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70 それは使えるんです

 タオルは畳んで服も畳んで、ゴミはゴミ箱に押し込んでみたけどもう入りきらない。どうしよう。ん~っと考え込んでしまった。また覗き込まれて、深い緑の瞳を見つめてみる。


「どした?」


「えっと、ゴミ箱がいっぱいになっちゃった。他にあります?」


 レオさんが俺を見下ろして疑問の表情を浮かべて聞いてくれた。この家に他にゴミ箱があれば問題が解決する筈、と要望を伝えてみる。レオさんは俺の抱えた小さなゴミ箱を見てニコっとしてくれた。


「成る程、ちょっと待っててね。危ないからゴミ箱は床に置いて少し離れて。」


 危ない、という響きに疑問を抱きながらゴミ箱を床に置いて一歩下がってみる。手をかざして言葉を紡ぎ始めたレオさんはどう見ても魔法を詠唱している。魔法を使うのかと驚いて見ていたら、ゴミ箱の中の紙に火がついて燃え上がった。


 火の勢いにびっくりして、視線がレオさんからゴミ箱へと移ってしまう。魔法の火はゴミ箱自体にも、周囲の床にも、ソファにも、何一つ燃え広がる事はない。煤が付く事もなく、ゴミ箱の中身だけを燃やし尽くして消え去った。後には灰も残っていない。


 でも、めっちゃ臭い。臭いよ。そしてレオさんは魔法を使えるんだ。凄い、初めて見た種類の魔法だ。しかも火の魔法だよ。ぼわって火柱だった。ヤバかった。


「レオさんっ。」


 テンションが上がって、くわっとレオさんを見上げてしまう。俺の迫力に圧されたのか、レオさんが驚いた顔になってしまった。目を丸くしたレオさんが俺を見つめてくる。


「レオさんも魔法が使えるんですね。凄い。」


「〈焼却〉だぞ、凄い魔法じゃないだろ。お前の〈根性〉の方が何百倍も凄いだろ。」


「いえ、凄いです。初めて見ました。かっこいい。」


「は?」


 俺の勢いに呑まれた後で、レオさんは冷静になったらしい。冷めた反応を見せるレオさんがヤバい程にカッコ良く見えてしまう。魔法って凄いね、あんな雑なレオさんなのに、こんなにカッコ良く見えるんだね。


 レオさんは普通に間違いなくカッコいいんだよ。顔もキツくて怖そうな感じだけど整ってるし、体格も細くてムキムキで背も高いし、エリート護衛さんなんだよ。多分、普通にカッコいい人で確定だと思うんだよ。


 でもね、この部屋の惨状でテンションが駄々下がりになってしまった結果、残念な子に見えてしまっていた訳だよ。〈浄化〉もないって言ってたし、魔法は何も覚えてない人だと思ってたんですよ。


 それなのに、イキナリのカッコいい魔法だよ。ヤバいよね。さっきの魔法でテンションが上がりまくってしまった自覚はある。魔法っていいよね、凄いな。カッコいいよね。


「魔法、いいな。俺も使ってみたい。」


「使えばいいじゃないか。街で普通に売ってるだろ。ここでも種類は少ないけど売ってるから、後で市場にでも行くか?」


 溜息交じりに憧れを呟いちゃっても仕方ないよね。だって、あんな派手な魔法見せて貰ったら憧れちゃうじゃん。レオさんは冷静な口調で提案してくれたんだけどね。でも無理なんです。


「いえ。俺は魔法が使えない呪いにかかってるんです。なので無理です。」


「〈根性〉を使ってたじゃねぇか。」


「それは使えるんです。」


「意味分からねぇ。〈根性〉が使えるなら他の魔法もイケるだろ?」


「無理なんです。」


 心底疑問の顔をしてしまったレオさんの反応で、悲しい気分になってきた。だってしょうがないじゃん、覚えられないんだもん。呪いじゃないけどね、知力が1なんです。呪いみたいなモノなんです。覚えたくても覚えられないんです。


 心の中で呟いた自分の言葉で泣けてきてしまった。涙が零れ落ちるまでは出てないけど、目が潤んでしまった感じはある。俺と目を合わせているレオさんの目が少しだけ見開かれた気がする。


 圧倒された感じで目を合わせていたレオさんは後に続く言葉を選べなかったのか、頭をぽんぽんと撫でてくれた。気遣われてしまったみたいだ。は~、それにしても、今の魔法はカッコ良かった。火の魔法っていいよね。何か派手で、これぞ魔法ですって感じがしてカッコいい。


「で、ですね。レオさん。」


 潤んだ目のままで、静かに言葉を出してみる。レオさんは目を逸らす事なく視線を合わせ続けてくれる。じっと見つめる俺をレオさんもじっと見てくれる。


「その魔法。」


 静かな低い声で言葉を止めて、目に力を込めてみた。深い緑の瞳を見つめながら、レオさんの喉ぼとけが動いたのが、視界の端で見えた気がする。どうやら、重要な事を言うって雰囲気だけは伝わってくれたらしい。


「使えるならなんでこんなにゴミを溜めるんですか。ちゃんと片付けて下さい。」


「だって、燃やしても直ぐ出るから。」


「直ぐ出るならコマメに燃やして下さい。で、ソファでゴミが出たらゴミ箱に入れて下さい。ほら、こことか、ソファに張り付いちゃってるじゃないですか。」


 勢いよく駄目出しをすると、レオさんが呆気に取られた感じで反論をしてきた。そんな反論は受け取れませんよ。文句を言いながら、またゴミの片付けを再開する事にした。


 ソファが半分くらい片付いたトコロで、これまた少し皺くちゃになった本が出てくる。開かなくても分かる。アレ系な本ですよね。なんでこんな風に服とタオルに隠されるように埋もれてるんだよ。


「レオさん。この本は捨てちゃっていいんですか?」


「あ、それは実用的なヤツ。駄目だよ。」


「じゃあ、しまっておいて下さい。」


 実用的って一体どういう事だよ。疑問は胸に納めたままで、本を手渡しておく。少しして、また出てくる際どい本。溜息を吐いて、ちらっとレオさんを見てみた。言葉は選択せずに首を横に振って答えるレオさんが見える。


 にっこり笑顔で発掘した本をレオさんに手渡してみた。なんで、頬を染めて、吐息みたいな溜息を漏らしながら受け取るんだよ。恥ずかしいなら最初から仕舞っておこうよ。こっちだってちょっと恥ずかしいんだよ。


 まぁ、でも、急にお世話になるって押しかけてきた俺が悪いんだよね。レオさんが普通に生活してるテリトリーに勝手にお邪魔してる立場だった。俺はメッチャ好き勝手してる気がしてきた。そう思ったら、急に悪い事してる気になってきてしまう。


 自分の行動を顧みて反省して、俯いてしまった。レオさんの細いくて長い綺麗な尻尾がゆらゆらと揺れてるのが見える。レオさんは俺の斜め後ろのかなり近い距離で、ほぼ俺にくっつく勢いで立っている。その位置で俺の片付けを見守っていたらしい。俺の要望に対して、直ぐに応えられるようにしてくれてたっぽい。


 やっぱり、家に帰った方が、みんな幸せな気がしてきた。レオさんは俺に気を使わなくていいし、俺もネロの家で安心しできる。病み上がりでも一人でも、ネロの家で大丈夫な気がする。立ち上がってレオさんを見上げる。


「レオさん。ホントは俺、お邪魔しない方が良かったよね。アルさん、ってか族長命令だから仕方なかったんだよね。ごめんなさい。服は借りたままになっちゃうけど、俺はネロの家に帰る方がいいよね。文句ばっか言っちゃってごめんなさい。ご迷惑をお掛けしました。」


 俯いて謝ってしまった。そして、ネロの家に帰るって小さく呟いてしまう。レオさんは優しく俺の肩を掴んで屈み込んできた。顔を上げると、近い位置にレオさんの優しい笑顔が見える。屈んで目線の高さを合わせてくれたらしい。


「ちょっと、待って。なんでそうなるの。俺は迷惑とか思ってないよ。部屋も片付けてくれるし、琥珀が来てくれて良かった。感謝してる。」


 目を合わせて優しく話し掛けてくれるレオさんは、さっきまでの雑でちょっと冷めた感じがなくなっている気がする。優しく微笑んでいて、引き込まれるような深い緑の綺麗な瞳も優しい光を湛えている。迷惑ではないってのは本心なのかな。でも、アルさんの命令で仕方なくだったら可哀想だよね。


「でも、ちょっと部屋が汚かったから、文句ばっかり言っちゃったし。」


「大丈夫、大丈夫。ここに来る女共はみんな同じような事を言ってくる。もう慣れてる。」


 いつもの事って感じで軽く流してしまったレオさんの言葉を理解して、驚いて目が丸くなってしまった。女の子が遊びにくるのに、この状況で放置してたって事だよね。ってか、何で女の子が遊びにくるのに際どい本が散乱してるんだよ、恥じらいは無いのかよ。


「ってか、レオさん。女の子が家に来るのに、あんな際どい感じの本を沢山、適当に置きっぱなしでいいの?引かれない?」


「ん~、引かれない。ってか一緒に愉しむだろ。その方が興奮するって。」


 そんな性癖の暴露はいりません。俺はちゃんとしまっておいて欲しいだけですよ。何となくレオさんの人となりが理解できた感じがして、レオさんを軽く睨んでしまった。


 少し理解できた、レオさんは雑っていうか、ワイルドな人なんだろうな。それでも女の子は何人か遊びに来てくれるんだ。凄いな。レオさんは見た目のカッコよさだけじゃなくて、性格が凄く良さそうだから、モテるのかな。


 後、さっきの話し方とかの感じでは、優しい感じもする。俺の様子を見て声を掛けてくれる感じからも気遣いも完璧っぽい。それに、キツい印象だけどキリッとした顔はカッコいいし、優しい顔になると瞳が優しさを湛えててヤバいし。そりゃ女の子も惹かれますよね。


「じゃあ、服とか武器とかは片付けようよ。素材も。踏んでケガしたら大変だよ?」


「そうだな。ガトはケガしても盛り上がるけど、琥珀には危険だよな。しょうがない片付けるか。族長にも怒られそうだし。」


 怒られるから片付けるって子供かよ。でもいい、その気になってくれたなら何も言うまい。レオさんがやる気になってる間にできる限り片づけを進めよう。頑張ろう。


「俺は服を畳んでくから、レオさんは武器と素材をお願いね。俺だと武器はどうしていいか分からないし、素材は壊しちゃったら大変だから。あと、本も纏めて寝室かどっかに持ってってくれると嬉しい。あ、さっき本を少し濡らしちゃったかも、ごめんなさい。」


「りょ~かい。本は気にするな、俺も踏んで濡らしまくってるから全然平気。あ、琥珀。その、ボタンはちゃんと留めといた方がいいと思うよ。」


 本を濡らしちゃったのは謝れた。忘れる前にちゃんと終わらせた。レオさんはやっぱり気遣いができる人なのが確定した。服のボタンを気にして指摘してくれるとかありがたい。片付けに夢中で忘れてた。寒い部屋でこれは体調崩すかもよね、教えて貰って良かった。


「あ、そうだね。忘れてた。片付けに熱中してたよ、通りで寒いと思った。ってか、レオさんも上着を着た方がいいよ?風邪ひいちゃうよ。」


「俺はいつもこのかっこだからいいんだよ。普段はこれも穿いてないぞ。」


 レオさんの気遣いに感謝しつつ、レオさんにも上着を進言してみた。レオさんは首を振って答えながら、ズボンを掴んで見せてくる。あ~成る程、レオさんは裸族の方だったんですね。


 裸族のレオさんでも、他人がいる時くらいは服を着て欲しいな。駄目かな。他人のテリトリーってきつい、ネロがどれだけきっちりしてたかがよく分かる。この寒さでも大丈夫とか、レオさんは体が丈夫だね。


「そっか。でも今日は着といた方がいいよ、寒くない?」


「あんまり。」


「そっか。じゃあ、そのままで。片付け開始。」


 ある程度片付ける事ができたソファは後回しにして、部屋の片付けに戻る事にした。無心になって、落ちている服を拾っては畳んで積むを繰り返していく。途中レオさんに目を向けてみた。


 レオさんは、一応は、武器の片付けと素材の仕分けをしているみたいだった。ただし、本を開く合間にな。分かるよ。片付けをしようと思って、何の本かな、って開いたらつい読み耽っちゃうの。でもね、その肌色多めな本はそういうんじゃないよね。今じゃなくてもいいよね。


 視線を逸らして見なかった事にして、また俺の作業に戻って無心になってみる。気が付くと、畳んだ服の山が壁際に積み重なっていた。どんだけ服を持ってるんだよ。


 ってかね、言いたくなかったし、気が付かないフリしてたんだよ。でもね、女物の服もあるよね。下着もあるよね。どう見てもレオさんが着るヤツじゃないよね?これを着た女の人はどうやって家に帰ったの。疑問が尽きない。


 でも、一心不乱に作業を続けた事で、部屋が片付いて結構綺麗になってくれた。レオさんは本格的に座り込んで本を読んでるし、邪魔をしないように他の事をしようかな。そこら辺の武器も服の隣に並べておきましょうかね。


「レオさん。部屋綺麗になったよ。」


 武器も粗方片付いたトコロで、レオさんに声を掛けてみた。はっとなって顔を上げたレオさんが周りを見渡して、ほうっと小さく息を吐き出している。


 ホントにね、『なんという事でしょ~』ってナレーションが流れてくる完成度だよ。床が見えるもん。あの足の踏み場もなかった部屋が今では床が見える。素晴らしいですね。


「あとね、女の人の服はちゃんと返してあげなよ。女の人はどうやって服を残したまま帰れたの。」


「適当に俺の服を着て帰ったんじゃね?服は必要だったら取りにくるだろ。」


「あ、もしかして彼女さんがいたりするのか。俺がいて邪魔だったりとかしないかな。やっぱネロのトコに帰った方がいいかな。」


「いや、遊んでるだけだし。琥珀がいるのに呼ばねぇよ。」


 なんと、レオさん遊び人の方でしたか。成る程~、裸族で遊び人のレオさんですか。そうなんだね。まぁいいか。部屋が片付いた安堵から、は~っと息を吐き出してソファに座り込んでしまった。


 因みに、ゴミはちゃんと全部片付けました。ソファは完璧に綺麗な状態になっていて安心です。ソファに凭れ掛かって、ぼ~っと天井を見上げてみた。ネロの家と形状が似てると思ったけど、ネロの家の方が頑丈そう。


 この家は梁が細くて少ないし、天井の隙間が透明じゃない。小窓っぽいのもないから、外が見えないな~。部屋の片付けでちょっと疲れたし、寝不足で瞼が落ちてきてしまった。

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