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第十九話 冬休み機甲

1.タイコンデカルロ北回帰線


 軽く伸びをする。

 移動型の執務室は、初めて使うとは思えないほどの使い心地のよさで、違和感のなさは折紙付きであった。

 今、僕が寝泊りしている「タイコンデガルロ北回帰線」は、資材として飛翔させられて以来から二度と地上に降りない定めに在る航空『空中』母艦である。

 UN軍航空機の整備や補給を行える母港であり、遊戯施設や休憩宿泊施設があるホテルであり、地上での指揮不能状態となったときに使われる司令部でもあった。

 で、実のところ僕は、現在地上での指揮が不能な状態なのだ。



 学園は今年度、かつてないほどの閉鎖状態であった。

 其れもこれも全て、一人の生徒の実力を見誤って遊んだ結果であることは明白であった。

 結果ゆえ、一切の講義も試験も全て停止状態の中でも来年度に向けての受験準備は着々と進んでいた。

 ひとえに身についた本能ゆえの行幸であろう。

 本来であれば正気であるところの僕も試験作成準備に加わるべきところなのだが、行状が行状なので学園への帰参が叶わず、処払いが継続中である。

 ともなると冬期休暇中の居場所に困るというわけだ。

 学園は処払い中なので無理、実家では何処で「学院」生徒と合うかわからないので無理、そして海外保養も同様の理由で行くに行けないというわけだ。

 無論、AE学院も無人になるので居つけないというと、何処に行ったらいいのかも解らない状態。

 さてさて、どうしたものかと首をかしげているが、学院に在籍中、表の顔のミスターイズミは各方面からのアプローチが尽きない。

 新年ミサに同行して欲しいという生徒もあれば、学習要領のまとめを付き合って欲しいという教師も居たわけだが、身内の視線が怖くて全員を断った。

 企画も招待もない冬休み、何処に行くべきか・・・。

 そんな遊びの算段をクラウディアさんが豪快にひっくり返した。

「元帥、指揮所を開設していただかないと、全軍停止します!!」

 ああ、とおもわず相槌。

 なるほど、遊んでいるわけには行かない。

 そんなわけで、年も押し迫った時期に三々五々の調査を行い、現在の地上で元帥府を開設することが可能な施設が一切ないことが判明した。

 裏技を使ってAE学院の宿直室を占拠するか、とまで追い詰められた僕にむにゅむにゅと口元をゆがめたクラウディアさんがこう聞く。

「元帥、北と南、どちらがいいですか?」

「北」

 そう即答した僕が、僕に加えてイブやレンファが連れ込まれたのが航空空中母艦「タイコンデカルロ北回帰線」であった。

 ミニジェットで移動中参照した資料によると、タイコンデカルロには「北回帰線」と「南回帰線」があり、その名のとおりに「回帰線」上を周回している。

 この二機は三軍兵力を迅速に世界展開できる機動力の源であり、国連空軍の要といってもいいだろう。

 が、つい一年前までは廃棄処分寸前だったとか。

 こんな便利なものをどうして、と思ったが、整備工数の多さやコストの高さは全軍一だそうで、厄介者扱いをされていたという。

 聞けば聞くほど不遇な身の上だなぁとおもっていたのだが、それもこれも夏期休暇を前にして一転したそうな。

 士気の高い整備兵、事務能力の高い職員、豊富な予算、豊富な人材、全てが同日一斉に配備され、一気に状態改善が行われた結果、全軍で最も運用効率のよい部署と謳われ、既に高かった士気をさらに上げたという。

 その辺のデータを見せられて、おもわず「すげー」とか呟く僕を、クラウディアさんは呆れ顔で覗き込んだ。

「元帥? 何を感心してるんですか?」

「え? だって、凄いというかなんと言うか、信じられないてなみだなぁ、と」

 なぜか何かに絶望したかのような表情のクラウディアさんは、ため息一つ。

「えっと、なにか、もんだいが?」

「その一斉配備は元帥閣下の人事接収処理の結果なんですよ?」

 あ、忘れてました、というか忘れていたかった。

 おもわずクラウディアさんを覗き込むと、彼女はこみ上げる何かをねじ伏せるように言葉を発する。

「・・・北回帰線機長以下全兵挙げての歓迎会が準備されていますので、十分に気をつけてくださいね」

 え~、とおもわず嫌そうな顔をした僕にクラウディアさんは言う。

「元帥閣下が『本当に』お忘れのようですのでご忠告いたしますが、北回帰線兵員は『女性』のみ、南回帰線兵員は『男性』のみとなっておりますので。」

 瞬間、両脇に居た美少女は僕をつねった。



 思い出した、というか思い出さされた。

 航空機として登録されている割には、嫌になるほど男性ばかりで、嫌になるほどトラブルの多い機体があったのだ。

 二機共に延命修理しかされていないので、整備兵のいいところ全てをつぎ込んでやろうと軽く思ったのだ。

 ただ、UN内での男女比率について色々と物議をかもし規定があるので、その辺を全く無視した人事を押し通したのに、何でうまく行くかな、とは思っていたんだ。

 思っていたんだけど、抗議一つ上がってこなかったので気にしていなかったのだが、気にするべきだったといまさらながら思う。

 ジャンボが三機ほど駐機できるエプロンハンガーで、乱痴気騒ぎの女性たちはもう男と大して変わらない大騒ぎであった。

 同性だけの集団って怖いなーと思っていると、ほぼ半裸の整備兵が何人も押しかけてきて抱きしめたりキスしたりとやりたい放題。

 よくイブもレンファも黙っているなぁ、と思ってみると既に二人はつぶれていた。

 聞けば、なんでも、極めて高高度を飛行しているタイコンデカルロ機内では、酒精に対するガードが誰もが低くなるそうで、地上のつもりで酒を飲むとおおよその人がつぶれるとか。

 整備兵のお姐さん方の大騒ぎも、この辺に理由があると思える。

「・・・いや、でもね、この職場は最高だよ」

 イブとレンファを軽くどかして僕の隣に座ったタイコンデカルロ北回帰線の機長、メイム=ヒュレイカ大佐は言う。

 最高のチームで最高のスタッフで、最高の環境だ、と。

 悪いところは思い至る部分で殆どなく、よいところは列挙しても追いつかないとか。

「あと、あの対Gスーツ、最高ですよ!!」

 ゲラゲラと笑いながら、僕を叩く機長は、何かを視界の端に捉えて指差す

「そ、そうそう、あれあれ、さいこー!」

 見れば、久永スーツタイプ9。

 それを身につけた女性たちが、軽くしなをつけて僕にウインク。

 あちゃー、とおもわず苦笑すると、真剣な顔で彼女は僕を見た。

「あのスーツと高圧縮落下傘に何人の仲間が助けられたか解りません。」

 すっと僕の手を取った機長は、自分の胸元に引き寄せ、抱きしめた。

「何処よりも多く、何処よりも早く、このタイプ9を支給してくださったご恩を忘れません。」

 深い胸の谷間に抱かれた瞬間、おもわず頭の中が真っ白になりそうになったが、一寸違和感。

「・・・あれ? タイプ11?」

 するとどうだろう、機長はいたずらっ子のような笑顔で僕を見た。

「あ、やっぱりバレマシタか。」

 お茶目な人だなぁ、と思って笑うと、周囲の女性へいたちが目を丸くした。

「機長、ずるーい!! 先駆け無用だっていったのは機長じゃないですか!!」

「な、何を言う、高級仕官同士の、その、じゃれあい、だ」

「じゃ、わたしたちは『同世代』同士のじゃれあい~~!!」

 きゃーとかわーとかいう女性の波に、僕は飲み込まれていた。

 いかん、正気が保てそうもない・・・。



 気付けばイブとレンファに連れられて、僕は自室にあてがわれたゲストルームの前に立っていた。

 ふたりに支えてもらっているものと思ったが、逆に僕が二人を支えていることに気付いた。

 おや、と思って二人の少女を覗き込むと、顔を朱に染めて視線をふらふらさせていた。

 ゆっさと揺すると、二人の視線は急遽焦点を結ぶ。

 瞬間、ばっと僕から離れた二人は、なぜか下を向いていた。

 あれ、と思って左右を見回して気付く。

 視界に見慣れたフレームがない!!

 やばい、と思って懐を探ると、透過アルミニュウム製のケースに入った予備眼鏡。

 急いで掛けなおしたところ、気配でそれを感じた二人の少女は、がくがくとひざを震わせて座り込む。

「あ、あの・・・・」

「黙って、今は黙ってて!」

 絶叫にも近い二人の声に僕も驚く。

 暫く呆然と立っていた僕に、二人はそっと寄り添った。

「ごめんね、リョウ。私たちの所為なのに、私たちが何とかする問題で当り散らして」

「もう大丈夫だから、本当に大丈夫だから、許してね。」

 そっと僕は抱きしめて、そして声を殺していった。

「・・・えっと、あの宴会場での記憶が途中から無いんですが・・・。」

 真っ赤になった二人の少女は、同時に僕の頬を平手で襲う。



 精神的に落ち着いた二人の話、酩酊状態から復帰して初めて見たのは人の海にもまれる僕だったという。

 顔を真っ赤にして半ば意識を途絶えさせかけている姿を見て、不味い状況である事が知れたという。

 こんな状況になる前に何とかするはずの人はと探してみれば、クラッシクな複葉機のコックピットで酔いつぶれているクラウディアさんを発見。

 至福の姿を見るまでも無く状況介入には役立つまいと判断したという。

 ならばどうする、視線を交し合う二人の目の前で、一陣の風が吹いた。

 どんな種類の風かはわからないが、その風が偶然持ち上げられた僕の横っ面をねじ切ったそうだ。

 瞬間、どこかに吹っ飛ぶ伊達眼鏡。

 やばい、とおもって意識のギアを切り替えた瞬間、それは起きた。

 音も無くずれ落ちる女性兵たち、つややかな呻き声と共に身を震わせる女性兵たち、人波が消えたところに殺到しようとして崩れ落ちる運命に殉じた女性兵たち。

 僅か数分のうちに会場は静寂に包まれたという。

 やばい、本気で思う事だがイブもレンファも意識のギアの入れどころを間違えて金縛りにあってしまった。

 あわや、学園に送り返されるのか、と思っているところで近づいてくる人、一人。

 うつろな瞳とうつろな笑顔で覗き込むリョウ=イズミ。

 直接的に笑顔で叩きのめされた彼女たちは、無言で二人をいざなう僕に連れられて部屋の前まで来たとの事だった。

 さすがに初交渉が二人一緒というのは受け入れがたかったので、どうにか反撃の茶巣を狙っていたのだが、自室の前で何とか意識を取り戻してくれて助かったというのが話の締めくくり。



「リョウってばはっちゃけすぎ!」

 というのが二人の意見なのだが、その日以降のタイコンデカルロ北回帰線は、非常に静かな世界になった気がする。

 そう、赴任当初のAE学院の校舎内にも似た雰囲気にも思える。

 まぁ女子校の校内に似ている軍隊というのはどんなものかとも思うが、よい所が似ているのはいいことだと思う。

 それはそうと、タイコンデカルロ北回帰線をベースにして各軍基地に訪問しているのだが、出て行く時は涙半分で機長が握手を求め、帰ってくる度に整備兵全員整列で出迎えるのはやめて欲しい。

 まるで毎回別れの杯を交わしているかのようだもの。



2.ゾンビの園からこんにちわ


 冬期休暇中とは思えないほどの人口密度の中央食堂で黄はため息をついていた。

 リョウから預かっているPDAには、黄宛の要請メールがひしめいていたから。


 事の起こりは「幻美人プロジェクト」にあったことは間違いない。

 教授会のバカ騒ぎに学園長も悪乗りしたのが相乗効果となり、あれよあれよという間に大暴走だ。

 無論、親友「リョウ=イズミ」こそが問題の根幹であるともいえる。

 しかしあの男を周囲の人間が嘗めすぎていた事にも問題があるだろう。

 あの男はサービス精神の塊で、周囲の人間の思惑を軽く斜め上に行く。

 それも思ってもいない角度で。

 ゆえに、リョウが起こした行動は教授会の思惑である「幻美人プロジェクト延長戦」では無く「幻美人プロジェクト徹底抗戦」であった。

 いや、幻美人プロジェクトで生まれた公人を正面に立てて自分が雲隠れしようという凶悪なものであった。

 意識誘導とは名ばかりの洗脳を潜り抜けた美少女二人の活躍で頓挫した計画だったが、学園内には大きな傷跡を残している。

 それが周囲のゾンビたちである。

 第一段階の洗脳解除でどうにか存在していた人間としていなかった人間の線引きが完全に行われたというが、その線引きされた世界のどちらに自分が属していたかがわからない状態になっているという。

 ゆえに現実への希薄感から多くの人間がゾンビのようにゆらゆらとしているとか。

 一応教授会は第二段階への経過と完了をもって通常状態への復帰を宣言するつもりらしいが、そのハードルは高く険しい。

 少なくとも、昨日の会議では予定工数が三倍に伸びていたし段階も細かく四段ぐらい増えていた。

 それほどに悪魔的な爪あとの癖に、つめを使った人間は必要とされている。

 なんとも恐ろしい男だな、と思う。


 リョウチームと認識される人間で学園に残っているのは黄だけだった。

 唯一、洗脳を受けていない存在であり、きわめてリョウ=イズミに近い人間であるという事から、リョウの代役として多くのことを望まれていた。

 元帥府関係は外で活動中の本人が何とかしているらしいのだが、学園関係の事象の殆どは黄の目の前を通り過ぎていた。

 そしておもう。

(気が狂うな、実際)

 内容、密度、方向性、すべてに統一性は無く漫然としたすべてを正しく理解して処理しなければならないって、普通無理、というのがこの冬期休暇の結論だった。

 一介の学生が処理すべき内容ではないのだが、教授会も含めて正気を保っている数少ない人間の一人として多くに関わらざる得ない。

 うらむぞー、というのが最近の口癖だった。


 漫然としていた方針にひとつの方向性が打ち出された。

 それは黄からの一部情報開示に端を発する。

 曰く、「リョウ=イズミには元より他人から好意を引っ張り出す気質がある」というもの。以前からアマンダ教授より報告のあった「ひとたらし」才能が本人も自覚する程度で存在し、強力なセルフコントロールで抑えられているが、今回の騒動で一部暴走したというのがおおよその流れである。

 それを聞き教授会は一度紛糾したが、そのすべての情報の持ち出し厳禁が宣誓され、ひとつの方針が決定した。

 ざっくばらんにまとめると「リョウにしろアヤにしろ『特別』なのは当たり前なのだから弄る必要は無い。どっちも存在するって事で。」というおそろしいものだった。

 およそ投げやりに放り投げられたかのように見える方針だが、それは急速に事象をまとめていった。


 日本で言うところの松の内を過ぎるころ、ゾンビの群れは消えていた。

 既に多くの人間が「リョウ=イズミ」にしてやられたことを正常に認識しており、そのしてやられていた時間のことすら楽しげに話せるようになった。

 恰も二重記憶のように思い返すことが出来るそうだが、その処置を受けていない黄にはわからない楽しさだった。

「黄さん、元帥はいつお帰りなんでしょうねぇ?」

 リョウと、いやアヤと親しかったルーキーたちの多くが、代償行為として黄を求めて日参している。

 代償行為であることや一度ともなしに会話したことが無い相手であったことなど疑問にも感じないようだった。

 そのへんの不整合性を見ると、未だ第二段階も中ほどなのだと思う黄だった。

 いまだ半生のゾンビが徘徊する学園の奥底から空を見上げ呟く。

(気が狂うぞ、実際)



3.リアルBLは生臭いに違いない


 まぁ、とばっちりだな、と思う。

 リョウチームの一員であることに自負はあるけれど、この派遣先は無かろう、と頭痛がする。

 文句なしの学園征服行為が行われた事態収拾のために外部研修という名のところ払いが行われたのだが、そのはじき出し名簿の中に自分の名前を見た瞬間「とばっちり」という単語が浮かんだ。

 如何せん、教授会は「うち」のリョウを舐めすぎているのだ。

 過分な評価はあいつをしりごませるが、異常な状況はあいつを輝かせるのだ。

 リーガフが暗黒の太陽だとかいっていたのを思い出す。

 まさにそのとおり、ヤツは周囲を巻き込む暗黒の太陽なのだ。

 ただその騒動に巻き込まれた連中が迷惑に感じているかというとそうでもない。

 明らかな矛盾はあるのだが、それすらヤツの魅力になっている。

 空恐ろしい話しだ。

 なにせ自分も、JJもとばっちりと思いつつも仕方ないと苦笑しているのだから。



 スイス山間部の寄宿学校に派遣されたのは外部研修発生後すぐだった。

 アジア圏での言語に精通しているヨーコとペアでの派遣であったが、それはそれは恐ろしいところに派遣されたものだと背筋を冷たくしている。

 この学校、世界各国から男子生徒を集めた寄宿学校なのだが極めて全時代的な校風というか先進的な校風が根付いていた。

 それは作業助手制度だ。

 聞けばリョウの赴任した女子高でも同じような制度があるらしいのだが、こちらはもっとまずい制度だ。

 感覚的には中世の騎士と従者の関係に似ている。

 飯の上げ膳据え膳から風呂の背中流し、部屋の掃除や洗濯などなどなど。ほとんど教師の生活の殆どを助手役の生徒が率先して行うのだ。

 で、もっとも不味いのが聊か生臭い部分の世話までさせることが出来る、という。

 いや、もちろん、衆道的なルールやエチケットには興味ないし関わるつもりは無い。

 しかし、しかし、助手役の生徒から日々熱い視線を送られる毎日には辟易とさせられているのだよ、本当に!!

 ヨーコなど助手役の生徒に日々背後を狙われる気配を感じるとこぼしているし。

 ああ、リョウもミスターから狙われていたとき、こんな苦労していたのかなぁ!?


「リョウよりかは安全だろう?」

 教師用の喫茶室でコーヒーをすするヨーコは自分に話しかける。

 どうやら独り言を言っていたらしい。

「でもなぁ、あいつは結構うまく立ち回ってるぞ?」

「それでも、無理やり夜這いかけてきたり襲い掛かってきたりされないだけ俺たちのほうがマシ。」

 確かに、そのとうりだけどさぁ・・・。

「でも、さすがに発情しきった視線と態度で擦り寄られるのは、いやだよねぇ。」

 思わず顔をしかめるヨーコは、喫茶室の外に視線を走らせる。

 そう、それこそが問題なのだ。

 何故か知らないけれど、助手の生徒ばかりではなく教諭の中でもモーションをかけてきやがる馬鹿が多いのだ。

 ちくしょー、この際だから身分をばらして逃げようかしら。

 そんな愚痴を呟くと、ヨーコは苦笑い。

「さすがにそれは、ね。でも、今の状況の責任は、いずれリョウにとってもらうよ」

 え? という思いを込めてヨーコをみると、彼は苦々しく腕を軽くふる。

「こんな動作の一つ一つに至るまで、無為意識下に女性的動作を仕込んだリョウにね。」

 あっ、と自分の動作を意識して驚いた。

 わずかな間だけだったはずの麗人喫茶練習は、骨格の線を変えるほどの効果を示していたとアマンダ教授に言われていたことを思い出したからだ。

「・・・やべぇ・・・、俺達って実は回り中にモーションかけていたって事?」

「否定できないなぁ・・・・」

 ぐわぁ! リョウ=イズミ許すマジ!



4.タイコンデカルロ南回帰線


 なんというか、すごく清潔なんです。ええ。

 軍という特質上男性ばかりである事は間違いなく異常ではないんだけれど、視覚出来る範囲での全てがきれい過ぎるのです。

 北回帰線に居を一時的に構えている関係上、南回帰線にも表敬訪問すべきであるものと考えた僕は、時間を見て顔を出したところ、同型のタイコンデガルロ南回帰線デッキに完全正装した全仕官が待って居たりした。

 一部の隙も無い敬礼に答礼したところ、耳を引き裂くがごときのファンファーレとクス球横断幕、紙ふぶきとクラッカーで大騒ぎ。

 隣のクラウディアさんはなれているようだが、思わず僕は身構えてしまった。

 びっくり顔の僕に向かって、初老の紳士が右手を差し出す。

「その紳士たる行いを誇りに思います。元帥閣下」

 紳士の行いというのは、多分、反射的にクラウディアサンの前に出たことを行っているのだろう。

「しかし、女性とは言え部下のために上司が死んでは、軍機能が麻痺しますぞ?」

 差し出された右手を受けながら僕。

「好きな人を守れないような小僧を戴いて置けるほど我が軍は温い環境ではないと確信しています。」

 瞬間、驚いた風の紳士だったが、軽やかに笑う。

「いかにも。あなたを戴く我らは淑女を守る盾でもあります。しかしあなたが死に瀕する状況では、貴方が好きな人たちも死を目の前にしているでしょう。」

 互いに握る手に力を入れる。

「ならば、そんな状況自体も吹き飛ばしましょう、それが我らです。」

「いかにも、其れが我らです。」



 乱痴気騒ぎの北回帰線とは違い、南回帰線は極めて理性的な立食パーティーであった。

 この手のパーティーというとそれなりに波乱に飛んだものしか経験していなかったため、いささか嬉しかった。

 同行の女性は全てエスコートしてもらっているせいか、僕は貴重とともに歓談する時間をもらえた。

「元帥閣下の配下には美しい女性が多く、とてもうらやましい」

「・・・それは暗に北回帰線との人員交流を要望なさっていらっしゃる?」

「いやいや、紳士にして騎士たる我らは、敬うべき御婦人はいても愛すべき女生はいないのです。」

 どういうことかなぁ、と考えていると一例を出してくれた。

「元帥閣下は、JJ将軍の御内儀をご存知かな?」

 にこやかに頷くと、機長は詠う様に言う。

「かの人は、麗しき芳しく。かの人は、美しくたおやかで・・・・」

 確かに言葉のはしはしが美しくて、彼女の教えてくれた英語のおかげで色々な人との会話で好感を持ってもらえている。

「・・・ほぉ、元帥はあの奥様とお知り合いで?」

「チームメイトにJJ将軍の息子さんがいます。」

 まぁ、この辺の情報は将軍のプライベートに関わるし・・・。

「いえいえ、お聞きしていますよ?『もう一人の母』と。」

 あははははは、やっぱり有名なのね。

「その心こそ、我らが女性を敬う心の根幹です。」

 なるほど、と感心している僕の視線の先で、歓待を受けるイブやレンファは女性接待というよりも世話を焼かれているとも見える。

 クラウディアサンなんかは空軍士官であることも影響してか、何人もの乗組員が入れ替わり立ち代りで。

「まぁ、ミズ クラウディアは人気の急先鋒ですから、下心無しとは言いがたいですな。」

 あ、やっぱり。そう言う顔で機長を見ると、彼もクラウディアサンを視線で追っていた。

「・・・機長も、彼女が気になりますか?」

「あ・・・、そうですな。年甲斐も無いといわれそうですが、心騒ぐ相手ではあります。」

 少年のように頬を朱に染めた紳士というのも面白い。

 とは言え、そんな台詞を言わせてしまった責任を持つことにした。

 近くに巡回してきた彼女を呼びとめ、機長殿のお相手を指名。

「まぁ、よろしいのですか? 名立たる空軍パイロットのお話をお聞きしまして? こんな機会はもう何度もありませんわよ?」

「そのへんは、クレイジークラウディアにもお分けしないとね。」

 元帥の意地悪、とたたき出されて会場のイブとレンファに合流。

 周辺の仕官の人たちとともに大いに盛り上がった会場だった。



 久しく本当に久しぶりに女性のにおいのしない部屋で寝ることが出来たのだが、寝入りばなにノックがされた。

 クラウディアサンたちと決めている暗号ノックじゃないところを見ると機内の人間なのだと思うのだけれども、どうにもこうにも切迫感が有る。

 さーて何事かな、とおもってドアの隣に立つ。

「・・・誰かな?」

 小さくささやくように言うと、ノックは止み向こうからも声が聞こえる。

「ご相談したいことがありまして出向きました。」

 何でも、僕が同行した女性が乱交パーティーを開催しているという。

 紳士の仕来りを厳守する南回帰線乗員としては容認できないので止めてほしいというもの。

 衝撃的な話しだなぁ、と思ったが、彼らが何故そんなうそを言うのかが判らない。

 先ず、彼女たちがそんな行動を起こすだなんて事はないので事は一切ない。

 これは僕にとっての完全肯定の前提条件だ。

 次に、彼女たちが何か騙されて同様の状況になっている、というのもない。

 というか、僕の隣の部屋にいて、同行仕官部屋にいるのだから。

 試しに続き扉を少し開けて隣を覗き込んでみたところ、三人仲良く眠っている。

 ふむ、と首をかしげて同行仕官部屋の続き扉をパスロックした。

 僕の指紋によるロックだけど、暗証番号と合わせればほぼ外側からの開錠は不能。

 之でパニックスペースである隣室の彼女たちに加わる危険のほとんどがなくなったといえる。

「・・・君たちは誰だい?」

「フェンリー曹長であります」

 僕が片手を挙げると、それに添えるようにあわせる手が出現。

 やっぱりいた、と苦笑い。

 指信号で会話。

『反乱の可能性はありや?』『否』

『同行の女性に被害の可能性は?』『否定できず』

『外にいる人数は』『10人以上』

『物理的にここが破られる可能性は?』『ほぼ0%』

 手を下ろしたそのときには既に周辺から彼女の気配は無くなった。

 流石はインビジブルエッジ。

「まず、君たちが何故私の同行者を貶める発言をするのかがわからん。」

「・・・・信じてください。私たちは確かにこの目で・・・」

「君達は私の同行女性が何処で寝ているか知っているというのかね? 私にすら秘密で選定されているしんしょに誰かが招かれたというのかね?」

「はい、元帥にはお気の毒ですが、女性であるがゆえに。」

 うわー、いやな予感がするなぁ。

 そんな思いで眉を寄せると、壁の向こうではざわざわと女性不信の怨嗟の声が渦巻いていた。

「元帥には感謝してもしたりないのです。このような最高の環境を頂いて以降、誰も転属や下船をしていません。最高純度の城です。しかし、そんな城にも不純なる想いが持ち込まれれば染まってしまうものもいるのです。なにとぞ、なにとぞ!」

 さーて、外でナニが準備されてるのかなぁ。

 のぞき穴一つ無いドアの向こうを想像すると、いささか胸糞の悪くなる感覚がある。

 女性を敬愛しているという言葉には裏がないと思うけど、こういう歪んだ視界を持っているのはどうかと思う。

 すすんで誤解を解いてやるつもりは無いけど、身内に危害が加わることには手加減をしない。

「君達の意見について内容の精査はしない。しかし、君たちは私の同行した身内を言葉で汚した事実のみが残る。その一事のみは容認できんぞ。」

 ぐっと言葉に詰まる外。

「・・・出来ますればその一事をご確認ください!」

 悪意満載だよなぁ。

 どうにかして扉を開けさせたいらしいし。

 再び手を挙げると、一拍遅れて手が添えられる。

『敵対の意思はありや?』『否』

『遊び?』『半ば肯定』

『仕官参加は?』『否』

 つまり、下士官以下が遊んでほしいと言っているというのかな?

 そんな風に耳元にささやくと、困惑顔のインビジブルエッジさんが頷いた。

 なんとも回りくどい。

 こんな風に誘い出せば、全員粛清が待ってるのになぁ。

「君達が悪ふざけをしている気持ちについては推察できるが、初めから「遊びましょう」と声をかけなかったことを不満に思う。君たちがこの場のうそを私が信じなければ指揮系統における欠点をあげつらうのだろうし、信じれば直属の部下のことを信じていないと糾弾するのだろう。そんな遊びに付き合うほど睡眠時間が溢れているわけではない。遊び相手を選んで手段を講じなさい。ではお休み」

 そんな事を言った途端、小さな拍手が廊下に溢れた。

「見事な切り替えし、大変満足がいきました」

「だったら直ぐに逃げ出しなさい。今この場で扉を開ければ、全員銃殺だよ。」

 ざわっと声が上がる。

「・・・あの、本気ですか?」

 ちょこっと開けた扉の隙間からMP5の銃口を見せる。

「安全装置をはずしているぐらいに本気」

 反乱準備罪から始まる該当軍法を思い当たるかぎり読み上げていると、凄い勢いで駆け足が聞こえ、周辺全てから音が消えた。

 さーて、これで静かに寝れるなぁ、と思ったところ、扉の隙間に一人の人影。

 敬礼の姿勢のまま直立している。

 重厚を目の前にしていい根性だなぁ、と感心していたが、どうやら気絶中らしい。

「どうなさいますか、元帥閣下?」

「そりゃぁ、いたずらするっきゃないでしょ」



 下着から帽子に至るまで女性仕官の格好で放置された下士官は、元帥命令でおよそ一ヶ月の間、その格好での勤務となった。

 死刑よりマシだよね。




5.


 元帥府開設以来、頑なに固辞していることが幾つかあった。

 その中でも専用の元帥府スタッフの固辞はうやむやになってしまったし、従軍スタッフのほうもかなりの人数になってしまって拒絶の意味がなくなってしまった。

 しかし、唯一拒み続けていたことがあったのだが、どうも誤解と曲解がそれと現実のものにしようとしていた。

 その名も直参直営部隊。

 元帥府からの各軍への出向依頼ではなく、直接手元の軍備を持つことによる高速対応が行えるという面では有効なのだが、そんな兵を持っては辞任しにくい。

 そんなわけで固辞していたのだが、いつの間にかタイコンデカルロ北回帰線に元帥府スタッフが出入りし始めていた。

 さらに元帥府スタッフの持ち回り業務にタイコンデカルロ北回帰線のクルーが混じり始めたのだ。

 どういうことかとメイム=ヒュレイカ大佐に質問したところ・・・

「現段階の指揮所はタイコンデカルロ北回帰線であり、施設責任者は私です。その私の判断において施設への出入り人員の増加よりも職務の代行が望ましいものと判断しました」

 とのことだった。

 半ば飛行要塞であるこのメガ航空機も、実際は揚力や燃料補給と無縁ではない。

 常時出入りしている航空機はあるが、元帥府職務用の人員を抱えるほどの余裕は無いという。つまり、最低必要人員以外は北回帰線内でまかなうことが有用だという。

 連絡人員、補給人員、警備人員・・・・。

「警備?」

「はい。」

 嬉しそうに微笑むメイム大佐。

 しかし、うちの部署で警備部隊はなかったと思うなぁ。

 そう呟くと、彼女は言う。

「学園の警備部がそのまま元帥府の警備部になります」

 あーなるほど。

「その警備部と元帥府から依頼で、現在わが部隊は警備部および元帥府の実務代行をしております」

 なるほどなるほど。

 思わず頷くと、更に嬉しそうにする大佐。

「元帥閣下にもご容認いただきましたので、正式に組織化したく思います。」

 思考の範囲内で問題あるかなぁ、と首をひねったが思い当たらなかったのでうなづいた。

 すると彼女は胸元から一枚の書類を引っ張り出す。

 部隊名や紋章やチームマークやらナンやらを細かく記した書類は準備がよろしすぎるくらいであった。

「・・・こんなの作ってる予算あるの?」

「もちろんです、はい!」

 少女のように微笑む大佐を見て、まぁいいかと思う僕だったが、実際はあまりよくなかったのであった。


 陸軍将軍と海軍将軍から猛抗議の通話が入る。

 何でもかんでも空軍を贔屓し過ぎだという。

 何のことかと思っていると、元帥府直参部隊が空軍のみで組織されていることに関してだという。

 直参部隊なんかもっていないのに、と思っていると、透過スクリーンに最新の人事表が現れて、タイコンデカルロ北回帰線の人員がそのまま直参部隊として二重登録されていた。

 そうか、そう言うことですか、と苦笑い。

 正式な組織化をするという彼女の言葉を容認した僕の負けらしい。

 まいったなーと頭をかいていると、両将軍が画面いっぱいに顔を寄せる。

『我々の軍からも直参部隊を派遣させていただきますぞ!!』

「すでにタイコンデカルロ北回帰線だけでも人員飽和してるんですが。」

『しかし、それではずるすぎます!!』

 あんたら子供かよ。

 思わず肩を落とす僕だった。


 あれよあれよという間に直参部隊という名の集団が大量に出来てしまった。

 空軍からは「タイコンデカルロ北回帰線」および「生贄の翼」号。

 海軍からは巨大空母「父と子の大地」。

 陸軍からはUN静岡空港地上部隊および国連学園警備部隊が登録されてしまった。

 今まで遠慮がちに警備していた警備部隊が、大手を振って僕に付き従うことになるそうだ。

「ですが、いままで借り物の部隊ばかりでしたので、直属指揮系統が出来れば迅速な事態解決が出来ましてよ?」

 クラウディアさんの言葉を聞いても、いまいち実感の無い僕だった。




6.

 長々と居座っていた「タイコンデカルロ北回帰線」であったが、冬休み終了とともにAE学園への帰参が行われることになった。

 すでに帰着用のジェットをつれてきたインビジカルエッジさんの誘導で機内に入った僕だったが、外の風景に頭痛を覚える。

 滂沱の涙を流す兵達と、オリジナルエンブレムを胸にした士官たち。

「すぐに部隊を率いて警備管理を行います」と書かれた横断幕を見て、更に頭痛が深まる。

「元帥が直属部隊を認めていただけるとは・・・感激です。」

 僕の向かい合わせに座った空軍中尉、ミモザ=アライア殿はこのまま学園まで同行するという。

 しかしこの身は教師を偽装しているわけで。

「ご心配いりません。潜入護衛任務には心得がありますので。」

 ・・・そう言うことが得意な人は、既にいるんだけどなぁ。

「はい、元帥、いいえ。人員の重複は余裕の根本であり運用の要です。」

 なるほど、つまり交代人員は必要ってこと?

「まさしく。」

 なるほどね、と感心するが、指揮系統ってどうなるんだろうかという疑問を感じてPDAを覗き込むと、僕の下にクラウディアサンが居て、後は殆ど横並びの直属部隊のみの編成になっていた。

 横にスクロールしようとしても、終わらない終わらない。

「・・・一介の小僧に、こんな戦力も足せてどうしようって言うんでしょうかねぇ・・・。」

 頭痛を伴う呟きをもらしつつ、学院の誰よりも早く帰参した僕だった。



 始業式。

 というか今年初のミサで、院長の左右に並ぶ人々を見てめまいを感じた。

 今期より交換実施という形でシスターや保健用務員の交換研修を開始したという。

「まず、保健全般を管理していただけますキムさんです。」

 長身のめがね美女がにやりと笑って頭を下げる。

「続きまして、UN従軍教会から研修でいらっしゃいました、シスターミモザ、シスターアルマルカ、シスターウルライナ。」

 完璧にシスターの格好だけど、肩口のチャペルシンボルがUN各軍の意匠を基にしているのがよくわかる。

 思わず背中に大量の汗が流れるのを感じた。

 あからさまな人員投入に生徒たちの疑問が爆発するかと思いきや、概ね好評なことだけが救いに思う。

 なんでだ?



 いやはやナンというか、あからさまな人員投入だ。

 予期はしていたけれど、学院側でミスター泉の死守意思を見せたためか、彼を取り巻く教会勢力が威圧戦力による包囲線を開始したのだ。

 聞くところによると、今回交換研修にいらしたシスターの殆どはシスタークラウディアとほぼ同郷・同教区だそうで。

 つまりミスターイズミの教区が、短期集中で彼の懐柔と学院との隔絶を狙っていることと読み取れる。

 新規にいらしたシスターたちの周辺に向ける視線はまるで殺し屋のようだが、ミスターイズミに向ける視線は恋する乙女そのまま。

 先鋭的で狂信的な信者が投入されたと見える。

 そんな分析をシスタークラウディアにぶっちゃけたところ、彼女は大いに動揺してくれた。

 一端なりにも真実があることがうかがえる。

 なるほど、なるほど。

 そうなると、彼の役職が問題だ。

 彼が極めて高い役職にあった場合、現状こそがクルティカルな状況であって、学院に残留することすらかなわない立場である可能性もあるのだ。

 無論、将来有望な人員というだけのp可能性もあるが、先日学院祭にいらっしゃった方々を見るとミスターイズミの評価と地位はきわめて高いものと考えざる得ない。

 そういえば、日本語で彼を語るシスタークラウディアは、なにかと「G」の発音をしたがる。

 教会関係者で「G」発音の階位、または敬称・・・。

卿下げいか・・・・」

 思わずつぶやいてしまってから背筋が凍る。

 卿下、といえば、かの宗教団体特有の尊称である。

 その地位は高く、その発言力は高く、その尊敬は高すぎて上限なし。

 つまり枢機卿・・・?

 まさかまさか、キリスト教というのは保守的な組織なので、さすがにあの年齢で其れは無い。

 それは無いんだけど、きになるなぁ。



 聞くところによると、どうやらやばい所まで嗅ぎ付けられているらしい。

 神奈川秀美嬢を筆頭にした閉鎖空間的女子の試行能力は空前のものであり異次元的でもあった。

 少なくとも表面上の説明から真実の一端を引き出しているらしいとクラウディアさんからの報告だった。

 まぁ、面白おかしく軍事行動をすること自体には文句無いのだけれども、小僧一人を理由に遊ぶのは感心しない。

 各軍シスターたちが代わる代わる外国語指導準備室にやってくるのを、学院の生徒たちが牽制していたり、イブやレンファが牽制したりと刺激が強いのなんのって。

 派遣シスターたちも結構なお年のはずなんだけど、この空間では周辺の女子高生と変わりないらしい。

 人なりというものは周囲環境が作るものなのだ、と確信してしまった。

 周囲環境という話で見れば特殊環境の学院だけれども、JJと洋行さんは学院とは正反対の特殊環境に身をおいているという。

 生徒職員すべて耽美系のゲイゲイ空間だとか。

 そっちのほうが気楽ジャン、とは思うけど言葉にはしない。

 なにせこちらでは貞操の危機は無いけど、向こうじゃぁ・・・・ねぇ・・・・。

「ミスタイズミ、少々お時間をいただけますか?」

 にこやかで上品な言葉をかけてきたキム姐さんをみて、いろいろと背筋が寒くなった僕だった

 表情からそれを読み取ったキム姐さんは、表情を固める。

「・・・てめーが面倒くせえことするから、こっちはいい迷惑だ・・・」

 どすの聴いた言葉で囁くキム姐さん。

「しっかし、キム姉さんの上品な言葉深いって、全くに合いませんね」







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[一言] ふと、この作品を思い出して久しぶりに読みました。 私が中学生の頃に出会った作品でした。 面白くて何度も何度も読み返したのを覚えています。 登場人物が生き生きとしていて、そして設定も斬新で、画…
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