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85 そんな能力はない

 ゆったりと歩いて食事場に到着。俺が外で大きな風の膜を見上げている間に、ネロは食事の注文をしに行ってしまった。ぼんやりと大きな風のテントを見上げていたら、声を掛けられた。声の主に視線を向けると、上半身裸で濡れ鼠のレオさんだ。


「レオさん、こんにちは。この前はお礼も言わずに帰っちゃってごめんなさい。気が付いたらネロの家だった。」


「気にしなくていいよ。それより、一人で来たのか?俺のトコに行くか?」


 レオさんは、俺が一人でポツンと立ってたから心配してくれたっぽい。でも、ちゃんとお礼を伝える事ができて良かった。今日もレオさんは平常運転で裸なんだね~、そして、びしょ濡れなんだね~。


「ネロがあっちに。」


「まぁ、そうだろうな。」


「部屋はまだ綺麗なまま?」


 目を細めて安堵した感じのレオさんに部屋の状況を聞いてみる。今のレオさんの平常運転な感じを見ると、部屋がもう荒れてそうで怖いからね。一応確認だけね。


「うん。完璧に維持してる。」


「じゃぁ、今度抜き打ちで見に行こっかな。」


「お~け~。待ってる。じゃ、またね。」


 抜き打ち検査の提案をレオさんは了承してくれた。そして、会話は終了して、レオさんは大きな風の膜の中に入っていってしまった。


 レオさんの後ろ姿を眺めていたら、いつの間にかネロが横に佇んでいるのに気が付いた。音もなくイキナリ出現した感が凄くて、びくっとなってしまう。立ち止まって動かないネロを見上げてみる。ネロもレオさんをじっと見つめていた。


「レオさんに用事?」


「いや、帰ろう。」


 仕事で伝える事があるのかなって思って聞いてみたけど、そうではないらしい。俺の事は気にせずに行ってきてって、伝えてみる。でも、ネロは首を振って、ふいっとレオさんから視線を逸らしてしまった。


 まぁ、急ぎじゃないって事かな。納得する俺の横で、ネロが何かを言いたげに覗き込んでくるのに気が付いた。ネロを見上げて首を傾げてみる。


「昨日言っていた事をするか?」


「昨日のって何だっけ?」


「俺の全速力。」


「おお。する。」


 ネロが問い掛けてきた事が分からなくて、聞き返してしまった。答えてくれたネロを見上げて、目を輝かせて答えちゃった。だって、ネロの全速力だよ。超興味あるじゃん。


 ネロはふっと頬を緩めて、俺をフワッと抱き上げてくれた。そして、俺を抱いたままで走り出す。確かにいつもの走りよりかなり速い。


 少し揺れるって言ってたのに、振動が少しだけあるかな程度で全然揺れないじゃん。レオさんがゆっくり走ってくれた時より全然揺れない。ただ、耳元で聞こえる心臓の鼓動が早い。そして、スピードが乗ってきたのか驚く程に速くなってる。


 2分もかからずに家に到着した。少しだけ息を乱してるネロを至近距離で感じる。家に入ってから俺を下ろしてくれたネロは、流れるような動作で、〈シール〉を解除して、マントを外してくれた。


 ネロにイロイロやって貰ってるのを知覚しながら、ネロの走りの余りの速さに固まってしまっていた。ネロがマントを畳んでソファの横に置きに行くのを、ぼんやりと目で追ってしまう。戻ってきたネロが覗き込んできて、金色の瞳が見えて我に返った。


「めっちゃ速い。ネロはやっぱ凄いね。俺と歩いてくと15分とか20分とかなのに、今は2分もかかってない気がする。俺が遅いってのは良く分かった。」


「楽しめたか?」


「うん。凄かったけど、俺の駄目さが浮き彫りになって悲しくなった。」


 しょんぼりとなった俺の頭を、ネロが撫でてくれた。顔を上げると、優しく微笑むネロが見える。柔らかな雰囲気の綺麗なネロに一瞬見惚れていた。


「琥珀と共に歩むと違う景色が見える。それもいいモノだ。」


「ネロってホントにイケメン過ぎるっでしょ。ヤバい台詞だった。」


 そう、ヤバい台詞とヤバい笑顔だった。何というイケメン感。圧倒的なイケメンだね、これは女の子が放っておかない感じだ。ネロは凄いな、強くて優しくてイケメンとか、非の打ち所がない人だよな。ちょっと抜けてる所もあるけど、それを補って余りあるこの圧倒的イケメン。


「本当の事だ。」


「そっか。ありがと。でも、ネロが息切らしてるのは初めて見た。」


「全速力で走る事もそうある事ではない。」


 もう息が整ってるネロの胸に手を当ててみる。手に感じるのは緩やかな鼓動だ。もう鼓動も落ち着いているらしい。手を離すとネロはお茶を淹れるらしく、離れていった。


 俺はソファに向って、ぽふんと倒れるように座り込んだ。ネロがお茶を用意するのを眺めていたら、俺をちらっと見たネロが目を細めた。ちょっとだけご機嫌かな。


 それにしても、いい笑顔ができるなら、もっと笑顔を見せたらいいのに。ぼんやりとネロを眺めながら考えていたら、ネロがお茶を持って俺の隣に戻ってきた。ネロが差し出してくれるカップを受け取りながらお礼を伝える。


「レオと何か話をしたのか?」


「お礼も言わずに帰っちゃってごめんなさいって。で、部屋はまだ綺麗か聞いてみたら、まだキープしてるって言ってた。あと、今度抜き打ちでチェック行くねって言っといた。ネロがマントを取りに行ってくれた時はどうだった?まだ部屋は綺麗な状態だった?」


「この部屋よりは散らかっていた。かな?」


 暫しまったりとお茶を楽しんでいたら、ネロがぽつりと聞いてきた。ちゃんとお礼を伝えられたって笑顔で答える俺の髪を、ネロが優しく撫でてくれる。俺からも質問をしてみると、ネロは思い出すように背もたれに寄りかかって中空を眺めた。少し考えた後で静かに答えてくれる。


「まぁ、ネロの所と比べたら可哀想だよね。でもね、あの時のレオさんの部屋はほんっとにヤバかったんだから。」


「琥珀は、」


 お食事お持ちしましたー、とネロの言葉を遮る感じで、元気な声が外から聞こえた。今日もユリアさんは元気なようだね。ユリアさんは声を聞いただけで、ニッコリとなる雰囲気を持ち合わせてるんだよね。ネロがユリアさんを迎え入れると、ユリアさんが元気に飛び込んできた。


「おはようございます。琥珀さん。今日も生憎の雨ですね。」


「おはよう、ユリアさん。雨が長く続くね~。」


 他愛無い挨拶を交わした後でユリアさんが料理を並べていってくれる。あ、椅子を戻すの忘れてた。朝御飯の後で戻すとしようか。並べ終わったユリアさんはネロに後宜しくです、と伝えて俺に手を振って出て行った。俺も手を振って見送る。


 テーブルに移動すると、やっぱり片側にセッティングされている料理達。椅子を見て料理の並びをちゃんとしてくれるユリアさんは有能である。普通に隣り合って座って、ネロに目を向けてみた。


「椅子を戻すの忘れてたね。」


「そうだな。」


「食べ終わったら戻そっか。今回はこっち側に纏めてくれたから、これで。」


「そうか。」


「さっき何か言いかけた?ユリアさんで遮られちゃったよね。」


「何でもない。食べよう。」


「らじゃ。いただきます。」


 手を合わせて、祈り中のネロを横に、テーブルの上を眺める。今日のお料理達も美味しそうですね。チーズを乗せてトーストした厚切りパン。スクランブルエッグとカリカリに焼いたベーコン。たっぷりのグリーンサラダと具のない澄んだ亜麻色のスープ。後は果物が少々と蜂蜜の小瓶。


 これぞ朝御飯って感じで美味しそう。でも、スープと果物以外は、全部大皿で用意されてる。シェアして食べるスタイルか。それもまたいいですな。わいわい食べれる感じがいい。


 どれにしようかと悩んでしまう美味しそうな料理に、テーブルの上を眺めてしまう。ネロが取り皿にチーズトーストを一切れ置いてくれて、蜂蜜の小瓶をその横に設置してくれた。


 ナイスチョイス。チーズトーストに蜂蜜の組み合わせは美味いのは確定だからね。ネロにありがと、と笑顔で伝える。チーズトーストに蜂蜜をかけて、とろっとした蜂蜜が零れないようにお皿に顔を近付けて齧り付いた。


 これですよ。サクッとしたパンの香ばしさ、少しだけ塩味の強いチーズに蜂蜜の甘さ。全てが一体となった至福のひと時。口の端についた蜂蜜を舌で舐めとる。横を見ると、ネロはチーズトーストにスクランブルエッグを乗せて食べていた。俺の視線に気が付いたのか、ネロが俺に顔を向けてくれる。


「これ、めっちゃ美味い。ネロに食べて貰えないのが悔しいくらい美味い。」


「そうか。俺の食べてるこれも美味い。」


「うん。次は卵を乗せてみる。ネロのを見てたら美味しそうで食べたくなっちゃった。」


 会話は終了して、ネロは食事に視線を戻してパクパクと食べ進めていく。ネロに倣って自分も食事を再開する事にした。ネロが取り分けてくれていたグリーンサラダを摘んで、スープを少し味わう。またチーズ蜂蜜トーストを口に運んで、すかさずスープ。


 嫌いな人もいる事は知ってるよ。でもね、甘いのとしょっぱいのの組み合わせって、上手くハマると美味さが倍増する気がする。この、チーズトーストと蜂蜜はにっこにこになるお味ですね。


 一枚目のトーストを食べ終わって、サラダを食べながら思う。果たして、俺は二枚目を完食できるのだろうか、と。じっと目の前のトーストを眺めながらお腹と相談してみた。


 視線を感じて顔を横に向けると、俺を眺めているネロと目が合った。首を傾げたら、何処からともなく取り出したナイフで、ネロがトーストを4等分にしてくれた。おお、と目を見開いてしまう。マジで俺の考えてる事を読んでるのかってくらい、先回りして食べきれる大きさにしてくれた。


 そのまま、ネロは自然な動作でカリカリベーコンとスクランブルエッグをトーストの一欠けに乗せている。そして、その美味しそうなトーストを俺の前の取り皿に置いてくれた。


 ネロは分割されてないチーズトーストの一枚にサラダとカリカリベーコンを乗せている。さらに、もう一枚で挟んで食べ始めた。うぁ、それも美味そう。なんで、人の食べてるのは美味しそうに見えるんだろうね。


 手を伸ばして4等分されたトーストの一欠けを取り、ネロの置いてくれたベーコン卵の上に重ねてみた。ネロみたいにサンドイッチを作って食べると、ボリュームがヤバいけど食べ応えが抜群だ。


 ちらっと横を見ると、ネロのサラダベーコンサンドはもう食べ終わりそうだった。俺のお腹的にはもう今ので限界だからね、今は諦めるよ。でも、次にチーズトーストが出てきた時がその時だ。ネロの作った美味しそうなサラダベーコンサンドを俺も作って食べてやる、と心に誓ってみた。


 視線を戻して自分のを食べようと口を開いたら別のサンドが横から差し込まれた。パクッと咥えて小さく切り取って、もぐもぐ口を動かしながらネロをに目を向けてみる。ネロは頬を緩めて嬉しそうに俺を眺めている。しゃきしゃきサラダとカリカリベーコンが口の中で合わさって最強でゴザル。


「ネロ。もしかするとだけど、俺の考えてる事が読めるの?」


「ああ。」


 口の中のモノを飲み込んでから聞いてみると、ネロが目を細めて肯定してくる。そうなんだ。って、今肯定してきたよね。驚いて目を丸くしてしまった。


「えっ、まじで。」


「冗談だ。」


 真顔で冗談はやめて。一瞬ホントの事かと思った。む、っと眉を寄せてしまうと、目を細めたネロが残ったサラダベーコンサンドを口の中に放り込んで、口を動かしながら眺めてくる。


「ホントは読めてるんでしょ。怒らないから言ってみて?」


「そんな能力はない。琥珀は表情に出易いだけ。」


「まじか。そんな顔に出てる?ネロが食べてるのを食べたいって出てた?」


「出てた。」


 ネロは顔を覆ってしまった俺の髪をさらっと撫でて、残りは食べていいかと聞いてくる。顔を覆ったままで、コクっと頷いてみる。俺ってそんな顔に出易いんだ。


 ネロの半分でいいからポーカーフェイスを手に入れたい。そして、そのイケメンと、強さと、カッコ良さと、速さと、綺麗さを、少しでいいから分けて欲しい。無い物強請りをした後で、覆っていた手を外し、自分のサンドイッチを食べる事にした。


 やっぱ、チーズの塩味が美味しいんだよね。そこに卵の少し甘い感じと、ベーコンの塩味と風味が合わさってくるんだよ。これも堪らない美味しさですね。もぐもぐと口を動かしながらテーブルを眺めると、大皿の上のトースト達は全部片付いていた。


 いつの間に食べ終わったんだ。俺が顔を覆っている間に食べきるとか、早過ぎる。俺が食べ終わるとネロがお茶を淹れに行ってくれた。忘れる前に、俺もネロの椅子を移動させて向い側にセットしておこうかな。


 ネロの椅子を移動して、フルーツの小鉢をネロの前と自分の前にセットしてみる。椅子に戻って腰を下ろすのと同時に、ネロが戻ってきた。ネロは俺のフルーツの横にお茶を置いてくれて、向かいに腰を下ろした。背もたれに寄りかかったネロは俺をぼんやりと眺めている。


「さて、問題です。俺はこの後何をしたいと思っているでしょうか。」


「分からない。」


「じゃあね、今それを思いながら顔に出すから。読み取って。」


 できれば挿絵が多い本が読みたいな。料理の本みたいにイメージし易くなるから、挿絵の多い本が読みたいです~。俺を無表情に見つめているネロの目を見ながら、願いを頭の中で強く念じてみた。


「はい、どうぞ。」


「レオの家に行きたいか?」


「なんでレオさんが出てきた。俺は本が読みたいって思ってたんだよ。」


「成る程。字だけではない本が欲しいと?」


 ネロがさらっと言った内容に驚愕してしまう。やっぱりネロは俺の考えを読む能力者だった。これが解だ。一瞬、レオさんっていうフェイントを出してからの、答えを出す手法か。


「やっぱり俺の考えてる事が読めるの?」


「顔に書いてある。」


「やっぱり、そういう能力なのか。相手の考えてることが顔に浮かぶ能力?怖いね。」


「そんな能力はない。」


 あれ、違うのか。流石ファンタジーな世界って思ったのに。魔法がある世界だから、そんな能力もあると思ったけど違ったみたい、残念。だとするとだよ、なんでネロは俺の考えている事を的中させたんだよ。


「だって、俺の考えてる事が分っちゃったじゃん。なんの能力も使ってないなら凄過ぎじゃね?」


「見ていれば分る。」


 ほぅ、そうか。能力の内容が違った訳ですね。所謂一つの。


「見たら分る能力って事か、流石ネロ。」


「いや、そんな能力もない。」


 じーっとネロを見つめてみる。ネロは俺から目を逸らさない。暫くネロの瞳を見ていたけど、根負けした。どうやら本当に観察だけで俺を先読みしているっぽい。これも護衛トップの人に必須な能力なんだろうね。周りを観察して状況を即座に分析、即時対応できるってトコロかな。凄いね。


 俺が納得したと見做したのか、ネロはじっと俺を見つめるのを解除してお茶を飲み始めてしまった。ネロから視線を動かしてフルーツに向けてみる。薄い青色の桜桃っぽい可愛い果実だ。


 お茶を一口飲んで口を落ち着けた後、果実を口に運んでみた。甘くて美味しい。種はないっぽくて食べ易い。ネロは食べられるのかな?とちらっと見てみた。ネロはお茶だけ飲んでフルーツには手を出さない。


「ネロ。これは甘くないよ。美味しいよ。」


「いや、いい。美味いなら俺の分も食え。」


 やっぱばれた。ネロはきっと勘も恐ろしくいいのだろう。自分のフルーツを食べ終えてお茶で余韻を楽しむ。口に残ってる果実の風味と、お茶の香りが恐ろしく合う。フルーツフレーバーのお茶っぽくなった。

 

 ネロはやっぱり果実には手を出さないらしい。ネロの小鉢を覗き込んでみると、あの酸っぱいレモンっぽい柑橘が入っていた。身を乗り出して酸っぱい果物をフォークで刺して、ネロの前に差し出してみる。


 困った顔のネロがしょうがない、という感じで口を開けてくれた。綺麗に並んだ歯と、尖った犬歯が見える。ネロの口の中に果実を差し入れてフォークを引き抜く。咀嚼するネロの顔は驚くほど変化がない。


「それ、酸っぱい奴じゃなかった?」


「甘い。」


 甘いのかよ。全然表情に出てないじゃん。ポーカーフェイス過ぎて驚きだ。ネロがもういらないって感じで、器を俺の前に置いてくれた。ネロの好意に甘えて、ありがたく頂く事にする。


 さっきネロに食べさせた酸っぱいと思わしき柑橘を口に入れてみた。あ、本当に甘い。酸味も少しあるけど、この前のレモン濃縮の味じゃない。甘いミカンみたいな味だ。美味しい。


「ごめん、酸っぱいのだと思って食べさせちゃった。」


「問題無い。」


「良かった。ごめん。」


 フルーツを食べ終わってまったりしている間に、ネロが食べ終わった食器を片付けていってくれる。お茶を飲みながら、ネロの魔法をぼんやり眺める。


 綺麗に片付いたテーブルの上で両腕を伸ばして顎を乗せていると、片付けを終えたネロが向かいに座って足を組んだ。俺を眺めているネロにちらっと視線を向けて、目を伏せてしまう。


「改めて実感した。俺はダメだなって。ネロでも食べられるかなって思って食べさせたのも、ネロが嫌いなヤツだったし。俺はここに来てからずっとネロに迷惑かけまくってたりしてない?」


「琥珀には琥珀の良さがある。先程の果実も、琥珀が食わせてくれたから美味く感じた。」


 ネロさん、マジで大人。こんな拗ねた態度の俺にも優しい。ネロを見上げる。少しだけ優しく微笑んでる、ような気がする。


「マジで俺がいて迷惑じゃない?」


「全く迷惑ではない。」


「良かった。」


 真っ直ぐに俺を見て答えるネロの目には、全くの揺らぎがない感じに見える。ホントに迷惑じゃないって思ってくれてるって考えていいのかな。でも、迷惑かけまくってるよね。


「では、返しにいくか。琥珀、その後で市場に行こう。」


「市場ってなんで?」


「本が欲しいと言っていただろう?」


「ああ。いいの?」


 ネロの言葉で少しテンションが上がって体を起こした。ネロは優しく頷いてくれた。表情はいつもの無表情に戻ってしまったけど、ネロの気遣いが嬉しい。マントを運んできたネロは、当たり前のように俺に羽織らせてくれて〈シール〉もかけてくれる。


「ネロって世話好きだよね。いつも着せてくれる。」


「そうか?」


 ネロの手元を見つめながら呟くと、ネロはふっと笑って返事をしてくれた。自分にも〈シール〉をして、バスケットを持って家を出ていくネロを追いかける。


 少しだけ落ち込んでいた気分が晴れてきた気がした。隣を同じペースで歩いてくれるネロの足元を見ていると、揺れる黒い尻尾が見える。尻尾に目が行ってじーっと観察してしまう。


 尻尾の先までぴったりした〈シール〉が覆っている。よく見てみると、水の中の泡みたいに毛の間に空気の層が入り込んでるみたいだ。自分の髪もそうなのかな、と髪を少し引っ張って見てみる。やっぱり泡みたいに髪の束ごとに空気が入り込んでいた。


 凄い魔法だな。自分の髪を見ながら歩いていて、やっぱり躓いてしまった。支えてくれたネロに前を見て歩け、と注意されてしまい、しゅん、となって俯いてしまった。

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