プラチナの夢
その姿はずっと以前から見知っている。しかも今日も見かけた。スフェンに見つからないように帰宅しようとしたとき、結局見つかった瞬間、彼の背後にいた女子生徒がシエルだった。
二人は話していたようだが、プラチナを見つけたスフェンが近付けば、彼女は鋭い目付きでプラチナを睨んできた。
(あれは敵意以外の何物でもありませんわ)
スフェン以外にもヘリオドールや高位の貴族の令息達、アカデミーを守護する女性人気の高い美形の騎士など、シエルが様々な男性と一緒にいる姿を見かけている。
彼らは既に婚約者がいる令息ばかりで、騎士に至っては既婚者だったはずだ。ただ話すだけなら兎も角、枝垂れかかる様子や体に触れている光景も目にしていた。その様子から、彼女は男性達を誘惑している。取り入ろうとしていると分かった。
喜ぶべきは、その目を付けられた男性達が理性的だったということ。婚約解消や不貞の話など一切起きなかった。シエルの目的が分かりやすかったせいだろう。彼らは突然現れた可愛らしい男爵令嬢よりも、幼い時から婚約を交わした令嬢や自身の妻を選んだ。
だから、プラチナに敵意を向けたのだろう。彼女さえいなければ、スフェンを手に入れられると思ったのかもしれない。
(そうですわ、自分勝手な行いで婚約という契約を交わした令嬢を蔑ろにはできない。貴族の結婚とは家同士の繋がり、それより発生する利益のため。一人の少女の稚拙な誘惑など自身が背負う重責を思えば・・・スフェン殿下は落としていただきたかったですわ!)
そうすれば、自分は王族の伴侶とならず思い描いた将来を歩めるのに・・・───。
「プラチナ?」
苦手な婚約者と簡単に別れられたかもしれないという叶わぬ願いを思えば、マリアライトの優しい呼び声に現実へと引き戻された。
「ええっと、はい。どちらのご令嬢か思い出しましたわ。何度かアカデミー内でお見かけしました」
「私の周辺にいて怪我を負っていたのもシエル様だったそうです。何度も怪我をしたのに、と震えた声で訴えられて・・・私、なんてことを」
「マリアライト、違いますわ。彼女はあなたに敵意があるはずです。シエル嬢は・・・アカデミーでご自身の婚約者となる殿方を探していたのです。スフェン殿下もヘリオドール殿下にも気軽に話しかけていましたし、婚約者のいる令息や既婚者の騎士にも身を寄せる姿をお見かけしました。彼女は地位と名声のある男性に対して下心があったのです。彼らを婚約者と望んでいた。ですので、ヘリオドール殿下の婚約者のあなたがいれば邪魔だと排除しようと思うはず。もしかしたら悪評を広めようとした者の可能性もありますわ」
「そんな、そんな人を貶めるような方とは思いたくありません・・・私に話しかけてきたシエル様は震えていました。恐怖に怯えた目も向けていて、きっと、私がオトメゲームノアクヤクレイジョウと気付いてしまったのです・・・」
マリアライトの語気は弱まり、最後には俯いてしまった。彼女は自分が魔物だと完全に思い込んでしまった。体が少し震えていることから、泣いているのだろう。
プラチナは身を寄せると、背中を撫でながら思案する。
(体が震えていたのは怒りでしょうし、怯えた目というのも睨んできただけだと思いますわ・・・あの方、わたくしのことも睨まれていらっしゃいましたから、か弱きご令嬢ではないと思いますけど)
チラリとマリアライトの顔を覗き込む。美しい宝石のような瞳が涙で輝く様は本当に美しい。不謹慎にも見惚れてしまう。
優しすぎて心が脆いマリアライトだが、流石の彼女もこれほどまでに弱い姿を公衆の面前に晒さない。王太子妃となる責任から、次期王妃への臣民の期待から強くあろうと耐えている。
マリアライトが弱い姿を晒すのはプラチナの前だけで、婚約者のヘリオドールにすら泣き顔は見せない。彼女はプラチナを誰よりも信頼しているからだろう。
(一度マリアライトが思い込んでしまったら考えを改めさせるなど困難ですわ。もう少し明るく物事を考えてほしいものです)
「わ、私、このままでは、ヘリオドール様の妃になど、なれません・・・」
嗚咽混じりの悲痛な声に、プラチナは優しい笑みを浮かべると、先程よりも濡れたマリアライトの目元にハンカチを当てた。
信頼ゆえに、ありのままの自分を晒してくれることがプラチナは嬉しかった。彼女のためなら何でもできると言い切れてしまうほどに。
「プ、プラチナ」
「泣かないで、マリアライト。わたくしが付いていますわ。あなたの悲しみなど吹き飛ばしてさしあげます!」
「ふき、とばす?」
おずおずと顔が上げられれば、そこには可憐な泣き顔があった。守りたくなる無垢な少女にプラチナは笑顔を絶やさない。
「あなたはご自身が魔物だと思っていますでしょう?あなたはそんな・・・ええっと、オトメゲアクヤクレジョなる魔物でないと証明しますわ」
「オトメゲームノアクヤクレイジョウですよ」
正確に名称を言ったマリアライトに、プラチナは目を細めて唇を尖らせる。
「その無駄に長い名前は何とかなりませんの?呪文みたいで覚えられませんわぁ」
おどけて言えば、マリアライトはやっと笑ってくれた。涙を湛えたことで、綺麗な雫が一筋と頬に流れる・・・───。
───・・・どう証明するのか。
まずは「オトメゲームノアクヤクレイジョウ」という魔物がどんな存在か知るべきだとプラチナは言った。
泣き腫らした顔を洗うことですっきりしたマリアライトから、このあと王城で結婚式についての話し合いがあると告げられる。
『王城の書庫は知識の宝庫。国を乱した魔物に関しての書物もあるはずですわ』
『ええ、ヘリオドール様にお願いをして書庫を調べてみます。地域に残る伝承や軍事遠征の記録も調べたほうがいいでしょう』
『お願いしますわ!わたくしは本日はもう外出できませんので明日・・・』
昨日交わしたマリアライトとの会話を思い出しながら、プラチナはアカデミーの門を潜り、ヴァイスシュタイン家の馬車には乗らず、煉瓦で舗装された歩道を歩く。
いつもと変わらずにスフェンに「一緒に帰ろう」という誘いを丁重に断り、食い下がる様子を振り切って、颯爽と足早に歩き続ける。
清楚な雰囲気の慎ましいマリンブルーの制服を身に着けている彼女だが、美しいプラチナブランドの髪はそよ風に凪がれて揺れている。強い光が宿る青い瞳で、しっかりと前を見据える容貌は強く麗しい。プラチナの人を惹き付ける美貌は、すれ違う人々から絶えず視線を向けられた。
だが、そんな不躾な視線を注意する時間はない。華麗なる公爵令嬢が日が落ちてから独り歩きなど以ての外で、早めに用事を成して目的の情報を得なければならないからだ。
スタスタと早く、それでいて優雅な歩みで辿り着いた建物を見上げる。国立アカデミーから徒歩五分ほど、隣に併設されているのに正門まで時間がかかる巨大な建物。横にも縦にも大きい茶褐色の煉瓦造りの建築物は、国が管理している国立図書館だった。
国内の蔵書が全て集められ、貴重な書物も重要な禁書なども収められた知識の宝庫。この場所で分からないものなど、知り得ないものなど存在しない。
国内で存在が確認された魔物達が全て記載された書物がある。先触れを館長に送ったところ、蔵書されていると確認は取れた。拝読したいという願いも快諾された。
(オトメゲーアクヤ、う〜〜〜ん・・・とにかく!マリアライトが懸念する魔物のことも記載されているはずですわ。もし無ければ、やはり妄想の産物だと証明もできます)
煉瓦で組まれた門を潜ると石畳の道を歩き、正面玄関の前まで進む。重厚な木製の両開きの扉で立ち止まれば、脇に控えていた警備の騎士が扉を開いてくれた。開け支えてくれる姿に一礼をして中に足を踏み入れる。
鼻をくすぐる乾いた紙の匂い。室温は魔力が込められた魔石の力で涼しく感じた。エントランスは、背の高い本棚が立ち並ぶことで通路のようになっている。吹き抜けのように高い天井から吊るされた魔石のシャンデリアが、内部を明るく照らしていた。
身分関係なく利用する人々は、真っ直ぐに中央のカウンターに向かうプラチナに視線を向けると釘付けとなる。中には貴族の礼を取る者もいて、彼女は礼を返すとまた颯爽と進んでいく。
「ヴァイスシュタイン家のプラチナ様だ」
「お先にお通しして、プラチナ様よ」
先にカウンターにいた人々が左右に避けることで道を開ける。プラチナは立ち止まって微笑を浮かべると、手のひらを見せるように手を胸の当たりまで上げた。
「ご機嫌よう、皆様。わたくしのことはお気になさらずに。知人をお待ちしておりますの」
彼女の言葉に貴族も平民も礼をする。その光景に、自分が高貴な身分だと再確認して息を漏らした。
(そんな畏まらなくてもよろしいのに・・・わたくしだって一介の利用者に変わりませんのよ。皆様と同じです)
彼らの敬意は無駄にできないと口には出さない。平和と秩序の国ではあるが、そのため身分制度はしっかりしていた。身分の高い者は税を徴収するかわりに平民を守り、生活を支える。身分の低い者は労働に従事することで貴族の税を生み出す。そして、平民であろうとも財を成す力があれば、王家の承認を得た上で貴族となれる。フリーデン王国はそのサイクルが完璧に成されている。護衛や警備の騎士はいれども、貴族と平民が肩を並べて図書館にいることは問題ではない。
プラチナもただの利用者として人々には扱ってほしかった。だが、王家に次ぐ権力を持つ公爵家の子女の時点で、同じ利用者とは思われることはない。
カウンターの近く、人のいない本棚の前で背筋を伸ばして立つ。彼女の様子に人々はお辞儀をすると、少しずつ視線を外してくれた。それでも複数人は熱のある眼差しを向けてくるが、プラチナは自分の足元に視線を下ろす。
「プラチナ様、お待ちしておりました」
溜め息を二回ほど。ややあって声をかけてきた男性に、彼女は顔を上げて一礼をする。
「突然の来訪、申し訳ございませんでした。寛容なご対応に感謝いたしますわ」
現れたのはフリーデン王国の侯爵の一人で、国立図書館の館長だった。恰幅のいい体型ながら、ぴっちりと整えた髪と髭の生えていない顔には清潔感がある。目尻の下がった目は穏やかで朗らか。彼は人柄の良さが全面に溢れ出ていた。
館長は頭を垂れて礼を返すと、優しい顔を微笑みで綻ばせる。
「いえ、お気になさらず。プラチナ様が当館に来訪なされたことは、館長ひいては職員全員の喜びでございます」
彼は、指し示すように手を横に動かすことで合図を送ってきた。プラチナは館長に並び立つと、歩き始めた彼に続く。
「お探しの書物は禁書とまではいきません。我が国の重要な記録ですので保管庫に安置しておりますが、保存状態の維持のためにお見せできるのは写しとなります。よろしいでしょうか?」
「構いませんわ」
人々の集うエントランスを抜けて壁奥にある通路へと入る。その脇に佇んでいた警備の騎士二名が、プラチナ達のあとに続く。
「まさかお一人でいらっしゃるとは知らず、警護の者を招集いたしました。ヴァイスシュタイン公爵令嬢であるプラチナ様の御身を守るためですので、ご容赦下さい」
「勿論ですわ。お気遣いありがとうございます」
(セラフィを連れてくれば良かったですわ。おじ様に気を遣わせてしまいました)
フッと息を漏らせば、一歩先に行く館長が顔を向けてきた。溜め息を漏らしたことが心配だと窺ったのだろう。
プラチナが微笑を絶やさずにいれば、彼も微笑みを返してくれた。
「それにしても、プラチナ様が魔物に関する書物を望まれるとは珍しいですね。いつもは経済学や鉱物関係の書物をお探しではありませんでしたか?」
顔を前に戻して進む館長を彼女は見つめる。
「・・・魔物に関する書物とは、つまり歴史を記したものですわ。過去にどのような存在がいて、人々に危害を加えていたのか。それを知ることで現在の魔物に関する対処に繋がるのです。魔物という存在は絶えることがない。様々な対処を知っていれば、わ、わたくしの夫となるスフェン殿下が対処に向かわれるときにお役に立てると思いました」
尤もらしい・・・少し苦しい嘘の理由を言えば、館長は再び振り返り、嬉しそうに笑った。
「ああ、納得いたしました。プラチナ様は経営者だけでなく、第二王子殿下の妃殿下としても向上されようとなさっているのですね。勤勉な方が我が国の王室の一員になられることを喜ばしく思います」
(このような嘘を信じてくださるなんて、いい人過ぎますわ!ごめんなさい!)
侯爵位である館長はプラチナの父・ヴァイスシュタイン公爵の友人であり、彼女自身も「経営」に関しての助力をしてくれた素晴らしい人だった。
プラチナはただの公爵令嬢ではない。彼女自身の私財として、何軒もの支店を持つアクセサリーショップのオーナーだった。五年前に公爵領で採掘された宝石の原石に魅せられ、自身のアクセサリーのデザイン案を描いたのがきっかけ。そのデザインを子煩悩な公爵が褒めちぎり、製品化した。プラチナ自身も喜んだが、マリアライト含めた友人達も褒めてくれた。
『なんて素晴らしいアクセサリーでしょう。プラチナにぴったりですね』
人を招いてのパーティーでも、王城に招待された夜会でも、誰もが胸を飾るアクセサリーを褒めてくれた。デザインをしたのは自分だと言えば、その才能を讃えてくれた。時には羨む人もいたが、同じものをと望んだ人もいる。
それが自信なった。プラチナは頭に浮かんだアクセサリーのデザインを数え切れないほど描き、公爵に頼んで作ってもらった。やがて、公爵に「店を持ってみないか」と進められた。公爵領内に小さな店舗を用意してもらい、細工師の工房も与えられたことで、彼女のアクセサリーは量産されていった。
公爵令嬢のデザインという触れ込みも良かったのかもしれない。貴族の間で有名になり、購入者が増えることで仕えている使用人から平民へ。財力の差から、平民でも買える価値の宝石で作り、それでいてデザインは妥協しなかった。
収入を得れば、経済を知ることが重要だと経済学を学んだ。物の価値を見極めるために鉱石のことも調べ始めた。学生としての勉学の傍ら、経営にも手を抜かなかったことで、プラチナのアクセサリーショップは月を跨ぐたびに増え、今ではフリーデン王国の各所にある。
貴族も平民も別け隔てなく訪れることができ、収入によっては平民が貴族の持つアクセサリーを買うことができる。顧客に身分などない。それがプラチナのアクセサリーブランドだった。
始まりは父親である公爵の援助があってのことだが、今では他の鉱山の所有者とも契約が取れている。あり得ないことだが万が一、プラチナが公爵に見捨てられたとしても、もはや彼女には一人で生きていく才能と財力があった。
(できれば、公爵家を除籍して経営者として生きていきたいのですけど・・・)
軽く首を横に振ったプラチナは、叶わぬ夢を脳内からかき消す。
「王太子妃に優美なマリアライト様、第二王子妃に華やかなるプラチナ様を戴けて我が国は安泰でございましょう」
「・・・そうですわね」
本来の家格を考えれば、公爵令嬢のプラチナこそ王太子の婚約者に相応しい。だが、高位の令嬢達を集めた王家主催のお茶会。そういった名目の第一王子の婚約者選びで、ヘリオドールが選んだのはマリアライトだった。
侯爵令嬢の彼女は幼い頃から非常に優秀で、美しさだけでなく心根の優しさから民からの人気もあった。既に孤児院の視察や寄付、災害等で生活を脅かされた人々の援助を行っていた。時には現地に向かい、稀有なる回復魔法を使って怪我人や病気の人々に手を差し伸べる姿は聖女そのもの。家格では推し量れない魅力がマリアライトにはある。
当時から親友だったプラチナも、彼女の良さはよく分かっていた。だから、マリアライトが選ばれたことを不満に思うわけがない。不満どころか感謝すらした。
第一王子ヘリオドールはプライドが高く尊大。我が強くて自分の考えを押し通す性格だった。幼い頃から拝謁していたプラチナはそう感じている。彼女を見下すような目、というよりも嫌そうにする目付きから「この方とは何があっても結婚したくない」という気持ちが芽生えた。お茶会の時も極力接触を避けて、純粋にお茶とお菓子を楽しむマリアライトと一緒にいた。
そんな断固拒否を決め込んだプラチナをマリアライトは救ってくれたのだ。彼女にその意志がないとはいえ、ヘリオドールの目に止まったことで助かった。そして傲慢な王子の相手をさせてしまうことに後ろめたさを感じている。マリアライトが婚約で苦しむのなら、必ず助けようと誓うほどだった。
プラチナには姉弟が四人。当時は三人だったが姉弟仲は良く、すぐ下の弟がいる。公爵家は真面目な弟が後を継ぐことになっていた。二人の妹も家のために他家に嫁ぐことに抵抗がなかった。公爵家の助けになる貴族の素敵な男性を見つけると小さな頃から言ってくれている。仲のいい父母の姿を見ていることから、結婚に対して明るい印象を持っているのかもしれない。
───・・・このままなら、わたくしは夢を見ていいのでは?結婚が義務の貴族の令嬢としてではなく、自分の好きなように、望んだことが気軽にできる。そんな自由な生活を送れるかもしれませんわ・・・───。
その一時の思いが神の怒りを買った。自身の立場における役目を果たせと天罰が落ちた。突如自身に課せられた婚約にプラチナはそう感じた。
マリアライトが第一王子の婚約者に選ばれた日に、プラチナは第二王子の婚約者に選ばれた。父親いわく王家から懇願に近い申し出だったらしい。
父親のヴァイスシュタイン公爵は自身の子供達に甘い。貴族では珍しくも恋愛結婚だった愛妻との子だからだろう。我が子の意志を優先するように教育や将来ことを考えてくれていたが、国王の幼馴染としても公爵としても申し出を断ることはできなかったようだ。
第一王子の婚約者からは逃げられたプラチナだったが、結局は一つ年下の第二王子・スフェンの婚約者に選ばれてしまった。
決して望んでいなかった王族の伴侶にされる。自身の立場を理解しているの彼女は取り乱しなどしなかったが、ひっそりと悲しんだ。自由気ままな生活など送れない、と。
王家が公爵家との結びつきを強化しようと考えるのは自明の理。国内外に向けて、王家の治世は盤石だと知らしめることができる。自由を望んだ公爵令嬢が犠牲になるだけで国の平和は保たれる。
思い耽ったことに、気持ちが暗くなりそうだとプラチナは微笑みを浮かべることを意識した。そうすれば、館長は振り返って立ち止まる。その手は、真横にある飾りも彫られていない素朴な扉を指し示した。