第66話 飛べない翼の現実(リアル)
爵藍颯希が連れて来てくれた住宅街の中に佇む隠れ家的な喫茶店。此方の主人様、実はカクヨムの筆者『飛べない翼』さまで在った。
「疾風君……君の作品まあまあ見てるよ。世間の流行りに媚び売ってなくて中々良い線言ってるとは思う。ただ……」
──ただ!? ただ何だぁ!? ──って言うかアンタ読んでたんかぁぁいッ!!
♡どころか作品フォロー、果てはユーザーフォローすらされてないんですけどッ!! わざわざ検索して読み専だけしてるって言うのか? それはいくらなんでもケチが過ぎないですか!?
「ただねぇ……いまいちフィルニア姫の恋愛に於ける感情線がちょっと違うなあ……って中盤辺りまで思ってたな」
──グハッ!? ええそうでしょうとも! 何せ作者自身が恋愛未経験……ンンッ?
今確かに『中盤辺り』って言ったよなこの御方。いや待てどういう事だよ! やっぱきっちり最新話まで読んでるじゃァァないかッ!!
中盤辺り……確か爵藍颯希が転入して来た時期と重なるのでは?
「あ、あのう……これは大変ぶしつけでかつ失礼なの承知で言いますが、そこまでお読みになってくださってるのなら♡の位、付けて頂けると大変励みになるのですがそれは」
僕、風祭疾斗は知っている。飛べない翼様はとんでもない御仁。
この方から♡を頂こうものならそれだけで気分が昂る。あと、生々しい話。もしレビューコメントなんぞ頂いた日にゃ宣伝効果抜群な気がする。
「あっ? 嗚呼……俺勝手に売れそうな奴、応援しない主義なんだわ。だって競争相手増やしたくないだろ?」
如何にも『何言ってやがるこの若造』と言わんばかりの顔つき。呆れ顔で返答される。
──ご、ごもっともな発言。ありがとうございま──んん? 『勝手に売れそうな奴ぅ!?』この僕があ? 疾風@風の担い手があ?
ゴクリッ……。
思わず息を飲む僕。失礼に当たるかも知れない。それでも聞きたい好奇心が勝つ。
全く以って我ながら失礼な話。昨日から続いている颯希との行き過ぎた恋愛すら超えたラインで興味のある内容をこれから伺う。
「せ、先生は御執筆を本業となされているのでしょうか?」
「ア"ッ!? んな訳ねえだろ。こっちは家族養ってんだ。因みにこの店も俺様の道楽、言わば趣味。俺はな深夜3時起きで午後2時位に上がれる仕事、シフト組んでやってんの」
物凄く嫌な顔で喰って掻かれる。細い眼をひん剥いて怒られた感じ。
──えっ!?
「で、ですが先生は201△年のカクヨムコンテストでコミカライズ賞を受賞されてますよね!?」
そう──そうなのだ。
年1回のカクヨムコンテスト。僕みたいな売れてない作家にはまるで縁遠い話。この方はそこで換金される結果を出してる。
恐らく担当編集者も付いている筈。ただの趣味領域でWeb作家をしている人ではないのだ。
「嗚呼……ソレがどしたぁ?」
疾風にとっては夢の領分。あっさり『ソレ』と気分悪そうなしゃがれた声で切り捨てられた。
「しかも今連載中のホラー作品も毎日上位Top50を維持されていらっしゃるのに!?」
「えっ!? そ、そんなに凄いのこの人」
「そうッ! そんなに凄いお人なのッ!」
僕はもう我慢の限界突破。
掘り炬燵から身体を乗り出し、僕の方も食い下がるのを止められない。カクヨム週間ランキング・ホラー部門をスマホでチラつかせずにいられなかった。
「さっきから聞いてりゃ先生だの凄い人、うるせぇうるせぇ……。これだから他の作家と絡むの俺嫌なんだよ」
聴こえてない訳ないのに小指で耳ほじりしながら面倒くさそうにする態度。これまでにも似た様な話、他の作家ともされてる言い草。
ヅカヅカ……。数歩僕ら二人の前に歩み寄り『ツラ貸せ』と言わんばかりに上から睨らまれる。だけど僕だって今さら後には引けないのだ。
「いいか、良く聞け疾風! コミカライズ化……そらあ俺も当時こらあ夢叶った! これ人気でりゃあアニメ化だって夢じゃねえぞっ……てな。この世の春が来たみたいに浮かれたもんさ…」
切り出しの『夢叶った!』まで凄い剣幕。けれどもその後、痛々し過ぎる程に声量が落ちる。
「だがな……結果は知っての通り。俺の創った世界は其処止まり。漫画になったところで馬鹿売れしなきゃどうにもならん。まあ本売れて数十万位は貰ったがな」
ガックリ肩を落とす飛べない翼。
元々自分の愛馬のメーカーに寄せたペンネームが物語る様に感じた。翼は手に入れた──それでも結果、空へは飛べなかったと言ってるらしい。
「今売り出し中のホラー作品ん? ありゃ単に都合が良いから書いてるだけ。俺の書きたいのはあくまで異世界。言わば群雄割拠の掃き溜め……あそこでヒット飛ばすのマジきついんだわ」
ここまで言ってから「やれやれ……」と吐き捨てカウンターへと戻って往く。そして再び葉巻へ火を灯した。
「その異世界モノでコミカライズ賞取った時が、俺に取っての1等星だったな……」
ふぅ……と煙草を吹かしながら昔取った杵柄に想いを寄せてる感じ。
「でもな。あんときゃマジ家族もなんなら仕事も半ば放った放った。睡眠削って会社で怒られ、家でも賞取るまで白い目で見られたもんさ」
コミカライズ賞を受賞するべく必死に執筆と恐らく読者探しに余念がなかったこの方の苦労が少しだけ透けて見えた気がした。
──確かにこの人の言う通り。この世間には星屑とも塵とも判らない作品が無数に在る。
それなりに成功を収め、テレビアニメ化されたとしても『なにそれ知らない?』と捨てられたらもう終わり。
世間の人々が『名前くらいは知ってるよ』と言ってもらえる超新星爆発はほんの一握り。
それさえも所詮は爆発。輝きの元なんてすぐに忘れ去られるものだ。
──僕達創作者は一体いつまで書き続ければ良いのだろう?
──しかもそれが身内にさえ認められない?
僕は目がくらむ思いがした。
「おぃおぃ……若ぇ癖になんて酷い顔してやがる。そうだ……一つ中年おじさんが良い事教えてやる。人生酸いも甘いも総て創作の糧になる。これは真理だ」
僕が余程呆けた顔している様に飛べない翼の目に映ったのだろう。僕と向かいに座る美少女を見やってから口を開く。
先程までの手厳しい表情を別人の様に緩ませる。成程、言いたいことは良く判る。
「お前さん、最近見どころ出て来たとマジで思ってるよ。さてはそこの爵藍とさぞ良い事シテんだろ?」
「「──ッ!?」」
ニヤニヤしながら突然急所を突いてきた。
僕の顔に血が一挙に駆け上がる。向かいを見れば颯希も同様に赤い顔して下を向いている。完璧に心を見透かされた気分だ。
「若い内はそれで良いんだ。執筆ばかりじゃなくて大いにハゲメ少年! 何ならフラれても作品に現実さが増す。旅行、学業、他の趣味。経験値全て吸収し尽くせ!」
本当に打って変わってが酷過ぎる飛べない翼。
今度はとびきりの笑顔で僕……いや、僕だけでなく向かいの彼女らしい女子にも訴えかけてる様だ。
──さっきまで『他の作家と絡む嫌なんだ』と言っていたのは一体誰だ!?
「非現実ならソイツで探せばいくらでも転がってる。だが現実は違うぞ。ソイツで海外行って風は判るか? 二次元美少女アサって匂いはあるか?」
なんかもう生々しさが余計に現実味を帯びてきたよこの御仁。
ハゲメ
現実
判るか?
匂いはあるか?
絶対わざとだ。
僕達の関係を鑑みた上でその心を抉りに来ている。──僕と颯希、もうこれ以上昨日からの反省会など出来よう筈もない処まで追い詰められた。
後は日暮れになる前に早々と店を退散した。




