第42話 走り屋はファミレスにて愛を語る生き物である
───朝7時過ぎ。
もう流石にお日様は顔出しているし、朝の渋滞も始まっている。でも一番鬼門な新宿辺りは越えるのは、どうにか叶った。
此処まで来れれば無理することもない………筈。そう思った私は左脇に見つけた黄色い看板のファミレスへDU◇Eを滑り込ませた。
「───ふぅ………どうにかなったね」
私、爵藍颯希はドリンクバーの珈琲を啜り駐車場に並べた2台の原付バイクを眺めて一息ついた。運の良い事に自分達のバイクが見られる絶好の位置に座れたのである。
「───で、でも此処って車用だよな?」
疾斗がどうにも落ち着かない。大きな車がひしめく駐車場1台分のスペースを、私達2人の原付バイク2台がこれ見よがしに陣取ってる感じなのを気にしているらしい。
「疾斗、原付だって立派な車両よ。増してや2人分停めているのよ。寧ろ感謝されて然るべきだと思わない?」
「だ、だってさ。ほ、ほら自転車用スペースなら空いてたし。お客もどんどん増えて来たぞ」
チラリッとその狭っ苦しいスペースに流し目しながら言って来た。
───そ、それは、そう、何だ………けどさ。
「だってあんな自転車か小さいスクーターが停めるのやっとって場所何か嫌だし………それにね」
「───?」
「バイク乗りも車乗りもさ。走り屋ってのは愛車を眺めながら談義するのが大好きな生き物なのよ」
私は腕組み胸を張って、俗に言うしたり顔でそう告げた。───正直言うと自分のDU◇Eをファミレスに停めて他のバイク仲間とお喋りだなんて初めてだけどね。
何を隠そうパパの読んでた走り屋漫画のワンシーンに憧れていたに過ぎない。『走り屋はファミレス何て良く来るだろ?』って何とか兄弟(?)も言ってたし。
───しかもしかもよ。それが記念すべき疾斗のバイクデビューと重なったのだから、絶対に譲れないってそういう訳よっ!
またまた私、疾斗の初めて奪っちゃった…………。
「───と、処でなんだが、それ朝から全部食べるのか? さっき御握り食べたよな?」
今度は私の前をジト目で見ながら、信じられないといった顔つきだ。疾斗は食事そっちのけでヘルメットのバイザーを一心不乱に拭いている。
「ふぇ? だっふぇ、此処ふぁいきんぐだよ?」
「た、食べるか喋るかどっちにかして颯希姫ぇ!」
───え、だって食べてる時に質問する疾斗が悪いんじゃないの………。た、多分だけど食べた物、口から出してはいない筈だよ? ってか公衆の面前で姫呼びは流石に引く………。
「………ったく。さっきまでの走りといい、今の食べっぷりにしても、これまで知らない颯希を今朝だけで随分見た気がするぞ」
「ふぉうらっけ??」
「だから止めなさいってぇ!!」
───ふーん………。成程成程ぉぉ。私のこと、もっとお嬢様だと思ってた。そういう訳ねぇ。
「───で、どうだったかな疾風様。初の公道デビューは?」
私は大きめのスプーンをマイクに見立てて疾斗の顔に突き出してみる。インタビューを気取ってみた。
「え、えぇと……。ま、先ず初めは30kmでも正直ビビった。それに真っ暗な中、車に煽られるのはマジ怖かった」
最初は顔が引きつっていたけど心なしか疾斗が楽し気に見えてきた。『マジ怖かった』と言ってる割に。
「フムフム、それでそれで?」
「───で、颯希にさあ『50kmで行くよぉ』っていきなりやられた時は、マジ心臓飛び出すかと思ったっ! おまけにさぁ……ようやく目が慣れてきたのに『ちょっと無茶するよっ?』って………」
何だか疾斗がイキイキしてる。面と向かって二人きり………。こんな状況で疾斗ってハキハキ喋れったっけ!?
───ンッ? 待って待ってぇ。周りの視線が痛い気がする? 私達って………そのやっぱりアレっぽく見えるのかな? 何だか私の方が途端に緊張してきたんですけどっ!
「おぉぃ、聴いてるかぁ?」
疾斗から目の前で手を振られて我に返る私。慌ててテーブルの端に置いてたカップを落としそうになる。
「ふぇ? あ、う、うんっ、勿論。ま、まあ確かにいきなり70km超えはビックリするよねアハハッ!」
うっかり私は笑いながら口を滑らせてしまった。法定速度+20km未満………を完全に越えていたのを馬鹿正直に言ってしまった。
「何ィィ? 今70km超えって言ったァァ!? やっ……ぱりそうだったのかよォォッ! 僕のバイクのメーター壊れてんのかと思ったぞッ!」
不意に立ち上がり、前のめりで疾斗が睨みを効かせてきた。
───うっわぁ………。お、怒ってるぅ? ま、まあそうよね。免許取り立てでいきなり免停喰らいたくは………うん、ないよねぇぇ。
「し、仕方なかったのよぉぉ………。あのままじゃ間違いなく一番引っ掛かりたくない所で渋滞ハマるの目に見えてたしぃ………」
私は目をキョロキョロさせながら、小声でそう応えるしかなかった。確かに疾斗の言い分が全面的に正しい。
正直私もそう思う。だけどバイク初心者じゃ都内の渋滞にハマるとか絶対に避けたかった。───と言った処で真面目な疾斗は聞いてくれない。だからこれが精一杯の譲歩なのよ。
一通り言いたい事が終わったのか。
疾斗がサラダと珈琲を朝食バイキングから運んで来た。『貴方もうちょっと食べなさい』て正直言いたいけど、それじゃまるで彼女処か奥さんポジみたいだから流石に止めた。
「ふぅ………まあ、でもな」
「ンッ?」
さも苦そうに珈琲を飲んで黄昏れている疾風先生。例の店以外のブラックを無理して飲んでいるのが少し可愛い。
「中々楽しい冒険だったっ! お前の後ろをついてくの悪くないなっ!」
───ンンッ!? お、お前の後ろぉっ!?
い、今さら感が物凄い!!
何かとっても恥ずかしいんだけどォォッ!! 『私を愛しのフィルニア姫…………』なんて調子乗って随分恥ずかしいこと言ってたの思い出したよっ! 顔から火が溢れ出そうっ!
「あ、あと…………さ」
「───へっ?」
何だか急に照れくさそうになった疾斗。まるで私の恥ずかしさが伝染した様な顔をした。
「あ、あの………『こってるから揉んでやる』って話。───ほ、本気にして良いか?」
───ンッ!? い、言ったッ! 確かに言ったッ! そんな恥ずかしいことをぉぉっ!!
あ、アレはその……なんだ。リラックスして行こっ! そういう意味…………でもないかも知れないけど…………。
───ただ此処で言うのだけは本気で止めて………くだ……さい。あと、『肩』外すの本当に無理ぃ! 大体肩揉みだけでそんな凄く恥ずかしそうにするの、勘違いされそうで駄目ぇぇっ!
「───わ、判った。良い……よ。帰ったら……ね」
「あ、う、うんっ………な、何か……ゴメンッ」
どうやら疾斗も恥ずかしいことを言ってたのに気付いたらしい。11月の朝だと言うのに、何だかとっても熱い気がする瞬間だった。




