第55話 来るか御見舞いイベント!?
「──えっ? 疾斗が…」
「風邪で休み?」
私、爵藍颯希の隣席がぽっかり空いてる。朝のホームルームで担任の先生から聞いた私は周りに聴こえちゃう声量で心の声を漏らしてしまった。
それは疾斗の後ろに居る弘美ちゃんも同じだった。
──昨日、あんな暗い早朝から連れ回したのが響いたかしら……。
慣れない初めての公道バイクデビュー。それも陽が昇る前の都内縦断の強要。
当然疲労が溜まっただろうし、しかもその後すら休まないで出掛けるのを止められなかった。
もっとも家へ戻って来てからのお出掛けは、弘美ちゃんからのお誘いだし、お人好しの優しい疾斗が断る訳がない。私に止める権利なんて当然ない。
だけど──偶然とはいえ喫茶店でとんでもない心労を掛けてしまったのは私も同じだ。
──後ろの弘美は今、一体何を考えているのだろう……。
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──ど、どうしよ……。ぜ、絶対私のせいだ。
ロクに寝てないのを知ってたのに我儘言って疲れてる疾斗を無理矢理連れ出しちゃった。私の気持ち良さだけを昨日は全部押し付けた。
ううん……。昨日だけじゃない。私はいつだってそう、疾斗の優しさ甘えてばかり。昨日だって神社で自分で言ってた癖に。
熱とかあるのかな? 食欲はあるのかしら?
疾斗は運動苦手だけど、意外と風邪をひいたりしない。昔っからそうだ。今だって完徹してWeb小説書く無茶する割に、眠たい顔して登校してた。
放課後お見舞いに行きたいけど昨日も部活をサボったばかりだ。流石に続けて休めない。
「──今日、風祭に……あ、妹さんに渡せば良いのか」
今日渡すべきプリントが在ったらしいけど、中等部の舞桜ちゃんに渡せば良いやと、真面目過ぎる気回しでお見舞いルートを先生が断ち切っちゃった。
──そりゃないよ先生……ま、もっともどのみち私は行けないんだけどね。
思わず左斜め前をチラリ──。
さっき声出してた颯希ちゃんの方を見つめる。帰宅部の彼女なら堂々とお見舞いに行ける。きっと頭の中では既に放課後の予定を詰め込んでいるんでしょ?
──ズルい……でも仕方ないし、疾斗のことを思えばむしろ誰に行って欲しいかも。
「彼奴サボりとかめっずらしいの。この間出たドラアカⅢでもやり込んでじゃねえの?」
ガタッ!
「「そ! そんな訳……ない…よ」」
口を尖らせて疾斗の病欠をサボりだとわめく刈田君に二人揃って文句を言ってしまった。
私と颯希ちゃん。
二人からの同時責めに刈田君は「二人揃ってそりゃないぜぇ~」と情けない顔で返して来たけど、ごめんなさいする気にはとてもなれなかった。
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「──え、わ、私が疾斗のお見舞いに?」
放課後、それはそれは意外な提案を恋敵の弘美ちゃんから受けたのだ。
「あ、アイツ滅多に風邪なんかひかないからちょっと心配になっちゃった。──わ、私の分も行って欲しい」
とても複雑な顔で私に頼み込む弘美。でも……気持ちは判る気がする。
私は正直な処、今日のお見舞いは止めようと思ってた矢先だった。昨日もお家へお邪魔したばかりだし、あまりに具合が悪過ぎるのならかえって迷惑になるかも知れないと思ったからだ。
だけどもあの弘美が──昨日ライバル宣言したばかりの弘美が少し唇噛んだ顔して頼んで来た。
──これじゃあ流石に断れないよ。
「判ったよ、じゃあ行ってみるけどもしお家の人に断られたら引き下がるからそのつもりでね。あと、疾斗の様子が知れたらちゃんとNELNするから」
パンッ!
「あんがとっ! じゃお願いっ!」
まるで私が神様にでもなったみたいに両手を合わせて念押しされた。「これ持ってって……」と購買で買ったであろうスポドリを袋一杯渡された。
──これは……これくらい私が買ってくのに。
物凄く嫌な女の子のためらいを以って受け取ってしまった。本当は弘美自身が行きたくて仕方ないのに、それを私に託してくれた。
そんなごく自然な心配ですら受け取るのを嫌がる自分をとても嫌悪せずにいられなかった。
学校の自転車小屋にて他の乗り物たちと釣り合わない125D◇KEにまたがる私。
校内を徐行で移動し、校門から表へ飛び出す。此処を抜けるたび、疾斗初めてのタンデム経験を奪った気持ち良さと背中のドキドキを思い出す。
私ってやらしい女?
だってもぅ……色んなとこ触れ合ってキスすら奪ったのに、初めてのタンデムの想い出が増々色鮮やかになってく気がするのは何故?
それに何だか肌寒い気がする。──寒気? ううん多分違う体調じゃなくこれは心の寒気だ。あの時みたくあったかくなりたい──って、どの時だろう? 判らないよ。
──それはそれとして手ぶらって訳にはいかないよね……。どーしよっかなあ。
やっぱり私はズルい。ズルいけれど直接訪ねるのは私だ。やっぱり弘美ちゃんのより良い物を用意したい。
バイクで走るまでもないほどご近所なスーパーに立ち寄り、頭空っぽで店内をしばらくウロウロしてみる。
──さっむ!?
既に要らない冷たい飲み物売り場の向かい側。
冷凍食品コーナーだった。
──そっか。冷食ならあっためたげるだけでイケるし、もしお家に上がれなくても冷凍庫に入れて貰えそ。うどんと……肉まんも入れちゃえ!
11月の夕暮れ時。
キンッキンに冷え切った買い物袋をD◇KEの荷台に付けた箱に詰め込む。既に弘美ちゃんの分で埋まってとこにさらに冷たい物を無理矢理詰められた箱がちょっと可哀想かも。
──さてと、後は疾斗の家に行くだけっと……。
せっかく見舞いに行くのだ。どうせなら誰にも邪魔されず、疾斗の部屋まで行ってあげたい──違う、私が行きたい。
この冷たいうどんを暖かい鍋焼きうどんでも変えて食べさせてあげたい……。私が冷ましてあげながら。やだ、すっごくドキドキしてきたよ……。
ラノベの恋愛モノに在りがちなお見舞いイベントまで発展するのを期待せずにいられなくなった。だって……この寒い心を温めたい…じゃない? 疾斗と二人で。




