7 俺天才か?
(デスボーナス10回目の特典はどうなさいますか?)
あ、そうだった。危うく現実逃避で死ぬとこだった。良かった。
「〈使役〉って【種族】を持ってないと使えないんだっけ?」
(はい。〈使役〉は獲得済の【種族】を使役する事が可能になる特殊アビリティです。)
獣、植物、人。・・・人って人?モンスターの人型の事かな?いるのか分からんけど。
(【ヒューマン】:琥珀様と同じ、種族・人族に属する者たちの総称。人型のモンスターは【ヒューマノイド】と総称されます。)
まじですか、人すらも使役できるとはぶっ壊れ性能ですなぁ。そんなのやりたい放題になるじゃん。成る程ね~、凄いな~。
「では、・・・【プラントイド】で!」
(了解致しました。)
淡い紫の光が俺を包み込んだ。
(使役したい相手を見つめて3秒ほど念じてください。対象によって時間は増減します。自身の魅力、対象の魅力、精神力の値によっても時間の増減が判定されます。対象が服従した場合、対象に対して希望の行動を念じるだけで行動してくれます。自身の魅力の値によっては失敗する事もあります。又、対象の魅力、精神力に付随する抵抗力によっても成功率が下がります。種族によっては完全に近い耐性を所持している場合もありますのでご注意下さい。)
使役の方法は?と問い掛ける俺に即応答してくれる有能スツィさん、秘書感が出てていいね。きっと、きちっとスーツを着こなした眼鏡の美人さんだろうね。
それにしても、成る程ね。失敗する事もあるのか。何はともあれ早速やってみるか。・・・植物、植物、植物ちゃーん。ってそうだった。いないんだった。他の2種はあからさまに罠臭いから、敢えての植物にしたんだけど、やっぱ失敗か?
地下に居た白いモフモフのリスもどき、エキュルとやらを見ると【ビースト】も捨て難かったし、外にさえ出れて街に辿り着けられたら【ヒューマン】も良かったよ?でもさ、俺、めっちゃ腹減ってる、気がするんだよ。こっちに来てから数日間、何にも食べてないのだよ。植物なら、なんか果物とかくれそうじゃん?
もう頭が混乱を極めてると即物的になっちゃうんだろうね。もうなんでもいいやって半ば自暴自棄になって、【プラントイド】を選択してみただけなんだ。流石に失敗だったかな。
あの階段下の地下のとこに【プラントイド】はいるのかな。そもそも、何かの気配はめっちゃするのに、下で計9回死んでモンスターと出会ったのが、9回目だけって魔物多数じゃないのかよ屍さんよ。
9回も潜ってそのうち数回は〈照明〉の時間切れまでいたのに、リスもどきがいる事しか分かんなかったよ。早く外出てぇ。お腹空いたぁ、気がする。遠い目をして高い窓の外、俺にはまだ出ることのできない外の緑を眺める。
・・・ギギィ。
聞きなれない音に目を向けると、軋んだ音を立てて神殿の扉が開く所だった。俺の体1つ分だけ両開きの扉の右側がゆっくり開いて行く。目の前の光景に一瞬頭がついて行かない。
「え?」
いやいや、あんな頑丈でびくともしなかった扉が開く事なんて、あり得ないでしょ。だからこそ唯一の出口の可能性がある階段下に通ったのに。そんな馬鹿な事が・・・ねぇ。俺は、夢を見てるんだな。きっとそう、外に出たいって気持ちが大きすぎて夢を見てるんだ。うん、現実逃避は良くない。
(神殿の扉:力50で開く事のできる扉。)
「・・・ぇえ。成る程ね、ステータス必須の扉かよ。そりゃあ、開けれないよな。ってか力がなくて開けれなかっただけかよっ。閉ざされた扉だと思ってた。最初に教えてくれよ。まぁ、どっちにしても開けれなかったけど。で、誰が開けてくれたんだ?」
(聞かれませんでしたので。)
そういえば最初の餓死以降、走り書きのメモを見て階段下のダンジョンの攻略しかしてなかったからな。扉なんて開かないものと認識してた。無駄に死んだ10回を返してくれ、いや、分かっててもどうにもならなかったけどさ。誰ともなしに愚痴を言いながら扉に向かうと、扉の下部から微かに見える茶色の蔦、いや根か。
・・・成る程。俺は勝負に勝ったらしい。窓の外の緑=植物を眺めて外に出たいと念じた。植物を使役して扉を開ける事に成功した。こういう事ですね。思惑通り。分かっていましたとも。
(思惑通りかどうかは置いておきまして、脱出おめでとうございます。尚、【プラントイド】とは『植物』ではなく、『植物族』の総称です。主に動き回り敵を捕食することのできる、知能を持った自走型の植物群を指します。又、自走せずに植物に擬態する種族、個体も存在するようです。稀に今回のように樹齢500年を超えた古木などが【プラントイド】の特性を持つに至る事もあるようです。)
遠い目をして心の中で感動していると、スツィが語り始めた。
「はいはい。ありがとう。って、【プラントイド】ってモンスターの事だったのか。今回はマジで運のみで生き延びたって事か。3択で答えが分からない時、一番はずれっぽいの選ぶのあり説まじであるな。俺天才か?」
(知力が1の状態では天才と呼ぶことは憚られます。)
そこ、分かってるから一々突っ込まないで。心の中でぼやきながら、扉に手をかけてその隙間から体を外に押し出す。外に一歩出ると、足元には緑色の大きな葉っぱに乗った、大きな赤い果実と黄色い果実、紫色の小さい粒と緑色の多肉植物の葉が置かれていた。見た感じでは桃っぽいのと葡萄と、アロエを更に肉厚にした感じのかな。どう見ても食べ物だよね。どれも美味しそう。
「ぉ。食べ物まで用意してくれてる。マジ感謝ありがとうな。植物君。」
多分扉を開けてくれて食べ物まで用意してくれた。と思われる1本の巨大な古木に向かい、幹を撫でながら礼を言うと、風が一陣吹いたのか俺に応えるように上空の葉っぱがさわさわと音を立てた。それにしても立派な古木である。桜のような少しごつごつとした幹が古木の風格を湛えていて、上空で枝を四方に広げ神殿の屋根半分程を覆っている。
辺りを見渡すと神殿を囲むように水を湛えた堀が巡らされ、神殿の扉の正面、目の前に堀を跨ぐ立派な石の橋が架かっている。というか大きな池の中にある中州に神殿が建っているってのが正しそう。その中州に1本だけ巨大な古木が神殿に寄り添うように立っていた。池の外側の岸には、少し草原が広がりその奥には池を取り囲むように鬱蒼とした森林が広がっているのが見える。




