第64話 二人っきりで1,000円な隠れ家
風祭疾斗容疑者(17)と爵藍颯希容疑者(17)、逢沢弘美検察官による『叡智しちゃったんですか?』簡易裁判。一応傍聴人扱いの刈田祐樹も同席。
裁判官不在であるが圧倒的有罪判決。弁明の余地まるで皆無で閉廷。かくして風祭疾斗容疑者(17)と爵藍颯希容疑者は共に被告へ格上げ(?)と化した。
──まあ……言い逃れしようがない。もし仮にシテなかったとしても、同じ結論だったのでは? そう思わずにはいられない。
なお、傍聴人は爵藍颯希容疑者より、風祭疾斗容疑者が仲睦まじい見舞いを受けたこと以外、事態を飲み込めなかったらしい。
要は『あの疾斗が爵藍ちゃんと。そんな訳ないだろ』なのだ。実に判りやすい感覚であり、これ以上話が膨らみそうにないことだけは安堵出来た。
放課後──。
学校の自転車置き場の前を横切る僕。僕は学校と自宅の距離がギリギリ、原付バイクを認められない距離なのだ。
寄って愛車を手に入れたからといって通学に何ら変わりはない。ただ帰宅する際には此処の前を通るしかない。
「──は、疾斗」
──ビクッ!
僕はその……なんていうか、とても躊躇い混じりな黒髪の美少女に背中から声を掛けられ、心臓の跳ね上がりを感じた。
振り返るとそこには既にバイクで帰宅する為の服装に身を固めた颯希が立っている。そちらから声をかけたくせに目を合わせようとしない。
「い、颯希……ど、どうした?」
返す僕自身、目を合わせらず話す声も実に怪しいものだ。このやり取り、あからさまに先週までの放課後とは異なる。
「よ、良かったら帰り……一緒に何処か寄り道……あっ! む、無理なら別にぃ。ま、まだ風邪治ったばかりだもんね」
やはりその蒼い目を合わせようとしない颯希。『無理なら別にぃ……』と言ってる割に、11月の冷たい風が吹きつける最中、此処で待ち伏せしてた時点で嘘だと僕ですら判る。
大体、バイクのメットを2つ持ってる時点で説得力が余りにもなさ過ぎるのだ。
「あ、うん……いいよ別に。近場のファミレスとかで良ければ」
我ながら文字だけかいつまんで見れば如何にも気のなさげな返事である。しかしながら実の処、そりゃあ行きたいに決まっているのだ。
「あ、ありがと! う、うん。あ、あまり時間は取らせないから」
僕の返事を聴いた颯希の顔が少しだけ明るさを帯びる。やはり嬉しい様だ。しかも僕用に羽織るものすら用意してる周到ぶり。
──颯希さん? 今朝の髪型と言い、お弁当出来なかった件もだけど。今日の君は余りにも迂闊が過ぎるぞ?
かくして僕は125D◇KEの小さな後部座席へまたもお邪魔することになった。またしてもタンデムするには掴み処の少ない車体。
毎度の様に颯希ご当人の身体を借りるしかない。──カラダヲカリル……。なんか途轍もなく良くない言葉に思えてならない。
結局の処、颯希の腰辺りをギュッとするしかない僕である。颯希のクラッチミートが妙にぎこちなかった。まるで教習所で初めてバイクのクラッチを繋ぐ人のように。
──あっ……。
『い、颯希……。よ、良く考えてみたらさ。ここいらのファミレスで誰かに見られんのはちょっと……』
インカムマイクで颯希に話し掛ける僕である。
『あ、あ、そだね。うーん……判ったよ。じゃあなるべく目立たないお店にするね。私が決めちゃってゴメンね』
『え、あ、いや、良いんだ。じゃあ任せた』
目的地を即座に変える颯希。どうやら知ってる行きつけがあるらしい。あのライダースカフェ以外にも知ってるサテンがあるのだろうか?
10分位走っただろうか。
少し街外れな住宅街の一角を徐行に近い速度でゆっくり進む颯希とD◇KEである。こんな場所に店なんてあるのだろうか?
やがてさらに緩やかな速度に変わり、完全な徐行運転からとある住宅の庭にバイクを滑り込ませた。
──ええ? 此処どこ?
ごくありふれた日本家屋。だがよくよく庭の奥を覗き見するとプレハブの様な小さな別宅が在るのに気付いた。
カランコロン。
ドアに付いていた鈴が鳴り響く。
「お、いらっしゃい。此処で爵藍に会うのは随分久しいな……ってアレ? 君は確か」
「こ、こんにちは……」
颯希が口数少なく挨拶する。
──ンッ!? こ、この人? 例の怪しい黄色ナンバーバイクじゃないのか?
プレハブの中は小さな掘り炬燵が一つあるだけ、僕達二人だけで満席と化すお店? お店なのか此処? メニューらしきものの影も形も存在しない。
それから颯希さん? 確かこの御仁とロクに話したことないって言ってなかったっけ??
「──はいこれ。二人分だから1,000円で」
「おうっ、ま、座んな。──寒いなストーブ点けるな」
颯希、何やら僕の分までお支払いを済ませてくれたらしい。それにしても二人分1,000円で一体、何が出て来るのだろう。そして店長らしき例のおじ様は奥に引っ込んでしまう。
颯希、バイク用の上着を和服でも扱う感じで丁寧にゆっくり脱ぐと掘り炬燵のある小さな座敷へ制服の短いスカートのめくりを気にしつつゆるりと座る。
僕は正面に座る以外の選択肢がないのでそうした。すると颯希、鞄から何やらおやつらしきものを取り出し始めるではないか。
「い、颯希? 此処お店だよな? 持ち込みまずいんじゃ?」
「あ、良いの良いの。此処、アメリカンしか出さないそういう店だから。あ、飲み放題だからね」
勝手にお菓子を開き、僕も手を出せるよう颯希は配慮してくれた。
ドサッ!
──ええ? な、何これ。ひょっとして薪ぃ?
マスターらしき例の人が持って来たのは飲み物ですらなかった。なんと薪ひと山である。『ストーブ点ける』ってそういう意味なの?
ギィ……。
少し錆びついてるのか動きの悪い扉を御主人が開き、おもむろに薪をくべ始める。まさかこんな住宅地の一角に薪ストーブで暖をとる喫茶店があるとは露ほどにも知らなかった。




