表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/577

69 そこに落ちてるのでもいい?

 あ、成る程、散らかっていますね。うん、男の一人暮らしなんてこんなモノです。多分そうだと思います。ネロさんの部屋が異様に綺麗過ぎる方がおかしいんですよね、分かります。


 足を踏み入れたレオさんのテントの内部の惨状に、動きが止まってしまった。目の前の部屋は、アルさんの言葉通りの少しという言葉では済まされない程、見事に散らかっていた。


 ってか、匂いも籠ってる。汗臭い。なんで足元に服が落ちてるの、ここは入り口だよ?なんで武器がそこらへんに散らばってるの、危ないでしょ。


 なんかの素材かな。判別不明の動物の皮とか、角とか牙とか、よく分からないモノとか、色んな所に色んな物が落ちてる。骨と牙はともかく、皮は臭くなりそうだよ。そして、所々に落ちてる薄い本はなんなの。


 部屋の角にある、筋トレに使うような木で組んだ懸垂の装置っぽいのの周りだけは、ぽっかりと何もない空間が広がっていて床が見えている。でも、後は床から、ソファから、テーブルやローテーブルの上まで、服と武器と何かの素材と何かの本で埋まってる。


 近場に落ちてる、一度湿った後で乾いて、レオさんが踏んだせいでまた湿ったっぽい本を拾ってみた。張り付くページを慎重に捲って何の本なのかを確認してみる。あ、すいません。肌色多めのヤツですね。世の中の成人男性なら大体の人がお世話になるヤツでしたね。理解して無言で本を閉じてしまった。


 それにしても、挿絵の完成度が半端なかった。超肉感的に描かれていて絵師の意気込みと拘りが詰まっていた。ガトの綺麗なお姉さんとか、なんか他の種族の可愛い子達が描かれてる本だった。狐耳の可愛くて蠱惑的なお姉さんとか、ふんわりもふもふ尻尾のナイスバディな魅惑的なお姉さんとかが、凄く艶めかしいポーズのドキドキな感じの本だった。


 それはそうとして、なんでそんな際どい本が入って直ぐの床に落ちてるの。ツッコミたいけど、今はお世話になる身だから何も言うまい。そんな本は見なかった事にして、上がらせて貰おう。


 濡れたサンダルを脱いで、入り口横に立てかけて置かせて貰った。一応、外から入って直ぐの、靴を脱ぐ場所辺りは床が見えてて良かった。立つ場所はある。


 雨で濡れて重くなってしまったマントも脱がせて貰おう。びしょ濡れのマントを干す場所はあるかな。部屋を見渡していたら、レオさんが受け取ってくれた。


 雨で濡れた髪を掻き上げると、水滴が垂れてきてしまう。家の中で水滴を撒き散らす訳にはいかない。そもそも、今立っている場所以外の足元には、床一面に服が散らかっている。水滴がかかりそうで動けない事に気が付いてしまった。


 困ってレオさんに目を向けると、マントを奥の懸垂マシンに干してくれていた。ついでのように自分の服も脱いでその横にかけて、タオルを持って戻ってきてくれるレオさんの姿が見える。


 俺の傍に移動してきたレオさんは、無言でタオルを俺の頭にかけてくれた。ありがと、とお礼を言って頭を拭く事にする。俺の伸ばした手は見えていたと思うんだけど、レオさんはそのまま少し乱暴に俺の髪を拭き始めてくれた。


「レオさん。マジでそれ以上の力だと死ぬ可能性もある。」


 レオさんが気遣ってくれてる感じは分かる。でも、力が強くて乱暴なんですよ。警告、ではないけど注意事項的な感じでレオさんを止めてみた。


 動きを止めてくれたレオさんにお礼を言って、自分で髪を拭こうとタオルに手を伸ばしてみる。でも、レオさんは無言のままで優しく髪を拭くのを再開してしまった。どうしていいか分からなくて、結局手を下ろして拭いて貰う事にする。


 ぶるっと体が震えて気が付いた。そう、寒い。ガトの人は体温が高いっぽくて、レオさんに抱きかかえられていた時は温かく感じた。下ろして貰った時には少し寒く感じたけど、家に入って余りの散らかり様と臭さに寒さを忘れるほどの衝撃を受けていたらしい。


 マントは水が浸み込みまくっていて、服にまで水分が到達していた。つまり、服もびしょびしょ。今俺は、この極寒の部屋で、びしょびしょの服を着たまま入り口でレオさんに頭を拭かれているのだ。


「レオさん、着替えの服とか貸して貰えたりしないですか?服も濡れちゃった。」


「あ、そうか。ちょっとまってね。そこに落ちてるのでもいい?少しでかいかもだけど。」


 いい訳あるか。大きいとか、気を使うトコはそこじゃないから。落ちてる服を他人に着させようとする事が衝撃だ。レオさんは、気さくじゃなくて雑な人なのかもしれない。衝撃を受けながらも、なんとか笑顔でレオさんを見つめる。


「えっと、できれば綺麗な服がいいかな。」


「お~、そうか。でも、それも前に〈浄化〉して貰ったから綺麗だと思うよ。」


「で、できれば床に落ちてない服がいいかな。」


「分かった。ちょっと待ってて。髪は結構乾いたと思うから体を拭いてろ。」


 俺の希望は通って、床に落ちてない綺麗な服を持って来てくれるっぽい。良かった。家の造りはネロの家と同じっぽい。今いるリビングと、奥に寝室がある、感じかな。レオさんは寝室であろう部屋に入っていった。


 レオさんを目で追いながらシャツを脱がせて貰う。ネロが渡してきた厚めのシャツだから、水気を吸った今、めっちゃ重くて冷たくなってる。早く脱ぎたい。


 肌に張り付くシャツに手子摺りながら脱いで、どこに置けばいいのかと悩んでしまった。床は服で埋まってて、置き場がないのだよ。足元の服を少し寄せて場所を作らせて貰った。濡れたシャツを簡単に畳んで、今作ったスペースに置き、体を拭いていく。


 ついでに髪もまだ湿ってるから、簡単に拭いているトコロでレオさんが戻ってきた。入り口でズボンを脱ぐ勇気はないから、シャツだけを脱いで半裸状態だ。頭を拭きながらレオさんに目を向けると、レオさんは驚いた顔をしていた。


 レオさんは黒いシャツと黒いズボンを持って、リビングに入った状態で俺を凝視している。レオさんが何に驚いているのか分からなくて、小首を傾げて疑問を伝えてみた。俺をじっと見つめているレオさんの表情に変化はない。


「えっと、濡れた服ってどこに置けばいいですか?取り敢えず、ここにちょっとスペースを作って置かせて貰ったんだけど。」


 動かないレオさんに声を掛けてみた。俺の言葉ではっとなった様子のレオさんが大股で俺の傍に寄ってきてくれる。足元に置いていた濡れた服を持ち上げたレオさんは、近距離でそのまま俺を眺めてきた。


 あ、ズボンも寄越せという事ですね。濡れた服だからね。上半身は拭き終えたから、レオさんが持っている黒いシャツを受け取って先に羽織らせて貰う事にする。ボタンは脱げない程度に急いで2つだけ留めて、ズボンを脱いで軽く畳んでレオさんに渡してみた。


 レオさんは俺の傍から移動せずに、やっぱり俺を眺めている。あ~、そうだね。着替えのズボンを持ってるもんね。素早く下半身を拭いて、また頭にタオルを戻して手を伸ばすと、レオさんがズボンを手渡してくれた。


 ズボンを受け取ってささっと穿いてしまう。下着はあまり雨の被害を受けてないから大丈夫。ってか、流石に下着は借りたくない。


 それにしても、シャツもそうだったけど、ズボンもぶかぶかだ。レオさんは細く見えるけどやっぱりでかいんだな。ズボンは腰紐で留めるから縛っておけば一応はずり落ちては来ない。でも、裾がやばい。屈んで裾を折り曲げてみた。脚が長くていいな、羨まし過ぎる。



「やべぇな。破壊力がヤバい。」



 レオさんがぼそっと呟いた気がして顔を上げてみた。ズボンの裾に気を取られていた俺はレオさんが呟いた言葉をしっかり聞き取れていない。話しかけてきたのかな、と首を傾げてみたけど、レオさんは無言で俺を見下ろしている。


「なんか言った?」


「いや、何でもない。服は少しでかかったみたいだな。小さいの持ってないからすまん。」


 無言で目を細めて俺を眺めているレオさんに、言葉で聞いてみる事にした。レオさんはぶかぶかの服を着ている俺の胸元を見ていたっぽい。俺の質問を受けて、ゆっくりと目を俺に戻して、返事をしてくれた。どうやら、服のサイズが気になっていたみたいだね。


「少しじゃない。ぶかぶかだよ。でも、居候の身で服まで借りちゃってごめんなさい。」


「大丈夫~。じゃあ、この服は纏めて後で族長のトコに持ってくか。俺は〈乾燥〉を覚えてないんだよ。ごめんね。まぁ、一応干しとくわ。」


 乾いた服を借りる事ができただけで満足です。ペコっと頭を下げて謝ってみると、レオさんは俺の頭をぽんぽんとして離れていった。そして、話しながら濡れた服をマントの横に適当に干していってくれる。服を干し終わったレオさんは、また俺の傍に戻ってきて俺を眺め始めた。


 ネロは魔法を多用してたから、この世界では魔法って凄い身近なのかと思ってた。でも、レオさんみたいに魔法を覚えてない人も普通にいるんだ。成る程。みんながみんな、魔法を完璧に使い熟しますって訳じゃないんだね。


「あ、そうなんだ。だからタオルなんだね。護衛の仕事って、動き回って汗をかきそうだから〈浄化〉と〈乾燥〉は覚えてそうかなって勝手に思ってた。」


「あ~、〈浄化〉も使えないわ。汗をかいても拭けばいいだろ。俺は何日かに一度マヌに〈浄化〉して貰ってる感じだ。」


「え、じゃあ、今日も〈浄化〉はしないって事なの?この落ちてる服も〈浄化〉は直ぐしないの?」


 服だけじゃなくて俺も〈浄化〉をして貰えないって事だよね。毎晩、ネロに綺麗にして貰うのが当たり前になってた。でも、そりゃ魔法だし覚えてないって事もあるよね。そうだよね。寝泊まりできれば、一日くらいシャワーを浴びれなくてもしょうがない。って感覚で考えればいいかな。うん、そう考えておこう。


「ってか、気が付いたけど。レオさんもびしょ濡れじゃん。なんでそれで落ちてる服の上を歩き回ってるの。ちゃんと拭いて。その間に俺は床を片付けるから。タオルありがと。」


 体を拭いて湿ったタオルをレオさんに返してみる。そのタオルでそのまま、レオさんが自分の頭をガシガシと拭き始めた。ちょ、そのまま使うのかよ。人が使ったタオルだぞ。言いたい事は山程あったけど、郷に入っては郷に従えだ。もういいよ。


 袖を捲って、足元の服を拾い上げてみる。ぶかぶかの袖が直ぐに落ちてきてしまって作業がやりにくい。服を床に戻して、一旦袖を真っ直ぐに伸ばして袖を二回程折り込んでみた。右手の袖は折り込めたけど、左手の袖にもたついてしまう。


 そう、ステータス器用のせいですよ。きっと。器用の値が1だから、利き手じゃない方は上手く使えないんです。きっとそう、俺が元から不器用なせいじゃないんです。ステータスのせいなんです。


 誰にともなく心の中で愚痴りながら、もたもたと袖を折り畳んでいると、レオさんが手伝ってくれた。屈み込んだレオさんは慎重に左手の袖を折り込んでくれた。


 どうやらレオさんは面倒見がいいらしい、そして、雑だけど優しい人だった。でもね、上半身裸はいいとして、濡れたズボンのままで落ちてる服の上を移動しないで欲しい。床の服が水気を吸っていく。


「ありがとうございます。」


 にっこり笑顔でお礼を言って、片付けを再開する事にした。足元の服を拾っては畳んでいく。武器はどうすればいいか分からないから、纏めて床に並べてみた。際どい本達も纏めて重ねて積んでおく。


 最初に見てしまった湿った本は、他の本に影響しそうな程濡れてるから、山に積まずに脇に置いておこう。後で濡れた手で触ったのは、後で謝ろう。黙々と床に落ちている服を畳んで、武器を並べて、本を積んでいく。


 片付け始めて少しして、視線を感じた気がして顔を上げてみる。レオさんと目が合った。上半身裸で下半身もスパッツのようなぴったりしたボクサートランクスっぽい下着姿だ。頭を拭きながら、俺の片付ける様子を眺めていたらしい。


 男同士だから、裸でも別に気にはしないけど、せめてズボンくらいは穿こうよ。心の中で突っ込んでしまったけど、レオさんと目が合ってしまったからにこっと笑顔で誤魔化しておいた。


 レオさんは置いといて、服を拾っては畳む作業に戻らせて貰いますよ。ってか、この床に落ちてる服は全部、洗い直し決定でしょ。レオさんは着る服あるのかな。心配になってしまう。レオさんは結構雑っぽいから、着替えなんてないとか言いそうで怖い。


「レオさん。ここの服以外に服はあるよね。」


「うん、あるよ。」


「じゃあ、寒いから服を着ちゃって。風邪ひいちゃうよ。」


「りょ~かい。」


 頭を拭いていたタオルを、床にぽいっと放り投げたレオさんが寝室に向かっていった。ってか、それが原因だよ。この惨状の原因が分かった気がする。溜息を吐いてタオルを拾い、マントの横に折り畳んで干しておく事にした。


 片付けに戻って、服を拾っては畳んでいく。床も結構見えてきたじゃん。いい感じ。床は一旦ここまでにして、先にソファを片付けましょうかね。今夜の寝床になる場所だから、先に片付けたい気がする。


 ソファに移動して、ソファの上にも放り投げられている服を畳んでいく。大きなタオルとか小さなタオルとかも適当に放置してるみたいでそれも畳んでいく。これ全部〈浄化〉をしないと使えないでしょ。なんでこんなに溜め込んでいるのか。


 小さく息を吐き出してタオルや服を畳む合間に気が付いてしまった。なんか知らないけど、くしゃくしゃに丸められた柔らかい紙が沢山落ちてるんですけど。どう見てもゴミだし、用途的には、まぁどう見ても、際どい本を読みながらって感じっぽいのかな。なんでこんな適当にこんなゴミを放置してるんだよ。


 またツッコミたくなるのを我慢しながら困っていると、レオさんが横から覗き込んできた。上半身は相変らず裸のままだけど、黒いゆったりとしたズボンを穿いている。


 ってか、しっかり見てなかったから気付かなかった。あんな細く見えた体なのに筋肉でバキバキじゃないですか。超着痩せタイプの人だったんだね。ってか、筋肉があっても普通に細く見えるのが凄い。


「どした?」


「ゴミ箱はありますか?」


「あるよ。待ってね。」


 部屋の隅っこをごそごそと探っていたレオさんが、上に乗っていた服を他の所に放り投げる姿が見えた。ああ、畳んで積み上げていた服が崩れた。もう、ダメなのか。本当にここの部屋は快適になるのだろうか。


「はい、ゴミ箱。」


 満足そうな顔でゴミ箱を渡してくれるレオさんには、言葉が出ない。受け取った小さなゴミ箱の中には既に丸められた柔らかい紙の群れが詰まっていた。容量が八割程埋まってる。要するにどう見てもほぼ満タンだね。


 一応は、ちゃんとゴミ箱を使っていた事実は垣間見れた。それは良しとしよう。でもね、中身はちゃんと捨てた方がいいと思うんだ。一応、ゴミ箱には少しだけ詰め込めるスペースが残されているから大丈夫か。入る分だけでも詰め込んでおこう。ソファのゴミをゴミ箱に詰め込んでいく作業の始まりですよ。


 レオさんは、多分だけど、何もせずに俺の後姿を眺めている、感じがする。視線だけを感じる。少しは動いてくれと思ってしまった。アルさんに片付けなさいって怒られたんでしょ、ホントにもう。


 でも、泊めて貰うからお礼は必要だよね。あと、快適な寝床の為に俺は頑張る。少し引いてしまうくらい、丸めた紙が散らばってるけど、ブランケットを借りて敷いて寝れば問題無いでしょ。気にしなければ大丈夫、多分。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ