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第2話 き、君(の愛馬)が綺麗過ぎてさ……

「二学期からの転入生……えっと、ごめんなさい」


「あっ……爵藍(しゃくらん) 颯希(いぶき)って言います。読み辛いですよねぇ、先生気にしないで下さい。私でさえ忘れちゃう位ですからっ」


 これは二重(ふたえ)の驚きである。何と例のDU◇E(バイク)のあの子、うちのクラスの転入生であった。


 余りに難解な名前で担任が教壇(きょうだん)で大いに悩み、それをあの子は笑いに変える機転の良さを持ち合わせていた。


 生徒側からドッと笑いが巻き起こる。


 クラスメイトから「自分で間違えないだろ(笑)」と突っ込みを受けるが「いや……私、漢字が苦手で書く方は本当(ホント)に忘れちゃうの」と笑いを継続した。


「走ることなら何でも好きなんで、苗字(みょうじ)の藍からラン(RUN)って良く呼ばれてました。ま、好きに呼んで下さい。宜しくお願いしますっ!」


 つい今しがた、強気の顔で詰め寄られたバイク女子とは別人ぶりのにこやかさで最初の挨拶(あいさつ)を終える。


 加えて何しろ(あお)い瞳と女子にしては170近くはありそうなスタイル抜群の上背(うわぜい)だ。


 男子生徒だけでなく、女子生徒からも「可愛いよな……」「綺麗よね…」っていう(つぶや)きが後を絶えない。


 しかもその瞳はコンタクトじゃなくて自然(ナチュラル)、オーストリア出身の父親譲りだというのだ。


「ええ……と、風祭(かざまつり)君」

「……え、え、あ、は、はぃ!」


 僕は完全に(ゆる)み切っていた。朝の出来事からずっとランのことを登場人物に重ねた自分の不思議な感覚に(とら)われていたのだ。


「取り合えず、左隣の空いてる席へ爵藍(しゃくらん)さんには座って貰いましょう」


「ええ……」


 我ながら(すご)困惑(こんわく)の表情を浮かべてしまった。別に爵藍(しゃくらん)さんに今さらどうこう言うつもりはない。


 僕の真後ろには、あのやたらと僕に絡んでくる逢沢(あいざわ)が、その目を光らせている気がするのだ。


 さっきも触れた通り逢沢(あいざわ) 弘美(ひろみ)は同性にすら愛されてしまう程の見た目を持っている。


 長い髪はポニテでまとめているのがボーイッシュな感じと重ねて良く似合う。テニス部では三年生が引退すれば次期キャプテンと(うわさ)が立つ程の実力だ。


 勉学も苦手科目が(ほとん)どなくて、休み時間には彼女のノートを見せて欲しいとお願いする女子と、下心を同じ理由に同じ手を使う男子生徒も数多い。


 身長は朝に二人が詰め寄ったのを見た感じ、爵藍(しゃくらん)さんより少し低い位? 女子にしては充分過ぎるポテンシャルではなかろうか。


 要はクラスの人気者である彼女。そんな逢沢(あいざわ)の謎………。特別なお相手の噂を聞かないってことだ。まあ謎は言い過ぎか………。


 こんな状況なので僕に取っては、実に迷惑な話が良く上がる。


 ──実は逢沢、風祭と付き合ってんじゃねえの?


 ……逢沢 弘美は風祭 疾斗の()疑惑である。全くの()(ぎぬ)なのだが、こんな良い嫁が背後で監視の目を光らせる対象者(DU◇Eの女)が隣になった。


 ──嫌な予感しかしない……。


 ……まあ良かろう。


 僕の心は、カクヨムに連載中の作品を態々(わざわざ)アカウントまで作り、(応援)、コメント、レビューと全てに()いて認めてくれる@ADV1290R様だけだ。


 この何の色気も感じないアカウントに、始めは男性かと思っていた。読み専(自分では小説を書かない人)良く在りがちな人間味を感じさせない名称。


「いつも応援してます、ヒロインの気持ちに()()の共感を感じます。更新がない日は、読み返してます。頑張って下さい」


 ──このコメントで僕は確信した。この人は女性っ! しかも何と奥ゆかしくも実は毎日読みたいと言っていた(エールを送っていた)のだ。


 一番欲しい()に、最高の賛美(さんび)を貰える。此処までされて、作家魂に火が点かないなんて意味が判らない。


 ~~~


 始業式とホームルームだけで終わる二学期初日の放課後。


 僕は駐輪場であのオレンジ色のバイクを(なが)めていた。早速部活がある逢沢と、下校時刻にかち合うのは(まれ)である。


 爵藍(しゃくらん)さんの蒼い瞳は勿論魅力を感じたのだが、此方の()()()も何故だか異様に()きこまれた。


「125DU◇E……KTM(ケーティーエム)、正式名称:KTM Sportmotorcycle AG(ケーティーエム・スポーツモーターサイクル・アーゲー)は、オーストリアオーバーエスターライヒ州……?」


 スマホでググりながらWikiを開くと()()()()()()という所在地で僕の手が自然と止まる。


 ──オーストリアって確か彼女のお父さんが……。


「ちょっとぉっ! 貴方そこで何やってんのよっ!」


 大声で怒鳴られてしまった。間違いなく爵藍(しゃくらん)さんの声だ。これは止むを得ないと思う。大切なバイクに悪戯(いたずら)でもされていると、思われても仕方がない。


「ま、待ってくれ。悪気はないんだ、この駐輪場に停めてある他の原付達を見てよ」


「えっ?」


 ()()に何かされたかと(まゆ)()り上げる彼女。登校時もそうだったけど、美人が怒る余計に(はく)が付く気がする。


 僕の言葉の真意が伝わらないのか、首を(かし)げる爵藍(しゃくらん)さん。長い綺麗な黒髪が揺れる。


「き、君のバイクが余りにも他と違って綺麗過ぎるから気になって眺めていただけなんだ」


 正直な自分の想いを伝える。我ながら今朝までバイクなんてどれも興味ないなんて思っていた奴の発言だとは思えなかった。


「……っ?」


 あくまでバイクを「綺麗過ぎる……」と僕は伝えた次第なのだが、乗り手の(ほお)が少し火照(ほて)ったように見えた気がした。


 後にして思えば、化粧(チーク)所為(せい)だけじゃなかったのかも知れない。

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