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75 は?面倒くせぇ

「えっと、その恰好で行くの?」


 何度も言うが、レオさんは下着姿だ。ばっきばきの筋肉を惜しげもなく曝した裸の上半身に、すらっとした筋肉ムキムキの美脚の生足が披露されている。要するに、下着だけの完全なる裸ともいう。


 このままで外を歩いても問題はないのだろうか。分からない。ネロは家でも服を着ていたし、外でもちゃんと服を着ていた。ガトの常識が分からない。


「どうせ濡れるしいいだろ。今日は外には誰もいなかったよ。」


「食事場はユリアさんもマスターさんもいるでしょ。」


「ユリアなんて見慣れてるだろ。」


「えっ、見慣れてるの?」


「ああ、見慣れてる。」


 レオさんを嗜めてみたものに、レオさんはどこ吹く風だ。そして、話を進めていて、レオさんの言葉に驚きで言葉が出てこなくなる。レオさんは意味ありげな視線を一瞬向けて、言葉を止めた俺を置いてさっさと出て行ってしまった。


 ユリアさんが裸のレオさんを見慣れてるってどういう事なんだ。いつもレオさんが半裸で出歩いてるからなのかな。それとも、遊び仲間の一人って事なのかな。いや、そんな訳ない筈。


 ユリアさんみたいな、おっとりふんわり優しくて可愛い子がそんな訳ないよね。確かにレオさんはどう見てもイケメンだけど、どうなんだろ。ユリアさんはレオさんがタイプなのかな。分からない。


 レオさんを引き留めた時のままで、佇んでいたらしい。入り口で頭を悩ませていると、冷たい湿った風を感じた。顔を上げると、びしょ濡れのレオさんが戻ってきている。そんなに長い間、考え込んでいたのか。


 あ、おかえり、と声をかけて、パタパタと寝室に駆け込んでしまった。びしょ濡れだったから、タオルが必要だね、タオル~。寝室の箪笥からタオルを取り出していると、俺に続いてレオさんが寝室に入ってきた。


 俺の傍に寄ってきたレオさんに手渡してみる。タオルを受け取ったレオさんが、ニヤっと唇の端を上げる器用な笑い方をした。ちょっとだけ恥ずかしくてレオさんから目を逸らしてしまう。


「濡れてるのに動き回ったら、部屋中びしょびしょになっちゃう。」


 小言を言ってしまう俺を気にする事もなく、頭にタオルを引っ掛けたレオさんが、屈んで覗き込んできた。顔を上げてレオさんを見つめると、レオさんはニコッと親しみやすい笑顔を浮かべてくれる。


「ユリアとはこの村で育った仲だからな。裸なんて見慣れてるんだよ。」


「へぇ。そうなんだ。」


 笑顔のレオさんは、さっきの話の続きを教えてくれた。それを聞いて、ちょっと気が抜てしまう。なんだ、幼馴染的なヤツだったのか。びっくりした。ユリアさんはレオさんの裸を見慣れてるって聞いて驚いちゃったけど、そりゃ、そういう意味だけじゃないよね。良かった。


 でも、幼馴染か。レオさんはこの村の出身だったのか。って事は、ユリアさんもこの村出身なんだよね。更にはネロの元カノの学び舎の先生、アイラさんはユリアさんのお姉さんだから、同じだよね。ユリアさんとアイラさんと鍛冶のカイさんは家族でこの村に住んでるって事なのか。


「あ、じゃあ。アイラさんも知ってるの?」


「アイラか。ユリアのねーちゃん。若い頃にこんなトコは嫌だ、って外に飛び出していったみたいだね。で、ネロとなんかあったとかで、ネロがこの村に住み着いてから戻ってきたって話だな。ユリアがなんか言ってた。あんま、聞いてなかったから情報としてはそれくらいかな。俺はよく知らない。アイラとは接点ないし。」


「へぇ、そうなんだ。ところで、いつもそんな裸同然で出歩いてるの?」


「煩せぇ。さっきもユリアに怒られてきたトコ。いつもは下は穿いてるよ。雨で毎回服を変えるの面倒臭かっただけ。」


「あ、まぁ、そうだね。服を掛けるトコもなくなってきたもんね。てか、ちゃんと拭いて。」


 話に夢中になっていたのか、頭も拭かず話を続けていたレオさんを軽く睨んでみた。レオさんの頭のタオルに手を伸ばして、レオさんの頭を拭いてあげる事にする。


 俺を覗き込む為に屈んでいたレオさんのおかげで、丁度手が届く位置にあったタオルを掴んでみた。水を吸わせるように優しく髪に押し付けて、タオルで撫でるように拭いていると、短い髪の毛だから直ぐに乾いてくれた。


 髪を触って大丈夫な事を確認してみる。少し湿ってるけど概ね大丈夫でしょ。後は体、っと。肩と胸と足。ささっと後ろに回って、背中と足、尻尾もタオルで包んで優しく拭いてあげた。拭き終ったら、レオさんが尻尾をぶんぶん振っている。


 風を含んだのか、ペタンとなっていたレオさんの尻尾がちょっとだけふんわりした。レオさんの尻尾はネロの尻尾みたい毛の感じがモフモフじゃなくて、細くてしゅっとしてるんだよね。長くて綺麗な尻尾ですね。濡れても細さは左程変わらないけど、今のを見ると一応はペタンってなるんだね。


「レオさん。今回は下着も濡れてるから替えちゃいなよ。服はさっき用意したのがリビングにまだあるから、後で着てね。俺は出てるよ。ちゃんと替えてきてね。」


 レオさんに提案という形の言い聞かせをして、リビングに戻り、タオルを干そうとして頭を悩ませてしまう。流石に懸垂の横棒にはもう干す場所はない。そもそも、今の段階で、マントの上に濡れたシャツとズボンが雑に乗ってんですよ。


 ん~、やっぱり積み上げてくしかないのか。マントを見上げて考えていたら、ひょいっと斜め上からレオさんに覗き込まれた。イキナリ出現した感のあるレオさんは、気配も音もしなかった。ネロも同じだけど、レオさんもその移動方法は凄いと思う。これが専属護衛の技術って奴なのかな。凄いな。これに関してはネロと同等ではないか。


「どした?」


「もう、干すトコがない。」


「成る程ね。じゃあ、上のあそこに干しとく?」


 問い掛けられて、普通に問題点を答える。レオさんは納得した様子で、天井を指差して提案をしてきた。レオさんの指の先を目で辿ってみる。天井の、梁って事かな。レオさんに視線を戻して首を傾げてしまった。


 てか、脱いだ下着を指でくるくる回さないで欲しい。水が飛び散る。引き攣る顔を頑張って抑えながら、じっとレオさんを見上げてみた。この人は色んな意味でワイルド過ぎる事だけは確かだ。


 無言のレオさんが、俺の手からタオルをするっと抜き取って跳び上がった。梁に片手を掛けてぶら下がっている。その状態でタオルをばさっと干して、ついでに手に持っていた下着も干す、というか置いている。ストンと着地して、しゃがんだ状態のレオさんを目で追いかけていた。


「レオさん、超カッコいい。今の、も一回やって。」


「は?面倒くせぇ。」


「やって。」


 テンションが上がって、レオさんにリクエストをしてしまった。レオさんは怠そうに立ち上がりながら、超面倒臭そうに答えてくる。レオさんを見上げて軽く睨みながら、尚も要求を続けてみた。


 俺と目を合わせたレオさんは、う、と呻いてもう一回ジャンプしてくれた。片手で梁を掴んで、くるっと逆上がりで梁の上に立ち、ストンと下りてきた。めっちゃ、カッコいい。スタントマン的な感じだ。テンション爆上げで、目がキラキラと輝いてしまってるのが自分でも分かる。


 レオさんは汗臭くて、裸族で、部屋が汚くて、面倒臭がりで、直ぐ際どい本に惹かれちゃって、お片付けはできない子なんだよね。ちょっと残念な子なんですよ。でも、火の魔法とか、今のジャンプとか、マジでカッコいい。ギャップ萌えがヤバい。


 何気にレオさんの猫耳も可愛いんですよ。大きくてピンと尖ってて、耳の先の毛が髪の色より濃いこげ茶色になってて、しかも房毛っぽく少し長くなってるし。可愛いんです。


「ありがと、レオさん。カッコ良かった。」


 ニッコリ笑顔でお礼を伝えてみると、レオさんが苦笑して頷いてくれた。期待を込めてじーっと見つめてみたら、レオさんはもう一回ジャンプしてくれた。やばい、カッコ良すぎる。俺も跳べないかな。


(無理だと思われます。)


 ですよね~。分かってますよ、スツィさん。凄いアクションを目の前で見る事ができた興奮が収まったところで、レオさんに冷めた視線を向けてしまった。ってか、下着だけの裸じゃん。裸で何やってんの。


「レオさん。いい加減、服を着ようか。」


「着ようと思ってたんだよ。」


 少しだけ熱が冷めて冷静に突っ込んでしまった俺に対して、レオさんが静かに反論を呟きながらソファに移動していく。置かれていた服を掴んで、レオさんはどかっと座り込んでしまった。


 そうだよね、俺がレオさんの着替えの邪魔をしてた。俺が悪かったです。今回はレオさんが正解です。レオさんの隣に移動して、ソファの上でレオさんに向き直り、正座でレオさんを覗き込んでみる。


「ごめんなさい。疲れた?」


「疲れてないよ。あんなんで疲れる訳ないだろ。」


「そうなんだ。でも調子に乗りすぎました。ごめんなさい。」


 俯いて謝る俺の頭を優しくぽんぽんと撫でてくれたレオさんは、話しながらシャツに腕を通している。顔を上げてレオさんを見つめて、もう一度ペコっと謝ってみる。レオさんはクスっと笑って、立ち上がってズボンを穿いて直ぐにどかっと腰を下ろしてしまった。


 シャツの前は全開で、ズボンの腰紐も結ばれていない。レオさんは怠そうに背もたれに寄り掛かって、ぼんやりと天井を見上げてしまった。やっぱりちょっとお疲れっぽい。


「お礼に、服のボタンをさっきみたいに留めてよ。腰紐も。」


「そんな事でいいなら、勿論やりますよ。ジャンプを見せてくれてありがとね。」


 その服はそのままなのかな、って見守っていたら、レオさんがぼそっと呟いたのが聞こえた。レオさんの要望を二つ返事で了承してみる。


 俺の希望で裸のレオさんが何回もジャンプをしてくれたんだよね。そして、レオさんが服を着るのを邪魔してたのは俺なんだよ。お礼とお詫びは必要、って事でやってあげましょう。不器用なレオさんの為に、腰紐くらい固結びじゃなくて綺麗な蝶々を作ってあげましょう。


 ソファから下りて、レオさんの足元で膝立ちになって、レオさんに向かって手を伸ばす。腰紐を引っ張って、ギュッと結んで蝶々を作ってみた。そして、身を乗り出して、シャツのボタンを上から順番に留めていく。


 視線を感じて見上げると、ぼんやりと俺を眺めてるレオさんと目が合った。メッチャ怠そうに見てるね。そして、何かを訴えたいのかもしれない。なんだろう。目を合わせながら小首を傾げてみる。レオさんの目がスッと細められた。


「腰紐がきつかった?」


「いや、大丈夫。もうちょっときついくらいでも良かった。」


 言いたい事っていうと、腰紐のキツさくらいかなと当たりを付けて聞いてみた。レオさんはふっと頬を緩めて、優しい口調で首を振ってくれた。成る程ね、緩いって事かよ。


 ボタンを留める手を止めて、シャツの下部分を捲って腰紐を解かせて貰う。そして、力いっぱい引っ張って、すかさず結んで蝶々を作ってみた。どう?って見上げると、レオさんが首を軽く横に振っているのが見えた。


 まだ緩いらしい。もう一回解いて、今度は渾身の力で引っ張って、きゅっと結んで蝶々ができた。達成感を感じていたら、レオさんの腹筋が揺れ始めた。何事だ、と見上げてみる。なんか、レオさんが声を出さずに爆笑してるんだけど、どしたんだ。なんか笑えるような事なんてしたっけ。


「ホントに力が弱いのは分かった。」


 うぅ、同情されてる。爆笑の意味は俺の力の弱さに対する事だったんだね。悲しい。だってね、腹筋が硬くて、力いっぱい引っ張ったのに、ちっとも肉にめり込まないんだよ。だから緩さは毎回同じだったんだと思う。


 もういい。ボタンを留めて完成だ。ボタンを留め終わって、ソファの上にもどると、入れ替わりにレオさんが立ち上がった。シャツを捲って、腰紐を解き、ギュッと締めて固結びをしようとするレオさんを慌てて止めて、蝶々を作ってあげる。


「レオさん、泊めてくれた上に色々と我儘を聞いてくれてありがとう。」


 ソファの上で正座をし直して、ぺこりと頭を下げてお礼を伝えてみた。顔を上げずにいたら、腰を下ろしたレオさんが頭をぽんぽんとしてくれる。


「俺も部屋を片付けてくれてありがとな。後、冗談を鵜呑みにするな。」


「冗談?」


 苦笑のレオさんがお礼を言い返してくれた。続くレオさんの言葉が疑問で、聞き返してみる。レオさんは瞬きをして、何でもない、と目を逸らされてしてしまった。


「あ、レオさん。ネロが帰ってくる迄、ここでお世話になってもいいかな?アルさんの所だと気を使っちゃって、後、精神的にも厳しいというか。色々と、厳しいと言うか。」


「そうだよな。族長の所は精神的に厳しいよな。分かる。いつまででも泊まればいい。なんだったらネロが帰ってきた後もここにいてもいいよ。」


「いや、それはお断りします。」


「なんでだよ。」


「えっと。黙秘します。」


 苦笑交じりに快諾してくれたレオさんだけど、俺の言いたい事とは別の意味に捉えられて同情された気がする。でもいいや、寝床は確保できました。これでアルさんの所には戻らなくてもいいし、部屋も綺麗になったし、一安心だ。

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