。
足音は徐々に近くなり、勢いよく教室の扉が開いた。
「っ!?」
教室に入ってきた女性は俺に気づく間もなく、扉を閉め鍵をかける。
様子を見るに、誰かに襲われていたというところか。
そんなことを考えていると、彼女は俺の存在に気づいたようだ。
「あ…、あなた…」
「静かにしとけよ。面倒臭えな」
一言で女性を黙らせる。
思っていた以上に彼女は冷静で、頭が良いらしい。
俺を睨みつつも、その場から動かず静かにしていた。
青色に近い長髪に、整った顔立ち、スタイルも良い…。
一番狙われやすいタイプだな。
おっと…ゴミが来たみたいだ。
「ねぇぇぇ…由良ちゃぁぁん。逃げないでよ」
教室の扉付近の強化ガラスが割られ、そこから気持ちの悪い男が顔を覗かせた。
余りにも不愉快過ぎて、思わず男が顔を出している窓の横に立っていた。
ちょうど近くの机の上にあったガラス片を手に持ち、男の首を躊躇いなく切り裂いた。
「ガァ…グホッ…ゴガえ…ナ、二……」
「え?」
周囲に飛び散った血液と、動かなくなった男を見た女性が叫びそうになったところ、口を手でふさいだ。
「黙れ、声を出したら殺すぞ」
ガラス片を女性の喉元に押し付ける。
「っ…。……」
やはり状況判断能力が高いな。
パニックしだしたら、殺すところだったが、これなら放置でいいな。
「そうだ、そのままおとなしく隅っこで蹲ってろ」
そう言い残し、再び教室の片隅に座る。
あと…どのぐらいで時間だ…。
「あの…」
「あ?」
こいつ、おとなしくって日本語が聞こえてなかったのか?
「お前」
「あなたなら、殺してくれますか?」
「は?」
狂ったか?
このゲームで、狂った人間なら多く見てきた。
でも、彼女は狂ったようには見えない。
「それはお前をか?それとも…」
「…はい。この学校にいる特定の人達です」
「へぇ…」
面白くなりそうだと思い、椅子を片手に女性に近づく。
「っ!わ、私を殺してもいい。でも、せめて――」
そう言う彼女の正面に椅子を下ろす。
そして、静かに座り女性を見つめる。
「相手はどんなのだ?そして、お前がここに来るまでにあったことを話せ」
「…殺してくれるんですか?」
「うるさい、話せ」
どうでもいい話なんて聞きたくもない。
このクソゲーで、無駄な会話なんてするつもりもない。
「…殺してほしい相手は、波佐間洋一の取り巻きの女です」
「へぇ…」
今回はそういうハーレムみたいなチームがあるのか。
「この世界に来てすぐ、廊下を移動していると、数人の生徒と出会ったんです…。で…その中の男の人…波佐間さんが話しかけてくれました。とても優しくて――」
「もういい」
椅子から立ち上がり女性を見下ろす。
「え……わ、私……」
真っ青になった彼女の顔を至近距離で見つめた。
「今から俺の質問にYesかNoで答えろ。その波佐間って男の取り巻きの女は、媚を売るような…いや、波佐間にとても好意的で気持ち悪かったか?」
「は…Yes」
「その波佐間はどこか自信ありげな態度だったか?」
「No」
「No…か。なら、そいつらは人を殺していたか?これは知ってる範囲でいい」
「No」
何とも言えない状況だな。
もしかして…
「初心者帯に放り込まれたか…」
「はい?」
「お前に喋る権利は与えてねぇ…が、喜べ。お前程度の女でも、活躍できそうだぞ」
「だから何――」
「――名前を言え。お前の願いを叶えてやる代わりに、俺の言葉に絶対服従。それがのめねぇなら、ここで殺す」
「…岬由良、です」
「そうか由良。これからお前には最悪な目に遭ってもらう」
悪い笑みを浮かべると、彼女は肩を少し振るわせ、唇を噛みながら搾り出すように声を出した。
「…はい」
◇
由良の後ろをついていく形で、波左間という男と、その取り巻きの3人の女達と出会った。
「あ、岬さん。良かった…無事だったんだね」
波佐間は由良の姿を見るなり、本気で安堵したような表情と声を出す。
多分、それに嘘偽りもない、ただ純粋に他人を思いやる気持ちしか感じられない。
ただ……
「岬さん、あたしらもチョー心配してたんだよー」
「ねぇー、急にいなくなるんだからさー」
「ホントだよー」
波佐間の周囲にいる三人の女たちからは、明確な悪意を感じる。
「それで、岬さん…後ろの彼は?」
「あ、彼はえっと…」
そう言えば岬に名乗っていなかった。
さて…どうしようか…。
「か、彼は藤原道正君です」
なんだその歴史の教科書に出てそうな名前は、とツッコミを入れてやりたかったがおとなしく状況を静観する。
「その藤原君は病気で声が出せないんです」
「そ、そうだったんだ。うん、わかった。藤原君、これからよろしくね」
喋れない設定にされてしまったせいで返事すらできず、静かにうなずいた。
由良の奴、変な名前を付けたことに関していろいろ言われたくなかったってことか。
なかなか度胸があるじゃねぇか。
「じゃあ、僕たちも動こう。岬さんがいなくなって、ある程度の――」
「――お?カワイ子ちゃんめっちゃいるじゃん」
少し離れた場所に、長身で目つきの悪い男がいた。
男が女達に近づく中、波佐間が動く。
「ちょっと待ってください。あなた、今何しようとしてますか?」
口調は優しいが、その瞳には明らかな殺意があった。
「あぁ?お前、俺とヤりあおうってか?」
「取りたくない手段ですけど、あなたが止まらないなら、そうするしかないですよね」
「は?舐めてんじゃ――」
〈人の身風情が、私の洋一を馬鹿にするなよ〉
何者かの声がしたと同時、波佐間の背中に半透明の光り輝く金髪の女性が現れる。
「あ?それがお前の『異能』ってわけかよ!地味だなぁ!」
男は足を止めず、懐から取り出しなナイフを波佐間に向かって振り下ろす。
「女神様、借ります。『聖剣』」
周囲にものすごい衝撃波が走ったと思えば、波佐間の手には薄っすらと光を放つ剣が握られていた。
そして――
「くそっ!ビビらせやがってよ…ぉ……あ?」
男性の体は上半身と下半身が離れ離れになっていた。
「あ?は?」
「大丈夫、痛みはないと思うよ」
波佐間はそう言って、男に近づく。
「君はきっと、反省できる。そう信じてるから…」
「何言って…」
「次の人生はちゃんと生きてくれよ」
『聖剣』は男の頭をゆっくりと貫く。
そして、男の体は光り輝き、跡形もなく消えた。
これが…あいつの力か…。
やっぱり、こいつで当たりだったな。
「それじゃあ、探索を続けようか」
そこから数十分ほど、波佐間達と共にこの学校内を見て回っていた。
道中、他の人間とも出会うことなく、時間だけが過ぎていった。
流石に退屈すぎる…。
スマホを取り出し、メモに文字を打ち込む。
『波佐間のさっきの力については理解しているのか?』
それを隣を歩く由良に見せる。
すると彼女は、静かに人差し指と人差し指を重ねで、バツを作った。
『周囲の女達は、同じような力を使っていないのか?』
追加で書いた文章を見せると彼女は、片手で丸を作る。
由良に聞いてわかる情報じゃ、少し心許ないな。
この際、話を振ってもらおうか。
素早く文章を打ち込み、スマホを由良へ手渡す。
すると、彼女が本気か?と今にも言いそうな表情で俺を見てくる。
そんな彼女に対し睨みつけると、どこか嫌そうに波佐間に話しかけた。
「あの…波佐間さん」
「ん?」
「その、藤原さんが波佐間さんがすごいなぁって、言ってて…」
「はは、それは過大評価だよ。僕は自分の正義に従っているだけだよ」
爽やかに波佐間は笑う。
「へぇー、あんた根暗そうだけど見る目あるぅ」
「だよねー」
「洋一は最高なんだから、当たり前じゃんー」
どうやら、波佐間を褒める行為は取り巻きの好感度すら稼げるようだ。
ま、反吐が出るだけだがな。
それに…俺を見る際、一瞬だけ由良に向けられた視線…憎悪、いや嫉妬か。
由良がこの三人を殺してほしいと願う理由、見当がついてきたな…。
再びメモを由良に見せる。
「でも、不思議な空間です。他に人はいないんでしょうか…と」
「あ、そうだ。高峰先輩は岬さんの事心配して後を追っていったんだけど、知らないかな?」
「え?あ…わからないです。特に誰も追ってきてなかったので…」
高峰ね…俺が殺したあれか。
「高峰先輩いつ戻ってくるんだろうねー。ね?岬さん?」
取り巻きの一人が気持ち悪い笑みを浮かべ由良に囁く。
「まあ、その高峰先輩とここにいる人達で全員だと思うよ。その他にもいたけど、悪人だったから斬った」
なら現状、このゲームに残っているのは6人か。
おそらくこのゲームのタイプなら、人数は10人程度のはず。
波佐間は少なくとも、3人は殺しているんだな。
「…」
ただ…この波佐間という男…多分高峰が死んでいることに気づいてるな。
なんとなくだが、俺たち…いや、俺の挙動を見る目が少しだけ鋭い。
じゃあ、そろそろか…。
俺は立ち止まり、その場にかがんだ。
「?」
由良は一瞬だけ困惑した表情をするも、俺の意図を察したらしい。
「波佐間さん。少しだけ、藤原さんと別行動してもいいですか?」
「え?なんでかな?」
「その…」
流石に由良じゃ無理があったか…。
そう考えていると、取り巻きの女の一人が口を開く。
「ほーら、洋一。岬さんと藤原さんだって言いにくいことがあるじゃん?だから、私たちは先に言ってようよ」
「でも…」
「そうだよ。岬さん言いにくそうだし、いざとなれば洋一が助ければいいじゃん」
「それはそうかもな…」
「じゃ、お先に行ってるねー」
波佐間は半ば強引に女たちに連れていかれた。
姿が消えるまで見届け、ジェスチャーで波佐間たちの進んだ方向とは真逆にある教室を指さす。
「了解です」
教室の扉は開けたままにして、最小限の声量で会話を始めた。
「さて、じゃあ打ち合わせをしようか。このゲームを終わらせるためのな」
素早くスマホに文章を打ち込み、由良に見せる。
「声には出すな。内容だけ覚えてろ」
「…これ、私が?」
「甘えてんなよ。お前には道具並みの価値しかねぇ。それだけ覚えてろ」
「っ…あなた、人の心は――」
「――黙れ」
咄嗟に由良との距離を詰め、口を塞ぐ。
「んっ!んん-」
「マジ黙れ、殺すぞ」
「…ん」
由良は涙目で俺を睨みつけてくる。
こいつもしかして…。
「誰がお前の体に興味あるかよ。黙っとけ」
「っ!!」
由良の顔が明らかに赤く染まったが気にせずに、廊下へ意識を向ける。
「由良、今から俺が言うことを実行しろ」
「…?」
囁くようにして内容を由良に伝え、距離を取った。
そして、少しの間を置いて由良は口を開く。
「……藤原さん。体、大丈夫ですか?もともと弱いと聞いていましたが…」
喋れないという設定を抱えているため、声は出さずに親指を立てる。
「そうですか…。無理だけはしないでくださいね。それと、その…。高峰先輩を…殺しちゃったこと、黙っててくれてありがとうございます…」
由良がそう言った瞬間、ついに獲物が食いついた。
「えぇ―、そうなんだー。由良ちゃん殺しちゃったんだねー。人殺しー」
「っ!あなた…いつから…」
「ちょうど今来たところなんだけどさー。うわー、良いこと聞いちゃったー。これは報告だ――」
「――耳障りだな」
気取られることなく、女の首に腕を回す。
「なっ」
「喋ったら、このガラス片でゆっくりと喉を引き裂く。かなり痛いし、苦しいだろうな」
そっとガラス片の先端を女の喉に押し付ける。
「ひっ…ね、ねぇ。交渉しない?なんでも私するからさー。ほら、そこの岬ちゃんじゃやらないこと…そーだ、ナマでヤってもいいよ」
そう言ってスカートを上げようとする女の首に回した腕に力を入れる。
「ぐっ!苦…し」
「キモ…、二度と俺の目の前で、その媚びたような声を出すな」
ここまでして、この女は異能を使わない…。
やはり波佐間以外は初心者か…。
「俺の質問にYesかNoだけで答えろ。それ以外の言葉を発すれば、手か足…もしくは両方を折る」
「……」
「聞き分けがいいじゃないか。まず1つ、お前はこのゲームは初めてか?」
「ゲーム?――っ!」
女の足を思い切り蹴る。
「痛っ」
「言ったよな?YesかNoで答えろ」
「…No」
「2つ、他の女も初めてのゲームか?」
「Yes」
「波佐間は異能について話したか?」
「…No」
「そうか」
聞きたいことは全部聞けたな。
手に持ったガラス片を近くの机に置き、由良に言う。
「殺したいんだろ?やれよ」
「っ…、わたし、が?」
「他に誰がいるんだ?」
「……」
あれだけ必死に殺してほしいなんて頼んで、この程度か…。
「はぁ…お前ら全員、頭お花畑かよ。ここに呼ばれた時点で、倫理とか常識とか、そういうもん全部捨てるべきなんだよバーカ。由良、殺せないなら、俺がこの女を殺す。それでいいな?」
「…わ、私が殺します」
「はぁ――」
騒ぎ出しそうな女の頭をつかみ、床に叩きつける。
「ほら、首でも手足でも、好きなところを切れよ」
「……」
由良は慎重な足取りで、こちらへ歩み寄る。
女は必死に何かを言おうとしているが、俺の手に口を塞がれ、満足に声を出せていない。
「ふぅ……、はぁ……」
由良は深呼吸をしたのち、女の喉にガラス片を突き刺した。
そしてゆっくりと肉を引き裂いていく。
「ギィ…ガぁあ、イダ…い。ク、そ女…が」
周囲に血溜まりができた頃には、女は苦悶の表情を浮かべたまま動かなくなっていた。
「死んだ、か。どう――」
感想を聞こうと、由良を見つめた時、彼女は笑っていた。
血まみれの手に握ったガラス片を愛おしそうに見つめ、呼吸が荒くなっている。
やっぱり、素質はあったんだな。
「さて…と、残りの奴らはどうする?由良がやるか?」
「…え?いいんですか?」
「いいんですかか…。お前、最高にキモいな」
「あなたに言われたくないです」
「あっそ。じゃあさ、女のお前なら、波佐間たちから取り巻きの女だけを引きはがす方法、思いつくよなぁ?」
彼女は悪い笑みを浮かべつつ、ガラス片をその場に捨てた。
「はい…もちろん」
――波佐間視点――
岬さんたちのことが気になるといって戻った摩耶がまだ帰ってこない。
危ない時は叫ぶようにとは言ったけど、特に声も聞こえてこない。
「……一度戻ろうか…」
「そうだね…、ちょっと戻ってくるの遅いよね」
「何かあったんじゃ…」
彼女たちも不安がっている。
ここは僕が何とかしないといけない。
多分、原因はあの藤原って男のような気がする。
岬さんは彼にどこか怯えに似た感情をほんの僅かだが、抱いている感じがあった。
それが僕の勘違いじゃないなら、あの男は黒だ。
「うん…じゃあ僕たちも――」
「――すいません!」
突然、声が聞こえたと思ったら岬さんが現れる。
「っ!何かあったのかい?」
岬さんは乱れた呼吸を整えつつ、口を開く。
「その…摩耶さんが…あの……」
「摩耶に何かあったの?」
「早く言ってよ、岬さん!」
岬さんの様子からして、僕がいたら言いにくいことなんだと察した。
「僕に話せないこと?」
「いや…その、生理……で」
「あ…」
悪いことを聞いた…。
「僕は男だからね。真美と三美に任せるよ。それで、藤原君は?」
「彼は体が弱くて、離れた教室で一人で休んでいます。あまり、体を見られたくないみたいで…」
そうか…、彼は体が弱いのか…。
でも、この情報が嘘の可能性もある。
岬さんの表情を注意深く見る。
「…」
嘘をついているようにも見えないし、脅されてって感じもしない。
僕の考えすぎか。
「うん、わかった。僕はここにいるから、何かあったら読んでね」
「はい」
そうして、僕は一人になった。
女性の生理の問題は男である僕は詳しいわけじゃない。
それに、今日であったばかりの僕に、そんな姿を見られたくはないだろう。
窓から外を眺めつつ、時間を潰すことにした。
――藤原道正(仮)視点――
「ご、ごべぇんなぁ…」
前歯は欠け、鼻血を流し、泣きながら取り巻きの女の一人は由良に手を伸ばす。
対して由良は――
「嫌よ。それに…」
女の伸ばした手を思い切り踏みつけた。
咄嗟に俺は女の口を塞ぐ。
「んぅぅぅ!!」
「おい由良」
「ごめんなさい、つい腹が立って…」
由良がこうなるよう仕向けたのは俺だが、流石にここまで狂った女になるとは思わなかった。
そう思いつつ、近くのトイレの個室で動かなくなった女を見る。
様子見に来た女の唯一の生き残りはそろそろ死ぬだろう。
と、すればあとの問題は波佐間か。
この女たちの情報が正確なら、あいつの異能はかなり気持ち悪いほどのチート性能をしている。
「苦しいですよね。じゃあ、楽にしてあげますよ」
「ん!んん!」
由良は女の首にガラス片を突き刺した。
「ガラス片、便利ですね。でも、毎回ガラスを割るのは手間です」
「ゲーム開始時の手荷物は現実世界の0時の時の自分の状態を反映する。包丁が欲しけりゃ抱きしめて寝とけ」
そう言うと由良は不思議そうに自分の服装を見る。
「私、0時に制服なんて着てませんよ」
「馬鹿かお前。もっと他人を観察しろ。俺含め、今日制服じゃなかった奴を一人でも見たか?」
「…確かに全員制服でした。でも、なんで…」
「あのカスの配慮だろ」
「?」
「ボケーっとしてねーで、前に言ったことを実行しろよ」
「…えー、でも私…それを言っちゃったら殺されないですか?」
こいつ…反抗的になってきたな…。
「俺に殺されるか、波佐間に殺されるかの違いだろ。ま、あいつはお前のことは殺さないだろうけどな」
「根拠は?」
「うるせー、はやくしろ」
俺たちはトイレから出て、波佐間の元へ向かう。
少し早いが、このゲームを終了させよう。
――波佐間視点――
窓から外を眺めていると、階段の方から足音がした。
「ん?」
振り返るとそこには岬さんがいる。
「あ、岬さん。どうだった?」
「波佐間さん…その、話があるんです…」
彼女は震える手を胸に当てつつ、潤んだ瞳でこちらを見てくる。
「っ」
可愛い。
彼女には悪いが、今の僕の感想はそれしかない。
摩耶たち三人も顔は悪くはなかったが、やはり岬さんは別格だ。
「そ、その話って」
もしかして、告白だろうか。
「私…高峰さんを…殺しました」
彼女のその言葉に思考が停止する。
「え?」
「私が殺したんです」
高峰先輩を…彼女が、殺した?
「理由…が、あったのかな?」
多分、彼女には理由があったはずだ。
無意味に人を殺すような人じゃないはずなんだ。
「はい…襲われたんです……」
「襲われた?」
「あなたの近くにいた摩耶さんたち三人が高峰先輩を使って、私に嫌がらせをしようとして…」
確かに高峰先輩は、あまりいい噂を聞かない。
なら、先輩とあの三人を叱ればいい。
きっと、あの子たちなら理解してくれるはず。
「うん、わかった。僕の方からちゃんと三人には言いつけておくよ。だから――」
「その必要はないんです」
「必要はない?あぁ…もしかして、仲直りできた?」
「いえ、そうじゃなくって――」
突然、背後の窓ガラスが割れる音がした。
「っ!?」
「とっくに三人は死んでんだよ」
咄嗟に振り返ると、空中に舞うガラス片を手にした何者かが腕を振り上げていた。
「防御」
僕を守るようにして、金色に輝く薄い膜のようなものが出現する。
「ちっ!」
何者かは僕から距離を取り、欠けたガラス片を捨てる。
「君は何――っ!……やっぱり、君…いや、お前が黒幕か。藤原道正」
「だから、どこの歴史上の人物だよ」
藤原は口角を上げ、煽るように僕を見てきた。
――藤原道正(仮)視点――
「殺した…その言葉、冗談じゃないんだね」
「この状況で冗談言うとでも?」
そう言って、三人の女の指を波佐間に投げつける。
「ほら、ちょうどいい感じにネイルで差別化できてるだろ?どうだ?」
「…摩耶…三美…真美……ごめん。守れなかった」
地面に転がる女たちの指を大事そうに握る波佐間の周囲には、黄金に輝くオーラのようなものが出現した。
「でも、安心して。必ず仇をとるから。――『聖剣』」
波佐間の手には薄っすらと輝く剣が握られていた。
効果は未知数だが、掠っただけでも面倒なタイプだろうな。
「ちょっと!藤原君!話が違いますよね」
「あぁ?」
「だって、波佐間さんは悪い人じゃないし、殺さずにゲームはクリアできるって…」
「で?だから何だ?」
「え…だからって…」
これだからお人好しは…。
所詮、表面上でしか狂えない人間か。
「――岬さん、やっぱり脅されていたんだね。もう、大丈夫。彼はここで僕が殺すよ。女神様、支援をお願いします」
〈もちろん。共に悪を滅ぼそう〉
波佐間の背後に半透明の女神が現れた。
さて、楽しもうか…。
「『始めろ』」
そう言うと右手の甲にリングが現れる。
リングは肌からほんの少し離れていて、等間隔に4つの小さな球体がついている。
「……」
波佐間が警戒するなか、リングは高速で回転し、徐々に速度が落ちる。
そして、リングの内側に薄く数字が表示された。
『2』
「へぇ…『物体生成』」
俺の手のひらに生成されたのは、包丁だった。
「ハッ…はずれだな。『やり直し』だ」
「もういいかなっ!」
波佐間は聖剣を構えつつ、勢いよく距離を詰めてくる。
「っと」
聖剣を回避しながら、包丁を彼の横腹に刺そうとした。
〈『防御』〉
が、直前で女神がバリアを展開する。
「は?うざいな、お前」
異能を持っている波佐間ではなく、異能そのものであるはずの女神が力を使うなんてな。
召喚系みたいなタイプといったところか。
一度距離を取ると、リングが薄く光った。
「『回せ』」
俺の声に合わせ、リングが高速で回転し、徐々に速度を落としていく。
次に止まった数字は…『1』だった。
「マジで運ねーなー。『体質付与』」
そう言うとリングの内側に文字が浮かび上がった。
『脚力上昇』
割といいじゃん。
「『やり直し』だ」
力強く踏み込み、加速する。
「っ!」
焦りながら振られた聖剣を容易に避け、波佐間の腹を蹴り上げてやろうと動いた瞬間――
〈『防御』〉
やっぱそうだよな。
俺の攻撃はバリアのようなものに防がれる。
〈人の子、何度やっても変わりません。あきらめて――〉
「うるせぇんだよ、ババア。そんなにその男が大事か?」
〈口を慎みな…〉
俺だって馬鹿じゃない。
こういうやつは性格を利用すれば殺しやすくなるんだ。
包丁を由良へ向かって投げつける。
「っ!?女神様!由良を!」
〈っ!『防御』〉
由良の周囲に現れたバリアによって、包丁は弾かれる。
そして――
「ようやく、蹴れるなぁ!」
「ぐっ!」
バリアのなくなった波佐間の腹に蹴りが命中し、彼は近くの壁に勢いよく叩きつけられた。
「脚力上昇、割と有能じゃん」
「くそっ…」
〈『回復』。洋一、大丈夫?〉
「大丈夫です。回復、ありがとうございます」
波佐間の顔にあった切り傷は血の跡ごと消え去る。
本当に、厄介だな…。
リングが淡く光る。
「『回せ』」
リングが回転する中、波佐間が話かけてくる。
「君の異能…ランダムで能力が決まるんだろ?」
俺以外の人間にはリングは見えても、数字は見ることができない。
これまでの俺の言動をヒントにしたか。
最低限、戦いながら考えることができる奴みたいだ。
「……だとしたら?」
「いや、君がもしその力で一発逆転を狙っているなら、無駄だって教えてあげたくてね」
「へぇ、言うじゃねぇか」
「僕の異能…『勇者』に隙はない」
だろうな…。
『防御』と『回復』を使ったあたりで見当はとっくについてる。
それに女どもから集めた情報からも、まだ見せてない攻撃の手札も一部だけ把握している。
そこから典型的な万能型チート、という結論に辿りつくのは容易だ。
そして、一番厄介そうな『防御』の突破手段として、由良を狙いつつの攻撃はすぐに対策される。
「女神様、由良を守ってください」
〈…分かった。『継続回復』、『全能力上昇』。危なくなったら迷わず私を呼ぶのですよ〉
「わかっています」
女神は由良のそばに移動する。
予想通り対策はされたが、特に状況は変わらない。
『自動回復』…どうせロクでもない力だろう。
部位欠損すら即座に治しそうな回復力がある予感がする。
『2』
『2』か…この状況ならまあまあだな。
「『物体生成』」
今度は包丁ではなく、蛍光灯が現れた。
「いい加減でろよ。『やり直し』」
そう言いながらも波佐間に接近し、顔の前で蛍光灯を素手で殴り、破片を散らす。
「なっ!」
反射的に顔を覆った波佐間の肩に、割れた蛍光灯の先端を突き刺す。
「蛍光灯も案外馬鹿になんないだろ?」
近くの床に転がっていた包丁を取りつつ、体勢を立て直す。
「君は、どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだ!」
波佐間の肩につけた傷はすでに回復している。
やっぱり、殺せないよな。
「女神様、由良の周囲を『防御』で守ってください。全力で行きます」
〈わかったわ〉
ついに来るか。
こいつの全力が…。
「『強撃』」
波佐間が聖剣を振るった直後、斬撃が飛んでくる。
「っ!」
横に大きく移動し、斬撃を回避すると同時に、先程まで立っていた付近の壁が見事に切り裂かれた。
シンプルな攻撃だが、面倒だ。
「『回せ』」
リングの回転と同時に、波佐間が攻撃を仕掛けてくる。
数字が出る前に俺を殺したいのだろう。
だが――
「お前程度じゃ無理だろ」
「何?」
振られる聖剣を回避する。
こいつ、学ばないのか?
疑問に思っていると、波佐間の左手が炎に包まれた。
「『炎弾』
「だからさ…」
炎の弾幕を避け、波佐間の顔面を殴る。
「お前、素人すぎるんだよ」
尻もちをつく波佐間を見下ろす。
「お前、一番つまらないなぁ、波佐間」
「…何がだ」
「全部だ」
薄々予感はしていたが、こいつはセンスがない。
戦闘中に学びもしないし、体の使い方はそこらの学生の方がまだマシだ。
典型的な力に振り回される初期のチート主人公と、表現するのがしっくりくるな。
「だから、ここで終わらせてやるよ。チートに振り回されてるだけの雑魚」
「ふざけてるのかな?」
「いいや。本当に終わりだからな」
リングを見る。
そこにある数字は『4』。
ようやく来た。
波佐間の異能に関しての情報を聞いた時点で、使う異能のタイプを最初から決めていた。
「『領域生成』」
俺と波佐間は一瞬にして別の空間に立っていた。
黒一色で、俺たち以外の何もかもが存在しない空間だ。
あらかじめイメージしていた空間になるように、周囲を変えていく。
「『この場にいる全員は、この空間にいる限り異能の一切を禁止。そして、死亡することなく、代わりに致命傷を負った時点で敗北と判定し、敗北後は勝者の言葉に絶対服従』」
『制約』の開示は終了…これで領域内にいる限り、俺も波佐間も異能は使えない。
「…は?」
状況を呑み込めない波佐間をよそに、空間の変化は終わった。
薄暗い空に、周囲には多くの墓のようなものがいくつも点在している。
「うってつけだろ?お前の終わりに」
「何を…言っているんだ?」
「あぁ、応援してくれる女の子でも欲しかったか?じゃあ、呼ぼう」
そう言うと、近くにあった墓の下の土が盛り上がる。
「…え。や、やめろ…」
「あ?なんでぇ?」
次の瞬間、地面から勢いよく三人の身知った女の姿が現れる。
全員、指が無かったり、ガラス片で喉を裂かれた痕がある。
死亡時と同じ見た目にしておいて正解だったか。
波佐間を見ると、こちらをすごい形相で睨んでくる。
「お前はっ!人の心があるのかっ!」
勢いよくこちらに走ってきているが…
「えぇ…」
遅すぎる。
どれだけ能力に頼ってたんだよ…。
「ぐはっ!」
適当に蹴り飛ばす。
「もういいや、全然楽しめないじゃん。あ、お前らももういいわ」
ゆっくりとこちらへ向かってくる女どもの顔面を潰していく。
「あ…あぁ……摩耶、三美、真美……」
涙を流し、女の死体へ手を伸ばす波佐間を見る。
なんか、もう哀れに思えてしまうな。
「俺も鬼じゃないしなー、敗北宣言でもしてくれ。そしたら、由良は助けてやるよ」
「…岬……さんを?」
「ああ」
「嘘じゃないな…」
「嘘じゃないぞー」
波佐間は拳を強く握りしめた後、苦しそうに声を上げる。
「僕の…負けだ」
その瞬間、この空間の崩壊が始まる。
「ん-、ただこの能力割と使えるかもな。プリセット作っとくか…。『勇者の墓場』で登録っと」
リングが淡く光ると、元の学校に戻っていた。
「え…」
近くに立ち尽くしていた由良と目が合う。
「よお、ただいまはないのか、由良」
「っ!波佐間君は?」
「いるだろ、よく見ろ」
由良は倒れる波佐間に近づいていく。
「岬…さん」
「大丈夫ですか?」
「あぁ…」
「……殺さなかったんですね」
「そうだな。殺さなかった。いやー、実に哀れでつまらないから、せめてここから楽しもうと思ってな」
「!」
俺の言葉の意味を察したのか、由良が波佐間の前に立ちふさがる。
「あ?」
「ごめんなさい。それだけは聞けません」
「今更…あの女達殺しておいて、波佐間君は生かしますーってか?お前、どんだけ都合がいいんだよ」
「え?」
女達を殺したという発言に波佐間が食いつく。
「岬…さん?」
「……ごめんなさい。私が殺したんです…」
「…な、んで……」
「陰湿ないじめです。私は苦しくて、怖くて…悪いことだってわかっています。だから、現実に帰れたら自首します…」
ここまできて自覚してないのか。
「はぁ…、わかった。殺さない。俺はな」
包丁を由良の足元に投げる。
「…何の真似です?」
「お前が殺せ」
「は?」
「言い合いも面倒だから先に言っとくぞ。お前が殺さないなら、俺ができる限りの苦痛を味わう形でそいつを殺す。もし、お前が自殺したとしても変わらない」
「それはどうでしょうか」
由良は包丁を握ると、自身の首に躊躇いなく刺した。
「っ!?岬さん!」
「はぁ…メンド。波佐間、命令だ。『回復』を由良に使え」
「『回復』」
「っ!?」
一瞬にして、由良の傷は塞がる。
「なっ!なんでっ!」
「だから無駄って言ってんだろ。それにさ、お前は普通であるためのブレーキを波佐間にしたいだけだろ?普通ってのはな、そんな簡単に自分の首なんて切れねーの。理解できる?お前はとっくに普通じゃねーんだよ」
包丁を持つてを震わせながら、由良は波佐間を見る。
「わ、私は…」
「岬さん、僕を殺してくれ」
「っ!?」
〈そうはさせ――〉
「命令だ。異能を解除しろ。二度と使うな」
そう言うと、女神は消え去る。
ったく、最後までうるさいババアだったな。
「で、でも…」
「早くしろ。じゃないと、俺が殺すぞ」
由良は俺を睨んでくる。
「あれ?もしかして、お前が相手になってくれるのか?でも、残念。異能はゲームの初回クリア特典みたいなもんでな、今のお前じゃどうしようもできないってこと」
「くっ……」
唇を噛む由良に近づく。
「何?」
「いや、手伝おうかと思って」
そう言いながら由良の背後を取り、両手をつかむ。
「やっ!やめて!」
「ほーら、早い方がいいだろう?」
由良の包丁を握る手をしっかりとつかみ、ゆっくりと波佐間の心臓あたりに近づける。
「ダメっ!本当!なんでもするからっ!」
「うわ、これ楽しいかも」
刃先はついに波佐間の服に触れた。
「っ!」
波佐間は笑っていた。
その目には、俺の姿はなく、岬の泣き顔だけが映っている。
「最後の最後で、勇者っぽいじゃん」
一気に波佐間の心臓目掛けて、深々と包丁を差し込んだ。
「あ…ぁぁ!あぁぁぁ!」
叫びだす由良の声が耳障りで、少し距離を取る。
「あああ…なんでっ!なんで!」
完成…したか。
「あぁぁぁ!あはっ!あははははは!あはははははははははははははははは」
彼女は嗤っていた。
人間を殺すことで感じる快楽、そして波佐間という人間を殺すことで感じる悲しみ、俺への憎悪。
それらが、彼女の理性の…普通という枷を外す要因になった。
「ハッピーバースデー、岬由良」
〈ゲーム終了です。生存者は二名、おめでとうございます〉
どこからか、声が響く。
「え?終了?」
「そうだ。言ったろ?初心者帯だって。ゲームってのは初心者に優しく、だろ?クリア条件は時間制限だけだったんだよ。だから、誰も殺さずにクリアもできたってこと。いやー、由良が俺のこと喋れない扱いしてくれて助かったよ。おかげで、時間を調整しやすかったわ」
「っ!!」
スマホを笑顔で見せつけると、彼女は包丁を握る。
「あなたも殺してあげるわ」
「あっそ。何で?」
気づけば彼女は包丁を握ったまま走ってきていた。
「あぁ、そういえば異能解除してないわ。『終了』」
「なっ!」
由良の手に持っていた包丁は消える。
「殺したきゃ、経験でも積んで挑んで来いよ。あーでも、お前じゃ無理かもな」
「いいや、絶対に殺してあげる」
「…そういえば、このデスゲームがあるタイミングを教えてなかったな。放課後だ」
「?」
「要は学校のある日の午後0時、1週間、もしくは2週間に1回の頻度で行われる。お前は選ばれたから、次も参加することになるだろう。その時、俺と会うかはわからないがな」
そう言うと彼女は考える素振りを見せた後、憎悪と喜びの混ざった笑顔を向けてきた。
「わかったわ。じゃあ、いつか殺しに行くわ…。放課後0時、デスゲームでね」
「せいぜい頑張ってろよ」
やり取りを終えると、彼女の姿は消えた。
さて…ここからはボーナスタイムか…。
「ずいぶんと俺のことが好きみたいだな。カス」
「そういうなよー。劣化分身とは言え、キミはボクを殺したプレイヤーなんだよ?気になって当然じゃん」
廊下にはいつの間にか、淡いピンクの混ざった銀髪をした、中学生ぐらいの男がいた。
「で、どうだった?初心者たちと遊んだ気分は?」
「最悪だ。弱すぎてつまらない」
「やっぱそっか。今回の君、あんまり激しいことしてないしねー。じゃあ、次はとっておきを準備しよっか?」
「とっておきなんてどうでもいい。俺は、早くお前を殺してやりたいんだがな。自称神」
そう言うと、男は割れた窓ガラスから外へ足を踏み出し、空中を歩く。
そして、俺を見下ろす位置に立つと、笑顔を向けてくる。
「そうだね。そう遠くないうちに、君に殺しに来てほしいなぁ」
「期待しとけ」
「うん。やっぱり、このゲームを作ったのは正解だった。だって、こんなに楽しんだからね。だからさ、失望させないでよ?『狂人』さん。…いや、『勇者』を殺したキミには『魔王』さんってのが相応しいかな」
放課後0時、デスゲームで ――異界学園での殺し合い―― 完
あとがき
ここまで読んでくれてありがとうございます!
この作品は一応、短編という扱いです。
好評だったり、作者のモチベーションがあった場合は、続きを書こうと思ってます。




