表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/76

第62話 堕ち往く翌日の二人

 翌日──。


 僕、風祭疾斗(かざまつりはやと)は無事通常運転(朝から登校)することが出来た。まだ病み上がりということでマスク着用を率先(そっせん)している。


 ポンッ!


「──うわぁっ!?」

「おはよ疾斗、もう大丈夫なの? ──って、何そんなに驚い(ビクつい)てんのよ」


 真後ろに座っている逢沢弘美(あいざわひろみ)から毎度お馴染み(なじみ)御挨拶(ごあいさつ)。背中を景気良く叩かれる。数え切れない位の触れ合い。いつもなら『よお』って返せるものだ。


 今朝は無理……体調不良じゃなくとも精神異常が酷過ぎる。増してや弘美(揺れる相手)からのスキンシップ、全てクリティカル表示が脳裏を()ぎる。


「……な、何でもない。だ、大丈夫。もう熱も咳とかもない」


 弘美が真後ろなのは或る(ある)意味不幸中の幸いである。マスクというチート装備があるものの、顔の火照り(ほてり)と焦りの色合いを見せずに話せる。僕が態々(わざわざ)振り向かずにぶっきら棒なのはいつもの事だ。


 ガラガラッ。


「あっ、颯希(いぶき)ちゃん。おはよ──ってアレレ?」


「ひ、弘美……ちゃん。お、おはよ──あ、これね。メットから髪がはみ出してるの、ちょっと邪魔に感じちゃってさ。ただどうしても(メット)脱いだら乱れちゃうよね」


 普段よりも遅刻ギリな爵藍颯希(しゃくらんいぶき)のお出ましである。しかもいつもより何だか落ち着かない様子の声。

 されどそれは僕の方こそなのだ。やはり颯希の青い瞳を直視出来ない。隣に座ったのだから首を(ひね)れば済む行動。


 ──いやだからこそォォ意識せずにはいられないッ!! いや、それよりも『アレレ?』と『コレ?』って一体何さッ、何なのさッ!?


 これはいよいよ気になって授業中充電(居眠り)出来ないじゃァァないかッ!


 コォォォォ……。


 颯希の呼吸さえもいつもと異なる。これは在り得る(ンなこたない)筈のない感覚(そんな訳ない)。一体颯希はどんな気分で僕の隣に座っているのやら。気にはなるけど抑えなければならないこのもどかしさ。


「颯希ちゃん、昨日はありがとね」

「………ン」


 相変わらず天真爛漫(てんしんらんまん)が制服を着ている弘美の御礼。黙ったままコクリッと頭を小さく下げた颯希が視界の(はじ)に見えた気がした。やはりリアクションが薄っぺらい。ぎこちない()()


 ──ん、風? ハッ!


 日直の仕業であろうか。

 教室内の空気入れ替えの為、窓を開け放ったまま閉めるのを忘れていたらしい。


 参ったのはその直後、風の精霊の悪戯(いたずら)。僕の嗅覚へフィルニア(爵藍颯希)姫の香りを運んで来たのだ。僕の首が勝手に真横へ動いた。


 ──心底参った……。時の流れが止まったとすら思う(あで)やかさ。


 昨日も看病の時に()せられた颯希のうなじ。

 今日も長い黒髪をアップにしている。しかし弘美のポニテと違い、余った分を頭の天辺付近でさらに結っていた。


 一応物書きの端くれとして女性の髪形位、頭に入れとくべきだと深く後悔。この美麗(びれい)さを正確に伝える(すべ)を知りたい。


 僕は昨日颯希に対し、これまでへの謝辞(しゃじ)のつもりで『可愛い』を伝えた。だけどそれは、()()()()()姿()だったからではない。長髪黒髪が舞い散るだけでも破壊力抜群過ぎた。


 青い瞳の大和撫子(やまとなでしこ)七変化(しちへんげ)な爵藍颯希──。


 さらに磨きを掛け堂々攻め込んで来たということなのか? 後でコッソリ調べた処、『こなれ御団子』というのが一番しっくりくる様だ。

 成程確かにこのボリュームをフルフェイスに無理くり押し込めば、少々乱れても仕方がない。そんな颯希の裏側(努力)がまたもやグッと胸打つ。いっそ乱れ髪のままが極上。


「──は、疾斗?」

 ──ハッ!?


 ずっと目すら合わせてないのに思わず見惚(みと)れてしまった。耳まで絶対真っ赤な顔を、首の骨が鳴る勢いでガッと()らす。


 けれどもこれ程の色艶(いろつや)をマスクでマイナス補正とは? やはりあの行為(情事)が僕の風邪を移してしまった?


 僕はWeb小説家、疾風(はやて)@風の担い手である。しかし()()の伝承者には決してなりたくない。『疾斗の()()なら何でも欲しい』あの訴え顔がまたしても浮かんだ。


 ~~~


 ──嗚呼……恥ずかし過ぎて汗()きそう。やっぱりマスクして大正解よね。


 11月だというのに何かで自分をあおぎたい私、爵藍颯希(しゃくらんいぶき)17歳。


 幾ら昨日疾斗から(好きな相手から)『可愛い』って褒められたとはいえ、いきなり髪型を翌日から変えてくるとか自意識過剰(じいしきかじょう)が過ぎると自分で思う。大体コレ(髪型変身)有効なのか正直良く判らない。


 ────そ・れ・に・よ?


 斜め後ろからの視線(弘美)がやっぱり気になり過ぎる。昨日私一人で見舞いに行って、翌日からの変身。コレはやり過ぎたと思っている。


 ──逢沢弘美(あいざわひろみ)はどんな気分で私達を見てるのだろ?


 文部両道、性別不変の学校アイドル。そんな彼女を私は敵に回している。どれだけ良い友達を()()()()()みた処で疾斗の取り合いをしてる以上、これが私の本音。


 ──疾斗、疾斗疾斗疾斗疾斗疾斗疾斗疾斗はやとHAYATO、HAYA……。せめてチラ見で良いから(こっち)を向いてよ、さっきみたいに。


 駄目……色んな意味で最低だ私──。


 二股(ふたまた)を……違うな。未だ告白はお預けで良い。そう言って弘美とも()()()()()()()締結(ていけつ)したばかりの掟破り(おきてやぶり)


 例え幼馴染(おさななじみ)というチートを打ち破るとはいえ、昨日の()()はやり過ぎた。こんな気まずい空気になること位、想像出来てたつもりだった。でも後先丸投げで欲情に流された。


 疾斗と弘美──この二人を来年の卒業まで友達として見てられるの(颯希)!?


 もうなんならこの後、休み時間に人気(ひとけ)無い所へ疾斗を呼び出し『もぅっ、私だけを見てッ!』そのまま抱き付いてしまいたい。そして抱き締め返して欲しい。


 昨日ササゲタ……()()()って思うこと自体、身勝手過ぎるよ。私が好きであげたんじゃないッ! 今までだって全部そうッ! 


 ──胸が苦しい、張り裂けそう……。疾斗のことで頭が一杯。なんてはしたないんだろ私。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ