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72 何か、言った?

 まぁ、考えてみればレオさんは一人暮らしっぽいし椅子が一脚なのは当たり前だった。ネロの家も最初は1脚しかなかったからね。


「どした?」


 俺の近くまで寄ってきて疑問を伝えてきたレオさんを見上げる。不思議そうな顔をしているレオさんはもう怒ってなさそうかな。ってか、全然普通だ。全く怒ってない。謝る機会を失ってしまった気がする。


「椅子が一脚しかないと思って。」


「そういえばそうだったな。悪い。」


 恐る恐る、見たままを伝えてみる。レオさんは俺の態度で少し眉を寄せた後で、ちらっと椅子に目をやって納得したみたいだ。


「どうしよっか。」


「お。そうだ。こっちこい。」


 納得されても現状は変わらない。どうしようかな、って思っていたら、レオさんが椅子に腰を下ろしてしまった。まぁ、そうですよね。家主が椅子で正解です。って思ったのに。椅子に座ったレオさんは長い足を開いて、太腿をぽんぽんして呼んでくる。


 どう見てもそこに座れって意味にしか見えない行動に、絶句してしまった。いや、でも、違う意味があるのかもしれない。一体どういう意味だ?少し考えてみたけど、まぁ、見た通り膝の上に座れって事にしか見えないよね。


「なんで、レオさんの膝に座って食べなきゃいけないの。」


「あ?うちではいつもこうなんだよ。」


「え?家族の人を膝に乗せて食べるの?何かの訓練かな。それとも筋トレ?」


「なんで食事中に筋トレすんだよ。それに家族じゃなくて女。」


 一瞬、レオさんのムキムキの体から、食事中も筋トレをするのかと納得しかけてしまった。続くレオさんの返答を聞いて、違うと理解する。成る程、家族じゃなくて女の子か。


 少し想像してみようか。女の子を家に呼んで、膝の上にその子を座らせて一緒にご飯を食べる。ね。うん、イメージではきゃっきゃうふふでいいよね。てか、いちゃらぶ展開じゃん。


 無理だよ、なんで俺がレオさんの膝の上に座らなきゃなんだよ。意味が分からない。気を使ってくれてるのは分かる。でも、アルさんの命令で俺を泊まらせてくれるってだけなのに、そこまで気を使わなきゃなのかな。アルさんの命令はそこまで絶対的なモノなのかな。


「琥珀は軽いし問題ないだろ。食うぞ。」


 俺が考えてる横でレオさんが話を終わらせてしまった。決定しました、解決。みたいに平然と言ってのけたレオさんだけど、嫌です。絶対に嫌。俺は立って食べますよ。


 レオさんを軽く睨んで、レオさんとはテーブルを挟んだ向い側に立たせて貰います。食事をするべく改めてテーブルを眺める。テーブルの上に置かれているのはお肉。シンプルにお肉だけ。


 大皿に盛られた、大盛のソテーしたお肉しかないテーブルの上を呆然と見下ろしてしまった。お肉は確かに美味しい、でも病み上がりの弱りきった胃にはツライ。泣けてくるけど、用意して貰った手前、泣き言は言えない。いただきます、と手を合わせる。


 レオさんに顔を向けると、レオさんは俺の動きを目で追っていたらしい。目が合って逸らされてしまった。そのまま、ガトの祈りを始めたレオさんをぼんやりと眺める。


 祈りが終わったレオさんは顔を上げて俺と目が合うと、照れたって表情でそっぽを向いてしまった。その照れた行動で確信した。やっぱり自分も恥ずかしかったんじゃん。


 気を使うとかじゃなくて、軽い冗談のつもりだったのかもしれない。俺が真に受けて大袈裟に反応しちゃったのがダメだったのかも。でも、女の子なら膝の上でも楽しいだろうけど、冗談でも言わないで欲しい。レオさんも恥ずかしくなったかもだけど、俺も恥ずかしいっての。


 レオさんは、アレだ。基本的にやる事が雑でチャラいって分かった。もっと硬派で怖い人ってイメージだったから凄く意外だ。鍛錬場の時の雰囲気とは全然違う気がする。あの時のレオさんは、もっと堅物で怖くて、ニコリともしない人なのかと思ってた。


 ナイフとフォークを手に取って、お肉に突き刺し小さく切り取って口に運んでみる。小皿なんて用意されてないから、大皿から直接のスタイルだ。お肉は問題なく美味い。柔らかくてジューシーでスパイスが香って塩味で美味しいんだよ。


 でも、お肉だけだと飽きてくるというか、胃もたれというか、まぁ弱った胃には優しくない感じだね。一枚をなんとか食べ切ったらもういいってなっちゃった。でも、一応、レオさんが食べ終わるのは待つ事にする。


 待ってる間にレオさんの食事風景を眺める。レオさんもネロと同じで食べるのが早い。食べ方は見た目通りワイルドで、大きく切り分けてパクパクと食べている。


 でも、レオさんもネロと同じで食事中の音がほぼ発生しない。咀嚼音は全く聞こえなくて、食器とフォークが触れ合う音だけが時々聞こえるくらいで凄く静か。動きは大きくて雑に見える程なのに、音が無いって不思議な感覚になる。


 肉汁とかソースとかが口の端につくけど、長い舌で舐めとって唇が光ってる。ぼんやりと眺めていたら、動きのない俺に気が付いたのかレオさんの視線が俺に向けられた。緑の目がキラキラと光って、こげ茶色の猫耳がピンと立ってこっちに向いてる。


「もういいのか?」


 落ち着いた声で聞いてくるレオさんに頷く。返事を受けたレオさんは更に食べるスピードを上げて直ぐに皿の上は空になっていた。レオさんの食事が終わった段階で、ご馳走様でした、と手を合わせる。


 その後で。ゆっくり移動してソファに座り込んでしまった。少し長く感じた食事の間、同じ姿勢で立っていたから疲れた気がする。ホント、俺は体力がないらしい。


 音もなくソファの隣が沈み込んだ。レオさんの移動も凄く静かで、接近したのが全く気が付かなかった。隣に座ったレオさんが俺の肩に腕を回してきた。そして、髪を梳くように撫でてくれる。レオさんの熱い手のひらが寒いこの部屋だと気持ちいい。


 ネロを思い出す感じの食後のまったりした雰囲気で、無意識にレオさんに凭れ掛かっていた。ぼんやりとしていたから、他人ってのを忘れていた。最近ではネロとの触れ合いで慣れてしまっていた、安心できる距離感と行動で他人レオさんって気付くのが遅れてしまった。


 凭れ掛かった時に、顔に触れた地肌の感触で慌てて飛び退いてしまう。恐る恐るレオさんに顔を向けると、優しい笑顔のレオさんと目が合った。レオさんが肩に回している腕はそのままだから、余り距離は取れなかった。


「ごめん、ちょっと疲れて寄りかかっちゃった。ご飯美味しかった。ありがと。」


「琥珀は少食だな。もっと食えばいいのに。」


「病み上がりだから、あんま食べられないの。お肉は美味しいんだけどね。」


 微妙な至近距離の状態で、言い訳をするようにお詫びとお礼を口に出してみる。レオさんが優しく気遣うように返してくれたから、体調的に無理だった事を伝える。


 そっか、と納得したらしいレオさんは、俺の肩を抱く腕を離してくれない。それどころか、その手で俺の髪を指に巻き付けるように弄りながら覗き込んでくる。ネロが最近よくやっていた行動だけど、それとは全く違う感じがしてばっと立ち上がる。


「じゃあ、片付けの再開。レオさんは返してくる?」


「夜のヤツと纏めて返せばいいだろ。また濡れるし。」


「それで大丈夫なの?」


 レオさんに振り返って聞いてみたけど、問題ない、とレオさんが頷いている。じゃあ、大丈夫なのかな。納得して寝室に移動する事にした。まだ片付け終わってないし、今日中に終わらせないとだからね。


 でも、さっき雨に濡れた後で片付けに動き回ったからか、気疲れからか、少し寝かせて貰ったのに意識がぼんやりする。寝室に入って数歩進んで、膝をついてしゃがみ込んでしまった。顔を上げると、まだ散らかったままの部屋が見える。片付けなきゃって思うけど、ぼんやりする。


 フワッと浮き上がった感覚で、あ、ネロ、帰って来たんだ。お帰り。と思ってしまった。胸に顔を寄せて寄り掛かるとなんか違う。地肌の感触が気持ち悪い。ばっと意識が戻って見上げてみる。レオさんが俺を抱え上げてベッドに運んでくれているトコロだった。


「熱があるのか?冷たい感じがするけどな。大丈夫か?」


 レオさんは優しく話し掛けてくれて、ベッドに寝かせてブランケットを掛けてくれる。またぼーっとしてきた。俺を見下ろしたままで何かを考え込んでいるレオさんをぼんやりと眺める。


「寝てれば大丈夫か?族長のとこ行くか?」


「動きたくない。」


「そうか。じゃあ、ここで寝てろ。」


 ちょっとして、レオさんが屈んで覗き込みながら話し掛けてきた。掠れる声で拒否を示すと、レオさんが頭を撫でて頷いてくれた。優しい声と、レオさんの優しい瞳の色が凄く落ち着く。


 レオさんは俺の隣にゴロンと横になってしまった。傍にいてくれるらしい。そして、心配させてしまった、気がする。後でちゃんと謝らないとだ。レオさんの話し方が優しくて安心する。瞳も優しくて安心する。


 レオさんの興味は俺から本に移ったらしい。俺を気にした様子もなく、レオさんは隣でうつ伏せになって本を読み始めた。俺はぼんやりした意識のまま、ぼーっと天井を見上げる。


 ペラ、ペラ、とゆっくりページを捲る音が眠気を加速させるらしい。目がだんだん閉じていってしまう。ぼんやりとした意識もすーっと眠気に引っ張られていく。



「ネロはマジでどうやって耐えてるんだ?全く気にならない程枯れてるのかよ。」



 眠りに落ちかけていた時にレオさんが何か言った気がして、レオさんに顔を向けてみる。レオさんの横顔をぼーっと見ていると、レオさんの綺麗な目がゆっくりと俺に向けられた。深い緑の目が優しく細められて、光を反射して淡い光を放っている。


「何か言った?」


「言ってねぇよ。」


 眠気と戦いながらも、掠れる声でぼんやりと聞いてみる。優しい声と表情のレオさんが否定してきたけど、ネロって言ってたような気がする。ネロの話題で話し掛けてくれたのかと思った。


「ネロって聞こえた気がした。」


「ああ、そうだね。ネロはどこ行ってんのかね。族長指令だから、死ななきゃいいけどな。」


 レオさんの言葉で一瞬、ぼんやりしていた意識が覚醒した気がした。心臓がドキドキする。死ぬ程危ない仕事って事なのかな。そういえば、アルさんも死にかけても、とか言ってた気がする。


「ネロは危険なの?」


「まぁ、ネロなら問題ないだろ。俺なら死ぬかもな。」


「死ぬ。」


「死なねぇよ。例えだよ、例え。族長の指令はそれだけきついの。分かったら寝ろ。」


 死ぬ、普通は死んだら終わり。スツィが言ってた、DCデスカウントは1/1が標準って事はそういう事だよね、一回死んだら終わり。涙が出てきてしまった。溢れて落ちる涙を拭おうとブランケットから手を出そうとしたら、それより早くレオさんが手を伸ばして指で拭いてくれた。


 そのまま、レオさんが慰めるようにそっと抱き締めてくれる。レオさんの腕と体の素肌の感触は気持ち悪かったし、硬かったし、汗臭かったけど、温かくてちょっとほっとした。


 腕枕で、髪を梳くように優しく撫でてくれる指の動きで目が閉じてくる。抱き締めてくれるレオさんは温かくて、寒かったから、丁度いい。抱き心地は最悪な抱き枕だけど、温かさが丁度いい。そのままぎゅっとレオさんに抱き着いてうとうとしてくる。



「マジで。これはヤバいだろ。」



 眠りに落ちかけてる中で、レオさんがなんか言った気がした。顔を上げて首を微かに動かすと、レオさんは、何でもないって首を横に振っって答えてくれた。レオさんは優しく微笑んでくれてるから大丈夫か。レオさんの優しい瞳を見つめながらぼんやりとしてしまう。


 ネロが早く帰ってきてくれるといいな。ここはちょっと汗臭いし、ネロの家のベッドの匂いが好きなんだよ。ネロの香りはいい香りで、あの匂いに包まれると安心できる。そうだ、レオさんにちゃんと伝えなきゃ。


「レオさん。」


「なんだ?」


「汗臭い。」


「あぁ?しょうがないだろ。汗をかいたんだから。」


「ちゃんと〈浄化〉をしてもら・・」


 そのまま意識が眠りに汚染されてしまった。でも、ふわふわと柔らかいベッドと温かくて安心する体温に付随する、硬い抱き枕の感触と汗臭い匂いでちょっと眠ったら起きちゃったらしい。


 目を開けると、レオさんが俺を抱き締めて寝ていた。一体どういう状況なんだって頭が混乱してしまう。レオさんの重い腕を持ち上げて抜け出したら、空気がヒンヤリとしていた。


 部屋の中はやっぱり寒いらしい。猫は体温が高くていいよな。またお布団に戻りたくなる誘惑に逆らって、ベッドから下りて部屋の片付けを再開する事にした。

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