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83 このままでいい

 一人の読書もいいけど、挿絵付きの本を誰かと一緒に読むのも楽しいよね。今日のネロは俺の隣で一緒に読書をしてくれるらしい。ネロは隣から俺の開いた本を覗き込んでくる。


「ネロは東の大陸に行った事があるって言ってたよね。」


 ネロと一緒に読めるのが嬉しくて、ネロに視線を向けて聞いてみる。本を覗き込んでいたネロが俺に視線を移して頷いてくれた。


「じゃあ、これは食べた事ある?」


 料理の本をぱらぱらと捲って、焼き飯のページを開いてみる。料理を見たネロがコクリと頷いてくれた。そっか、食べたのか。東の大陸に行ったって言ってたからね。食べてる可能性はあると思ったんだよ、いいな~。


「美味しかった?」


「美味かった。」


「じゃあ、これは?」


 目を細めて答えてくれたネロに、今度はオムライスのページを開いて見せてみた。視線を本に戻したネロは、俺の後ろに回した腕で俺の髪を撫で始める。


 ネロは俺の髪を撫でるのがリラックスな感じみたいだ。隣に座ると結構な頻度で髪を触ってくる。少しくすぐったいけど、傷だらけのネロの好きにさせてあげよう。これでリラックスできるなら、俺も協力するよ。


「それはない。」


「そうなんだ。じゃあ、東の大陸で何か気に入った料理はあった?」


「そうだな。」


 本に目を落として考え込んでしまったネロの横顔を眺める。東の大陸に行ったのは考え込む程、昔の事だったのかな。っと思っていたら、直ぐに顔を上げたネロが俺に目を向けてくれた。直ぐに答えが出たらしい。お気に入りの料理を何種類かで迷っていただけかもしれない。


「海の魚を生で食べるのが美味かった。」


 ふぉぉ。刺身じゃん。SASHIMI。お刺身があるのか。益々、東の大陸には行かなければならないね。お刺身と熱々御飯、お漬物があったら言う事がないと思うんですよ。


「美味そう。食べたいな。」


「調理場のマスターに頼むか?」


「できるの?」


「聞く事はできる。作れるかは分からない。」


「そっか、そうだよね。美味しそうだよね、食べてみたい。」


「今日、聞いてみるか?」


「うん、聞いてみる。」


 まさかのお刺身を食べられる可能性にテンションが上がってしまった。上機嫌で鼻歌を歌ってしまいそうになってる自分を自覚してるんだよ。でもね、お刺身だよ。そりゃテンションも上がるでしょ。


 ニコニコしながら、料理の本を広げて眺める俺の横でネロも本を覗き込んでいる。ぺらぺら、っとページを捲っていって、モンスターの卵の料理のページを開いてみた。


「これは食べた事ある?」


 これはないでしょう。と思いながらも、開いたページ静かに眺めているネロに聞いてみた。ふっと口元を緩めたネロが頷いている。その返答に驚愕してしまった。驚いた俺をちらっと見たネロが苦笑している。


「悪くない味だった。」


 ネロは続けて味の感想を教えてくれた。その言葉に更に驚愕してしまう。でも、悪くないって言ってる。美味いとは言ってないけど、どういう事なんだろ。


「悪くないって、どういう事なの?」


「表現できない味。不味くはない。美味くもない。結論は悪くない。」


「へぇ。俺は食べられないと思う。見た目と情報からもう無理。俺は虫は苦手なの。」


「そうか。」


 疑問を伝えると、ネロが更に味の説明をしてくれた。でもね、虫の卵ってヤバいじゃん。そして、この挿絵の虫がもうキモイ。眉を寄せてネロに虫はイヤって意思表示をしてしまう。ネロは俺の髪を触りながら、頬を緩めて優しく相槌を返してくれた。


 虫はもういい。ぱらぱらとページを捲って、キノコの胞子で発酵させた肉の串焼きを指差してみた。無言で覗き込んでいるネロに顔を向けてみた。ネロの耳は後ろに倒されて、眉根を寄せた渋い顔になっている。成る程ね。嫌そうな顔のネロを見て悟ってしまった。


「不味かった?」


「口に合わなかった。」


「成る程~、不味かったのか。まあ、料理の説明を読んでも、口に合わなそうな感じしかしないよね。」


「焼いた肉なのに糸を引いていた。」


「うわぁ。なんでそんなのを食べたの。」


「主人の勧める品を注文して出てきた料理だった。」


「うぁ。可哀想。」


 ネロの頭をぽんぽんと優しく撫でてあげる。耳がピクリと動いて可愛い。モンスター系の料理はもういいや。他の美味しそうな料理を見ていたらぐーっとお腹が鳴った。


 ちらっとネロに目を向けてみると、ネロが頷いてくれた。俺のお腹が食事の合図になってる感じが否めない。まぁいいや、もう恥ずかしがる事もない。何度もお腹の音は聞かれてるからね。


 一緒に行こうかなっと立ち上がると、ネロがマントを羽織らせてくれた。マントの端を持ち上げて匂いを嗅いでみると、全く臭くない。無臭。レオさんの匂いに染まってない。


「レオさん臭になってなくて良かった。」


「念入りに〈浄化〉をしておいた。」


「ありがと、ネロ。そうだ、聞いてよ。レオさんが酷いんだよ。マントの上に、レオさんの濡れたシャツとズボンを置いたの。酷くない?それを見てもう俺のマントは終わったと思っちゃった。」


「そうか。」


 少し苦笑したネロは俺の手を握って引き寄せてくる。そして、〈シール〉を唱え始めてくれた。詠唱するネロを見上げていると、これで問題ないだろう、と金色の目が伝えてくる。


 今回のネロは、ちゃんと自分も濡れないように〈シール〉をしてくれたらしい。にこっと笑顔を贈って、食事場へゴー。外に出ると雨というよりは完全に霧になっていた。


 雲は薄いらしく、微かに陽が陰っているのは分かった。もう日が沈みかける時間帯になっていた事に少し驚いてしまう。もうそんな時間だったのか。


 静かで楽しいネロとの散歩の時間の始まりだ。足元にある水溜りを大きく飛び越えて、体勢を崩してしまった。でも、隣のネロが直ぐに腕を伸ばして支えてくれる。


 ネロを見上げると、ネロは前方をぼんやりと眺めながらゆっくり歩いていた。目は前を向いてるけど、ネロの耳は俺に向いてる。


 俺が見上げているのに気が付いたのか、ネロはちらっと横目で俺を見てくれた。そして、直ぐに前を向いてしまった。俺も前を向いて真面目に歩く事にする。


 お刺身を頼めるかも、という現実に心が浮足立ってきた。食事場に到着して、大きな風のテントにやっぱり圧倒されて目が釘付けになりながら、ネロに手を引かれて調理場へ入る。ユリアさんの元気な挨拶が聞こえて、振り向いてにっこり笑顔で挨拶を返してみた。


 ネロが早速、マスターさんに海の魚を生で調理できるかを聞いくれている。二人の会話をワクワクしながら聞かせて貰う事にした。


 マスターさんが、できるけど海の魚がここにはない。少し待ってろ、と答えてるのが聞こえた。やった。少し待てばお刺身が食べられる。テンションが上がってしまっても仕方ないよね。


 久しぶりの和食っぽいのが楽しみ過ぎる。これでお米もあれば言う事はないんだけど、今回はしょうがない。多くを望み過ぎたら駄目だと思うんですよ。小さな幸せでいいよね。


 今日の食事も注文して、またネロに手を引かれて調理場を後にする。あれ、受け取らないのかな。疑問に思って振り向いてみた。ユリアさんが自分の体を指差しているのが目に映る。


 ユリアさんを覆う、薄い風のぴったりとした膜が見える。成る程ね。了解した事を伝える為に頷いて、ユリアさんに手を振ってみる。ユリアさんも手を振り返して見送ってくれた。


「あんな大きな〈シール〉から、ぴったり〈シール〉までできるとか、マスターさんは凄いね。」


「あそこまで大規模な〈シール〉は無理だが、体に沿わせるのはできる。」


「えっ、できるの?」


 帰路でネロを見上げて話し掛けてみた。ネロの発言にびっくりして聞き返してしまった。ネロは目を細めて頷いている。


「なんでしないの。」


「面倒臭い。」


「レオさんも同じ事を言ってた。」


 ネロのぶっきら棒な一言に、誰かも同じような事言ってたなっと思い出してみた。記憶に残る発言の主の事をそのまま口に出してみたら、ネロの片眉がピクっと反応している。


「ガトの男の人は、みんな面倒臭がりなのかな。アルさんはちゃんと〈シール〉をしてたよ。」


「そう、かもしれない。」


「びしょ濡れになって風邪とか引かないでね。この前みたいに体調悪くてどっか行っちゃうと、凄く心配になる。」


「分かった。」


「あとで、俺にかけてみて。ぴったりした〈シール〉を体感してみたい。」


「分かった。でも、少し急ぐか。」


 会話をしながらのんびり歩いてたら、ネロが後ろに回ってふわっと抱き上げてきた。俺を腕に収めたネロが走り出してしまう。いきなりどうした。とは思うけど、最早驚かない自分が怖い。


 家に到着して、ネロが〈シール〉を解除してくれた。マントを脱いで畳んでいたら、外から来訪を知らせるユリアさんの元気な声が聞こえてくる。


 成る程、だから急いだのか。俺の歩みじゃ追い抜かれてたって事らしい。ネロが入り口を開けると、ユリアさんが飛び込んできた。俺に顔を向けてにっこりしてくれて、ユリアさんはテーブルに食事を並べて行ってくれる。


 机の上に並べられた料理はどれも美味しそう。小さく切ったバゲットの上にチーズを乗せて焼いてスープに浮かべた物。エビと野菜の炒めもの。お肉と根菜の煮物。お肉のソテーの乗った大皿。山盛りの白パンと、デザートでスフレケーキが一人前。


 朝の段階でネロが椅子を同じ側に移動していたのを忘れてた。ユリアさんは椅子の配置で判断したらしく、片側に料理を並べてくれている。並べ終わると、ネロに短く返却の旨を伝えて、手を振って出て行ってしまった。


「今日のも美味しそう。でも、椅子を戻すのを忘れてたね。今日はこっちで食べる?向こう側に移動する?」


「このままでいい。」


「そだね。せっかく熱々で美味しそうだからね。じゃあ、いただきます。」


 手を合わせて、横に顔を向けてみた。静かに祈りを終わらせたネロも俺に顔を向けてくる。ニコっとしてみると、ネロが料理を取り分け始めた。ソテーしたお肉と、エビと野菜の炒めものを小さな小皿に綺麗に盛り付けて、俺の前に置いてくれた。そして、端っこに白パンを1つ置いてくれる。


 綺麗な盛り付けと、更にはいい香りで食欲が増進してしまいますね。それでは、エビちゃんを頂いちゃいましょう。見た目通りのエビだ。ぷりっぷりの歯応えと、薄い塩味でめっちゃ美味い。


 横に顔を向けてみると、ネロもエビを食べていた。音もなく咀嚼して飲み込んだネロが、少しだけ目を輝かすのが見えた。美味しかったらしい。ネロも美味しい時は美味しい表情になるんだね。


 自分の食事に戻って、今度はお肉を頂いてみようかな。小さく切り取って口に運んでみた。スパイスがよく効いてぴりっと辛い。白パンをちぎって口に入れる。


 スープに手を伸ばして、器を引き寄せてみた。見た目はオニオングラタンスープだね。ひたひたになったバゲットとチーズがメッチャ美味しそう。でも、熱々なのは確定っぽいかな。


 バゲットを少し切り取って、息を吹きかけて冷ましてみる。適度なトコロで大きく口を開けて、大きなスプーンを咥えてみた。あ、ちょっと熱かった。ちょっと味が濃いけど美味い。しかも温まる。


 少しひりひりする舌に眉を顰めて、ネロに目を向けてみた。ネロは俺を眺めている。観察されていた模様である。スープが熱くてびくっとしたから、気になって俺を見たのかもしれない。


 何でもないよって意味でにこっとしてみる。ネロはじっと俺を見ているけど、俺はもう一回スープにチャレンジだよ。もう一匙掬って今度は慎重に息を吹きかけてから口に運んでみた。


 今回は熱々ではなくて丁度良かったけど、やっぱ舌がまだひりひりする。スープを戻して、舌を落ち着ける為に白パンを食べてみた。甘さが舌を癒してくれる気がする。気分的にね。


 ネロはお肉と根菜の煮物を取り分けて、俺の前に置いてくれた。ありがと、と笑顔でお礼の言葉を伝えてみる。目を細めたネロの雰囲気は優しく感じた。あ、顔は無表情のままだけどね。


 ネロは余り食事の味に反応しないタイプの人っぽいけど、やっぱり人と一緒に食べるご飯は美味しいよね。いつもはつまらなそうに食べてるのに、さっきのエビは美味しそうだったし。今も優しい雰囲気だ。俺との食事で和んでくれてるなら嬉しい。


 煮物のお肉はほろほろで、味はコンソメ風味かな。あとは、少しだけ生姜風味もしてあっさりとした味わいだ。根菜も大きく切ってあって、ねっとりとした里芋のような食感がいい。あっさりとしていて食が進む感じだ。


 最初に取り分けてくれたお肉のソテーを食べ切って、白パンも食べ切る。もう一個、と白パンに手を伸ばしたら白パンのお皿を寄せてくれた。


 ネロは嬉しそうに口元を緩めている。微かな微笑みを浮かべているネロに首を傾げたら首を振られてしまった。この白パンと、あとはお皿に残ってるのでもう満腹かな。


「俺はここにあるのでもういっぱいだと思う。」


 俺の食べる分を残してくれる可能性が高いネロに、もうこれで終わりって伝えてみる。ネロは静かに頷いてくれたから、自分の食事をゆっくり終わらせる事にした。


 スープは少し冷めたみたいだから、少しずつバゲットを切り崩しながら食べ進めて、完食。白パンを食べながらエビと野菜も完食。後は、煮物を食べて、満腹になった。


 デザートが入るスペースを残せなかった。美味しくて食べ過ぎちゃった。食事が終了したから、あとはネロが食べるのを見守る事にした。最近はずっと早食べだったけど、今日はゆったりと食事をしている。


 って言っても、もう直ぐ食べ終わりそうだけどね。煮物を制覇して、肉を制覇しながら白パンを食べて。最後にエビを食べて完食。ネロが食べ終わったトコロで、ご馳走様でした、と手を合わせる。


 ネロは食べ終わると直ぐにお茶を淹れて俺の前に置いてくれた。そして、ケーキの皿にも手を伸ばしたネロの手を掴んで、首を横に振ってしまう。


「今日は食べ過ぎた。ケーキは後でもいいかな。」


 満腹感を伝えてみると、ネロは頷いてケーキに〈シール〉をしてくれた。


「最近、琥珀は小食だった。レオの所でも余り食べなかったと聞いた。今日は多めに食べられたようで安心した。」


「そんなに食べてなかったかな。」


 ネロは優しい口調で心配してくれてた事を教えてくれた。自分では気づいてなかったから、驚いて聞き返してみると、ネロは優しく目を細めて頷いて答えてくれる。


 会話が終わり、ネロが片付けを始めてくれた。お茶を飲みながらネロの片付けの様子を眺める。ネロは手際よく〈浄化〉した食器をバスケットに詰め込んでいる。


 俺も手伝おうとカトラリーを纏めてみたら、ネロがバスケットを差し出してくれた。中の食器は乱雑に詰め込まれている。バスケットの端っこにカトラリーをそっと入れさせて貰った。ネロが残りの食器を詰め込んで終わり。


 ネロの性格的に、几帳面に食器を詰めているのかと思ったけど違ったらしい。ちょっとだけびっくりしてしまった。武器はあんなに丁寧に扱ってるし、服とかも几帳面に箪笥に詰め込まれてる。食器は何が違うんだろ。

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