第73話 君(僕)の夢・僕(君)の応援
僕、風祭疾斗17歳。
遂に爵藍颯希へ想いを告げた。11月夜の自転車小屋は肌寒くて当たり前。だけども颯希を抱いた身体と気持ちはとても温かで心地良かった。
それでも流石にずっとこうして幸せに浸る訳には往かない。このままじゃ日付も変わる。だけど……だけど、どうしても今すぐ欲しいものが一つだけ僕には在る。
僕は颯希からの熱い抱擁を精一杯振り解く。そして寒さ震えるブレザー姿な颯希の両肩をガシリと掴んだ。僕の為に在る柔らかな感触。
「──は、疾斗?」
だけど驚く颯希の蒼い瞳から決して視線を外さない。僕の方からの抱擁をさっき返せた。けれど君の愛しい柔らかなオレンジ色のお洒落な唇。
──是が非でも僕の方から奪ってあげたい。
ゆっくりと颯希の顔へ自分の高鳴る顔を近づけて往く。流石に颯希も悟ってくれた。蒼い両目を閉じて、オレンジ色のルージュを逆らう事無く差し出してくれた。
「ンッ……ンンッ」
思わず勢い余った僕の想い。颯希も僕を受け容れる。
気がつけば自然とただの唇合わせで止められなかった。絡み合う二人の想い、こんな場所、こんな場面でこれ以上先は求めない。
ゆっくりと、惜しみながら僕から望んだ初めてな大人のキスを放して往く。
『此奴、俺の彼女』
彼女が居る男子が良く使う台詞。正直他人を自分のモノだなんて、随分身勝手な事を吐くものだと今まで思っていた。
『そんな価値を押し付けるからフラれるんだ馬鹿め。その子は誰のモノでもない。彼女自身のモノだ』
だけども何とも不謹慎極まる手の平返し。『爵藍颯希は僕の彼女。誰ものモノでもない僕のだ』そう思わずにいられない。
だからこそ僕は何時でも欲しい時、彼女を求められる。今は慌てる時間じゃない。身勝手な想い抱きながら「今夜の事、忘れない。でも今日は、もう帰ろう」余裕を以って告げられた。
颯希も「うんっ」と涙拭いながら頷き返す。
僕達は一つから二人の人間へ戻る。後はそれぞれのバイクに跨り「また明日」と笑顔でお別れした。
◇◇
翌日、学校で昼休みの出来事。
僕はもう一つのケジメを付ける為、逢沢弘美だけをNELNで裏庭に呼び出す。
来てくれた弘美、既に何か悟った様な笑顔で此方へやって来た。
「これ、良ければ飲んでくれ」
「あ、私の好きなスポドリ、ちゃんと覚えてくれてたんだね」
裏庭に在る花壇の端に腰掛ける僕と弘美。少し腰が冷たいけれど、此処なら死角だ。誰の邪魔も入りはしない。
夏の終わり際、ロクに水分補給しないで自転車走らせた僕に差し出してくれたドリンクのお返し。今さら過ぎてちょっと申し訳ない気もした。だけど弘美は笑顔でソレを受け取ってくれた。
「良い顔してる。ちゃんと告白出来たんだね。思ってたよりだいぶ早かったけど」
愛じゃなく友情による想いを僕の背中を叩く事で表現する弘美である。
「何せ僕は風祭疾斗だからな。やると決めたら風の如し、疾風の如くさ」
「アハハッ! 言う言うっ! 喫茶店のトイレ長いこと占領してた癖にぃ?」
今さら自分の名前を引き合いに出すのは誤魔化したい証拠。自分で良く判っている。人差し指で僕の肩をグリグリ、ドリルの様に押して弘美は笑い飛ばす余裕を演じてくれる。
僕も一緒になって暫く笑った。全く以って弘美の言う事は正しい。
もし僕に昔から風の様な動きが取れたなら、今頃僕ら二人はただの幼馴染じゃないかも知れない。だけどもう過ぎたことだ。
「……ごめんな弘美。僕が優柔不断で」
我ながら謝るのは違うと思う。だけど口から出たもの、今さら『嘘だ』と引っ込める気もない。一瞬、弘美の肩がピクリッと震えた様に思えた。
「良いの……私もテニス頑張るんだって腹括ったらさ。恋愛してる場合じゃないなあ……って正直思っちゃった」
花壇の上で両脚をゆっくりばたつかせる弘美。その瞳は空を見つめている。
だけど泣き虫な弘美の事だ。半分本音、半分強がり……僕の思い込みだけどそんな気がする。
「ただ……一つ我儘言わせて欲しい」
「えっ?」
裏庭に来て顔を見合わせたのは最初だけ『良い顔してる』と弘美に言われたその一瞬だけだった。けれど僕の発言聞いて、弘美が再び横に座る僕を見やる。
僕もしっかり向き合おう。弘美の瞳、離さず見つめ返す。
「逢沢弘美が咲かせたい大輪の華。許されるなら一生近くで応援したい。身勝手過ぎて……ごめんっ」
「…………ッ!」
可愛い顔歪ませじんわり涙浮かべ始める弘美。この涙を引き出す僕は心底狡いと感じる。
いっそスッキリ『明誠のアイドルをこれからも応援するよ』これなら学校のアイドルを推すただの一生徒な関係になれるのに。だから僕の我儘なんだ。
「も、勿論だよぉぉ……。むしろ疾斗が応援辞めたら私夢、追い続けられない……かも」
「ひ、弘美ぃ……」
嗚咽さえ漏らす弘美の姿に僕は正直慌てる。また泣かせてしまった、何か間違えてしまった?
嗚咽が過ぎて花壇から落ちそうな位、弘美が揺れてる。僕は不謹慎な気分混じりでそんな彼女を抱き締める。考えじゃない、ただ無我夢中の行動、と思いたい。
「そ、そんなの当たり前だよッ! だってさ私だって疾斗の夢、これからも絶対絶対応援するんだッ! この気持ちだけは颯希にだって絶対負けないッ!」
僕の胸内で泣きながら訴える弘美が尊くて仕方ない。駄目だ……我慢出来ない。僕も自分の涙堪え切れない。
「確かに疾斗の夢は疾斗のモノッ。私の夢は私のモノよッ! 自分が自分の夢求めるのが一番大事ッ! だけど……だけどさ本気で自分を応援してくれる友達……それとこれとは絶対違うよッ!」
「──ッ!」
涙ながらな弘美の慟哭。
──嗚呼……そうだ、その通りだ。そこ履き違えたら確実に駄目だ。
「あ、有難う弘美。……うんっ、これからも疾風を応援してくれ」
「……うんっ! 任せてッ! 何が有っても応援するッ! だからっ、だからっ、誰よりも大きな声で疾斗も逢沢弘美を応援してよッ!」
嬉しかった……言葉通り心の底から。そして何より心響いた。
好き、愛してる。だから貴女も応援返して下さい。
──違う、間違ってる。判ってた筈なのに、余計な遠慮を僕はしたんだ。
初めっから互いに見返り求む応援じゃなかった。誰より自分が君を応援したいから勝手にやるんだ。
人生に於いてこんなに喜ばしい事はない。僕は弘美の華を……弘美は僕の作家人生を生涯応援するのが夢。こんな簡単な事、僕は恋愛と共に押し流してしまう処だった。




