第67話 精々派手に楽しんでやるさ!
次の週末、11月の涼し気がより深みを増した。けれどそうは言ってもバイクを受け取ってから初めての休日。
澄み渡る秋空さえあれば、ライダーとしての血が騒ぎ立つのは当然である。
先週、幼馴染かつ学校のアイドルである逢沢弘美。Web小説家『疾風@風の担い手』を最推しにしている美少女、爵藍颯希。
そしてその三角関係の頂点に立つことに至った僕、風祭疾斗17歳。彼女いない歴17年を絶賛更新中でありながらDT卒業後6日目という何やらとんだ不可解な状況に在る。
この問題は今後深く吟味すべき事態だ。それは重々承知している。だがそれは一旦心の中に据え置くとしてストマジ110のエンジンに火を入れるのだ。
本物の風の担い手に成るべく手に入れた鉄馬。全てを投げ打ってでも、この経験値稼ぎは怠れない。
──とは言ったものの、いきなりソロで遠距離走行は流石に気が引けるというもの。
此処は自転車で慣らした近所を走りながら徐々にレベルを上げて往こうと思う。僕の街、意外なほど自然があふれていたのだから、その辺りから攻めてみたい。
ほんのちょっぴり公道から脇道に逸れれば、公道が農道へ変化する。
──お、おおぅ。こ、これは冒険心をくすぐられるぞ。
舗装路面が砂利道へ変化を遂げた途端、頼り甲斐のなくなる地面。怪しく跳ねる路面にビビりながらも時速20km位をキープしつつ、走ると中々どうして楽しい。
自転車の頃は自分の足駆動という足枷が邪魔をして、同じ冒険でも躊躇してた我が街の裏のそのまた裏へと押し入ってみる。
やがて昇り勾配──小さな野山を登り始める。農道は大変狭く、車とのすれ違いには気を遣う。その上、曲がりくねったコーナーの先が見えなくなってきた。
「うわっ!?」
知らぬ間にそこは頂点だった。どん詰まりの先、今度は大変急な下り勾配。僕は思わずアクセルを回すのを止め、エンジンブレーキに専念。
しかし減速するどころか下りに負けてしまい、むしろスピードが上がってしまう。下りきったその先、悲鳴を挙げたくなるほど急角度の左コーナーが待ち構えていた。
僕は自然とタンクを挟む両膝に力を込めて、逃げたい向きへ視線を送る。もう『南無三 !』と神様に祈るしかない。
ズサーッ!!
──えっ!?
下り勾配が終わり、バイクを路肩へ一時停止させる僕。さっき曲がれた砂利の跡を覗いてみる。正直絶対、横滑りで転ぶと思った。何しろタイヤが滑ったのを感じた。
でも転ぶどころか自分で驚くほど、綺麗にコーナーを抜け出したのである。未だ心臓の響きが、ストマジのエンジン並みに激しく波打つのを感じる。
「ど、ドリフト走行!? こ、この運動神経:1(補正値なし)の僕が!?」
単なる奇跡か? あるいはストマジのこの太いタイヤが補正値と化したのか?
とにかく僕は初めてのドリフト走行を経験した。なお自転車では、もっと気楽そうな所で派手に転んだ。
ゴクリッ。
「怖い……怖いけど試してみるか」
さらなる冒険心を呼び覚ましてしまう。今度は下った道をあえて逆戻り。
再び同じ場所に挑戦。ニーグリップを意識して、右ブレーキを目一杯握り締める。そして左ブレーキは軽めに握る。
クルッ!
──凄い、さっきよりも意識して気持ち良く曲がれた!
教習所の教官に言われた『コーナー侵入時の減速』と、颯希に教えられた減速の意味を僕は思い返す。
曲がる時、スピードは落した方が安全だと決まっている。
『何故曲がる時に減速するのか? それはね、タイヤに重心を与える為なんだよ』
これが颯希教官の教えだ。颯希教官はこうも言ってた。
『曲がる時、前輪へ重心を意識して移動する。いっそ後輪の重心はなくす位の勢いでね。そして一番大切なこと。視線を曲がりたい向きへ。これで自然と体重がバイクを曲げてくれるよ』
速度域の速い乗り物のタイヤ。真っ直ぐ走る分にはそれでも機能する。けれど曲がる時にそのままの速度で侵入すれば当然危険だ。
だから教習所の教官は、生徒達に考えさせるのでなく『コーナーは減速しなさい』と擦り込みをする。それは正しい。安全こそ第一だ。
颯希教官はそこへ考える余地を与えてくれた。
ただ何も考慮しないで走るより、『何故?』を意識しながら走れた方がより技術が向上するし、何より実感出来れば楽しい。
先週の超早朝。『さあ、私を愛しのフィルニア姫だと思って精々張り切りなさいっ!』爵藍颯希の台詞を思い出す。
バイク公道初乗りの僕が颯希のやたらくねるお尻へどうにか喰らい付いたあの走り。
「ふふっ……あんなの楽しいに決まってるよなぁ」
僕は独り、緩みながら口走る。
あの時はただ颯希と同じ立場で走れたのが嬉しくて楽しいのだと思い込んでた。
でもそれだけじゃない。
颯希は走る楽しさと走りやすさを身を以って教えてくれていたのだ。
こんな楽しみ、止められる訳がない。
『精々ハゲメ!』
アンタに言われなくとも勝手にするさ。こんなとびきりの現実、絶対全て楽しんだ上で書き切ってやる!
──この疾風@風の担い手様がッ!




