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魔王side2


 彼女の家は貧……質素で、通学用の馬車にも困っている様だった。

 聖女に覚醒しないと貧……質素なままなのだろうか。


 いや、同情している場合ではない。

 だが……送り迎えぐらいはしてやろうか。


 それが間違いだった。

 まさか婚約者のフリをする事になろうとは……


『大好きな人が兄だなんて悲恋にも程がありますよ! 断固拒否します!』


 あからさまに好意をぶつけられ思考が鈍ってしまった。


 調子を狂わされてばかりでは面白くない。

 たまにはこちらが慌てさせてやろう。


 そう思ってあいつの髪に口付けたのだが、いや、何故こんな事した?

 やっぱりおかしい。




 それにしても、人間界の食事が美味いのには驚いた。

 王族の食事ならいざ知らず、たかだか学食の食事があんなに美味いなど。

 初めて学園の食堂で食べた時は驚きで、あいつの会話が耳に入っていなかった。


 あいつと行った露店のホットドッグなるものも美味かった。

 我が国でも作らせようと思った。



「はい、この世に存在してくださってありがとうございます」


 そんな事を言われたのは初めてだった。


 べっ、別に照れたわけではない。

 どう反応していいのかわからなかっただけだ。


 ああ、そういえば、後日あいつが自分で作ったというハンバーガーなるものも美味かった。

 これも我が国で作らせようと決めた。


 俺が美味しいと言うと、あいつはとても嬉しそうな顔をした。


「また作りますね!」


 ……また来てやってもいいかなと思った。


 ホットケーキ、サンドイッチ、フレンチトースト、カツサンド……


 行くたびに新しいものが出てきた。


 もしかして俺を食べ物で懐柔するつもりか?

 そうはいくか。


 でも食べ物に罪はない。食べてやろう。


 そんなある日あいつが言った。


「魔王様、この猫ちゃんの名前はなんて言うんですか?」


 名前は大切なものだ。そんなに簡単に教えるものではない。


「クロって呼んでもいいですか?」


「何っ!?」


 クロードの事を知っているのか!?

 ゲームとやらの知識か?

 まだ俺に言っていない事があるのか?


「前世で私が住んでた国ではこの猫ちゃんの色を『黒』って言うんです。だから──」

「駄目だ。そんな安直な。別のを考えろ!」


 クロードを「クロ」と呼ぶなど、そんな愛称みたいな事許せるわけがない。


「じゃあ、ノッテはどうですか? 私の国の言葉ではないんですけど『夜』って意味なんです」


 ……まあそれならいいか。


 それにしても、どうしても名前で呼びたいのか。

 名前で呼ぶなど執着を生むだけなのに……


「ノッテ、いつも馬車に変身して送り迎えしてくれてありがとうね」


 ノッテと名付けられたクロードは、にゃ〜(どういたしまして〜)と鳴いていた。


 いいからさっさと膝から降りろ。



 そしてまたある時はこんな事を言った。


「その、とっ、友だちは婚約者から会うたびに愛の言葉を囁かれているそうです」


 俺は「ループ」というものを止めるために婚約者のフリをして側で監視しているだけであって、そんなことを言う義務はない。


 しかし、あいつは食べ物を出さないという汚い手段に出た。

 クロードにはささみを出したのに。


 クロードも俺が紅茶だけだというのに何を食べているんだ?

 というより何故いつも膝に乗っているんだ?


 ……しょうがない。色々珍しいものを作ってくれているからな。たまには褒めてやるか。


「お前の作る料理は美味い」


 褒めてやったのに、あろう事かあいつは俺を睨んだ。

 本当に俺のことが好きなのか?


 俺に言い寄ってくる女は全員しおらしく頬を染め小声で何事か言っていたが、あいつは本当に遠慮がない。

 はっきり言うし、今なんて睨んでいる。


 こいつは一体なんなんだ?


「お前は面白い」


 余計に睨んだ。


 くそっ、こうなったら意地でも本当のことしか言わないぞ。

 俺を誰だと思っているんだ?

 下手に出ると思ったら大間違いだ。


「予想外の言動ばかりで正直疲れるが、一緒にいると楽しい……気がする」


「……ふふっ」


 えっ?


 なぜ笑う?

 睨まないのか?

 こんな事でいいのか?


 ……やっぱりよくわからない女だ。



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