出会い1
『……榊ナオ、至急司令官室まで来るように』
「え、俺か?」
突然、聞こえてきた名前にナオは足を止める。放送をもう一度よく聞こうと耳をすますと確かに名前を呼ばれている。
「何でだ?」
何かしでかしたかと考えてみたが最近は特に無いし、一ヶ月前のあの事を今更言われるとも思えない。
「司令官室ってどこだったっけ?」
入って間もない新人がわざわざ司令官室まで呼ばれる意味も分からない。
「おいナオ、またなんかやったのか?」「悪戯でもしたんじゃないの?」と近くを歩いていた友人に声を掛けられる。
「そんな訳ないだろ!」
軽くあしらいながら仕方なく司令官室に向かう事にした。
司令官室はこの建物の最上階にあり専用のエレベーターでしか行けない。普段使っている場所とは反対側にそれはあった。
「これか」
そこには関係者以外使用禁止と書かれていて普段は動かないらしい。ナオは持ち歩いているカードをセンサーにかざす。許可が降りていたのかランプが赤から青に変わり、開閉ボタンは反応するようになった。
エレベーターに乗り込むと最上階の表示しか無い。これを押せば後には引けない気がする。正直、行きたくないという思いは強かったが、このまま行かないともっと大変な事になるような気がして、覚悟を決めてボタンを押す。
そして最上階に到着してしまった。
開いた扉の先は赤い絨毯が敷き詰められた廊下で、ふかふかしていて足音もしない。しかも静かすぎて思わず竦んでしまう。
周りを見渡せば正面にある豪華そうな扉。他に扉はないからこの階には司令官室しかないらしい。
そう思えば少し気が楽になってきて目的地へと歩き出した。
扉の前に立ち軽くノックすると中から「どうぞ」と声が聞こえてくる。いよいよ覚悟を決めなければならない。扉を開け、見えたのは壁一面ガラス張りで街が一望出来る部屋だった。
最上階だからと言われたら納得するしかない光景だ。それから部屋を見回してみる。シンプルなデザインでまとめられていて、資料の積まれた机、中央にソファーセットただそれだけ。
観葉植物があったけど、興味なく視線を逸らした。
そして改めてソファーに座っている人物を見る。一人は40代前半ぐらいの男。黒っぽいスーツを着ている。
もう一人は20代後半くらいの青年で、同じ制服を着ていた。
じっくり見ていたらいきなり二人がこちらを向き、びっくりして固まった。どうすればいいか迷っていたら、青年の方がチッと俺に分かるように舌打ちし「ここに座れ」と隣を指し示す。
偉そうに、と思ったけど他にどうしようもないから渋々言う事を聞いて隣に座った。
「二人とも呼び出してすみません」
座った途端スーツの男の方が話し始める。
「確か二人は初対面だったよね?」
言われて隣にいる青年を見た。座っていても背が高いのは分かる。しかも悔しいがナオから見てもかっこいい。
じっと見過ぎたら青年に睨まれた。それにムッときて睨み返してやった。
「まぁまぁ二人とも最初から険悪にならないで下さい!」
笑いながら言われてもなぁ、と思ったが仕方なく前を向く。
「司令官、俺にこいつの面倒を見ろという事ですか?」
隣からこいつ呼ばわりされたことより目の前の男が司令官なんだと思うと驚きを隠せずて顔に出てしまったらしい。
司令官に笑顔で見られてしまった。
「とりあえず自己紹介からかな? ナオ、彼の名前は神薙レイです」
言われて隣に座る青年をもう一度見る。名前に聞き覚えがあるような気がする。
「レイってもしかして」
友人との話の中で噂として出てきた事があった。頭脳明晰、容姿端麗、非の打ち所がない、しかも謎だらけ。
「そのレイかどうか分かりませんが、ここにレイという名前の持ち主は一人しかいません」
ナオは顔をまじまじと見つめてしまい、それにはレイも苦い顔をしている。
「では本題に入っても?」
司令官の言葉に今の状況を思い出し我に返る。そして手渡されたのは一枚の資料だった。そこには細かい文字がびっしりと書かれており放棄したくなった。