第61話 余りに身勝手過ぎた二人
僕、風祭疾斗17歳。
爵藍颯希のお陰で多大なる幸福の内に卒業を果たすも、彼女いない歴=年齢は未だ同じな歪なる状態である。
色々思うところはあるが、幸せの中で逝けたことに違いはない。問題はその後処理。
何もかも滞りなく終え、お互い幸せに浸っていた。だけど気がつけばもう19時半。当然外は夜の寂しげ漂う住宅街。
こんな遅い時間まで、しかも病み上がりの僕がこの美少女と一体何をしてたのか?
何ともしてもアリバイ工作が不可欠なのだ。
──この現状をどうやって打破するか?
熱じゃなくても痛い頭を抱えた処へNELN通話通知である。これに出ないと訝しがられる確率100%。
「颯希、一刻も早く自分の制服にキチンと着替えるんだ。僕はこれから舞桜の電話に出る」
「──っ!? う、うんっ、判った」
未だ僕のブレザーを裸で羽織ったままの颯希を促す。流石の颯希もこれには頷いた。そうなのだ。この状況を漏らしてはいけないと感じていた最有力候補。
実妹、風祭舞桜からの通話なのだ。これはもう、腹括って出る以外の選択肢がないと感じた。
ピッ。
「お、おぅ……ど、どした?」
我ながら随分酷い電話口。恐らく何か隠してる白々しさが声色に滲み出ている。正直嘘を突き通せる自信はないし、そもそも嘘を言うつもりすらない。
『…………』
長い沈黙──。
向こうからかけていながら何も発してくれない。これでは僕も二の句が告げずに正直困る。
この静か過ぎる沈黙は僕のどうしようもない緊張度合いをさらにたかぶらせる。僕の人生に取って、最大級の緊張状態に置かれているのだ。荒い息遣いすらバレるかも知れない。
カチャカチャ……。
何をどうして良いか判らず、着替えの音を鳴らしている颯希の方を思わず見やる。未だ終わり切ってないJKへの衣装戻し。キチンと元通りになるまでだと、女子の着替えがいかに大変か思い知る。
バンッ!
「───ッ!?!?」
「………っ!?」
不意にノックなしで部屋のドアを開けられてしまった。スマホこそ握っているが耳にすらあてていない舞桜が俯き加減で立っている。颯希の着替えはギリアウトだ。
「ま、舞桜………?」
黙って下向いたままズカズカ僕の部屋へ押し入って来る。言い逃れする気──元々ないが、これでは現行犯逮捕。もう本当にどうにもならない。
僕の部屋に押し入って、まず問い詰めるかと思いきや、一旦入口に戻りドアを閉じてくれた。それからいよいよ僕に対する尋問が始まる?
少し想像と違っていた──。
僕だけでなく、ようやくスカートのホックを留めた颯希。僕と颯希、二人の前で両手を広げて追い詰めてきた。
「…………こ、こ、こ、こ……え」
「…………??」
「ま、舞桜ちゃ………」
舞桜の声が震えている上、ようやく絞り出した感じなので何を言いたいのか、僕には良く判らない。颯希も同じ様子で掛ける言葉を見失っているらしい。
バンッ!
「あんだけ二人で声出してりゃ、もうバレてるに決まってんだろうがッ!」
顔を真っ赤にして僕の部屋と舞桜の部屋の境目にあたる薄っぺらい壁を平手で殴る。追い詰める者が誰もいない壁ドン。
それでも僕の心は完全に追い詰められた。広げた両手で自分の顔を隠し、床に崩れ込んだ颯希。きっと彼女も同様だろう。せっかく着替えたスカートと黒髪が乱れて床の上を這う。
『──ちょっとぉ、騒がしいけど何かあったのぉ?』
1階から母の様子見的な声が届き、僕の心臓が一気に跳ね上がるのを感じた。
バタンッ。
『な、なんでもなぁぁい。ちょっと物を倒しただけぇぇ』
何も出来ない僕の代わりに舞桜が一旦、廊下へ出てから、母に気の利いた嘘を肩代わりしてくれた。
バタンッ。
また僕達の部屋に戻って来た舞桜。顔がとても険しい──と思いきや、何とボロボロ泣き始めた。
「わ、判るよそりゃ……二人共好き同士だしぃ。──そ、ひっく、そんな二人がさっ、へっ、部屋でさっ、ふっ、二人きりになれば…………し、したくなるくらい」
床に涙をボタボタ音が鳴るほど落とす舞桜の痛々し過ぎる訴え。舞桜にだって同級生の彼氏がいる。だけどこの感じからして未だ一線を越えてない感じだ。
本当はさっきみたく大声を張り上げ、どうしようもない怒りをぶつけたいのだと思う。でも次にそれをやったら、いよいよ母が踏み込んで来ると相場が決まっている。
それが判った上で歯を食いしばりながら精一杯の小声による嗚咽なのだ。
僕と颯希の一部始終が隣の舞桜に届いていた──。
とてもとても恥ずかしいことだが、それ以前に判っていながら必死に耐えてくれていた。一応先に生まれた兄として、いやさ一人の人間として、とんでもなく寂しく辛い思いをさせた。
爵藍颯希と繋がれた自分──。
その幸せ一点張りの天国にだけ想いを馳せて、同じ好きでも踏み込めないでいる年下の女の子へ、言葉に言い表せないモノを押し付けてしまった後悔。
僕が思い描いていたアリバイ工作とはかけ離れてこそいるものの、結果は同じ。風祭舞桜は想い人がいる同じよしみで僕達のことを黙っていてくれると知れた。
僕の考えていたシナリオ──僕自身余りに好きになれない軽くて読みやすいだけのライトノベルよりも陳腐なものだ。
正直に舞桜へ自分達の置かれた状況を白状し、あとは買収でも何でもいいからとにかく味方に付けてしまうこと。『毒食わば皿まで』とはそうした意味だ。
風祭舞桜14歳は、兄疾斗が思い描いてたより余程大人。
それは恋愛経験が僕より圧倒的に多いから?
そんな安っぽい話では決してない。恐らく僕だけでなく、爵藍颯希と逢沢弘美。そしてこの三人の取り巻き達の思いさえも勘定に入れている。
──自分が同じ立場ならどれ程困るか??
そんな立ち回りすら演じられる──いや、仕方なく、やむを得なく、やるしかないと思ってくれているのだ。
結果僕等三人はとある映画の話で盛り上がり、しかも止せばいいのに配信を見つけてしまい、キッチリ最後まで観届けて、気が付いたらこんな遅くになってしまった。
そんな感じで一緒に罪を被ってくれた。──舞桜、本当にごめんな。そしてありがとう。




