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あの日グラウンドに置いてきた夢の続きは、音楽室で響きはじめた  作者:
第2部 新しいグラウンド

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9/22

第9話 初めての合宿

バスは、山道をひたすら登り続けた。

窓の外は、緑一色。時折、木々の隙間から、太陽の光が差し込み、木漏れ日が揺れる。悠真は、隣に座っている明日香と、他愛もない話をして、笑っていた。


「合宿、楽しみだね。」


明日香がそう尋ねると、悠真は頷いた。


「ああ。修学旅行みたいで、わくわくする」


「わかる! 私も。夜の練習、ちょっと怖いけど……」


明日香は、少し顔を曇らせた。


「怖い?」


悠真が聞き返すと、明日香は、小声で言った。


「夜は、真っ暗なところで、個人練習をするんだ。先輩たちが、お化けが出るって、からかうんだよ」


明日香の言葉に、悠真は、思わず笑ってしまった。


「なんだ、お化けか。俺、全然怖くないよ」


悠真がそう言うと、明日香は、安心したように、にこっと笑った。


「よかった。じゃあ、もし、お化けが出たら、悠真くんが、守ってくれる?」


「任せとけ」


悠真は、胸を張って、そう言った。

バスが、合宿所に到着した。合宿所は、山の中にひっそりと佇む、古い建物だった。だが、中は、清潔で、広々としていた。


「よし、お前たち、荷物を置いたら、すぐに、体育館に集合だ!」


葛城顧問が、大きな声で、そう叫んだ。部員たちは、一斉に、荷物を持って、部屋へと向かった。

悠真は新堂と同じ部屋だった。部屋に入ると、新堂が、ベッドに飛び込んだ。


「うわー、疲れたー。もう、寝たいー」


新堂が、そう言って、伸びをした。


「ちょっと、新堂先輩! まだ、練習が、、、」


悠真が、そう言って、新堂を窘めた。


「わかってるってー。ちょっと、休憩」


新堂は、そう言って、目を閉じた。

悠真は、自分の荷物を整理しながら、窓の外を見た。窓の外は、もう、夕焼けに染まっていた。



---



合宿二日目の朝。悠真は、葛城顧問の笛の音で、目を覚ました。


「おい、お前たち! 朝だ! 起きろ!」


葛城顧問の大きな声が、部屋中に響き渡る。

悠真は、すぐに起き上がり、顔を洗った。隣のベッドでは、新堂が、まだ、ぐっすりと眠っていた。


「新堂先輩、起きて!」


悠真がそう言って、新堂の肩を揺らすと、新堂は、目をこすりながら、ゆっくりと、起き上がった。


「うわー、マジかよ。もう、朝かよ」


新堂は、そう言って、再び、ベッドに倒れ込んだ。


「新堂先輩、起きないと、監督に怒られるよ」


部屋のドアを開けて、ちょっこりと顔を出した岡嶋が、そう言って、新堂をからかった。

新堂は、渋々、起き上がり、顔を洗った。

朝食を済ませると、部員たちは、体育館に集合した。体育館は、まだ、薄暗く、空気が冷たかった。


「よし、朝練を始めるぞ。まずは、基礎練習だ」


葛城顧問が、そう言って、指揮棒を振った。

悠真は、スティックを手に、基礎練習に励んだ。だが、朝早くから、頭は、まだ、ぼーっとしていた。


「おい、真田! リズムが乱れてるぞ!」


葛城顧問の声が、悠真の耳に響く。悠真は、はっとし、集中力を高めた。


「すいません!」


悠真がそう言うと、葛城顧問は、頷いた。


「いいか、お前たち。朝練は、一日を左右する。朝から、集中力を高めろ。そうすれば、本番で、最高の音が出せる」


葛城顧問の言葉に、部員たちは、真剣な表情で、基礎練習に励んだ。



---



午前中いっぱいは、基礎練習。そして、午後からは、合奏練習が始まった。

悠真は、スネアドラムの前に座り、指揮台に立つ葛城顧問を見た。葛城顧問は、指揮棒を振り、部員たちに、合図を送った。


「タァーン」


悠真は、スネアドラムを叩いた。その音に、クラリネットや、トランペット、チューバの音が、重なっていく。


「タタタ、タタタ、タタタ、タァーン」


悠真は、譜面を追う。だが、譜面は、まだ、完璧には頭に入っていなかった。


「おい、真田! リズムがずれてるぞ!」


葛城顧問の声が、再び、悠真の耳に響く。悠真は、汗をかきながら、スティックを握りしめた。


「すいません!」


悠真がそう言うと、葛城顧問は、首を横に振った。


「謝るな。集中しろ。お前のリズムがずれると、全体の音が、おかしくなるんだ」


葛城顧問の言葉に、悠真は、ハッとした。

野球部では、ピッチャーは、一人で、マウンドに立つ。だが、吹奏楽部では、一人一人が、チームの一員なのだ。

悠真は、目を閉じ、集中力を高めた。自分の心臓の鼓動と、メトロノームの音を、重ね合わせる。


「タァーン、タタタ、タタタ、タタタ、タァーン」


悠真は、再び、スネアドラムを叩いた。その音は、先ほどよりも、ずっと、安定していた。

葛城顧問は、満足そうに、頷いた。



---



夜の個人練習を終え、悠真は、明日香、新堂、岡嶋と一緒に、合宿所の外に出た。


「うわー、星が、めっちゃ綺麗!」


岡嶋が、そう言って、空を見上げた。

空には、満天の星が、輝いていた。都会では、決して見ることのできない、美しい光景だった。


「なんか、こういうところで、楽器を演奏したら、気持ちよさそうじゃない?」


明日香がそう言うと、新堂は、ニヤニヤと笑った。


「じゃあ、明日香、チューバ、吹いてみろよ」


「えー、無理ですよ! チューバ、めっちゃ重いし」


明日香は、そう言って、笑った。

悠真は、何も言わずに、空を見上げていた。星が、キラキラと、輝いている。その輝きが、まるで、吹奏楽部の音色のように、悠真には見えた。


「なんか、今日の練習、すごく、疲れたけど、楽しかったな」


新堂が、そう言った。


「うん。私も、楽しかった」


明日香も、頷いた。

悠真は、二人を見て、にこっと笑った。


「俺もだよ。みんなと一緒だと、楽しい」


悠真の言葉に、明日香と新堂は、少し驚いたような顔をした。悠真は、いつも、あまり、自分の感情を表に出さないからだ。


「悠真くん、そんなこと、言ってくれるんだ」


明日香がそう言うと、悠真は、少し照れたように、首を横に振った。


「別に。思ったことを、言っただけだよ」


悠真は、そう言ったが、心の中では、確かな感情が、芽生え始めていた。



---



合宿最終日の朝。

悠真は、体育館で、部員たちと一緒に、最後の合奏練習に励んでいた。

葛城顧問の指揮棒が、軽やかに、宙を舞う。部員たちの音は、まるで、一つの生き物のように、呼吸をしていた。


「タァーン、タタタ、タタタ、タタタ、タァーン」


悠真は、スネアドラムを叩いた。その音は、正確で、力強かった。


「タタタタ、タタタタ、タタタタ、タァーン」


リズムは、完璧だった。

合奏が終わり、葛城顧問が、満足そうに、頷いた。


「よし。これで、今日の練習は、終わりだ。みんな、よく頑張った。特に、一年生は、初めての合宿で、よくついてきた」


葛城顧問がそう言うと、部員たちは、拍手をした。

悠真は、汗をかきながら、スティックを握りしめた。


「悠真、どうだった? 初めての合宿は」


北原が、そう言って、悠真の肩を叩いた。


「楽しかったです。それに、なんか、吹奏楽が、もっと、好きになりました」


悠真がそう言うと、北原は、笑顔で頷いた。


「だろ? 吹奏楽は、一人じゃ、できない。みんなで、一つの音を、作り上げるんだ。それが、吹奏楽の醍醐味だよ」


北原の言葉に、悠真は、深く、頷いた。


「俺、この仲間と、一緒に、甲子園に行きたい」


悠真は、心の中で、そう呟いた。


「この仲間と、もっと、良い音を、作りたい」


合宿所から戻った帰り道。

悠真は、明日香とコンビニに立ち寄った。


「悠真くん、なんか、顔つきが変わったね」


明日香が、そう言って、悠真を見た。


「そうか?」


悠真がそう言うと、明日香は、にこっと笑った。


「うん。なんか、すごく、頼もしくなった」


明日香の言葉に、悠真は、少し照れた。


「ありがとな。明日香」


悠真は、そう言って、明日香に、にこっと笑った。

悠真の心は、もう、空白ではなかった。そこには、新しい仲間たちと、新しい夢が、芽生え始めていた。

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