プロローグ2
最後のプロローグです。
プロローグ2
「ハッピーバースデー〇〇。
もう6歳ね」
「えへへ……大きくなったでしょ!」
今日は私の6歳の誕生日。
お父さんはいない。
居て欲しくもない。
「来年はもう小学生ね。学校に行けると良いんだけど………」
「大丈夫だよ。もし行けなくてもずっとお母さんと一緒だからへーき!」
「ありがとう〇〇。けど、お母さんからお父さんに頼んでおくわね。
学校はちゃんと体験して欲しいから」
そんなに学校は楽しいの?
本を読む限り、ずっと勉強してばかりでつまらなそうだけど。
「ジャーン!今年の誕生日プレゼントよ」
「あっ!ずっと欲しかった本!ありがとう!!」
続きが読めなくてモヤモヤしていたの!
あんな良いところで止める作者も悪いわ。
「そして、これはお父さんから」
「ふーん。またカエル」
ずっとこのカエルシリーズ。
もしかしてお父さん、私に興味ない?
「けほっ……けほっ……うっ………」
「大丈夫お母さん?」
「ぐっ………はぁ……はぁ……
えぇ……大丈夫、よ……」
去年からずっとお母さんは胸を押さえて苦しむようになった。
お母さんは
「ちょっとひどい風邪よ」
って言うけど、私が風邪に罹った時は一週間くらいで治った。
こう言う時はお医者さんに診てもらうんだけど……
お父さんは外に出ることを許さなかった。
最初はちょっとダルいって言うだけだった。
けど、最近じゃ死んじゃうんじゃないかってくらい咳をしてる。
お医者さんに診て貰えば大丈夫なのに………
「〇〇……こっちへいらっしゃい」
「うん……お母さん」
お母さんは突然私を抱きしめた。
「もーお母さん、びっくりした」
「ふふ……ごめんねぇ…」
「ねぇ、お母さん」
「どうしたの……?」
「お母さんは………お父さんのこと、好き?」
たくさんの本を読んだ私はたくさんの知識を覚えた。
今の私たち母娘の状況はおかしい。
一度も外に出たことがない私に、病気になっても病院にいけないお母さん。
原因はお父さんだ。
お父さんが外へ出るなと言うからお母さんはそれを守ってる。
こんな、病気でボロボロに、痩せ細ってまで。
多分、お母さんはお父さんのことが好き。愛してる。
私がお母さんのことが好きなのと同じなんだと思う。
けど、もし。もし、そうじゃないとしたら。
私はお母さんと一緒にこの家から出て行く。
「………ええ。好きよ。大好き。
世界で一番好き」
けど、そんな現実は来なかった。
「お母さんね、昔、病気だったの……」
「え……」
「今みたいにずっと苦しかった……胸が痛くて、苦しくて……
それを治してくれたのがお父さんなの」
「…………」
「嬉しかった。私はお父さんに救われたのよ……
退院してお父さんに結婚してってお願いしたの……OKしてもらえてとても嬉しかった」
まぁでも…と続けるお母さん。
「まさか…こんなに束縛されるとは思ってなかったけどねぇ……
困った人だわ」
そう語るお母さんは優しい目で……まるで私と接する時の目だった。
ああ、お母さんにとって、お父さんは子供なんだ。
「けど〇〇まで束縛させるわけにはいかないわ。
大丈夫。ちゃんとお父さんを説得して学校に行けるようにするわ」
「お母さん………」
「うっ……ゲホッ!ゲホッ!ゲホっ!」
「お母さん!?」
「ああ、やっぱりそうだと思ってたのよ……
〇〇。よく聞きなさい」
「な、何?」
「私はもう長くないわ……もし私が死んだら藤方って言う家を探しなさい。
あなたのおじいちゃんとおばあちゃんがいるわ」
「うん……分かった……ねぇ大丈夫?大丈夫なの………?」
「まだ大丈夫よ………大丈夫……意識はハッキリしてるわ……」
「お母さん……?お母さん?」
お母さんが透けていく……
この世から消えるように……
いやだ…いやだよお母さん……
そうだ、病院。病院に行こう?
お父さんの言うことなんて聞いてる場合じゃないよ。
だからほら、立ち上がって。歩いて……歩いて……病院に行こうよぉ………
「お母さん……」
「大丈夫……。聞こえてるわ……
〇〇……そこにいるの?」
「いるっ!いるよお母さん!
ねぇお母さん立って!病院に行こうよ!」
「〇〇……愛して……る……わ…」
「お母さん……?ねぇお母さん!お母さん!」
ああ、お母さんが冷たく……
いやだ…いやだ……いやだよ……
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
頬に何か冷たい液体が流れる。
何これ。目から出てるの?
液体で目の前が見えない。止まって。止まってよ。
「あ、あれ?止まらない。止まってよ……
お母さんが見えない……」
もしかして、これが涙というやつ?
悲しかったり嬉しかったりした時に自然に流れる……
本で涙が止まらないって表現があったけど……あれ、本当だった……
涙が……止まらない……
どれほど涙を流しただろう。
日はとっくに沈み、周りは夜の闇が支配している。
「………お母さんが死んだのはお父さんのせいだ……。
病院に行ってたらお母さんは死ななかった。この家に閉じめ込めてたから!」
ガチャリ。
玄関の方から音がした。
この家にくる人間は私とお母さんを除いてただ一人。
お父さんだ。
「……何だ。起きていたのか」
こいつが私のお父さん……
「桂花はどこだ?」
お前が殺した人ならあそこだ。
そう思いながらお母さんの方を指差す。
「何だ、寝ているのか桂花?
………桂花?」
お母さんの様子がおかしいことに気づいて近づくお父さん。
よく見ておけよ。お前が殺した人だ!
「……おい。何があった」
「……………」
「ちっ!使えんやつめ!」
突然、お腹を蹴られた。
私は宙を浮いて壁に激突する。
目の前が真っ白になって呼吸がうまくできない。
お母さんもこんな感じだったのかな……
そのまま私の目の前は真っ暗になって。
気づいたらお父さんもお母さんもいなかった。
「子供を蹴った挙句、放置……?
本当にクズね」
とりあえず、お母さんの言うとおり藤方って家を探そう。
人殺しが私の面倒を見るはずない。
お金とかは元のままだったから遠慮なく持っていく。
最悪、タクシーに案内してもらおう。
準備を整えた私は玄関の扉に手をかける。
いつも鍵が掛かっていて、お母さんに近づかないように言われた扉。
そんな開かずの扉は実にあっさりと開いた。
「ふふ……何だ、簡単じゃない……」
こんなに簡単に開くんだったら私がお母さんを外に連れ出したら良かった。
初めての外。
電灯が闇を照らして、道を示している。
特に思うことは無かった。
外に出れなくても窮屈だと思うことは無かったから。
だってお母さんがいたから。
けど、もうお母さんはいない。
お父さんがお母さんを外に出さなかったから。
全部、お父さんのせいだ。
誰かに藤方っていう家はどこか聞きたいけど、全然人がいない。
しょうがない。
タクシーを使おう。どこにあるか分からないけど、車がたくさんあるところにあるよね。
私は音がする方へ歩いていく。
開けた道に出ると大きな四角い箱がいっぱいあるところに出た。
良かった。たくさん車が走ってる。
これならタクシーを拾えそう。
えっと確か、手を上げると止まってくれるんだよね?
私は小さいから精一杯手を上げる。
タクシーはすぐにきた。
「あれ?お嬢ちゃん、一人?
いや、泣いてるからはぐれたのかな?」
え?私、泣いてたの?
頬を触ってみると濡れていた。
あはは……まだ涙を流してたんだ……
「うん……お母さんと別れちゃって………」
一生ね。
「だから、お母さんの家で待ってようと思ったの」
お母さんの元々の家にね。
「えっと、藤方って家なんだけど……大丈夫?」
お願い……これでダメだったらもう無理だから………
「お嬢ちゃん藤方の家の人なのかい!?
もちろん大丈夫だよ。きちんと言えてえらいね」
良かった……何とかなった……
「ありがと……お願いします」
「うん。任せといて!」
そうして私は生まれて初めてタクシーに乗って、生まれて初めて他人とおしゃべりした。
けど、何も思わない。
こういう時、色々反応して一々感動したりするんだろうけど………
私、壊れたのかな?
ああ、いや違うね。
ただ悲しいだけなんだ。
頭の中が悲しいでいっぱいになって、他のことを感じる暇がない。
だってほら、まだこんなに涙が流れてるもん。
「お嬢ちゃん、着いたよ。ここがお嬢ちゃんの家だろ?」
「うん……ありがと、おじちゃん」
多分、そう。
「良いってことよ。あ、お金はあるかな?
おじちゃんは人を運んでお金をもらうんだ」
「そうなんだ。えっと……これで足りる?」
家から持ち出したお金を全部だす。
足りると良いけど。
「お、お嬢ちゃん。こんなにいらないよ。
これだけで良いんだ」
おじちゃんはそう言って紙のお金を一枚持ってった。
それだけで良いんだ。
「もう親とはぐれちゃダメだよ。じゃあね」
「バイバイ」
さて、どうしよう。
玄関が見えないから、どこから入ったらいいか分からない………
本当にどうしよう。
「あら?タクシーが止まったと思ったのだけど………
お嬢さん?どうしたの?」
色々迷ってたら壁から女の人が出てきた。
私がまだ涙を流しているからか、駆け寄ってきてる。
「お母さんにここへ行きなさいって言われた」
「お母さん?…………もしかして、あなた〇〇?」
合ってるのでコクリと頷く。
「じゃあ桂花は、お母さんはどうしたの?一人で来たの?」
「お母さんは………死んだ」
「え……」
「お母さんが、もし私が死んだら藤方って家に行きなさいって」
「そう………よく一人で来れたわね。
偉いわ」
そう言って私を撫でる女の人の手つきはお母さんそっくりで。
私は初めて声を出して泣いた。
今まで泣かないようにしてたし、お母さんが死んだ時も涙を流すだけで、泣かなかった。
けど、改めて他の人にお母さんが死んだって伝えて。
そしたら、それまで我慢してたものが爆発して。
女の人、お祖母ちゃんはずっと私のことを撫でてくれた。
それを感じる度にまた泣いて………
もう、一生分の涙を使うんじゃないかってくらい泣いた。
いや、もう一生分使ってもいい。
私はもう泣かない。
泣くってことは悲しいってこと。
お母さんが死んだこと以外なんて悲しいなんて思わない。
代わりに私は恨もう。
恨んで、怨んで、憎んで、憤んで、忌んで。
復讐もう。
お父さんは
絶対にゆルサなイ
いかがでしたでしょうか?
次から一気に時間軸を進めます。




