第41話 出しちゃいけない真の本気!?
───5時半………か。
私、爵藍颯希は125DU◇Eのハンドルに備え付けたナビ代わりのスマホへチラリと視線を移す。まだ夜明けには時間があるけど、擦れ違う車の数が格段に増えて来た。
そして何より朝陽はなくとも道路脇のビルやお店の灯りが私達2人を存分に照らし始めた。片側2車線、たまに3車線ある癖に、その一つ一つの区切りが狭くて圧迫感を感じずにはいられない。
休日とはいえ朝の通勤時に決まって道路は混みだすもの。
しかも今日は後ろに公道デビューの疾斗を従えている。彼は私と違ってバイクにスマホホルダーなんて付けてない。
───それにしても…………やっぱ、まだ動き硬いなあ…………。
ミラーに映る疾斗のバイクを操る身体の動きがお世辞にも柔らかいとは言えない。だって仕方ないじゃない。初の公道が都内だなんて緊張するなと言う方が無理に決まってる。
でもこうやって2人で走るのって、とってもテンション上がる。『無理しないでついてくるんだよ』って私言ったけど、当然多少の無理をしてる筈。
───そうそう、そうやって私の後ろに頑張って付いてきなさい。これからちょっとだけ無茶するんだから。
ピッ。
『疾斗、これも言い損ねてたけど、ハンドルより寧ろ膝に力を入れるのよ』
私はインカムのボタンを押して疾斗へ再び指示を伝える。
『ひ、膝ぁ?』
わっかりやすいリアクションに思わず顔が緩んじゃった。まあ気持ちはとっても判るけどね。
『教習所でも習ったはずだよ、ニーグリップ。そのストマジってバイクはね。何しろそれが出来る唯一のスクーターなんだよ』
ニーグリップ───それはバイクのタンクを両膝でしっかり挟んでホールドすること。普通のスクーターだと燃料タンクって膝辺りには存在しない。だからやりたくても出来ないの。
『た、確かに習ったけど何でそれが強みなんだ?』
『バイクの曲がりは体重移動が重要だって判るでしょ? ニーグリップが完璧だと極端言ったらハンドル動かさなくってもバイクを曲げられるのよ。ちょっと私を見て』
ハンドルを握る手には全く力を入れず、膝で挟んだタンクを左右に振るだけでDU◇Eを少しスラロームさせた。『私を見て』なんてちょっと自信過剰な言葉だけど、今の疾斗は私に釘付け。
───そう思うだけで何だかゾクッってきちゃう!
『どう? 少しは判ったぁ? 私がサーキットで観たプロライダーなんてね。完全に手放しした上、大きなバイクの上に立って観客席に向けて手を出しながら、しっかり頭を下げたのよ』
思い出すなあ…………。まだ小さかった私をパパがツインリンクもてぎでやってたMOTOGP※に連れてってくれた時のこと。
※ロードレース世界選手権。世界最高峰のライダーとバイクが競い合うレース。
『えっ? そ、それは流石に吹いてんだろ?』
『そんなことないよ! もてぎの90℃コーナー手前、私の目の前でロッシ様※がしてくれたんだから! お楽しみ頂けましたか? アレは絶対そう言ってたっ!』
※バレンティーノ・ロッシ。2002年から2021年までMOTOGPクラスで活躍した伝説的ライダー。
そうっ! アレは絶対そうだったっ! バイザー越しでも絶対目が合ったと思って私大騒ぎしたんだから!
『───そこの可愛いお嬢様、僕の走り格好良かった?』
世界最強のライダーが私に向かって、まるでエスコートする王子様の様に挨拶してくれたって今でも信じてる!
おっと…………。今はロッシ様のことは一旦置いといて…………。
『疾斗ォ! ごめんッ! ちょっとペース上げるけどニーグリップと視線は必ず曲がる先を見ながらついてきてッ!』
『なっ!? 既に時速50kmペースで走ってんだろ? い、違反じゃないのかっ!?』
『大丈夫大丈夫! 本当は50kmなんて50ccだって出せるんだからさっ! 制限速度50kmなら+20kmまでなら誤差誤差ッ! さあ、渋滞ハマる前に行くよォォ!』
カチッ。
あえて5速ギヤから4速へシフトダウン。そしてアクセル捻って急加速ッ!
───さあ、私の後ろをついてらっしゃい風祭疾斗! 2スト※110ccの実力、見せて貰うわッ! 追い越し車線へ一気に飛ぶよッ!
※2ストロークエンジンの略。今はバイクも車も4ストが一般的。これ以上の説明、此処では長くなるし大して面白くないので省きます。
125ccが唸りを上げて一番右側の車線へ飛ぶように加速! 本当はもっと出せるんだけど、それじゃ疾斗が可哀想だしぃ!
───おっ、やるじゃない。一瞬離れたけどちゃんとついて来てるし。
『ちょ、颯希姫ェェッ!! これ幾ら何でも速過ぎじゃねッ!?』
耳元に飛び込んで来る疾斗の悲痛な叫び。まあいきなりやられたらビックリだよねぇ………。テヘペロッ!
『ちゃんとついて来れてるじゃないッ! 流石風の使い手様よねッ! それに制限速度が40kmの道に変わったら、ちゃんとその分落とすからさっ!』
制限速度+20km。
これなら万が一警察の御厄介になっても1発免停じゃないし、何より他の車だってこの位なら普通に出してるから頑張ってね疾風様ッ! テヘペロッ×2!
『いや無理するなって言ってたよなァァッ!?』
『だってぇ………今距離稼いどかないと都内渋滞でもっと大変な目に遭うんだよぉ? 都内じゃコンビニ停めるのだって面倒だしぃ……。何より私はMTだから半クラめんどい』
『そ、それが本音か!』
───ソソッ。そういう事。だって都内の立体交差で半クラと発進&停止の嵐とかマジめんどい。もしエンストして立ちゴケでもしたら目も当てらんないよ。
それにこれを言われたらあの疾風様なら、ずぇぇぇったい頑張るに決まってる!
『さあ、私を愛しのフィルニア姫だと思って精々張り切りなさいっ!』
『ムッ………。Yes! Your Highness! 殿下は私めが命に代えても御守り致しますッ!』
───ほらほら、チョろいチョろい。テヘペロッ×3! …………って守んなく良いから死なないでよぉ!?




