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魔法薬店みどりのゆび本舗

作者: 夏川冬道

 メインストリートから少し外れた路地裏にその魔法薬店があった。魔法薬店の看板には『みどりのゆび本舗』と書かれた看板が古めかしい書体で書かれていた。

 この物語は魔法薬店『みどりのゆび本舗』で始まる。


「……マジョラムさん、起きてください。もうすぐ開店ですよ」

 魔法薬店の店員、スペアが魔法薬作りの道具で雑然とした部屋のハンモックで眠る魔女を起こしにやってきた。

「スペアくん……今、私は寝不足で眠くて仕方ないの。準備はこっちでしてくれない?」

「何を言っているんですか……店長がいない魔法薬店なんてただの飾りですよ」

「あー、わかったわよ。起きるわよ」

 もぞもぞとハンモックから降りてきたマジョラムは眠そうな顔でスペアを見た。

「おはようございます。マジョラムさん」

「さっさと準備を始めるわよ」

 マジョラムとスペアは魔法薬店の一階の店舗に向かった。

 みどりのゆび本舗の店内は各所にハーブが植えてあり、緑豊かな雰囲気で厳かで陰気な魔法薬店のイメージを変えるような和やかな雰囲気を感じさせた。

「パパ……店舗内のハーブの水やりは全部終わったよっ」

 花びらのドレスに身に纏った魔物が蔦で器用にジョウロを操りふんすとした表情で二人を出迎えた。彼女の名前はホミカ、スペアによって生み出されたアルラウネだ。みどりのゆび本舗の看板娘だ。

「ホミカ、ありがとう。気の利くアルラウネね」

 マジョラムはホミカの髪を優しく撫でた。

「ホミカ……パパっていう呼び方はやめてほしいんだけど」

「それは嫌!」

 スペアはホミカに拒絶されて落ち込んだ。スペアは変な誤解されることを防ぎたかったのだが親の心子知らずのようだ。


 魔法薬店みどりのゆび本舗。店長兼薬師、マジョラム。店員兼ハーブ師、スペア。看板娘、ホミカの三人体制で運営している。みどりのゆび本舗で売られる魔法薬は隠れた逸品として好事家になっていた。今日もみどりのゆび本舗の扉に開店と書かれた札がかけられみどりのゆび本舗の一日が始まる。


◆◆◆◆◆


「最近、心配事が大きくてぐっすり眠れないんだ……きい魔法薬はないか」

 魔術師ギルド所属の魔法使いがみどりのゆび本舗を訪れたのは昼下がりのことだった。

「ぐっすり眠れる魔法薬ですか……オーダーメイドで構いませんか?」

「構わないよ……寝不足で脳の回転が鈍くて大変困るんだ」

 魔法使いとマジョラムの流れるような会話で魔法薬の作成依頼を進めていった。

 その様子を見ているホミカとスペアは思わずクスクスと笑った。

「パパ……マジョラムママ、また安請け合いしているよ」

「薬の材料は丸投げなのにね」

「そこ、聞こえているわよ」

 マジョラムにしっかり聞こえていた。二人は反省した。


◆◆◆◆◆


 みどりのゆび本舗の裏手にある温室にスペアはやってきていた。温室の中は魔法で空間が拡張されておりとても広くハーブの栽培に最適な環境だった。

 スペアはハーブ図鑑を片手に温室の中を歩き、お目当てのハーブの前にやってきた。

「確かこのハーブが睡眠不足によく効くハーブだっけ」

 ハーブ図鑑を見比べながらハーブを摘んでいくスペア。彼はマジョラムから温室の管理を任されている。しかし、ハーブの知識は未だにハーブ図鑑頼りなのが現状なのだ。それでもこの温室ハーブ園の管理が可能なのは彼が持つチートスキル【みどりのゆび】の力だった。

 【みどりのゆび】のスキルは戦闘に役に立たない代わりに植物の栽培に強力な力を発揮しているのだ。スペアはこのチートスキルによって平穏無事な生活を送れて感謝していた。

「パパ♪」

 そこにホミカがスペアの背中にダイビングしてきた。

「わっ! ホミカ、作業中にちょっかいをかけるのはやめなさい!」

 スペアはホミカを引き剥がそうとしたが魔物の力で容易に引き剥がせない!

 なんとか引き剥がせたがスペアは肩で息をしていた。

「パパ、マジョラムママが早く摘み取り作業を終えて戻ってこいってさ」

「はいはい、わかったわかった」

 そう言ってホミカとスペアはマジョラムのところに戻ったのである。

 店舗内に戻るとマジョラムは魔法薬の準備をしていた。テーブルの上では魔法薬の材料が並べてあった。

「スペア、材料の採集ありがとう」

 マジョラムはスペアに感謝の言葉を伝えると大釜に魔法薬の材料を入れていった。その手際の良さはスペアは普段のマジョラムとは大違いだと思うぐらいだった。

 魔女の大鍋はぐつぐつと泡立てられていく様子ををみどりのゆびの店員は見守った。魔法薬作りはいつも緊張感が漂い、最後まで気が抜けないだ。


「……完成したわ」

 マジョラムが完成宣言をして、特製の魔法薬は完成した。琥珀色の薬液を見てスペアはこの薬はよく効くと感じた。

「魔術師の先生が次に来るのは3日後だから、その時に渡せばオッケーだよね」

 ホミカははしゃいだ!

「魔術師の先生の不眠症が少しでも良くなればいいけど」

「マジョラムの薬作りは天才的だからね」

 スペアの言葉にマジョラムは胸を張った!


◆◆◆◆◆


 数日経過したみどりのゆび本舗。魔術師が魔法薬をとりにみどりのゆび本舗を訪れた。

「例の眠れる魔法薬を取りに来た……無事完成できたか?」

「お待ちしておりました……こちらが所望の魔法薬です」

 そう言ってマジョラムは魔法薬を魔術師に渡した。

「ほう……これが眠りによく効く魔法薬か。ありがたく使わせてもらおう」

 魔術師は完成した魔法薬を大切に懐に入れると金貨をマジョラムに渡した。結構な金額だ。

「それではさらばだ」

 そう言って魔術師は去っていった。

「……いい仕事したね」

 魔術師の去っていく姿を見て、ホミカは無邪気に笑うのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  魔法一家の日常ですかね。店の描写、魔法薬の制作過程など、細部の設定が細かく、また字体も読みやすいです。 [気になる点]  特にございません。 [一言]  拝読させて頂きありがとうございま…
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