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71 問題あるか?

 目を開けると、さっき迄の天井と似てるけど少し違う天井だった。起き上がって、くらっとして頭を抱えてしまう。ここもなのか。体を起こした俺の目の前に広がるのは、片付いたリビングが片付く前に見た光景と同じ。


「起きたか?」


 レオさんの声が近くで聞こえて、声の方向に顔を向けてみた。半裸のままで、俺の横でうつ伏せのレオさんが俺を見上げている。レオさんの手は本に置かれていて、その指先には艶めかしいお姉さんの挿絵が見える。読書中だったらしい。ってか、際どい本の中が見えるから閉じて下さい。


「ごめん、俺寝ちゃってた?」


「うん。急にカクンって寝落ちた。」


 レオさんからそっと視線を外して、部屋の中を見渡してみた。ぼんやりと部屋の中を見ながら、謝っておく事にする。レオさんはフフッと笑って、楽しそうに答えてくれた。


 ソファで寝落ちて良かった。変なトコだったら、死んでた可能性もあるからな。それにしても、レオさんはわざわざ俺をベッドに運んでくれたんだ。やっぱ、優しい人なんだろうな。


「そのままソファで寝かせてくれても良かったのに。夜もそこで寝かせて貰うつもりだったし。」


「そんな事をしたら族長に殺される。琥珀をソファなんかで寝かしたら、確実だよ。」


 ベッドが振動して、レオさんに目を向けてみた。本は開いたままだけど、レオさんの両手は自分の肩を抱いる。そして、大袈裟に震えて恐怖を演出するレオさんは、耳も倒してホントに怖そうに見える。レオさんのその感じが面白くて、ふふっと笑ってしまった。


 アルさんは、レオさんにとってそんなに怖い存在なのかな。まぁ、族長さんだから偉い人ってのは分かるんだけどね。俺の前ではいつもふんわり、にこにこ微笑んでるアルさんだからな~。全くといっていい程、アルさんが怖いってのが想像できない。


「アルさんはそんな事はしないでしょ。俺はソファでいい。俺が言わなくて、レオさんも言わなければ問題ないし。レオさんはベッドを使うでしょ?邪魔はできないよ。」


「今だって横で寝てたんだし、問題ないだろ。」


 寝る場所はソファでいいって遠慮してみたんだけど、レオさんは聞き入れてくれなさそうだ。言葉の上でだけじゃ信用できないのかもしれない。今まで面識なかった訳だし、俺が絶対にアルさんに言わないって断言しても不安は不安だよね。


 でも、レオさんが許してくれるなら、甘えちゃってもいいのかな。俺的にもソファだと寒そうだし、ベッドの方が温かくて安眠できるし。レオさんは気を使ってくれて、アルさんを引き合いに出してベッドを勧めてくれてる感じがするんだよ。って事で、レオさんの言葉に甘えさせて貰おう。


「そう?じゃあ、お言葉に甘えて。でも。」


 一旦、言葉を切ってレオさんをじっと見つめてみた。俺を見上げて話の続きを待っているレオさんは静かに続きを待ってくれている。


「部屋は一緒に片付けようね。」


 ニッコリ笑顔で提案という名の強制を宣言してみた。レオさんは何故か、息を飲んで固まってしまった。時間が止まってしまったように、瞬きすらしなくなっちゃった。固まったまま息もしてなさそうで流石に心配になってきてしまう。


 ってか、そんな威圧的な言い方はしてない、筈。ちょっとだけ、凄みは込めたけどね。だって、ここもこんなに散らかってると思わなかったんだもん。もう、お片付けは終わったと思ってたんだもん。起きたら時間が巻き戻った錯覚に陥っちゃったんだもん。


 多分ね、俺の後ろにアルさんを思い出しちゃったのかもしれない。ちょっとだけ、アルさんがネロに話してた時の凄みのある感じを真似してみただけなんだよ。悪い事をしてしまった。


「レオさん?」


 見下ろしてると威圧してるみたいに感じるかもしれない。レオさんと同じうつ伏せになって、レオさんの顔を覗き込んでみた。レオさんの綺麗な瞳の中で瞳孔がぶわっと開いたのが見えた。


 恐怖を感じて瞳孔が広がったっぽい。ヤバい、アルさんを連想させちゃった事で、脅してるって思われたのかもしれない。信用はないかもだけど、俺はアルさんにちくったりしないよ。心の中で必死に訴えながらレオさんをじっと見つめてしまう。


「レオさん?」


 俺が不安になったのが伝わったからか、レオさんは目を逸らしてしまった。そして、むくりと起き上がっって片手で顔を覆ってしまう。更にはふーっと息を吐き出している。


「これはヤバい。」


 レオさんの小さく呟く声が聞こえた。ヤバいって言ったね。確かにヤバいって聞こえた。やっぱりアルさんが怖いのかもしれない。アルさんを盾に脅してるって思われてるっぽい。


 ばっと体を起こして、レオさんの正面に座り込む。膝に置かれてる方のレオさんの手のひらをを両手包み込むように握ってみた。そして、まだ顔を覆ったままのレオさんを見上げてみた。


「レオさん。アルさんに密告なんかしないから。ちゃんと二人で部屋を綺麗にできましたって言うから、大丈夫だよ。」


 励ますように言葉を掛けてみると、レオさんが顔を覆っていた手を少しずらして俺と目を合わせてくれた。そして、また直ぐに顔を覆ってしまう。駄目だ、まだ警戒中の猫ちゃん状態だ。


 信用して貰えるように、誠意を持って伝えるしかない。そりゃ、そうだよね。全然知らない人だし、まだ探り合い状態だからしょうがない。俺から行動を開始する事できっと認めてくれると思うんだ。頑張ろう。


「大丈夫だから、信じて。ね。では、片付け開始。」


 まだ無理だと思うけど、一応もう一回レオさんに大丈夫だよって声を掛けておく事にした。そして、レオさんが落ち着く間に、俺は片付けを始めておこう。


 両手をレオさんから離して、ベッドから下りて部屋の現状を確認していく。お~、本棚があるじゃん。あの際どい本達はここに収納ですっきりするね。それにしても、本棚は見事に空っぽだ。


 ってか、ベッドの周辺にも丸めた紙くずが多いな。ちゃんとゴミ箱に捨てようよ。でも、寝室の散らかり方は乱雑に放り出してあるだけで、リビング程は酷くなさそう。えーっと、服と本とゴミだけだね。武器と素材はない。何とか今日中には片付きそうですな。



「マジで、俺は耐えられるのかよ。」



 部屋の現状を確認していたら、レオさんの微かな呟く声が聞こえた気がした。何か話し掛けてきたのかな、って振り返って首を傾げてみる。レオさんはもう顔を覆ってなかった。俺の疑問に首を横に振る事で答えてくれたレオさんに、ニコッとして頷いておく。


 俺を眺めている事から、レオさんはちょっとは警戒を解いてくれたのかもしれない。いい調子だ、この調子で俺が片付けを続ける事によって信用して貰おう。部屋の片付け第二弾に気合いを入れた瞬間に、ぐ~っとお腹が鳴ってしまった。 


「腹が減ったのか?」


「あ、今は何時くらいかな。」


「昼過ぎだね。」


 レオさんがベッドから下りて、気遣ってくれる感じで聞いてくれた。話をしていて判明したトコロによると、もうお昼ご飯の時間を過ぎてたらしい。こんな時でも腹時計は正確っぽい。部屋の片付けをして、ちょっと寝ただけでもうこんなに時間が経過していた事にちょっと驚いてしまった。


「レオさんはご飯食べた?」


「食べてないよ。」


 近くに寄ってきてくれたレオさんを見上げながら、質問をしてみる。レオさんは少し頬を緩めて、答えてくれた。そっか、きっと俺が寝落ちしちゃったから、傍についていてくれたっぽいな。迷惑を掛けてしまった。


「ん~。どうしようか。レオさんはお腹空いた?」


「まあ、減ったと言えば減ったし、食わなければそれでも問題ない。」


 レオさんとの今の遣り取りで、ネロを思い出してしまった。俺が寝込んでいた間のネロも、今のレオさんと同じ感じの返答をしてきた記憶がある。ネロといいレオさんといい、ガトの人達は食に対して無関心なのかもしれない。ちゃんと食べようよ。


「俺が食べるとして、レオさんも食べる?」


「そうだな~。どうせ注文をする手間は一緒だ。食うか。」


「一緒に行くとまた遅くなっちゃうから、俺はここで片付けをしてていいかな。」


「その方がいいだろうな。てか、眠かったら寝てろよ。行ってくる。」


 おずおずと御飯の提案をしてみると、ニコッと笑顔のレオさんが二つ返事で了承してくれた。出る間際に、寝ててもいいって気遣いの一言を付け加えてくれるとか。レオさんは優しいね。


 レオさんはモテそうだよな、雑じゃなければだけど。あ、でも女の子が遊びに来るって言ってたし、女の子の服も沢山放置されてた。実際にモテてるんだろうね、雑だけど。雑でワイルドだけど、不思議な魅力があるんだろうな。


 レオさんは上半身裸のまま出て行った、のに気が付いたのは、レオさんが帰って来た時だった。レオさんが帰ってくるまで、一心不乱に黙々と寝室の片付けを続けていたんだよ。


 背後で少し風が動いた感じがして振り返った時の衝撃たるや。全身びしょ濡れで、上半身裸のレオさんの姿が目に入って、少しだけ唖然としてしまいましたよ。


「おかえり、レオさん。てか、そのかっこで行ってきたの?」


「問題あるか?」


 露出狂なのかな、この人。問題しかないでしょ、裸だよ。あ、裸族だから裸って分かってないのかもしれない。服を着てない感覚が最早ない人なのかな、裸族ってそういうモノなのかな。俺は裸族の何たるかをしらない、だから分からない。


「上、着てないよ?」


「それが?」


 一応、一応だよ。分かってないのかなって思って確認を取ってみたんだよ。言葉以前に、もうレオさんの態度と表情が、それが何か、って表現してるよ。もうね、心の中で突っ込む事が多すぎて、いつ俺の猫が剥げるかが心配になってくる。頑張って猫を被り直さなきゃ。


「裸で出かけたの?」


「下は穿いてるだろ?」


「ソデスカ。じゃあ、取り敢えず。ちゃんと体を拭きましょうね。」


 俺とレオさんは永遠に分かり合えない事だけは理解できた。あ~、その濡れた体で動き回らないで欲しい。まだ畳み終わってない床の上の服が濡れちゃう。箪笥にすすっと移動して、中に乱雑に突っ込まれていたタオルを引っ張り出してみた。


 そして、傍に寄ってきていたレオさんに手渡してみる。素直に手渡したタオルを受け取って、レオさんは頭をガシガシと乱暴に拭き始めた。お願いしたら聞いてくれるから、いい子ではあると思うんだ。


 レオさんは放置して、片付けの時に積み上げていた本を本棚に入れていく作業に入らせて貰いますよ。一度に全部は運べない程に数があるから、少しずつ移動させていく。視線を感じて顔を向けると、またズボンを脱いで下着姿になっていたレオさんが、濡れたズボンを片手に俺を眺めてた。


「その濡れた服は、マントの横に干しておいて下さいね。適当に放置しないで。」


「りょ~かい。」


 大変素直で宜しい。積み上がった本も半分くらいまで減った。もうちょっとで寝室の本は本棚に全て収まる。本棚も本来の使い方をして貰って嬉しいでしょう。うんうん、いい事をした。


 リビングから戻ってきたレオさんが視界に入って、視線を向けると、レオさんは本の山を両手で抱えている。さっき片付けた時にリビングに積み上げていた本を、纏めて運んできてくれたらしい。


 感動でレオさんを見上げてしまった。さっきまで本の中身に気を取られて、お片付けもできなかったのに。この子はやればできる子なのではないだろうか。感動のままに潤んだ目でレオさんを見上げると、顔を逸らされてしまった。どうやら照れているらしい。この目を逸らす行動が猫っぽくて可愛い。


「これはそこに詰めればいいのか?」


「うん。ありがと。」


 やっとレオさんが協力してくれた嬉しさでニコニコが止まらない。ぶっきら棒な喋り方だけど、レオさんが手伝ってくれた。駄目な子ほど可愛いってホントなんだね~。さっきよりすこしだけ幼く見えるレオさんが、更に可愛く見えてしまう。


 いつもは後ろに流してる感じの髪が、額にかかってるからかもしれない。髪を拭いたばかりでしっとりしてるから、そうなってるんだろうね。本棚に向かって屈んだレオさんの後頭部に、背伸びして手を伸ばしてみた。つんつんしたこげ茶色の短髪を撫でてみる。


 つんつんした髪は、見た目通りに硬くて張りがあるけど、ちょっと長いトコロは少し柔らかくて手触りがいい。体を起こして驚いた顔をしてしまったレオさんの反応で、思わず手を引いてしまった。


 間違った。ネロが最近は猫みたいに甘えてくる事があったから、同じように撫でてた。こんな数回会った事があるだけの、ほぼ初めての面識の人になんて事をしてしまったんだ。気が付いて良かった、危なかった。


「ごめん。片付けを手伝ってくれて嬉しくて、つい撫でちゃった。」


 早口で言い訳をしつつ、誤魔化すようにテヘペロしてみる。レオさんは照れたように少し頬を染めてしまった。でも、目を逸らす事はなく、少し目を細めて真っ直ぐに俺を見下ろしてくる。


 レオさんからの突き刺さる視線を受けて、自分の行動を反省した。レオさんを怒らせてしまった可能性しかない。マズい。マヌさんに加えてレオさんにまで嫌われてしまうのか。そうだよな、馴れ馴れし過ぎだった。


 謝ったほうがいい、早く謝ろうと、口を開きかけた時に外からユリアさんの声が聞こえてきた。お待たせしました~って元気な声は今の緊張した状態ではかなりの救いに聞こえる。


 俺に視線を落として止まっていたレオさんがスッと移動を始めた。慌ててレオさんの腕を掴んで止めてしまう。レオさんが疑問の表情で見下ろしてきたから、ニコッとしてみた。


「レオさん、せめて下は穿いて出て。」


「いつもこの格好で出てるから平気だろ。」


「えっ、マジですか?」


「うん。マジ。」


「でも、今日はせめてズボンは穿いて下さい。お願いします。」


 めんどくせ~、と言いながらも、レオさんは助言に従ってズボンを穿いてくれるらしい。箪笥からズボンを引っ張り出したレオさんは、穿きながら寝室を出ていってくれた。


 裸族の方って出前も裸で出るんだね。初めて知った知識に驚きながらも、レオさんに続いて寝室からリビングに移動してみた。俺の姿を見て目を丸くしてしまったユリアさんに笑顔で挨拶をしてみる。


 驚きは一瞬で引いて、ユリアさんも笑顔を返してくれた。ユリアさんの笑顔はほんわか癒される。ユリアさんがバスケットから料理を取り出して、直ぐに配膳が終わったらしい。


 そういえば、ユリアさんは今日はびしょ濡れじゃないな。ユリアさんをよく見てみると、凄く薄い風の膜がユリアさんの体に沿うようにぴったりと張り付いていた。アルさんのぴったりした〈シール〉と同じっぽい。凄いな、ユリアさんも〈シール〉を極めてるのか。


「ユリアさん、今日は濡れなくて良かったね。」


「はい。マスターが〈シール〉をしてくれたので、ばっちりです。じゃあ、食事終わったら持ってきて下さいね~。琥珀さんがここにいると思わなかったからびっくりしました。では~。」


 ユリアさんは笑顔で出て行ってしまった。マスターが〈シール〉をマスターしてる、凄い。まぁ、マスターはしてないかもだけどね。じゃあ、食べようか、とテーブルに向かうと椅子が一脚しかなかった。座る場所がない、どうしようかな。

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