ルキア嬢
「いやいや、いきなり何を…。僕たちはつい先ほど出会ったばかりですよね?」と、困惑しながら聞き返すと、可愛く頬を膨らませるルキア嬢。
「やっぱり、覚えていらっしゃらないのですね。12年前の今日、私達はここで会っています」と言われて、薄い記憶を呼び起こす。
そういや、父に連れられて、一度こういう食事会に来たことがあったような…。
正直、ほとんど記憶がない。
「…えっと…申し訳ないですが、覚えていないです」というと、少し呆れた表情を浮かべる。
「いえ、そんなことではないかと思っていました。12年ぶりの再会だというのに、随分とよそよそしい態度でしたから」
「あはは…すみません」
「大丈夫です。なんとなく分かっていましたから。私にとっては初恋の思い出でしたけど、きっとユラン様にとってはそうではないと」
「…いや、そんなことは…きっとないと思いますけど…。単純に記憶力とか頭が悪いと言いますか…」
「ユラン様はかっこよかったですよ。父が目を離した隙に、誘拐されそうになった私を魔法を使って助けていただきましたから…」と、今度は顔を赤める。
まじか…。
記憶がだいぶ美化されてるんじゃないか?
そんな記憶は全くないのだが…。
下手したら誰かと勘違いしてるんじゃないか?
俺が新聞などから得ている彼女の情報はいつも表情を変えない、論理的でやや鉄仮面、そして目的のためなら感情を殺すことができるイメージだっただけにギャップにかなり驚いていた。
けど、三大国のご令嬢と結婚だなんて…。
絶対に無理だ。
てか、次期王になるってことだろ?
ダメ王子の俺がそんな大国の王なんて務まるわけがない。
しかし…ここでその申し出を突っぱねて、その話が彼女の父である国王に伝わろうものなら…。
おいおい、どうすりゃ良いんだよ!
すると、こちらの心理を読んだように話を続ける。
「分かっております。ユラニア国は三大国にも加盟をしていないわけですから、その国の王子であるユラン様の気持ちはよく理解しております。ですので、私がこの国の令嬢を降り、ユラニア国に嫁ぐ形であれば何も問題はありませんよね?」と、やばいことを言ってくる。
「いやいやいや!それまるでうちがルキア様を誘拐したみたいになるじゃないですか!」
「…そうですね」
「いや、そうですねじゃなくて!そんなの戦争勃発になるじゃないですか!!」
「そうかもしれませんね」
「…勘弁してくださいよ」
「分かりました。では、折衷案と行きましょう。まずはしばらくお互いのことを知る時間を作りましょう。つまり、お付き合いから始めるのではいかがですか?」と、満面の笑みで提案する。
最初からこの落とし所を決めて交渉しに来たな…この子。
流石は天才策士と言われるだけはある。
「…では、ひとまずお友達から始めましょう」と、提案をすり替える。
「…お友達ですか。それはどのようなお友達ですか?」
「どのようなって…」
「お友達と言ってもたくさんあると聞きますよ?私が最近聞いたのは、添い寝をするお友達とか、キスをするお友達とか、大人な関係をするお友達もいるらしいですよ?」と、悪い笑みを浮かべながらそんなことを言ってくる。
それ、もう友達じゃねーじゃん。
「普通のお友達です。まぁ、国同士それなりに距離もありますから、まずは文通友達からで…」
「そうですか。では、それで手を打ちましょう」というと、彼女は立ち上がった。
全く、見事に手のひらで踊らされた気分だ。
てか、下手したらあの思い出とやらも全部嘘で、ユラニア国に加盟させるために近づいてる可能性が大だよなー…。
しかし、彼女の方はルンルン気分でその部屋から出ていくのであった。
だが、二人は知らなかった。
今の会話を盗み聞きしていた令嬢が一人いたことを。
◇
それから少しして食事会が終わり、帰りは馬車の中ではまるで泥のようになっていた。
「…執爺…疲れたよ…」と、馬車を運転している執爺に愚痴る。
「はいはい、よく頑張りました」と、めちゃくちゃ適当にあしらわれる。
「ねぇー、メイ〜。膝枕してー」と、メイドであるメイに頼むも「嫌です」と、1秒で断られた。
「んもぉ〜!頑張ってきた王子にみんな冷たいぞ!」と、駄々をこねると「普段ががんばらなさすぎなんですよ」と、執爺に嫌味を言われる。
そして、ある程度駄々を捏ね終わった後に、執爺に気になっていたことを質問する。
「あ、そうだ、執爺。俺って4歳くらいの時、こういう食事会に来たことあるっけ?」と、質問すると「ありますね。確か12年前…場所もここだったと記憶してます」と言われて、満更全部が嘘ではないんだと思った。
「その12年前に俺がルキア嬢を助けたみたいな話は知ってる?」
「いや、そのような話は知りませんね。なぜ、そのようなことを?」
「いや、実はルキア嬢になんか婚約持ちかけられてさ」というと、馬が悲鳴を上げて、馬車が急停止する。
「どぅわ!?何してんの!?」
「それはこちらのセリフです!それをなぜ早く言わないんですか!というか、どう返答したんですか!?」と、運転席から後ろの席になだれ込むように入ってきて、血相を変えて詰め寄る執爺。
「いやいやいや!俺がOKするわけないでしょ!丁重に断ったよ!」
「断った!?それで!!向こうはなんて!」
「なんか友達からみたいな流れになって…一旦は丸く治ったというか…」
「…それは…良かったというべきか何というか…」と、少しホッとした表情を浮かべる執爺。
「あのねー、俺も流石に立場を弁えているというか、そんくらい分かるからね?」と、ちょっとドヤ顔をする。
「…それなら良いのですが…。全く…」と、頭を抱えながら再度運転席に戻り、馬車を動かし始める。
まぁ、どうせあの国の国王が俺との結婚なんて認めるわけもないし、時期がくりゃどっかのお坊ちゃんと結婚するだろ。
そんなことを考えながら、そのまま眠りにつくのだった。
◇
事件が起きたのはそれから1週間後のこと。
いつものようにのんびりしていると、執爺に叩き起こされる。
「おぼっちゃま!急いで準備を!」と、いつもより激し目に起こされる。
「ちょっ…!?なに!?今日は何の予定もないでしょ!!」と、体をゆすられながらそう返答する。
「来客です!」
「…らいきゃく?」
「はい!…アルラ嬢がいらっしゃいました」
「…は?」
それはアーリア国のご令嬢であった。




