最終話 それぞれの道を駆ける
我等が明誠高校のアイドルにして全国大会へ駒を進めた幼馴染。逢沢弘美の応援をするべく、態々原付2種バイクだけで片道約200kmの行程を走り尽くした僕等。
キュッ!
体育大学のキャンパスは高校の自転車置き場とは格が違い過ぎた。
ようやく着いたと思いきや、何処にバイクを駐輪すれば良いのか判らず、広いキャンパスを彷徨いどうにか探し当てバイクを停めた。
「ふぅ……。な、長かったな此処迄」
僕、風祭疾斗は、桜舞い散る春風の下。初体験の長距離ツーリングをようやく終えエンジンを切り、思わず溜息漏らす。
「若ぇ癖して公道200kmぐらいで弱っちろいもんだ。俺なんか長野まで日帰り余裕だったぞ」
すかさず『飛べない翼』殿から煽りを受ける。ヘルメットで随分蒸された頭をクシャクシャにされる。
「長野って言われても正直凄さが判りません。大体速過ぎなんです貴方は。あと、頭弄るの良い加減辞めて貰えません?」
この叔父様、何かに付けて僕の頭を飼い犬の様に弄り倒す勝手な愛情表現を辞めない。
「折角カクヨムコンテスト、異世界部門で大賞取ったのに。速度違反で検挙されたらその名前が傷物になりますよ」
そうなのだ──。
この御方、『ホラー? ありゃ編集に言われ仕方なく書いてんだ』とぼやいてた割。11月末に始まったカクヨムコンテスト長編部門へちゃっかり異世界ファンタジーで出展。
転生・チート・俺Tuee・ハーレム。世間様の流行りをガン無視した作品。あろうことか見事を大賞受賞したのだ。間違いなく僕と颯希へボヤキを入れた以前から、準備を進めていたに違いない。
「生言ってんじゃねぇガキが。お前さんも最近調子上げてんじゃねえか」
僕の言葉などガン無視で畳み掛ける飛べない翼殿。何が飛べない翼だ。
しっかり羽根広げ宙から僕を見下ろす存在として、格の違いを見せ付けられた。
「ま、まだまだです。書き手様の読み返しを頂いてるだけですから……」
疾風@風の担い手の週間ランキングがようやく1000位以内で見つけられる位置へ落ち着きつつある。とは言え全く以って気が抜けない。
自分ながらやらしいと感じる。
ランキングを挙げた以上キープしたい。何ならもっと上位を目指す気分の収拾がつかない。
爵藍颯希という美少女過ぎる彼女が出来ても、中々ツーリングデートする時間が作れないジレンマと毎日戦ってる。
尤も僕を最推しと手放しで応援する@ADV1290R様は毎日更新に満足げなので、余計に連載を止める訳にも往かないのだ。
「──あっ、急がないと始まっちゃうよ弘美の試合」
その颯希から急かされるカクヨム作家な僕等。確かに大学に着いたとはいえ、最終目的地迄、自分の脚で歩かないといけない当たり前。
のんびりしてる時間などない。例え原付バイクで会場に辿り着く目標を達した処で、本来の目的を見失っては愚か過ぎる。
「あ……お前等、先行け。俺は後から行かせて貰うわ」
煙草を吹かし始める飛べない翼。透かした顔して膝は震えてる。
長いことバイクのタンクを挟み込んでた膝が悲鳴を挙げてるに違いない。
──年齢を誤魔化せないのを大人の余裕面で隠そうとしてんだろ。まあ武士の情け、此処は黙ってやろう。
スパーンッ!!
颯希の心配が現実へ転じた。テニスコートへ入る前、千葉代表・逢沢弘美選手のサービスエースがいきなり刺さる。フェンス越しにどうにか見えた。
僕と颯希、最早この試合はフェンス越しで観戦するしかない。
フェンスの網を二人して鷲掴みで試合を観るのに全集中。
「……す、凄い」
「あ、嗚呼、だな……。もうスマッシュとサービスが僕如きじゃ同じに見える」
僕も颯希も語彙力を失う。これは予選ではない。
日本で一番の高校生テニスプレイヤーを決定するこれ以上が国内に存在しない大会。
──相手だって同じ県予選を突破したのに圧倒してないか?
僕は未だテニスの知識が疎い。疎いのが今さら悔やまれる。
世界を本気で目指す幼馴染が居るんだ。いっそ勉強してテニス絡めた作品書こうかと、妙な気分が頭をもたげる。
パシャッ。
──パシャッ? あと煙草臭い……。
「お、おぃ……。あのポニテの娘、あんなに可愛かったっけ?」
「な、なんです? そのとんでもない望遠?」
「ア"ッ!? 取材用だが?」
いつの間にやら僕達の背後で『何を撮る気だ!?』と突っ込みたくなる一眼レフを構える飛べない翼。
向かい側のコートでプレイする弘美の姿を幾度もカメラに収めながら呟く。
──いやいやいやいや、その望遠一体何処狙って何撮ってんのさ!?
さもやらしい目つきで僕の幼馴染のヒラッヒラを覗いてないかこの人?
取材とは何ぞや!?
それにもっとお洒落した弘美と例の店で遭遇してる筈なのだが……。
「あ、でも判る気するよ。だってさ……コートで踊ってるみたいで何だか凄く素敵」
──え……踊り、舞?
颯希が弘美の舞とやらに蒼い眼を輝かせ一心不乱に追い掛けてる。
颯希の言葉に僕も気持ち新たに弘美の動きだけ集中してみる。
──あっ……てぃ、ティラソーレ?
向日葵みたいな活発な女の子。フィルニア姫のライバルが、細身の剣片手に長いポニテを揺らし舞い踊るかの如く戦う姿を身勝手にも重ね合わせた。
成程──確かにこれは綺麗だ。
そして再び碧い瞳輝かせる颯希を横目で見やる。
──嗚呼……二人共素敵過ぎる。
ただ僕はこうも感じる。
初めて爵藍颯希駆るD◇KE125の後ろへ乗せて貰えたあの日。
颯希が乗った途端、それこそ舞い踊る様に走るD◇KEと、笑顔で操る颯希の目が今の弘美と同じに見えてならない。
二人共々、好き目掛けて煌めきを思う存分放ってる。
綺麗、可愛い、美しい。
そんな感情とは別の上手く形容出来ないナニカ。
『誰に何言われようが自分の好きを追いかけてごらん! それが飛び切り楽しいんだよ!』
爵藍颯希と逢沢弘美。
僕なんかには勿体ないと思い込んでた二人が教えてくれた大切な事。
──有難う……。
僕、風祭疾斗は君達に教えられて今此処に居られる。そう思わずにいられなかった。
この大会、逢沢弘美選手は三回戦に於いて全国優勝経験者と当たり、壮絶なラリー合戦を繰り広げた後、惜しくも敗れ悔し涙を流した。
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──時は流れて翌年の春。
風祭疾斗と爵藍颯希は同じ芸大にどうにか合格。
大阪での大学生活を送るべく、同じアパートに引っ越した。
正直悩んだ進路。本気で小説家を志すならやはり文系ではないか。
『悪いとは言わねぇ。けどな、偏った知識より今は広げ時かも知れんぞ』
飛べない翼様から大変珍しい真面目なアドバイス。ただ眼鏡越しの目がニヤニヤしてた。確かに一理在る大人の意見。
『嬢ちゃんと同じ大学を楽しみてえとは思わねえのか? 若ぇ癖に淡泊じゃねぇの?』
此方の煽りが絶対本音……。うん、違いない。このスケベなお節介叔父。
目指す学部が大阪にしかなかった大層都合良い言い訳。寄って大学のみならず住みすら同じになった。
「──疾斗、見てこれ」
「ン? オォ……。弘美の奴、向こうでもやってんな!」
ネット動画にオーストリアの学生と思しき人が上げた『Hiromi・Aizawa』の試合模様。
すこぶる可愛い大和撫子がヨーロッパを席巻するのだ。
周囲が黙っておく訳がない。
逢沢弘美は高校卒業後、颯希父の友人を頼りオーストリアへ留学した。本来テニス留学ならもっと違う国を選ぶかも知れない。だけど頼れる人が全く居ない状況。
そこで颯希の父に白羽の矢が立ったという次第。何とも不思議な縁である。
弘美がオーストリア行きを決めた直後、颯希が随分残念がった。『日本にだって良い大学やリーグが在るのに……』恋敵だからこそ弘美とお別れするのが切なかったらしい。
『弘美が見据えてる先は、俺達が思ってるより遥か先だよ』
僕は颯希を窘めた。
弘美の夢『大きな華を咲かせたい』それは僕に取っても等しい望み。勿論颯希も分かってくれた。
未だ夢半ばな僕等三人、三者三様。
夢とは人生の流れで移り変わりをみせる笹船の様な存在。
さらに若い時分の淡い恋心が移ろう可能性もゼロじゃない。
だけど僕は思う。
原付バイクの様にちょっと危なっかしくても、だからこそ他にない冒険を与えてくれる。
今はこの刻を粋がって楽しめば良いんだと。
日常の中に潜む非日常を見つけて文字起こし出来る僕の青春。まだ始まったばかりなのだ。
──Wind Geister 『風を纏った少女』日常の生活の中に非日常(小説家)は潜んでる 終演──




