第63話 弁護人不在の尋問
僕、風祭疾斗17歳。DTは昨日卒業、彼女は何故か未だなし。DT卒業翌日の学校生活、どうにか(?)昼休み時間までやり過ごせた。
──って言うのも何やら隣に座っている僕を惨めな崖から救い出してくれた美少女兼バイクアドバイザー(?)である爵藍颯希から熱い視線を感じずにいられないのだ。
もうそれでなくても僕の心臓は破裂寸前な程、バクバクしてどうしようもない。昨日着られた僕の学生服。そしてこれも昨日から続く颯希のうなじ。
まるでどこかの超有名RPGで毒状態、勝手にHPが削られてゆくあの地味に嫌な感覚。まだゲームなら良い。毒消し草か教会で祈りを捧げれば済む話。
しかし現実な僕の懺悔をお聞き下さるありがたい教会など在りはしない。あ、舞桜にはまさに懺悔した。
それに何より真後ろの視線、背中に刺さっている気がしてどうしようもない。
語るまでもなく逢沢弘美の視線である。部活で僕の見舞いに行けない代わり、颯希に託した彼女である。僕と颯希がまたしても恋愛競争に於いて何馬身かリードしたのでは!?
そう勘繰られても仕方ない証拠が出揃い過ぎてる。そんな物的証拠が昼休みにさえ提示されるのだ。
「ご、ごめんね。きょ、今日寝坊してお弁当作れなかったの……」
爵藍颯希容疑者(17)の証言、と言うかこれは最早自白。嘘が下手にも程がある。
殆ど毎日の様に『1つ作るにも4つ作るも同じだから……』などと言いつつ僕、腐れ縁の刈田祐樹、そして未だに信じ難い恋敵である弘美の弁当を含む4つ。
これを今日に限って『寝坊』で作れなかったとバツが悪そうに颯希は言ってのけた。
──いやいやいやいや、じゃあその大層気合い込めて整えた結い髪は一体何さ!? 何なのさ!?
まるであえてツッコミ待ちな、お笑い芸人のボケっぷりな言い訳。
「だ、大丈夫、ダイジョビぃ。いっつも奢って貰ってるんだもんね。たまには私達が購買のパンでも奢ろ! ねえ刈田君!」
哀れ祐樹、颯希の代わりに背中にバチーンッ! と弘美から運動部仕込みのツッコミを受けた上、財布にすらダメージが通るかいしんのいちげき。
「え!? それって俺にたかってんのかよ………そ、そだな。わ、分かった。今日は俺様の奢りだ!」
ちょっと泣きっ面な祐樹。
それは背中が痛いのか? 或いは懐事情が痛いのか? 恐らく両方であろう。しかもモテぬ男子の悲しき性質。学校のアイドルからの頼みを断るなんて出来やしない。
しかもこれでドーンッと奢った処であいざわひろみのこうかんどがあが……る訳がない。しかし断れば多分いくらか下がるという負の連鎖。
悪い祐樹よ。この際、取るべきものは男の友情よりも、美少女二人の恋愛事情だ。男なんて所詮そんなゲスい生き物だ。
ニコニコ顔で大量の購買パンを選ぶだけ選び、購入と輸送は祐樹に全振りな弘美。なかなかどうして此方もえげつない。
「今日は教室じゃなくて、裏庭のベンチにしよう! そうしよう!」
食事処すら勝手に決めてしまう弘美の笑顔がなんだか怖い。教室で他のクラスメイトに聞かれたくない話をする気満々?
泣き顔の祐樹。そして風祭疾斗容疑者(17)は黙って着いて行く以外の選択肢がない。爵藍颯希容疑者(17)も同じ模様だ。
「ささ、座って座って……」
裏庭のベンチの一番端に風祭容疑者、隣に爵藍容疑者を半ば強引に座らせる逢沢弘美検察官。二人の容疑者をまるで逃がさんとばかり、さらに隣を逢沢検察官がギュッ! と詰め寄せた。
刈田祐樹は……いよいよ蚊帳の外扱いである。何なら御退場してくれて構わない感じ。
「いやあ、でも本当に疾斗の風邪が大したことなくて良かったよぉ。颯希ちゃんからの連絡がやけに遅かったから気になってさあ」
「──ええッ!? 爵藍ちゃんが疾斗の見舞いぃぃッ!? 俺そんなの始めて聞いたぞぉッ!」
ギロッ!
──成程。どうやら颯希は弘美から僕の容態を伝える様、言伝を受けてたらしい。しかもあの昨夜のゴタゴタでNLEN連絡が遅くなるというやらかしがあった訳だ。いや、それは僕が悪い。
やはり哀れなる部外者な祐樹の扱い。逢沢検察官から『無駄な発言は慎みなさい!』と注意を受けた様にシュンと落ち込む。
「あ、嗚呼……弘美も沢山ドリンク用意して貰って悪かったよ。本当にありがとな」
風祭容疑者、一応何か適当な発言しとかないと怪しまれると感じ、昨日の御礼を丁重に申し上げた。
「いやいや、購買で買えるあれだけしか用意出来なくて私の方こそ悪かったよ。颯希ちゃんからは、一体どんな御見舞い貰ったのかなぁ?」
──うわぁぁぁっ!? さ、寒気がァァッ! ま、また風邪かなぁ?? ンなこたない。
「お、おうどんを……い、頂きました」
「ほぅ! 鍋焼きうどんかなぁ? 颯希ちゃん、私と違ってお料理上手だからさぞや美味しかったことでしょうねぇぇ」
──な、何でぇ!? 鍋焼きとか僕、一言も言ってないのですがそれはぁ!?
逢沢検察官のプロファイリングが凄まじい。もう何を答弁してもロクな結果を生む気がしない。
「と・こ・ろ・で・さ・あ……。二人、なんかあったぁ?」
突如、容疑者二人の耳元で囁く検査官。ついに確信を突いてきた!
まだ大して嚙み潰せてない惣菜パンがいきなり喉を通って、塞ぎ込みそうになる僕。全然味が分からない。
『何がって御見舞いがあったんだよ』
──駄目だッ! 絶対NGッ! でも頭真っ白で他に何も思いつかんッ!
「か、肩がとてもこってたから、肩もみをしてあげました」
──い、颯希さんッ!? そ、そうかッ! 何もなかったなんて嘘付くくらいなら、いっそ本当にあったことを言う計算っ!?
た、ただね爵藍颯希容疑者(17)──顔が赤いですとても……。揉んだ場所、肩だけの割には。御飯時である、マスクで隠すことが出来ないのだ。
逢沢弘美検察官んん? よもやこれ狙ってやってない??
──だ、駄目だこれ……。多分何言っても『叡智しちゃったんですね?』に直訳され、記録されるに違いない。




