表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/577

89 元気は出たか?

 食事を準備する前に、ユリアさんは俺に視線を向けて目を輝かせた。首を傾げて疑問を伝えると、ユリアさんはにっこりして大きく頷いてくれる。


「琥珀さん、髪が短いのも可愛いですね。ばっちり決まってます。さっき見た時に可愛いって思ったんですよ。そして、今日はマスターの特性スペシャルです。」


 どうやら、髪が短くなったのを気に入ってくれた頷きだったらしい。髪型を褒めてくれたユリアさんは、続けてニッコリ笑顔でどや顔を見せてくれた。ユリアさんの雰囲気につられて、おーっと拍手をしてしまう。そのマスターさんの特性スペシャルが楽しみ過ぎるんです。


「琥珀さんはそこで座ってお待ち下さい。ネロさんはどこでもいいですよ。適当にいて下さい。」


 ユリアさんはバスケットから料理を取り出して次々と並べていってくれる。ユリアさんの後姿をぼんやりと眺める事にした。ピンクのフリフリなエプロンドレスと、ふわふわの少し短い尻尾、後頭部に覗く少し小さな猫耳、全てがヤバいくらい可愛い。


 ミニのフワッと広がるスカートが、ユリアさんの動きに合わせてふわふわと揺れる。ユリアさんが前に屈んだ時に、少しヤバいかなって思ってしまった。でも、尻尾で押さえてるから平気だった。


 とは言っても、目は逸らしておいた方がいい気がしてきた。それにしても、年上のお姉さんだけど、ユリアさんの後姿は頭を撫でてあげたくなる可愛さだ。


 ユリアさんから目を逸らして、ぼんやりとテーブル付近を眺める事にする。視界に入ってきた、テーブルの上を眺めるネロの顔が少し引き攣ってるような気がした。ネロに視線を合わせると、ネロがゆっくりと顔を俺に向けてきた。


 ネロは少し困った顔をしている。ネロの反応に首を傾げてしまうと、ネロは更に困ったように腕を組んで顔を逸らしてしまった。どうしたんだろ。疑問に思ってる間に、料理を並べ終わったユリアさんがこちらを振り返って笑顔をくれる。


「食事、楽しんで下さい。では、ネロさん後は宜しくです。」


 手を振って出て行くユリアさんに手を振りかえして送り出す。さて、と立ち上がると、ネロの顔が少し強張った気がした。どうしたんだ?の疑問は直ぐに解決した。


 テーブルに視線を向けて、並ぶ料理を見て理解できた。手早く手配して海の魚を取り寄せてくれたのは嬉しい。テーブルの上に並ぶ料理は確かに生魚の料理だ。


 でも、これじゃない。これじゃないんだよ。俺は刺身が食べたかったの、和食が食べたかったんだよ。カルパッチョじゃないんだよ。でも、これも美味しそう。お刺身との再会は東の大陸まで我慢する事にしましょう。


 そうと決まれば、どう見ても美味しそうな料理の数々に、違う意味でテンションが上がってくる。見た目が華やかで、高級レストランで出てきそうなお料理が並んでるテーブルの上は凄く豪華な感じだ。


「想像してたのとは違ったけど、これも美味しそう。」


「琥珀。」


 ホント申し訳ないって感じで、ネロが耳を倒して尻尾をだらりと垂れ下げてしまった。猫耳と尻尾で、そんな感情まで表現するんだと少し感心してしまう。


 ネロの落ち込み具合にクスっとなってしまった。俺が落ち込んでたのより、ネロの方が凹んでしまったみたいに見える。俺が笑うと、寄せていた眉を戻したネロが、それでも心配そうに俺を見つめてきた。ゆらりと揺れ始めたネロの尻尾にほっとして、ネロの近くに寄って見上げる。


「俺はこの料理も好きだった。食べてみないと同じのか分からないけど、でも美味しそうだし、多分美味しい。それに、ネロが食べた東の大陸の料理は現地に行って食べるよ。いつかね。」


「そうか。言葉が足りなくてすまない。生の魚料理が複数存在している可能性を考慮していなかった。すまない。」


「ん。ネロの気持ちが嬉しかった。ありがとね。食べよ。」


 テーブルの上には白身魚、赤身魚、サーモンピンクの魚、ほんのりピンクの貝、そしてタコのように見えるモノのカルパッチョのお皿が並んでいる。緑の葉っぱや白い半透明の野菜、黄色やピンク、濃い紫色の花びらを散らしてあって彩も綺麗だ。


 ラスクのようにカリカリに焼いた少し小さ目なパンもある。後は野菜のスープと山盛りのお肉のソテーとグリルした野菜が沢山と、ソースの入った小瓶。お刺身じゃないけど、これはこれで美味しそう。


 席について、食べよってネロを見ると、ネロも向かいに腰を下ろしてくれた。ネロが祈りを終わらせたタイミングでいただきます、と手を合わせる。


 本気でお刺身を食べたかった気持ちより、目の前の彩綺麗な料理への気持ちの方が大きくなってる。目の前のカルパッチョが気になり過ぎてにこにこしながらネロの動向を伺う。


 ネロが全種類のカルパッチョを少しずつお皿に取り分けてくれた。ラスクも1つお皿に乗せて手渡してくれる。カルパッチョの盛り付け方がプロの料理人かよって感じで超綺麗。


 ありがと、と受け取ると、ネロは俺を見守る事にしたらしく食べ始めない。どうやら、俺の反応が気になって見守ってるらしい。それでは、遠慮なく頂きますよ。


 にこっとして、タコっぽいのをフォークで掬ってみる。口に入れると、くにゅくにゅとした食感と味わいがやっぱりタコだ。どう考えても絶対タコだよ。タコってこの世界にもいるんだね。


 もきゅもきゅ、ごっくんと飲み込んでネロに顔を向けてみた。はらはらドキドキって感じで俺を見つめているネロが目に映る。まぁ、感じがするだけで、ネロの表情は少し緊張した真顔なんだけどね。


「この食材って何だろう?めっちゃ美味しいよ。」


「分からない。初めて食べる。」


「そうなんだ。美味し過ぎてヤバい。」


「後でマスターに聞くか?」


「うん。これを使った他の料理が食べてみたい。これ好き。」


 そう。何を隠そう。俺はタコが大好物なのだ。既にエビとかイカは食べた気がするけどタコもいるんだね。大好物が存在してるってのは嬉しい。


 ニコニコとなってる俺の反応で、ネロにもこのお料理でも何の問題もなかったってのが伝わってくれたらしい。ネロもやっと食事を始めてくれた。


 ということで、俺は引き続き料理を楽しみます。味わってみたところ、全種類少しずつ味が違っていた。マスターさんはマジで料理の天才のようである。


 タコは何かの風味のあるオイルに塩と少し柑橘のシンプルな味わい。貝は香りのないオイルに酸味の強い柑橘が少し強くて胡椒の風味。白身魚はフワッと香るスパイスと香りの薄いオイルにしっかりとした塩味。サーモンのような魚は酸味の薄い柑橘と数種類のスパイス。そして赤身魚は香りの強いオイルに塩のみ。


 カルパッチョに散らされている野菜や花びらからは、ほんのりお酢の酸味とスパイスが香っていいアクセントになってる。全種類、問題なく美味しいし、マスターさんの意気込みを感じた。


 タコのカルパッチョをカリカリのラスクに乗せて食べてみる。あ、ヤバい、幸せ。全種類を制覇して、ネロに視線を向ける。ネロはいつものペースで食べていたのか、カルパッチョの半分程とお肉のソテーの半分程がなくなっていた。


「やっぱりこの料理も美味しい。マスターさんは天才だね。」


「ああ、美味いな。」


 美味しさで嬉しくてにこっと笑顔になった俺に安心したのか、ネロも微笑んでくれた。ネロの綺麗な微笑みは見惚れてしまう程綺麗だ。いつも真顔じゃなくて、いつもそうやって表情を出してくれたらいいのに。


 まぁ、今は無理に笑うと顔の傷が痛そうかなって気もするけどね。微笑んだネロを眺めながら色々と考えている間に、ネロは別の取り皿にお肉のソテーとグリルした野菜を数種類取り分けてくれた。そして、その上にたっぷりとソースをかけてくれた。


 ネロの取り分けてくれるのを見ていたら、お肉な口になってきた。俺が食べきれるくらいの量を自然に選択できるネロは気配りが凄いんだろうね。


 そして、小皿に盛り付けられた料理は綺麗に盛られていて美味しさ倍増。お肉を小さく切り取って、ソースをつけて口に運んでみる。口の中に広がった味わいに、思わずネロに視線を向けてしまった。


「このソース。」


「琥珀が美味いと言っていた。」


「うん。美味しい。」


「今日はソースは別の器。無くなる事もない。」


「ありがと。」


 俺が好きって言ってた生姜風味のあっさりソース、ネロはそれを注文してくれていたんだ。で、ソースが無くなって悲しかったって愚痴ってしまったのも、しっかり聞いてくれていたらしい。


 ネロの優しい気持ちが伝わって、笑顔でネロに感謝の言葉が出てきちゃった。ネロの頬が少しだけ緩んでくれた。優しい笑顔に見えない事もないネロの表情。さっきの微笑みよりは笑顔じゃないけど、笑顔に感じられる優しい顔。


 グリルした野菜はどれも美味しかった。白くてふわふわした不思議な食感で不思議な風味の野菜。クリーム色でお芋みたいにホクホクして甘い野菜。そして、緑色のブロッコリーみたいな野菜。


 三種類の野菜は全部ソースにばっちりあって間違いのない美味しさだ。特に、表現できない白いふわふわの野菜がソースをつけるとヤバいくらいに美味い。


 箸休めに少し冷えてきたスープを味わいながら視線を上げてみた。ネロはカルパッチョをどうするか悩んでる感じがするかな。多分俺がおかわりをするかで悩んでそう。自分のお腹と相談してみる。


「その俺が好きって言ったのだけ、あと二切れ貰っていいかな。あとは、ここにあるのでお腹いっぱいになると思う。」


 ニッコリ笑顔でタコを所望してみた。そして、最初にカルパッチョを取り分けてくれたお皿をネロに渡してみる。ネロは頷いて、タコを二切れと白身を一切れ、取り分けてくれた。タコだけでいいって言ったのに、っておまけをつけてくれたね。なんでだろう、ネロに首を傾げて疑問を伝えてみた。


「白身を美味そうに食っていた。」


「ああ、確かにこれ以外だと一番好きだったかも。」


 俺は白身が美味しかった、なんて一言も言ってないのに良く分かったな。凄いな。やっぱり、ネロは観察して答えを導いてる系なんだね。観察眼の持ち主なんだ。暫定能力、観察眼という事にしておきましょう。勝手にネロの能力を設定してみた。


「ネロも俺と同じくらい表情を出してくれたら、俺もネロが何を考えてるのか分かるのかな?」


「そうだな。」


 素朴な疑問とも拗ねた口調とも、とれる感じで質問をしてみる。ネロは目を細めて優しく、肯定とも否定とも、とれる相槌を打ってくれた。


 ネロは嬉しそうに微笑んでいる。どうしてなのかな。やっぱり俺には観察眼はないらしい。見ただけでは判断はできなかった。会話は終了してネロは食事に戻ってしまった。


 俺も残りを食べる事にする。先にスープを片付けて、お肉と野菜も完食。最後に残していたカルパッチョを美味しく頂きましょう。


 タコをゆっくりと味わって、次に白身を口に運んでみる。おぉ、タコの後に白身を食べたら、白身の甘さが引き立った。白身の風味が抜群にいい。最後に名残惜しいけどタコを食べてご馳走様。


 少し計画と違ったけど、これはこれで美味しかった。俺が食べ終わると直ぐに、ネロがお茶を淹れてくれる。俺がお茶をのんびり飲んでいる間にネロがテキパキと片付けをしていく。非常に手際がいい。


「ネロ。ありがとね。凄く美味しかった。」


「礼はマスターに。あと、族長。」


「違う。落ち込んでる俺に用意してくれたんでしょ?俺の好物が入ってて嬉しかった。」


「元気は出たか?」


「うん。ありがと。暗くなってごめんなさい。」


「問題無い。少し出る所がある。一人で返してくる。」


「はーい。ありがと。」


 ネロがバスケットを持ったのを機に、俺も立ち上がる。俺を制するように声を掛けてくるネロに頷いて座り直す。一緒に返しに行く散歩は楽しいけど、用事があるんじゃしょうがない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 毎回、食事シーンが本当においしそう…… ですが、この回のカルパッチョは格別です。 食材ごとに味付けが違うというこだわりよう。 ああ、これ食べたい! と本気で思いました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ