魔女と愛の魔法
やることが決まれば合理的なミラーナは己の美貌を磨き上げるのと同様、解決に向けて検討を始めた。
それにはこの魔法について学ぶ必要がある。
さっさと解放されてミラーナは心安らかに美しさを磨く必要がある。
下手したら、これから予定されている、ミラーナが高値で売ることができるオークションもとい一世一代のデビュタントまでこんなもやに付きまとわれてうっかり話でもすれば頭のおかしい令嬢としてどこにも売れなくなってしまう。
ミラーナはソファーに座り、もやを前に座らせる。
もやは座れないのか、目の前の椅子の上にふわふわと座っているように漂う。
「そうとなったらあなたにかけられた魔法について教えて頂戴。」
この世界の魔法は魔女や魔法使いと呼ばれる、魔力のある人々が使う不思議な術だ。
現代では魔法を使える人は限られており、かつ通常ではできない不思議な術のため、秘匿され高貴な人々が使役するお抱え魔術師や魔女、あとは野良魔術師、野良魔女と呼ばれるそういった貴族に囲われることを厭う、比較的変わり者の人々のどちらかだ。
国もバカではないため、お抱え魔術師や魔女は厳重に管理されており現在は人に危害を加えたり、人にどうこすることは禁止されている。
それをすると一発でわかる魔法が魔術師や魔女にかけられており、ルールを破ると首かつ投獄される。
そうと考えると、野良魔術師や野良魔女が彼にこの魔法をかけた可能性が高い。
そこまでミラーナは考えたうえで、ふとあのコンパクトを渡してきた老婆を思い返す。
「あの、おばあさん!!」
顔がはっきりみえない黒いローブに、曲がった背中、
思い返せば本で出てくる魔女のおばあさんそのもののルックスだった。
『ミラーナちゃん、魔女にあったの?』
どこかのんきな声に、眉をひそめながら、もやを見る。
ふわふわしている。
「おそらく、このコンパクトを渡してきた人がそうかもしれないわ。」
『腰が曲がってて、黒いローブを着た老婆だった?』
「そう!なに、覚えてるの?」
『うん、最後魔法をかけられたときの記憶は覚えているんだ。』
フィンはそういって思い出す。
彼が今一番鮮明に持っている記憶を。
★★★
壁一面に薬草がつるされたその部屋でフィンは立っていた。
「なんて哀れな子なんだ。」
老婆は黒いローブのフードをおとして、しわの刻まれた顔をさらしながらフィンをみて心から同情したような眼を向けていた。
フィンはその目線が嫌だった。にらみつけるようにしても老婆は憐れむ目を離さない。
「お前は確かめなくてはいけない、お前を本当に愛している者を。」
「おばあさん、そんな奴いないよ。」
「言ってわからない、頑固者には荒療治が必要だね!私が魔法をかけよう。」
そういって、老婆はフィンに杖を向ける。真っ赤なルビーのような石がはまった、古びた木の杖がフィンに向かう。
「魔法なんて、信じない。」
「フィン、お前はお前を愛するものを探すんだ。愛されていることも見つけるんだ、この魔法はそうすれば解ける。」
「勝手なことばっかりして!」
怒りからつかみかかろうとするフィンは杖をつかむ前に体が解けるように軽くなるのを感じた。
老婆がもぞもぞと呪文だろう意味の分からない言葉をつぶやいて、机に置かれたコンパクトへ杖を向ける。
フィンの体はとけてもやになり、糸のようにひっぱられコンパクトへ吸い込まれる。
「お前を愛する者はそばにいる、だから信じて戻っておいで。そうすれば魔法は解ける。遠回りだが、頑固者のお前にはこれがお似合いだ。」
ぱたん、開いていたコンパクトは老婆のつぶやくことばを最後に閉じた。
★★★
フィンは最後の瞬間の回想を終えて、記憶をまとめながら話す。
『なんかその老婆に、愛するものを探せって言われた。』
「は?急にメロドラマみたいのが始まったわね。」
ー愛なんて私が一番嫌いな言葉じゃない。
ミラーナがそう心でつぶやくと、馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
そんなミラーナの愛という言葉への拒否反応が分かりやすくフィンは少し笑った。
おそらく彼女も記憶を失う前のフィンと今のフィン同様愛なんて意味が分からないと思っている合理的な人間だと思ったからだ。
さらに思考をまとめて、思い出した記憶を伝える。
ミラーナは静かに眉をひそめながら話を聞いて、首をかしげる。
「そもそもこのもやで名前すら失った状態でどうやってあなたを愛してた人なんてわかるのよ?」
『まぁ魔法って代償も多いからね。』
なぜかしたり顔でそういうフィンにミラーナはため息をついた。
「とりあえず、あなたのことを愛していた人を探す以前にあなたの素性を調べたほうが早そうね。最近行方不明の貴族令息を探せばいいんでしょ?とりあえず、調べに行きましょう。」
そういってミラーナは今日の行き先を図書館に決めた。
ララを呼んで支度を整える。
すっかり余所行きの支度を終えたミラーナはいつも通りその美貌をボンネットに隠すようにして、図書館へ向かったのだった。
人には見えないもやをつれながら。




