第十六話-2 学園祭続き
今回はちょっと短めです。
僕・センセ・ねーさんと何故かステア嬢を伴って、正式ルートの元帥府事務室にやってきた。
そして僕たちは、専用エレベーターで元帥執務室にやってきた。
最近の別名、宴会場なんですが。
その仮眠室が現在センセが宿泊している部屋で、センセが普段使っている化粧品やなんかが色々とそろえられている。
そのなかで封印もあけていないトランクを引っ張り出したセンセは、にんまりと笑ってその中身を出す。
それは見慣れた黒いウィグと真っ白な着物セット。
「まぁ、素敵な御衣装ですわ・・・」
感嘆の息のステア嬢であったが、僕はげんなりとしていた。
ああ、この衣装ってセンセが持っていたのね、と。
昨年の凱旋休暇のときに引っ張り出したこの着物、その後家に寄ったときに見つからなくてどうしたものかと思っていたのだが。
それに、どこから持ってきたのか、リョウコさん愛用の日傘まで持ち出してますよ。
ああ、なんだかなぁと頭を抱えたのだが、それよりもいやなことがある。
「この格好をして何か変るんですか?」
「そりゃ変るさ。わたしの知らない『イズミ=アヤ』なんていう小娘が投票されるより、わたしの大切なリョウコさんが投票されたほうが気持ちいいからさね。」
無茶苦茶自分本位ですよ、このひと。
「せんせ、なんでこんなものを持ってきてるんですか?」
「そりゃ、あたしが面白いからよ。」
・・・この人も自分本位、まんまんなかだし。
「あ、あ、あの! これをアヤさんが着るんですかぁ?」
アー、その、どうへんじしようかなぁ・・・そう思っているところで、ねじ伏せるようにセンセとグッテンねーさんがいう。
「あったりまえじゃないか」と。
がっくりうなだれた僕だった。
気づいてみれば、そこは麗人喫茶の厨房の奥、シューターへの連絡部屋であった。
西側経済圏における最大の権力者によって落とされた彼は、軽い貧血を覚えていた。
頭を振り身を起こすと、そこには着替え途中の女性、いやいや女性に仮装中の男がいた。
「あ、ミスター。お気づきになられました?」
そういったのは、ジェニーへと変貌しつつあるJJであった。
「あ、ああ。なんとか、正気になった気がするよ。」
深いため息と共に身を起こした彼であったが、少しだけ頭が揺れていた。
「ミスター、もう少し休まれてはいかがですか?」
そうもいかない、と苦笑してその部屋を出ようとして、はたと気づく。
妹はどうしたものか、と。
「ああ、ステア嬢でしたら・・・・」
人口声帯を呑んで、かわいらしい女性の声になったジェニーは言う。
「・・・グランマとミス清音と一緒に回ると伝えてほしいと伝言なさってましたよ?」
げふ、と思わずむせた。
苦しげにむせきった後、助けを求めるようにジェニーを見ると、彼女は苦笑していた。
「ご安心できるかどうかわかりませんが、一応、一緒にアヤもついていってますので、無茶はないかと・・・。」
それを聞いたミスターは、ばね仕掛けの人形のように跳ね上がり、部屋を飛び出した。
(学園で最も危険な人間がそばにいて、安心など出来るものか!)
こみ上げる声を飲み込んで、ミスターこと風御門は走った。
シューターから出ると、そこにはジェニーが立っていた。
呆然とした表情で僕を見ている。
その表情に何かを見取ったセンセとねーさんは、何故かハイタッチをしていた。
何だろう、と思った僕は隣のステア嬢を見ると、彼女は朱をさしたかのようなほほに手を当てて、忘我の視線をこちらに向けている。
思わずため息をついたところで、ジェニーが驚きの声を上げた。
「りょ、りょうか、リョウなのか!」
完全に素が出ていたので、思わず僕は口を開いた。
「こらこら、ジェニー。素が出てるじゃないかい。それはメイクを落としたときだけってな約束じゃぁなかったかい?」
あたかも頭の中にリョウコさんがいるかのような台詞回しに、僕も驚いたがグッテンねーさんも驚いた。
「やだよ、ほんとにリョウコさんじゃないか・・・・。」
ちょっと涙ぐむ彼女を横に、ジェニーは顔を真っ赤にして風体を変えた。
「・・・あ、はい、えっと・・・了解です。」
ちゃ、と敬礼した彼女は、あたかも女性仕官のような身振りであった。
どうやらこの格好で練習していたらしい。
「あたしゃぁ、ちょっくら身内とお客さんの相手をしてるから、店のほうは気を入れておやりよ。」
にっこり微笑んで僕が言うと、真っ赤になったジェニーが「了解」という掛け声と共に店へと飛び出していった。
「うっわー、凄い威力じゃないですか。リョウコさんて、こんな凄い人だったんですか?」
清音センセの問いに、嬉し涙のねーさんが僕の腕にかじりつきながら答える。
「そうさ、そうだよ、これだよこれなんだよぉ~。」
ぶんぶんと身を振るねーさんは、まるで少女のような喜びを表している。
「あ、あ、あの!」
「なんだい、ステアじょーちゃん。」
反射的に僕が答えると、彼女は全身真っ赤になったかのような表情で聞いた。
「・・・おば様と反対の手、お借りしてもいいでしょうか?」
悪いはずもなく、僕が手を差し出すと、彼女は気絶寸前の調子で手を握り、ひられるままに後を突いてき始めた。
このまま男子トイレにはいっても気づかないだろうなぁ。
どこを探しても、リョウ=イズミの一党は見当たらなかった。
奥の手であるアマンダ教授にたよったものの、今日は一度もインターセプトしていないとのことだった。
イブやレンファも同様だそうだが、彼女たちは既にミスコン投票数上昇のための運動にかかわっているので、探すこともままならないそうだ。
なんとも不気味な話だ。
本来なら、本日一日政財界関係者のエスコートをしているはずのリョウ=イズミは、ふらりとアヤとして現れ、そして妹をさらっていった。
調べてみれば見るほど恐ろしいことで、政財界関係者は、こぞってリニアホームから先の所在を消失させている。
全てはあの男の差し金だろう。
ふらふらと巡回するよりも、個人個人でお楽しみいただけるプランを用意しましたとか何とか言って、マーカーや監視の目をジャミングさせているに違いない。
そのくせ国連三軍の情報部で所在は押さえているのだろうことが疎ましい。
なんと悪辣な人間に権力を与えてしまったのだろう。
そのうえ、我が妹まで毒牙にかけようとしているのだとすれば・・・。
「・・・指の一本でもつめてもらわねばなるまい・・・。」
最近好んでみている仁侠映画を思い出し、暗い笑いを浮かべたところで、移動する人ごみを発見した。
それの中心では、ひときわ高い位置に黒髪をまとめた人がいる。
間違いあるまい、そう思い、力強くその人ごみを掻き分け始めた。
麗人喫茶から出て練り歩くと、面白いぐらいに人ごみが出来たが、なぜか三人分ぐらいの空間が周囲に出来ていた。
ミスズ曹長によるものか、とも思ったが、そういうわけでもないことを思い出した。
そう、僕の体臭によるバリア効果というやつだ。
なるほどなるほどとニヤニヤ笑うと、何故かこちらを見ている人間も微笑んでいる。
「なんだい、あんたら。なんかようかい?」
そう問うと、問われたあたりでぶんぶんと首を振る。
まあいいさ、としゃなりしゃなりと歩みを進めると、左右の女性もそれに付き従う。
方や、西側経済界における最大の巨人、方や、恐怖の生徒総代が妹。
で、背後には人間山脈系の美女がいる。
ひと、集まるわなぁ・・・・。
で、そんなまったりした集団を書き分ける人影を見て、僕は内心呻いた。
あの煌くばかりの銀髪は・・・
声も出さぬ間に現れた人影は、びしっ!と此方を指差して叫ぶ。
「我が妹を毒牙にかけんとする不埒もの! この場で成敗してくれ・・・・」
最後まで言い切る前に、彼は固まった。
ぶるぶる震えているのは、どんな感情ゆえだろうか?
ゆっくり、ゆっくり、指差す姿勢のまま近づいてきた彼は、震える声でその名を呼んだ。
「りょ、りょうこ・・・りょうこさま・・・?」
苦笑で笑むと、男は飛び上がった。
正面に向かって両手を広げ。
背後の台詞が『ふじこちゃ~~ん』とかになっているのがわかる調子で!
げっ、と思わず顔をしかめた僕と同時に、二人の人影は動く。
方や、空中からの彼を、そのままに地面へ叩きつける老婆。
方や、叩きつけられた彼を、ストンピングし続ける少女。
凄い息の相方だよ、きみたち。
ひとしきり彼、ミスターがボロ雑巾のようになったところで、老婆と少女が手を握り合う。
世界一怖いたっぐだね、あなたたち。
元帥府専属の医療部門にて治療をされたミスターが目を覚ましたとき、彼は涙ぐんでいた。
夢ではない、と何度も繰り返すその姿に同情をするが、こっちもいろいろと事情を持っているので素直に受け入れてもあげられない。
「で、誰と似ているんですか、ミスター?」
人口声帯を入れていない肉声で声をかけると、彼はびくりと体を震わせて此方を向いた。
ごしごしと顔を拭いた後、じっくりこっちを見て、そして掠れる声で聞いた。
「・・・リョウ=イズミ・・・・か?」
ええ、と頷くと、彼はこの上もなく沈み込んでいった。
「で、誰に似てるんです? この格好」
ため息と共に、一昨年東京でであった「リョウコ」という女性に似ていたのだと言った。
「ああ、その人、多分、僕の母ですよ。」
そういったところ、びくりと身を起こして此方を向いた。
「あのひとってば、凄い面白がりで。一昨年、凱旋休暇したときにイブとレンファの入学記念パーティーにもぐりこんだんですけど、やりすぎたって言ってどこかに雲隠れしましたから。」
ふらふらしていたミスターの頭は、ぴたりと止まった。
聡明な瞳に戻っていた。
「リョウ=イズミ。・・・彼女の夫はすばらしい人かね?」
「さぁ? 僕も幼いころに死に別れていますんで、どんな人かは....」
小首を傾げた僕の両手を、ミスターはぎゅっと握って涙を流していた。
「それは寂しかっただろう、それは辛かっただろう!」
ぶんぶんと握った両手をシェイクして、まじめな顔で彼は言う。
「これからは、僕が君の父となろう。」
は?
「いやいや、遠慮することはない。このところ君からのアプローチの多さに何かあるものと思っていたが、君自身が気づかぬとしても私にはわかる。君はまだ見ぬ父性を求めていたのだよ。」
輝く笑顔で、歌うかのように、軽やかな笑顔で踊りだすミスター。
「さ、遠慮なく僕の胸に飛び込んでおいで!!」
思わず一歩引いた僕の横から、一条の矢が彼を襲う。
矢の名はステア。
弓の名はグッテンねーさん。
見てないけど間違いあるまい。
あたかも空気の抜けたゴム鞠のように、何度もいびつにバウンドするミスターを見て、僕は再び合掌した。
完全推薦性という馬鹿みたいなシステムのせいで、集計は凄い手間取っていた。
手間取っていたが、今年度はじめから始まったファンクラブ連合の総力をもって、最終時間に間に合いつつあった。
本日はじめから集計リストトップにいたのは、ミスコン例年上位のマギー=トレモイユであったが、彼女自身はトップでいることに不満であった。
なにせ、彼女にはわかっていたのだ。
いまだ分類不明で集計結果に結びついていない他の人間への投票が唸っていることを。
しかし、その日の昼間では、上位ランクの大半をミスコン喫茶のトップビューティーが占めていたので、多少の安心があった。
が、午後二時を越えた時点で得票集係数が凄い勢いで競りあがってゆき、それにあわせて凄い勢いで名前が上がってきた人間がいた。
その名も『イブ=ステラ=モイシャン』『リン=レンファ』
今年のミスコンの啓蒙活動に出ていた彼女たちは、その活動中に培った得票により一気に順位を上げていたのだ。
いまだトップテンに入ったという程度だが、マギーは全く安心できなかった。
なにせ、得票内容を見てみれば、その内容は全て『イブ』『レンファ』と完全に分類できるものばかりであったから。
(ヴァンとウォンの投票がつながっていないなら、半分も入っていないのと一緒よ!)
そう、この学園祭の中で、ほとんどあの二人は男装でいたのだ。
その得票が全く表に出ていないのなら、本当の得票数とはいえない。
さらにもっと不気味なのは、「イズミ=アヤ」の存在だ。
学園内で爆発的な人気があるはずの彼女の得票数が、全く見えていないのだ。
マギーの概算では、この一般公開日に至る前で既にトップスリーに入っていなければならないはずなのに。
なぜ、と思っているところで知らぬ名がトップテンに入ってきた。
「・・・麗人喫茶のミリアム」
そう、初日にコーヒーの入れ方を教授しにきたメンバーだ。
対外のリョウチームと女装キャラとの関連付けが出来ているはずなのに、彼女だけが正体知れずであった。
その彼女が、ぐいぐいと得票を伸ばしている。
多分、麗人喫茶ファンによる組織票だろう。
ふと見てみれば、麗人喫茶メンバーが何人もトップ20に入ってきている。
これだ、これがイズミ=リョウチームの怖いところだ。
既存の常識を破った研究室技術の大量投入と、異性同姓の嗜好を極限まで意識したプロデュース。 明らかにオーバークオリティーなのだ。
その結果が着々と得票となって出ている。
悔しいが、来年以降は裏方に回って戦ってみたい相手である。
半死半生の表情で、中央広場の電光掲示板を見上げるミリアムは、ぐいぐい順位を上げる自分の名を半ば誇らしそうに見ている。
アヤの名がいまだトップ20にも入っていないのを見て、僕もちょっと嬉しかった。
やはり性反転馬鹿企画の中に身をおけば、僕の魅力などないに等しいわけだよ。
からんかからんか笑っていたのだが、隣のねーさんは不満そうであった。
「なんでリョウコさんの名前が無いんだい?」
結構むっとしているところで、ミスコン運営委員のやつらがフラリと僕の目の前に会われる。
「あの、お写真、よろしいでしょうか?」
ん? と小首をかしげたところで、ぱしゃ、と一枚。
そのうえで名前を聞かれたので答えると、いきなり電光掲示板にそれが現れた。
「ミセス リョウコ」
順位は・・・・9位。
げぇ・・・。
思わず顔をしかめると、その横のねーさんも苦り顔。
「なんだい、9位程度かい。」
いやいやいや、今日一日だけの活動でこの結果は恐ろしいんですが。
そうささやく僕に、ねーさんはささやき返す。
「そんなのはわかりきってるんだよ。それでもリョウコさんはトップじゃないといけないんだい。」
駄々っ子の言い分であったが、ねーさんの思い入れの深さなのだろうと言うことで放置した。
「あれ、イズミ=アヤちゃんの名前が無いんだけど?」
そういったのはセンセ。
「まぁ、性反転企画のオカマバーにいれば、いやでも鍍金が剥がれますって。」
そんなことないわよ~と言いつつ、センセは携帯片手にどこかと会話していた。
「・・・あ、あなたですか!写真提供者は!!」
そういって現れたミスコン運営委員会は、先生の携帯に自分の携帯を向けた。
「・・・はい、確かに!」
そういって走り出すと、すぐに順位へ反映された。
「イズミ=アヤ(ディフェンディングチャンピオン)」「二位」
・・・二位ですって?
思わず倒れそうになったところで、運営委員会からの説明。
「今まで、本人確認が出来ない状態でしたが、写真による複合情報確認の結果、イズミ=アヤ得票の大量認知にいたりました。現状、情報確認が出来ていない人もおりますので、どんどん写真情報をお寄せください。」
すると、みるみるイブとレンファの順位が上がっていった。
ともすると、いつの間にかアマンダ教授の姿もランクに入っている。
去年の再来か? と思っているところで、思わぬ人物も入ってきた。
「ドロレスファイランドアース」「18位」
「テルマ=フレィッシュ」「19位」
ああ、ロリータはコアファンが多いからなぁ・・・
そう思ったが、テルマもファンが多いのかな、と思う。
さてさて、誰が優勝するのやら、と思っていたところで、いやな名前が順位外に入っていた。
「あ、なーんだ。やっぱりやってたんじゃない。」
センセの視線がそこでとまっているのを、苦笑で僕は見ていた。
そこには「フレイバール少佐」とあった。
集計が進むにつれ、混乱は混乱を呼んだ。
まず、混乱の原因は表の顔と裏の顔、さらにもっと裏の顔のある人物が多すぎるのだ。
イブやレンファはもとよりうちのチームは完全に二人分の顔があるし、僕にいたっては、ドンナ得票を得ているのかもわからない状態だった。
とはいえ、完全なトレーサーがあるわけではないので、意思表示や行動発言を集計した結果、マギートレモイユはかなりの得票を伸ばしていた。
主に一般参加人員からの得票で、道を案内したり老人を介護したりという行動がプラスになっていた。
既に2位の「いずみ=あや」とはトリプルスコアーで引き離しており、何年かぶりの女王に返り咲くのかと思われたそのとき、凄いサイレンが鳴った。
「発表です! ビューティーコンテストの趣旨に合わないという理由から排除されていた得票が生きました!! 得票『ヴァン』は『イブ=ステラ=モイシャン』、得票『ウォン』は『リン=レンファ』であることが確認されました!」
おおおおおお、と低いどよめきと共に、電光掲示板の順意表が入れ替わる。
得票数の桁がそろって、1位マギー、2位レンファ、3位イブとなっていた。
すげー、デットヒート。
そう思っていたところで、運営委員会のルーキーがひょっこり現れた。
「あのぉ・・・もしかして、リョウコさんって、アヤ先輩ですか?」
目ざとい人間がいるものだと感心して頷くと、凄い勢いでルーキーが走り、そして再びサイレンが鳴る。
「ニュースです、発表です!! 今までなぞの人物とされていたビューティーの正体が知れました!! なぞの貴婦人リョウコさんは、なんとイズミ=アヤ先輩でした!!!」
きゃーとかぎゃーとか言う声と共に、何人もの婦女子に囲まれてしまった。
「きゃー、せんぱいすてきですぅ~」「いやぁ~、せんぱいってばうるわしい~~~」
耳がつぶれるかと思う嬌声が、瞬間的にやんだ。
見れば凄い目でねーさんが周囲をにらんでいる。
こえー。
「・・・そこで、順意表には連名で加算させていただきます!」
そう言った発表と共に、僕の順位もあがった。
1位マギー、2位レンファ、3位イズミ=アヤ 4位イブとなっていた。
あ、会場の端からイブがこっちをにらんでる。
こえー。
とはいえ、得票の取りまとめはこんなところでおしまいかと思っていたところで、協議を始める運営委員会。
なぜかルーキーをどこかに押しやっている。
いやな予感がするなぁ。
全ての集計が終わって、演台に呼び出されたトップテン。
面白いことに知っている顔ばかりであった。
トップのマギーに加え、我がチームのイブ・レンファ。
さらに加えて、ジェニーと洋子、レイフォウが入っているのが笑える。
そして僕(イズミ=アヤ)とアマンダ教授が在校生組みだとすると、それに加わるニューエイジは心強かった。
勝負宣言をしたテルマと、妹分ともいえるロリータがはいっていた。
この演台に上がる段階で順位が隠されていたが、事前情報を考えれば、1位マギーで決まりだろう。
これで目の敵にされることがなくなるかと思うと嬉しい限りだ。
下位から発表される順位は、10位ジェニー、9位洋子、8位ロリータであった。
三人そろって並び、客席に向かって礼をすると、一人ロリータが泣きじゃくり、二人の女装が慰めていた。
ルーキーは女の友情と思っているが、内情を知っている人間でロリータを思っている男子はどう思っているのやら。
さらに続く発表で、7位レイフォウ 6位テルマ 5位アマンダ教授 が発表され、テルマは負けたとうなだれた。
残る発表で、すぐさま呼ばれたのは僕、「イズミ=アヤ」だった。
当然の結果に安堵した僕であったが、イブもレンファもマギーも不満そうだった。
いや、不満と言うよりも納得がいかない風だった。
いいじゃないか、本当のミスが決定するんだから。
そう思ってニコニコしているうちに、3位がイブと発表された。
悔しそうにしていたのは一瞬で、僕の横に立ってにやにやしていた。
そして、ミスが発表される。
真っ暗になった周囲、響き渡るドラムロール。
盛大なファンファーレと共に発表されたその名は・・・
「マギートレモイユ!!」
鳴り響く拍手、盛り上がる会場。
マギーも嬉しそうに・・・・していなかった。
はいはい、静粛にと手を凪いだ彼女は、マイクを手にした。
「じゃ、これで『幻美人』プロジェクトは終わりね?」
その言葉に答えたのは、審査委員長席に座った学園長であった。
「そうだな、そのようだ。」
がっくりうなだれた彼女は、運営委員会を指差す。
「じゃ、さくっとつなげて。」
けだるそうな手振りに合わせて、マスクされていた電光掲示板が表示された。
発表どうりの内容であったが、10位以下の名前が煌く。
「フレイバール少佐」「11位」
「イズミ=リョウ元帥」「13位」
「名称不明」「14位」
チラッと電光表示を見たマギーは、マイクに向かっていった。
「まず、名称不明のこれは、ルーキーの『甘味所』に出向していた『イズ=ミアヤ』だから加算して!」
たん、とドラムひと叩きで、イズミ=アヤに加算された。
すると『アヤ』の順位が一つ上がる。
「で、このフレイバール少佐っていうのは、演劇喫茶で上演された役だけど、中身はイズミ元帥なので、加算」
ルーキーたちの「えー!」というBGMを背後に、ドラムがだんだんと叩かれた。
すると「リョウ=イズミ」の名前がトップ5入りする。
・・・ざっと計算し始めた僕は、血の気が引いた。
前に出ようとしたところで、両脇に立っていたイブとレンファに抑えられる。
「・・・さて、ここまでの順位はたいした波が無いけれど、ここでもう人波乱起こしましょう。」
そう言って指を鳴らすマギートレモイユにあわせ、イブとレンファが僕を押し出した。
「なんと、この『イズミ=アヤ』は・・・。」
むりやり剥ぎ取られる「おかっぱウイグ」。背中を叩かれて吐き出さされた人口声帯。
すばらしい早業でかけかえられたメガネ。
あ、いかん、もう成されるがままジャン。
最後に両方から押されて、とっとっととマギーの隣まで前に出た僕は、既にあきらめていた。
何せ、これで最後だもの。
すっと背を伸ばし、マギーから渡されたマイクを片手ににっこり微笑む。
「あー、楽しんでもらえたかな?」
きゃーだかぎゃーだかわからない悲鳴の後、僕の背後に寄ったレイフォウ・洋子・ジェニーも人口声帯と鬘をはずす。
「や、今回は審査員が出来なくて残念。」「どうだぁ?いろぽかったかぁ?」「ちょっとくせになりそうだね、これって」
再び悲鳴渦巻く会場は、ここ以外への情報持ち出し禁止が声明されるまで、大混乱が渦巻いていた。
学園内から来賓が退去した後、校内全員に向けて放送があった。
それは今年度当初から続いていた隠し課題の終了宣言であった。
隠し課題の存在とその目的、そしてそれに対する姿勢など云々かんぬんが学務教頭から話されたが、その焦点は僕にとって全て一つに絞られる。
そう、『アヤの日』終了であった。
もう二度と嫌な格好で愛嬌を振りまかなくていいかと思うと、学園祭の騒動など軽いものであった。
たとえ、あの時以降、ステア嬢とねーさんが意気投合し、なにやら怪しいことをたくらんでいようとも、パーティーのあと以降、教授陣の清音先生への視線が異常に熱かったことなんかも気にしないのだ。
いやーへいわってすばらしい。
平和ついでに、麗人喫茶の性転換メンバー当てクイズを学園Web上で行ったところ、誰一人正解者はいなかった。うちのチームの殆どはわかったらしいのだが、一人だけわからないとの事。
最も正解者のいなかった、いや、誰もがその正体をわからなかったミリアムについての怪情報は暫く収まることが無かった。