第52話 在り得ない贈り物
僕、風祭疾斗は何だかいたたまれない気分になって1人トイレに逃げ込んでしまった。
だけどこんな事してもどうにもならないし、いつまでもこうして居る訳にもいかない。かと言ってどの面下げて戻れば良いものやら…………。
全く以って無計画、衝動だけに身を任せた行動に他ならない。
───え、カクヨムの通知?
『@ADV1290R様からギフトが届きました』
『ラティソレ様からギフトが届きました』
「はぁっ!? ふ、2人して何やってんだ!?」
疾風@風の担い手にギフトを贈るなんて勿体ないことをする輩は他に知らない。
颯希は以前、贈ってくれたが@ADV1290R=爵藍颯希だと知るや、僕の方から断っている。もぅ充分色々貰い過ぎてるし、何より小っ恥ずかしいからだ。
弘美の方は初めてだ。
これで今僕が近況ノート、サポーター限定を掲載すれば3人だけの共有物となる次第。
『疾風@風の担い手 二人揃ってなんのつもりだ?』
□サポーター限定公開にチェックを付けて公開ボタンをクリックする僕。まるで待ち受けられていたかの様にコメントが2件跳ね返って来た。通知よりも早くそれに気付く。
『@ADV1290R そ、そうよね。NLENで送れば良いんだけどね』
『ラティソレ あの疾風先生にアポを取るならやっぱこれかなって私が言い出しっぺなんだ』
───な、何が疾風先生だ? 仰々しいにも程があるだろ。
僕がコメント欄に返信を書く前。自分のコメントにコメントを返す2人である。
『ラティソレ 今ね、ちょっと2人で話していたの。私の話だいぶ重過ぎただろうし、それに何も颯希にまで言うことなかった』
『@ADV1290R 私もどうして笑って聞けたんだろうなってね。どうかしてるって思い直したよ』
僕の近況ノートという括りそっちのけで勝手に会話をしている2人。頭が錯乱してるのか状況が飲み込めないでいた。
『疾風@風の担い手 は、話が見えないんだが………』
『ラティソレ でそ? だから取り合えず戻っておいでよ』
『@ADV1290R そうね。それに万が一、今他の人がギフト送ったらこの会話読まれる訳で』
───安心しろ、それは2%位しかない確率だ。限定ガチャでSSR引く方が余程マシ、だいぶマシだ。
「ハァ…………」
ギィ。
僕は溜息1つでトイレを後にした。スマホを弄り近況ノートを消し……一応スクショしてから消して再びテラス席へと戻り始める。
兎に角バツが悪くてどうしようもない。でも前を見ないと他の客とぶつかりそうで流石に危ない。のそりと首を挙げると当たり前の笑顔達と目が合ってしまった。
「───よ、よぉ」
我ながら最低な挨拶。きっと不細工な顔をより際立たせている。ドカッと席に戻るともう味も判らぬマンデリンをガァーッと喉に流し込んだ。
「マスターごめん、同じのもう1杯!」
偶々都合良くテラスに出ていた髭面のマスターを呼び止めマンデリンのHOTをもう1杯注文した。
折角の珈琲を冷ましてしまった罪滅ぼし…………そんな気の利いた行動ではない。
酒でこそないが飲まなきゃやってられない。会話する位なら飲み食いしてる方が気楽。大体そんな気分だ。
そんな僕を黙って観察してる感じの颯希と弘美。
別に喧嘩した訳ではなさそうである。戻って来た僕を見るなり笑顔を見せてくれたものの、どう切り出せば良いのか判らないのはお互い様といった様相。
冷めた珈琲の後、やはり秋風で冷たくなったナポリタンを飲み物の如く注ぎ込む。こんな食い意地張った男みたいな行動、我ながら実に珍しい。
「ふぅ……」
喰った喰った。何処に入ったか良く判らんが兎も角腹を落ち着かせた僕。随分好都合なタイミングで2杯目のマンデリンが僕の元に届けられた。
これは流石に熱いので慎重にカップを持つと珈琲が『落ち着け』と言わんばかりに良い香りを鼻孔へ届けてくれた。
───腹が落ち着いたら悩むのが馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「お、俺さ…………今2人のどちらかを選べって言われても無理。うんっ、絶対無理」
「「えっ」」
もうヤケクソである。
正直に、けれども最底辺な台詞を吐いた。目を白黒させた2人が顔を挙げて僕の方を見る。
「だってそうだろ? 甲乙なんぞつけられん美少女2人に言い寄られているのだぞこの風祭疾斗が!? 月並みだけどこれがモテ期か? これ恐らく俺に取って生涯最後のモテ期やぞ」
もう心の声をそのまま吐き出すだけだ。
疾風@風の担い手ぇ? 文章で言葉の裏腹を描けても会話で引き出す余裕何て絶対に在る訳がない。アレはお話の中だから書ける話だ。
我儘だけど力強く相手を引っ張る第6皇子も、冷静に話を聞く従者だって所詮僕の中から生まれた幻。
僕の中には様々な人物を飼っているなどと嘯いたが、そんなものは絵空事。至極当然なことに今さら気付いた。
「───ぷっ」
「あ、アハハハっ…………。何それ可笑しい。生涯最後とかマジで大袈裟」
颯希と弘美。
2人揃って噴き出したではないか。人前だからこれでも抑え気味らしく嚙み殺してる分を目から涙として流出している。
「だっからぁぁ、今はそれで良いんだってば」
「そうよ………私達2人共、疾斗のことが大好き。だけどこの場で答え出してなんて我儘言ってないよ」
テラス席のテーブルの上、手を組み顎を載せてじりじりと僕の方へ近寄る弘美。揺れるポニテに不謹慎だがゲートインした今にも飛び掛からんとする競走馬を重ねてしまった。
颯希はひとしきり笑うと秋の空へ白い手を伸ばす。爽やかな風が指先を抜けて往くのを楽しんでいる様だ。黒髪を風に流して余裕を見せつけてる様に思えた。
「だ、だけどそんないい加減さでこれからも付き合って本当に大丈夫なのか!?」
三角関係を真面目に受け止める男であるなら絶対にこう感じるのが自然の流れではあるまいか?
「大丈夫だって! だって最後に勝つの私だしぃ……」
「幼馴染って大抵負けインよねぇ………」
二人共々顔だけは満面の笑み。けれど視線をバチバチに絡ませ火花散らせる弘美と颯希だ。
───はぁ…………。もぅ、知らんぞ。
カップの底に残ったマンデリンがやけに苦く感じたのは気の所為ではないだろう。




