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老婆とコンパクト

その日ミラーナはドレスに合わせた手袋を手に入れるべく、街で買い物をしていた。

ミラーナの美貌は一般の人々にはまぶしすぎるため、ほぼ顔の見えないボンネットをかぶりなるべくその顔が見えないようにして街を歩く。

これは、幼少期からたぐいまれなる美貌に魔が差した悪人たちによって起こされた数多の危険を乗り越えた彼女の知恵だった。


そして警戒するようにそばにはララがぴたりと寄り添う。

身の程以上の美貌は危険しかもたらさない。その点ミラーナは小さな頃から己の身に余る美貌のメリットデメリットを強く意識していたので、防犯意識も高かった。

貧乏ゆえ、馬車で移動や商人を呼ぶなどできないため、致し方ないが最大限の警戒を払っての外出だ。


持ち合わせた美貌ゆえ引き寄せるリスクは何としても高値で売るため避けなくてはいけない。


そうやって今日もうつむきがちに足早に屋敷へ向かっているところに突然、老婆が倒れこんできた。


「きゃっ。」

突然、ぼろをまとった老婆はミラーナの目の前で転んだ。

ちょっとわざとらしいくらい目の前で。


なんだか、わざとらしいなと思いつつも、彼女も鬼ではない。

ミラーナは警戒心は人一倍強いが親切心がないわけではなかった。


「あの、大丈夫ですか?」

そういって、老婆の肩に触れて立ち上がらせると、しわだらけの老婆の顔でぎらりと光る黒い瞳がミラーナをとらえた。


「ああ、美しいお嬢さん、とてもやさしいお嬢さんだね。」


どこか演技がかった声で老婆はひざについた砂を払いながらミラーナににこりとほほ笑む。


「そしてとても美しい。誰もがひざまずいて愛を乞いたくなるほど美しいね。」

「はぁ・・・。」


ミラーナは褒められるのに慣れていたが、その分、金にならない誉め言葉には不感症だった。

怪しげな老婆に褒められてもいまいちピンとこない。

そんなミラーナの手を老婆が取る。

後ろにいたララが警戒するように動くが、老婆が何かするとは思えないためミラーナはそれを目線で制した。


「そんなお嬢さんにこの魔法の鏡をあげよう。どうぞ、この鏡を大切にしてくれ。」


押し付けられるように手に渡された冷たい金属を見れば、きらりと光る手のひらサイズの丸いコンパクト。怪しさ満点で、とっさに返そうとしたところ、老婆とは思えない俊敏な動きで彼女はさっさと去っていった。


「あ!」

追いかけようとしたミラーナと老婆の間を馬車が通る。

馬車が去ったあとにその行き先を見ても姿かたちもない。


「いっちゃった。。」

「なんだか怪しい老婆でしたね。」


渡されたコンパクトを改めてみればぱっとみても高価そうな煌めきと表面には中央に埋め込まれた透き通る青い石。星をかたどるような頂点には白い小さめの石。


「え、どうしよう。」

「とりあえずいただいておけばよいのでは?」


ミラーナはお金大好き拝金主義だったが、さすがに高価なものを理由なくもらうのに罪悪感を感じる程度度は貧乏性が板についている令嬢だった。

手持無沙汰に高価そうなコンパクトを手で揺らせばきらりとコンパクトは光る。


どう見ても分不相応で高級そうなコンパクトを持って見せつけていても逆に危険だ。

買い物袋に紛れ込ませて、とりあえず屋敷へ向かう。


ーまぁ、くれるって言ったし、これは別に奪ったわけじゃないし。


心の中で言い訳をしながら、家路へと向かうのだった。

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