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88 寧ろその方がいい

 ネロが武器の本を開いて読み始めたから、隣で覗きながら一緒に読ませて貰う事にした。細かく挿絵が入ってる本で、掲載されているのは比較的小型の武器が多い。俺に合わせてか、ネロはゆっくりとページを捲っていってくれる。


 一つ一つの武器に、小さな挿絵で武器の全体像が描かれている。そして、細かい文字でびっしりと武器の特徴、性能、付与されている効果などが事細かに説明されている。小さな挿絵だけど、かなり細かく精密な挿絵だ。


「武器の保管庫を大きくしたから新しい武器が欲しくなった?」


「一応、どのような武器が増えたか確認を。」


「増えるってどういう事?」


「職人が開発する武器。開発される程、種類が増えていく。」


「へぇ、そうなんだ。あ、ニル君がやってるみたいに紋様の効果とか?」


「それもある。職人独自で製法に差をつける事で武器の差異が生まれる、との事だ。」


「ほー。ネロが今持ってる武器よりも凄い武器があるかもってことなのかな。」


「胡蝶と白雪、後はこの黒漆の短刀を超えるモノは無い、多分。」


 そう言ってネロが腰から短刀を取り出した。黒く艶っとした鞘と柄の、シンプルで美しい短刀に手を伸ばして表面を撫でてみる。艶々してるのに指を当てても指紋や曇りが一切つかない、不思議な質感だ。


 ネロの手から短刀を持とうとすると、ネロがダメって感じで首を振ってしまう。手を引っ込めると、ネロは鞘から引き出して刀身を見せてくれた。前に見た通りの綺麗な刃紋で、綺麗な金色の紋様が銀色の刀身に浮かんでいる。本当に綺麗な武器だ。


「この子はどこで手に入れたの?」


「どこだったかな。」


 短刀を鞘に収めたネロが腰に戻してしまった。質問をする俺に少し考えるそぶりをしたネロだったけど、やっぱり覚えてないらしく首を振っている。


「忘れた。」


「そうなんだ。でも、多分、その形的に東の大陸な気がしない?」


「そうだな。その可能性もある。」


 太刀や薙刀があって浴衣もある。そしてお米もある東の大陸、どう考えても東洋なイメージのその土地に凄く惹かれるのは仕方ないよね。外国に旅行しても、故郷が懐かしくなるのは普通の事だと思うんだ。似た環境かもしれない東の大陸はある意味憧れの土地になっても当然なんだよ。


「いつか東の大陸に行ってみたい。」


「それでこの本を見ていたのか。」


「ちゃんと自分で歩いて行けるように。学んでおかないとね。」


「そう、だな。」


 ネロはローテーブルの上の俺が買って貰った本に目を向けて、成る程って感じで呟いてくれた。決意を自分にも言い聞かせるように話してみる。ネロの顔に少しだけ何かの感情が浮かんで、直ぐ無表情になってしまった。


 でも、ネロの表情の変化より東の大陸に意識を持っていかれてしまった。黙って買って貰った本に目を向けていると、ネロは会話は終了と判断したらしい。ネロは本を読むのを再開し始めた。


「昼の時間を少し過ぎた。腹は減っているか?」


「あ、食べる。お昼御飯が超楽しみなんだよね。」


「では、行くか。」


 ぼんやりと武器の本を眺めている俺の集中が切れている事に気が付いたらしい。ネロが心配そうに俺を覗き込んできた。顔を上げると、ネロがお昼御飯を聞いてくれてテンションが上がってしまう。


 そうだ、今日のお昼はお刺身なんだよね。楽しみ過ぎる。にっこにこで大きく頷いてしまったら、ネロは頬を緩めて、本をパタンと閉じてくれた。


 読書は終了、武器の本を俺の本に重ねて置いて、ネロがソファの横に置かれたマントに手を伸ばす。立ち上がると、ネロがマントを丁寧に羽織らせてくれる。そして〈シール〉もかけてくれた。流れるように自然に行動するネロに身を任せていたら、いつの間にか外出の準備が整っていた。


 先に家を出て行ったネロを追いかける。食事場までのゆっくりとしたお散歩だけど、今日はお昼御飯が楽しみ過ぎて早足になってしまった。ワクワクとネロを見上げると、ネロは俺と目を合わせて優しく目を細めてくれる。


 ネロの眼差しは、テンションの上がっている俺を見守ってくれている親みたいだ。ネロの眼差しが凄く優しく感じる。嬉しくて笑顔になったら、ネロも頬を緩めてくれた。


「琥珀、手が空いてる時にレオの散歩に同行して欲しい。」


「レオさん?」


 不意にネロに話しかけられて、その内容に首を傾げてしまう。なんでレオさんの散歩なんだろ。あんな歩きにくそうだったのを見てしまうと、レオさんの隣は歩きたくないんですけど。


「琥珀が言っていた。動きがおかしかった、と。琥珀に合わせる事ができないのは、全身の筋肉が滑らかに動かせていないという事。速さだけを求めるからそうなる。」


「ほう。」


 ネロの言葉で目が丸くなった。ネロの視点は俺が感じたのとは全然違っていたらしい。確かにそう言われるとそんな気がしてきた。


「一種の訓練になる。横をできるだけ遅く歩いてくれ。」


「俺が歩くの遅くても問題ないの?」


「寧ろその方がいい。」


「うん。そっか、それでいいのか。」


 ネロの言葉が嬉しくて満面の笑みになってしまった。ネロも笑顔とまではいかないけど、口元を緩めた優しい表情で隣を歩いてくれる。遅くても、ステータスが壊滅的にヤバくても役に立つ事もあるって言われた気がして嬉しかった。


「いつでもいいよ。俺は暇だし。」


「では、夕食後、レオの家に行くか。」


「今日?」


 俺でも役に立てる、ってのが嬉しくて笑顔で了承したら、ネロがそれならばって感じで提案してくる。唐突過ぎて、流石に今日の話じゃないよねって思いながらも一応聞き返してみた。


「抜き打ちで部屋の確認。」


 でも、そうだったらしい。悪戯っぽく提案するネロを見上げてしまった。見えるのは、言葉のニュアンスとは違う全く無表情のネロだったけど、ふふっとなって頷いちゃった。ネロ仕掛けのドッキリですね。


「レオの家まで送った後、俺は仕事で出る。家まではレオに送って貰え。可能な限りゆっくりと歩いてくれ。」


「分かった。そういえば、レオさんはいつも半裸なの?」


「仕事の時は服を着ている。」


 あ、まぁ、確かにアルさんの所で会った時のレオさんはちゃんと服を着てた。思い返すと、あのお泊りの時以外のレオさんはちゃんと服を着ていた、それは間違いない。でも、家の中とかプライベートは裸っぽいよ、平気なの?


「この前、下着だけで食事場に行ってたけど問題ないの?」


「本人が良ければ問題無い。」


 へぇ、そんなモノなんだね。この村の中ではそういう常識なのかな。ってか、ネロは超適当に言ってるというか、メチャクチャ興味ない感じだよ。ホントにそれが正しいのかな。


「ネロは裸で村の中を走り回ったりはしないよね。」


「暑ければそうする、かもな。」


「えっ。」


 冗談でネロはどうよ、って確認をとってみた。返ってきたネロの言葉に驚いて立ち止まってしまう。俺が止まると同時に、ネロも立ち止まって俺を見下ろしながら楽しそうに口の端を上げた。驚き過ぎてネロを凝視してしまう。


「冗談だ。」


 驚愕の俺が時間停止したのを終わらせたのは、ネロの一言だった。めっっっっちゃ驚いた。真顔で冗談を言わないで欲しい。てか、ホントに冗談だよね。話は終わったとばかりに、前を向いて歩き出すネロを追いかける。


「ネロさん。真顔で冗談はどうかと思うんですけど。ネロのは冗談かどうか分らない、高度な感じだから止めた方がいいと思うんですよ。」


「そうか?」


「うん。上半身裸で徘徊するネロを想像してしまった。そして、レオさんみたいにユリアさんに怒られてるネロの姿。悲しい。」


 言葉に出した後で少し想像してみた。ネロがレオさんみたいにズボンだけで歩き回っている姿。みんなに注目されてる姿。そして、目を丸くした可愛いユリアさんに注意されてるネロの姿。


 まぁ、どうだろ、ちょっと見てみたい光景かもしれない。全然悲しくなかった。寧ろ見てみたくなった。いつもきっちりしてるネロのそんな姿、レア過ぎて少し見てみたい欲望が湧いてくる。


「分かった。止める。」


「そうして。」


 色々想像してたら、ネロが低い声で遮るように言葉を挟んできた。あ、そうだね、止めた方がいいね。少し冷静になってネロの真似をして淡々と答えてみる。


「でも、上半身裸で村を走った事はあった。」


「マジですか。」


 そんなレアな光景が日常であったのかよ。俺も見たかった。ってか、見たい。そっか、じゃあ、ガトの村では上半身裸くらいは別に普通なんだね。


「琥珀を迎えに行った日。」


「俺?」


「攻撃で服がボロボロに裂かれて、邪魔だから上の服は捨てた。下もかなり破れていたから、見ようによってははだけていた、かもしれない。族長への報告時に、琥珀がレオの家に滞在していると聞いて。体調も崩したと聞いて。動転して着替えをせずにレオの家に走った。半裸ではあったが、特に苦情も怒られもしなかった。」


 って、それは緊急事態で日常の光景じゃないね。レオさんの普段の光景とは全然違う感じだった。そして、あの日、急にネロの家に移動してた理由がやっと分かった。ネロが帰ってきたのが嬉し過ぎて、移動していた事を全然疑問に思ってなかった。


「ネロが迎えに来てくれてたのか。寝て起きたらレオさんの家からネロの家にワープしてたからびっくりしたんだよ。でも、ネロが傍にいるのが嬉し過ぎて疑問に思わなかったらしい。」


「少し、体力も気力も消耗していた。琥珀の横で裸のままで寝てしまったが、琥珀も文句を言わなかった。」


 あー、そうだね。確かに俺も文句は言ってないよ。一瞬だけ、なんでレオさんはまた裸に戻ってるの、とは思ったけど。あの時は、嬉し過ぎてネロの服とか気にする余裕なかったからね。


「そっか。でも、そのネロのケースとは違うんだよ。レオさんは日常的に裸なの。ガトでは普通の事なのかな?」


「普通かと言われると普通ではない。」


「やっぱり。でもさっきは本人が良ければ問題無いって。」


「本人次第。勝手にすればいい。」


 やっぱ普通じゃないじゃん、問題ある行動だった。さっきの話をもう一度聞いてみたら、ネロは全く興味のない話題って感じの返事を返してくれる。


 ネロをじと目で見てしまう。成る程ね、興味がなさ過ぎてどうでもいいから本人が良ければって事なのか。ネロはじと目の俺から目を逸らして上空を眺めてしまった。じと目を継続して、ネロの横顔を眺め続けてみる。


 片耳をこちらに向けた後で、ちらっと俺を見たネロは、スっと目を逸らしてしまった。どうやらネロは少しだけ反省をしてるらしい。


 愛猫・雪丸君も良くこんな風に反省をしてた。テンション上がって、ティッシュの箱からティッシュペーパーをびりびりに引き出しまくって、叱られた雪丸の態度と同じだ。


 耳を後ろに伏せて神妙な顔をしたままで、目を合わせてくれないんだよね。でも、俺の反応は気になるって感じなのが可愛いんだよ。


 程なく食事場に到着した。ネロにくっついて調理場に入らせて貰うと、ユリアさんが笑顔で挨拶をしてくれた。俺も挨拶を返して、ネロの注文する様子をそわそわと眺める。注文の終わったネロは俺の傍に戻ってきて頷いてくれる。


 やったー。お刺身が食べられる。ひっさしぶりの和食、っぽいの。嬉しすぎて小躍りしたくなる。満面の笑みを浮かべているであろう俺につられたのか、ネロもほんの少し笑顔っぽくなってくれた。


 ユリアさんも俺の反応につられるように、にこにこになって手を振って送り出してくれた。嬉しさから振り返ってしまう俺の背中を、ネロが軽く押すようにして外に連れ出されてしまう。俺の斜め後ろを歩くネロを見上げながら進む。


「元気になったようだな。安心した。」


「ご飯が楽しみ過ぎて悩んでた事が吹っ飛んだ。」


「そうか。」


 頬を緩めたネロに話しかけられて、テンション高く返す。更に嬉しそうに目を細めるネロが嬉しそうに相槌を打ってくれた。マジで、お刺身か、楽しみだな。


「ネロも久しぶりに食べるんだよね?」


「そうだな。調味料が独特で美味かった記憶がある。塩だったり、酸味の強い果実も美味かったが、濃い褐色の調味料が生の魚によく合う味だった。後は辛味のある緑の野菜。鼻に抜ける刺激が良かった。」


 思い出すようにネロがゆっくりと話してくれる内容を聞いて、更にテンションが上がってくる。ヤバいじゃん。それはお醤油だよ、そしてどう聞いても山葵じゃん。何気に、スダチっぽいのもあったりするんだね。


「おお。醤油もあるんだ。山葵も。」


「『ショウユ』?野菜は確かにそんな名前だった、多分。」


「多分。俺の故郷の調味料に似てる気がする。あー、懐かしい。」


「成る程。琥珀の故郷の料理に似ているから求めたのか。」


「うん。そうなんだよ、ネロの話を聞いてて凄く懐かしくなった。」


「そうか。」


 ネロと並んで歩く帰り道は楽しい。ご飯も楽しみ。ご飯が美味しいと幸せだよね。にっこにこで歩く横で、ネロは俺を見守るように優しい雰囲気を纏わせて、ゆっくり歩調を合わせてくれた。


 ふと気が付くと、前を見通せないくらい濃い霧になっている。少し怖くなってネロの服を掴んでしまった。ネロは俺に掴まれても全く動じる気配もなく隣を進んでいく。


「レオさんの家に行く時にね、レオさんとはぐれてどうしようかと思った。レオさんの家の場所は分らないし。どこにいるかも分からなくなったし。雨だから周りに人が誰もいなくなってたし。」


「そうか。」


 不安になって服を掴んじゃった事の言い訳みたいにネロに話しかけていた。俺の不安を分かってくれたのか、ネロは優しく頷いてくれる。安心できるネロの存在が凄く嬉しい。


「ネロは先に行かないでね。はぐれてもネロの家は分るけど不安になる。この霧の中で一人だとどうしようってなっちゃう。」


「手を伸ばした先にいる、離れる事はない。」


 ネロを見上げて呟いてしまうと、ネロが優しく目を細めてくれる。優しい表情のネロが静かに答えてくれる声は、いつも通りの低くて落ち着いた淡々としてる声だ。でも、凄く優しく感じる。


「ごめん。ちょっと子供っぽかったね。胡蝶と白雪の後から、どんどん子供っぽくなってく気がする。ネロに甘えちゃってるんだろうね。」


「問題無い。」


「ありがと。」


 ネロの服を掴んでゆっくりと歩いていると家に到着した。マントを外してソファに腰を下ろすと直ぐに、ユリアさんの声が聞こえてきた。ネロが入り口を開けるとユリアさんが飛び込んでくる。

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