表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/76

第17話 可愛いとは………?

 確かにあの日、逢沢弘美(あいざわひろみ)は、手に入れた才能を発揮することに躊躇(ためら)いを感じていた。


 それを払拭(ふっしょっく)したのは、()………でなくて僕の中に居るこの口の悪い()()()の応援だった。


 しかしだからと言って、明誠(めいせい)高校テニス部を一気に最高の評価(スターダム)まで押し上げたのだ。それを()める処か『あんなのに頼ってるうちは駄目だ』とか言った(ほざいた)らしい。


 ───堪忍袋(かんにんぶくろ)()が切れるとは、まさしくこういう気分だろう。


折角(せっかく)弘美(ひろみ)が全国大会出場を決めたってのに、それでも文句があるって言うんかァンッ!? ()の様な落ちこぼれが目立って(応援したのが)そんなに気分(わり)ィってっかッ!」


「ま、待って疾斗(はやと)………。貴方は何も悪くない……か…ら…」


 フィアマンダ(第6皇子)の暴走が止まらない。ついさっきまで息を切らして坂道をどうにか登ったひ弱さは、何処かへ吹き飛んだ。


 これにはとても慌てる弘美、少し可哀想(かわいそう)だが俺にも止める(すべ)がない。


「ああっ、そうだッ! 俺は何も悪くねぇ、増してや弘美は最高のことをやってのけたっ! だから何にも悪びれる必要ねぇぞっ!」


 意識の中の暴走に任せっきりなのは、かなり子供っぽい(ガキだと思う)が、後に引く気には、到底なれない。


「クッソ、胸糞悪(むなくそわり)ィな………何ならこのまま弘美んとこに押し掛けてやっかッ!」


「待ってぇ!! 落着きなってよッ!!」


 声を荒げ続けるこの俺を上回る大声で、急に弘美が止めに掛かる。地団駄(じだんだ)踏んで、俺の方へ半泣きで詰め寄ってきた。


 俺の両手を強く握り締め、またもや他には見せない泣き虫顔。だけども強い意志を感じた。全く目を逸らそうとしない。


 ───しまった………。これは………このやり取りだけは、完全に俺が悪い。


「わ、悪い………済まねぇ………。此処で俺迄しゃしゃり出た日にゃ、お前の親父とまるで変わらねえな………」


 そうなのだ………。俺はあの日『お前が楽しむテニスをやってこい』と言ったではないか。


 要は自分の意志で勝ちたいと思うのであれば……だから押し付けは決してしない。


 そう決めていたのに今の俺は、自分勝手を押し通す気満々であった。これはしっかり謝んなきゃ駄目だ。


「………う、うん。疾斗の気持ちだけ受け取っておくね。でもこれは私とお父さんの問題だから………」


 俺が頭を下げたことで、弘美の方も取り合えず落ち着いたようだ。握っていた手を慌てて離し、声量こそ下がったが、自分のやるべきことが判っているとはっきり告げる。


 次は眼下に広がる田園風景を向いて続けてきた。


「わ、私はぁ………昔みたく疾斗と仲良しに戻り………たい。出来れば子供の頃のように、家の庭でBBQとかして………さ」


 声が随分上擦(うわず)っている。少々無理を通してる感じなのが伝わってきた。


「だ、だからさ! わ、私がちゃんと結果を出せれば、お父さんだって………きっと………」


「……弘美」


 ───な、何だろうこの胸の高鳴りは。とても健気に頑張ろうとしている弘美が…………。


「……()()()


「え…………」


 ───ポロリと漏らした心の声。停止する(とき)


 前にも言ったが逢沢弘美は、同性からも本気の告りを受ける程にとても綺麗だ。だから僕には釣り合わないと自分を(さげす)んでいた。


 けれどこれほどまでに、弘美のことを()()()と感じたのは、初めての感情だ。


 ───僕の頭の処理能力が暴走を始める………。


 検索結果【可愛いとは?】 


 1 小さいもの、弱いものなどに心惹かれる気持ちを抱くさま。


 ───違う………。小さくはないし弱いとは思えない。


 2 他と比べて小さいさま。


 ───やっぱり違う………。皆に頼りにされる弘美が他人と比べて小さいとは感じない。


 3 可哀想だ。不憫(ふびん)である。


 ───これも異なる………。父親の理解を得られない処は確かにそうだが、向かい合おうと頑張っている。


 4 無邪気で、憎めない。擦れてなく、子供っぽい。


 ───うん……? 3と同じく該当点もあるが、子供っぽい? それなら僕の方が余程子供だ。


『バッカじゃねえの! 恋愛は理屈じゃねえんだよっ! この童貞作家野郎がっ!』


 ───(うるさ)いぞフィアマンダ(第6皇子)。大体お前だって、その童貞作家様から生まれたキャラクターだろうが。


 お前も風の皇女(フィルニア)へ、未だガキの様に絡むことしか出来ないくせにどの口が言う?


 ───だが『理屈じゃねえ!』というのは多分、正解なのだろう。


 夕暮れ時を背に受けて、ただ頑張るだけ(ノープラン)だと『えへっ』って笑顔で首を(かたむ)けるこの瞬間の此奴(弘美)は可愛い………脈打つ僕の心がそう告げていた。


「疾…斗?」


「………ハッ!」


 ───今僕なんつった? 可愛いィィィィッ!? 可愛いだとぉー!?


 可愛い可愛いければ可愛いな可愛いよ可愛いじゃない可愛いぜ可愛いです可愛いらしい可愛いんだ可愛い可愛い可愛い可愛いkawaiiPretty!!


 ───や、やってしまった………。だけどもそうだっ! 僕の幼馴染『逢沢弘美』は()()()んだッ!!


 頭の中の冷却装置がまるで追いつかない。煙が出てきて鼻から上がりそうだ。


『何で今まで気が付かなかったンだァァ? 頭湧いてんのかテメェ?』


『世の中に100人の男性が居るとするなら、99人はそう思うのではないでしょうか……』


 フィアマンダ(第6皇子)賢い従者(カミル)一気呵成(いっきかせい)に畳み掛ける。


「は、疾斗……」


「は、ハィィィィッ!!」


「………あ、ありがと。で、でも……そんなこと面と向かって言われたの初めてだから……照れる」


 ───クッ! やっ、やっぱり可愛いじゃァないかッ!


 照れながら(うつむ)く姿も、またいとおかしかな……。


「……は、初めて……なの……か?」


 語彙力(ごいりょく)喪失(そうしつ)した僕の問いに小さくコクリと(うなず)く弘美。


 ───()()()……何て甘美(かんび)な響きなんだ。こんな僕如きが学校のアイドルの初めてを奪ってしまった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ