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第三部 繰り返す世界とそれを知る者

 ――グロリオケ率いる同盟軍と共に世界を救った。

 ――アネモネ率いる帝国軍と共に教団を倒した。

 しかし、誰についてもまた皆と出会う前に戻っている。

 皆を救える可能性のある道は、オキシペタルムクラッスの担任になり、王国軍に加勢すること。だが、それを五回繰り返したけれど何度やってもアネモネとキキョウは救えなかった。だからと言って同盟軍につくとユーカリとアネモネ、キキョウが戦死してしまうし、帝国軍につくとユーカリとガザニア、グロリオケが死んでしまう。だからどうしても、王国軍についた方が、戦死者が減るのだ。


 また、あの石の玉座の前にいる。そこには自分より身長の高い姿のヴァイオレット……いや、シンシアとユスティシー、アモールがいた。

「……また、繰り返したね」

「そうだね。どうしたものか……」

 どうしても、皆が生き残る道というものが見つからない。

 アネモネは人の世にするという「理想」がある。

 ユーカリは死者のために復讐するという「憎悪」がある。

 グロリオケは外の世界とディオースを繋ぐという「野望」がある。

 それらは決して、重なることはない。手を、取り合わない限り……。

「手を、取り合う……」

「どうしたのじゃ?シンシア」

「それなら、共通の敵を作ったらいいんじゃないかな?」

 突然の提案に三人はキョトンとする。

「共通の敵……って言うと?」

「三国が手を取り合えるような、取らざるを得ないような状況にするってこと。僕達は今まで一つの国だけに味方していたから重なり合うことが出来なかった。なら、三国にとって互い以上に脅威的な敵が現れたら……?」

「なるほど、どうあがいても手を取り合わないといけないということね」

 アイリスの答えにシンシアは満足そうに頷いた。確かに、ディオース大陸には「トリスト」という最大の敵がいるが……。

「でも、トリストのことを話しても意味ないと思うよ?」

 恐らく、空想上のものだと認識されてしまう。グロリオケならばまだ聞いてくれるかもしれないが、アネモネとユーカリは目の前の敵に夢中で聞く耳を持ちやしない。

 しかし、シンシアは首を横に振る。

「そうじゃない。もちろん、最終目標は奴らを倒すことだけど、あの状態じゃ不可能だって分かってる」

「……まさか、シンシア」

 考えていることが分かったユスティシーが目を見開く。シンシアはニヤリと笑った。

「そう、僕達が皆の敵になればいいんだよ」

 衝撃的な発言にアモールが「何言っておるんじゃ!」と叫んだ。

「おぬしらが死ななければならぬ理由なんてなかろう!」

 確かにその通りだ。シンシアはともかく、アイリスは赤の他人だ。本当なら戦争に出なくてもいい。

 ――ただし、自分たちが普通の人であれば。

「アモール、思い出して。確かに兄様とグロリオケさんは僕達が死ぬ必要がない。……でも、姉様の願いは?」

「アネモネの、願い……?……っ!」

 どうやら気付いたようだ。息を飲む気配を感じる。

「姉様の願いは、「女神に頼らない世界にすること」。つまり、僕達がいては姉様の願いは叶うことがない。……実際、姉様と共にアリシャを倒した時はあなた達の力を失って死んでしまったからね」

 恐らく、アリシャがこんな醜い世界にしてしまったのだろう。母や同族を復活させるために。だから、アリシャが死んだ時女神の力を得ていたアイリスとシンシアは同じように死んでしまったのだ。

「だから、おぬしらが犠牲になるというのか?」

「もちろん、アイリスに強制させるつもりはないよ。ただ、僕は一人でもやる。どうやらこの力はディオースだけに通ずるものらしいから、嫌なら大陸から逃げ出してくれていい。それなら死なずにすむハズだ」

 悪役なら、自分がふさわしいとシンシアは思う。化け物になり果ててしまったことのある自分には。だが、アイリスに強制はしたくないのだ。

 アイリスは少し考えて、

「……分かった、そうしよう」

 シンシアの提案に頷いた。シンシアは最終確認をする。

「……本当に、いいの?死んでしまったらその後は分からない。兄様達がトリストに負けてしまうかもしれない、また割れてしまうかもしれない」

 これは初めてのことだ。その後はどうなってしまうか分からない。それでもいいのだろうか?

「これしか可能性がないのなら、仕方ない。皆が救えるかもしれないという可能性にかけたいんだ」

 覚悟を決めた顔にシンシアは「……ありがとう、ごめん」と悲しい笑顔を向けた。

「じゃあ、どうするか考えようか」

 アイリスの言葉にシンシアは考える。今までの経験上……。

「そうだね。でも、アイリスは兄様達と会う、ベアテ大修道院に行く、シルディルテオスを授かる、アモールと一体化する……それは変えられないだろうね。だから、僕が行動を変えるしかないかな。世界の敵になるというなら……はぁ、仕方ない。気乗りはしないけど、士官学校に入学するか」

「いいの?あなた、アリシャが嫌いなんじゃ?」

 ユスティシーが尋ねると、シンシアは諦めの表情を浮かべた。

「仮に義賊を続けたとしてもこれ以上は情報を得られないだろうし、僕自身も皆とある程度の接点があった方がいいと思う。士官学校内でも情報を得られるならそうしたい。……それに、救える命があるなら救いたいしね」

「ヒイラギ卿とニールと……アルフレッドか」

 修道院の書庫は情報源の塊だ。アイリスは書庫の本を全て読破することは不可能だが、シンシアならば出来るかもしれない。それに、あくまでシンシアは「義賊ヴァイオレット」で課題には深く関われなかったが、生徒になればそれも出来る。つまり、救える可能性が高くなる、ということだ。

「でも、どうするの?」

「まずは領地に戻って……嫡子にならないといけないかな?そしておじい様を説得して、士官学校に入学する。おじい様も戦争が起こるということは知っているし、認めてくれると思う。出来たら協力申請もしようと思う」

「私達が死んだら、刻印もなくなる可能性があるのに?」

「ユースティティア家の人間は刻印なんていらないと思っているよ。少なくとも、私とおじい様はね。僕達領主は残酷な役目を背負っているから」

 その役目、というのはなくなったものも含め全ての刻印を覚えさせられるのと関係ある。領主にしか知らされない、ユースティティア家の「秘密」。

 アイリスですら、それを知らない。しかし聞くことは許されないのだ。なぜなら、それを知った者は誰であっても殺さねばならないと言われたからだ。

「……知りたい?」

 シンシアはアイリスの顔を見下ろす。その瞳は空虚で、何を考えているか分からない。

「いや……」

「――知らぬ存ぜぬを貫いて、誰にも、アルフレッドにさえ言わないのであれば、教えても構わないよ」

 それはどういうことだろうか?シンシアはニヤリと恐ろしい程凶悪な笑みを浮かべる。

「これはね、アリシャと初代ユースティティア大公爵アスルルーナの秘密の、そして一方的な約束なんだ。本当に残酷で、こんなことをする理由もないような、でも従わないとこちらが処刑されるから仕方なくやるもの。そんなものを、あなたが何も知らない、というのは協力しているのに理不尽かなって思って」

 ……なるほど、それだけの覚悟があるかということか。ゴクリとアイリスの喉が動く。

「――なら、教えて」

 気付けば、そう言っていた。シンシアはニコッと笑って「……分かった」と答えた。

「刻印を全て覚えさせられるのはね……かつて教団に逆らった刻印持ちの一族を、殲滅させるため。分かりやすい例でいえば、姉様の家族……皇族を、全て殺さないといけない」

「……っ!」

「全ての刻印を覚えさせられるのは、平民に紛れているその滅ぼすべき刻印持ちを殺すため。アリシャはそうしてまで、自分の理想郷を作り上げようとしているんだ」

 それでは、アリシャが一番の悪役ではないか。それを叔母の娘の血筋の者に強要して、自分に逆らう者は捨てていく。そして他の者達はそれを疑わない。唯一知っている大公爵は相当モヤモヤしていて、でも行動を起こすに起こせなくて……。

「皇族も、そういったことをある程度は知っているんだ。帝国は大戦争の前には既にあったからね。だから姉様は「人間の世」に戻そうと必死になっていたんだと思う。そう考えたら……僕は彼女の行動を否定出来ない。だからこそ僕は姉様を救いたいと思っている。自分の命がなくなってでもね」

 恐らく、そういった習わしとアネモネ自身が犠牲となった人体実験が教団嫌いへとさせてしまったのだろう。これを聞いたアイリス自身も近付きたくないと思ったのだから。

 答えようとすると、玉座が光り始める。「再開」の合図だ。

「……始まるね」

「えぇ」

 シンシアが騎士のようにアイリスの手を取った。女神達は既に彼女達の意識の中だ。

「さぁ、行きましょう」


 ――皆を救うための「舞台(ドラマ)」へ――。

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