63 何を知ればいいんでしょう
少しぬかるんだ地面に注意しながら慎重に家まで辿り着いた。入り口に手を伸ばすと後ろから手が伸びて、その手が開けてくれた。見上げると金色の瞳が見える。
「アルさんと話をしてくるんじゃなかったの?」
「直ぐ終わった。」
「そっか。それなら、入り口で待ってれば良かったね。てか、濡れてる。乾かして。」
ネロが勝手にサボってたのが判明した以上、アルさんの用事は時間がかかると思っていた。でも、直ぐに戻ってきたネロに驚きながら、家に入って聞いてみる。ネロは淡々と短い言葉で答えてから、〈シール〉を解除してくれた。俺に〈乾燥〉をしようとするネロの手首を掴んで軽く睨んでしまう。
「俺じゃない。自分に。」
ちょっとキツメに言い聞かせてしまった。一瞬動きを止めたネロは俺と目を合わせながら頷いてくれる。ネロは俺が掴んでいた手をやんわりと外して少し距離を取った。俺に風の影響が及ばない場所で、ネロが〈乾燥〉を詠唱し始める。
やっぱり強風が吹き荒れて、ネロの髪がぼさぼさになっていく過程を、近くで眺めさせて貰った。風が止んだ後で、ネロに近付いて背伸びしながら、手を伸ばしてネロの前髪を整えてみる。
少し屈んでくれたネロの顔は少しだけ近くなったけど、背が高いからやりにくい。横はギリ届いたけど、後ろは無理だ。後は自分で整えるでしょ、とソファに移動して腰を下ろして休憩だ。
寛ごうと思ったら、俺の前に座り込んできたネロが俺を見上げてじっと見つめてくる。っこれは犬か、撫でてくれって無言で威圧してくる大型犬に近いモノがある。
しょうがない、整えてあげよう。前髪にも、もう一回指を通して軽く整えて横も指で梳いてあげる。最後に腕を伸ばして後ろ側を手櫛で整えてあげて終わり。
終わって手を引くと、俺の隣にネロがすっと座ってきた。あ、尻尾を俺の側に置いてくれたら、触れそうだったのに向こう側か。くそぉ、尻尾が触ってみたい。
ネロの尻尾はフサフサもふもふで長くて綺麗なんだよな。未練がましくネロの尻尾に視線を向けていると、誘うように可愛くパタパタと動いてくれる。あの先端だけパタパタするのが可愛いんだよね。
「琥珀。今夜から族長の所に泊まれ。」
「ん?」
可愛く動くネロの尻尾を見ていて、ネロの言葉が頭に入ってこなかった。顔を上げて小首を傾げてしまう。全然聞いてなかった。尻尾に夢中だったんです。
「ごめん、もう一回言って。聞いてなかった。」
「今夜から数日の間、族長の所に泊まれ。」
ネロが再度通告してくれた内容が理解できて、少し動揺してしまった。それ程迄に、俺はネロに迷惑を掛けていたのか。ネロの家に滞在する事は、族長のアルさんの意向に沿わないって事なのかな。
「なんで?俺が迷惑を掛けちゃったからここにいちゃ駄目って事なの?」
「違う。少しの間、俺は外に出る。病み上がりの琥珀を一人で残していくのは不安。だから、族長に頼んできた。」
「ネロはアルさんに無断でおさぼりをしちゃったから、罰を受けたの?」
「そんなところだ。」
ネロから離れなきゃいけないって理解して、涙目になりながら質問したら違ったらしい。少し安心した後で、何でそんな事になったのかが気になった。俺が帰る直前に、アルさんが、ネロが仕事を放棄してたから仕事が溜まってるって言ってた。それの後始末なのかな。冗談で聞いてみたらどうやらそうらしい。
「まじか。ホントごめん。」
「琥珀のせいではない。自分で選んだ事。夕飯が終わったら族長の所に送っていく。」
「それまでは一緒にいてくれるの?」
ネロと離れるのがちょっとだけ不安で、時間までは傍にいて欲しいって確認を取る形式で頼み込んでしまう。頬を少しだけ緩めてくれたネロが優しい表情で頷いてくれた。直ぐに優しい表情はなくなって真顔に戻ってしまったネロだけど、俺を心配してくれてるのは分かった。
「そっか。良かった。」
ネロの話を聞いて不安になっちゃったけど、時間まではネロは傍にいてくれるっぽい。安堵してへにゃっとかなり気の抜けた笑顔を浮かべてしまった。
俺と目を合わせていたネロの瞳孔が一瞬だけ、ぶわっと広がったのが見えた。表情は普通に真顔のままで、瞳孔も直ぐにシュッと縦長に戻っちゃったけど、ネロは何かに驚いたっぽい、のかな。
体を横に倒して、勝手にネロの太腿を借りて膝枕をしながら見上げてみる。見下ろしてくるネロの瞳には、やっぱり何の感情も浮かんでない。でも、ネロは俺の髪を優しく撫でてくれる。表情と行動が噛み合ってないネロだけど、優しい感じはする。
「数日って何日なの?」
「未定。」
「そっか。なんかね、ネロのトコで落ち着いてたから、他の家に行くのはチョット怖いかな。」
「そうか。」
俺が出した怖いって言葉対して、ネロが少しだけ眉を寄せてしまった。眉を寄せた無表情のネロは淡々と相槌を打ってくれる。ネロを見上げたままで、ん~っとネロと同じ表情を作って眉を寄せてみる。少しだけ頬を緩めたネロは寄っていた眉を解除してくれた。俺も眉を戻してネロを見つめる。
「ネロにはホントお世話になり過ぎだね。ごめんね、俺のせいで仕事が大変になっちゃって。」
「問題無い。直ぐ帰ってくる。そうしたらこの家に戻ればいい。」
「直ぐに帰ってきてくれるの?」
ネロを見上げて聞いてしまうと、髪を撫でながらネロが頷いてくれる。雰囲気はすっごく優しいのにネロの言葉と表情は凄く淡々としてるんだよ。表情だけではネロの感情も思考も読み取る事はできない。
「直ぐって明日?明後日?」
終始淡々と話していくネロの感情を少しでも見てみたくて、子供のような質問をして駄々を捏ねてるフリをしてしまった。少し困った顔をしたネロが黙り込んでしまう。困ってる顔は確認できましたよっと。でも、困らせちゃったのは謝らないとね。
「ごめん、冗談です。アルさんにお世話になるなら、アルさんの仕事の邪魔だけはしないようにしないとだよね。あと、ちゃんと猫を被っとかなきゃなんだよ。ネロの前みたいなリラックスし過ぎた態度だと、アルさんに驚かれちゃいそう。『予言の人』としてのイメージは大切にしないといけないと思うんだ。」
感情を見せてくれたネロに満足して直ぐに謝ってしまう。そして、アルさんの所でお世話になるにあたって、気合いを入れてみた。髪を指で梳くように撫でてくれるネロの表情が優しくなった。
少し目を細めて頬を緩めてくれた、無表情じゃないネロはめっちゃ綺麗。ちょっとだけ見惚れてしまった。手を伸ばしてネロの頬に触れてみる。擽ったそうに目を細めて俺を見下ろしている金色の瞳から目が離せなくなってしまった。
「琥珀、本当に嫌な事は声に出して伝えろ。族長は無理強いはしない、筈。」
視線を俺に落としたままで、低く呟くように忠告をしてきたネロの声ではっとなる。視線をネロから外して、天井を見上げながらネロの言葉を反芻してみた。嫌な事?嫌な事ってなんだ。
「嫌な事なんて、アルさんはしないでしょ。」
「そうだな。」
ネロの冗談の可能性もあるけど、確認を取ってみた。ネロは目を細めて優しく相槌を打ってくれる。ネロは優しく髪を梳くように撫でてくれる。
無表情に戻ってしまったネロの膝枕は硬くて首が痛くなってきた。体を起こしてネロの隣に座り直し、ローテーブルの上の本に手を伸ばしてみる。ネロに少しだけ寄り掛かりながら本を読む事にした。ネロは俺の肩に腕を回して、俺の頭を抱えるように髪を撫で始める。
俺が寄り掛かってるから、転ばないように支えてくれてるついでに、髪を撫でてくれてるって感じかな。ちょっとだけ距離感が近い気がするけど、ネロは全然気にしてなさそうなんだよな。ネロの体温がほんわか温かくて安心するからいいか。
本に集中しようと思ったけど、ネロが髪に絡めるネロの指が気になって集中できない。ちらっとネロを見てみると、ネロは俺の手元の本に視線を落としていた。
分かった。ネロは髪を撫でるのが好きな人なんだ。思い返せば、髪を結構撫でられてた気がする。きっとそうなんだろうね。だから無意識に髪を撫でてるんだ。納得です。
ネロと隣り合って一緒に読んでいるけど、俺のページを捲る速度は限りなく遅い。だって、難しいんだもん。ネロが髪を触ってるせいで集中できないんじゃなかった。単純に俺の頭の問題だった。悲しい。
書いてある意味は分かるんだよ、でも理解ができない。分かるのに理解ができない現象で頭がこんがらがってくる。理解できないのに意味は分かりますってどういう現象だよ。
正確には、読む事のできない不思議な文字の意味は分かるんだけど、書いてある内容が難解で理解ができない。どっちにしても分からねぇ。〈翻訳〉のスキル以前の問題なんだろうな。俺の頭の性能のせいで、理解ができないんだろうな。この現実が悲しい。
今読んでる魔法について書かれている本は、挿絵もなく、文字だけでびっしりと魔法の説明が書かれている。魔法の知識自体がないからか、地理の本以上に文字だけでイメージするのが難しい。
これが知力1の弊害なのか。きっとそうだ。がんばれ俺。俺の指元を真剣に眺めてるネロの視線と、髪に滑らせてくるネロの指の刺激で全く集中できない。もういいや。読むのを諦めて楽な方に流れてみる事にする。
「ネロは魔法の知識って結構あったりする?戦いの知識は豊富そうだけど。」
「基本的なものは。」
手元の本に視線を向けたままでネロに話し掛けてみた。俺の髪を梳きながらネロが淡々と答えてくれる。
「魔法について基本の『き』も分かってない俺にかみ砕いて教えてくれたらな、と思うんですけど。どうでしょう。」
ネロが視線を俺に向けたのが視界の片隅で分かった。俺は本から顔を上げずにネロの答えを待つ。髪を梳く手を止めたネロが何かを考えているのか、俺の横顔を眺めている気がする。
「何が知りたい?」
「何を知ればいいんでしょう。」
少しの沈黙の後で、髪を撫でるのを再開したネロが、低い声で淡々と聞いてくれた。それに対して直ぐに質問を返してみたら、再び止まる手と浴びる視線。ちらっと横を向いてネロと目を合わせて、えへっと笑顔を作ってみる。
「俺はホントに何の知識もないんです。」
右手を上げて人差し指の指輪を光に翳してみた。ちらちらと光を反射する光沢のある指輪をネロにも見えるように指を広げてみる。
「この指輪。あの子達が残してくれたモノなんだけどこれも魔法なのかな。」
「魔法ではない、多分。その指輪を少し見てもいいか?」
ネロに聞かれて頷いて、右手をネロに差し出してみた。ネロは俺の髪を撫でている右手はそのままで、空いた左手で俺の右手を引き寄せて握ってくる。ネロの長い指が人差し指の指輪に触れた。ネロが指輪を撫でる様子をぼんやりと眺める。
「そっか。魔法ではアイテムは作れないって事で正しい?」
「そこまで深い知識を持っている訳ではないぞ。」
ネロが指輪を撫でている間に質問をしてみた。少し考えたネロが断りを入れてきたから、ネロの目を見て頷く。俺の髪に指を絡めて、時々摘まむように髪を触ってくるネロの指が擽ったい。質問に答える為なのか、指輪を見て満足なのか握られていた手は離してくれた。
「このモーティナに於いて、魔法は火・水・土・風・光・闇の自然に属する魔法、無・心の自然に属さない魔法、そして時・幻の解明の進んでいない謎の多く残る魔法で成り立っている、と言われている。他にもここに属さない未知の属性が存在している可能性もあるが、今の世では存在が確認するに至っていない。」
言葉を止めて少し考え込んだネロに、頷いて理解できてますって事を伝える。魔法の属性は10種類なんだね。時と幻は解明が進んでないのか。まぁ、響き的に凄そうだもんね。時の魔法とかヤバそう。そして、未知の属性ってなんだよ。怖いな。
「確かに魔法で作られたアイテムは存在している。その指輪が仮りに、魔法によるアイテムの可能性を考慮すると、複合魔法の可能性が高い。今の技術では、1つのアイテムを魔法で生成するにあたっては、魔法を扱う職人が十数人単位で必要になってくる。達人や極めた職人なら数人でも可能かもしれないが、何れにしても膨大な時間と魔力、素材を消費する。その他にも、アイテムによって必要になる条件を満たす必要がある。」
うんうん、と頷く俺の相槌で、ネロは俺が理解したと判断してれたっぽい。目を細めたネロが髪を撫でてくれた。魔法で作るアイテムは手間暇がかかるって事だけは理解できた。
魔法の指輪って簡単に聞いちゃったけど、かなり複雑な工程を踏まないと魔法でのアイテム生成は難しい事が良く分かった。人手も素材も時間も膨大な値を消費して1つのアイテムか。相当凄いアイテムって事なんだろうな。
「基本的には効果を付与したアイテムというのは、彫金や鍛冶の職人に装備自体を作成させて、細工士が紋様を刻んで効果を後付ける事が一般的。一流の紋様士の刻む、計算し尽くされた紋様の効果は非常に高い。魔法による装備品より効果は上になる事が多い。実用品となると、一流の細工士の紋様の方が確実に主流になる。ただ、一般的な細工士の施す紋様より、魔法によるアイテムの方が効果が高いのは事実。」
成る程ね。一流の細工士>魔法によるアイテム>一般的な細工士って位置付けなのか。ネロが実用的なのは一流の細工士の紋様って言ってるくらいだから、確実にそうなんだろうな。
じゃぁ、なんで魔法で面倒臭い事をしてまでアイテムを作るんだろ。手間暇かかるって事は高価だろうし、誰も欲しがらない気がしてくる。魔法のアイテムは誰に求められるアイテムなんだろ。
「魔法で作成されたアイテムの効果は比較的高い。とはいっても、一般的な紋様を後付けしたものより少々効果が高い程度。結果、魔法によるアイテムは、希少品を欲しがる物好きと金持ちしか求めない傾向になっている。」
また言葉を止めたネロが、俺の反応を確認するように覗き込んできた。ちゃんと理解はしてますよって伝えたくて大きく頷いてみる。ネロは目を細めて納得してくれたみたいだ。
ってか、魔法によるアイテムは一部のモノ好きの為のアイテムだったのか。どこの世界にも『一部のモノ好き』っていう特殊なジャンルが存在してるんだね。勉強になりました。そして、あっさりと俺の疑問も解決してた。
「効果が比較的高く希少品という事で、蒐集家の需要を見込んで作成している工房は少数だが存在している。もしくは、金にモノを言わせての特注品になる。もっと詳しい話を知りたいのならニルに話を聞くといい。」
あんまり詳しくないって言ってたのにメチャクチャ詳しく知ってるじゃん。それとも、これは一般的な知識なのかな。判別がつかない。詳しく知りたいならニル君に聞くのか。成る程ね。
「琥珀はその指輪の効果がどのようなモノか分かるか?」
「えっとね。精神力と魅力のステータスが+100で火と水と風と光と闇と幻の耐性が+100だって。」
聞かれた質問にスルっと答えてみると、ネロが目を瞠って、瞳孔もまん丸になってしまった。メッチャ可愛い顔になってる。驚いた時の猫ちゃんの顔だ。
俺の髪を撫でていた手が止まり、尻尾の毛が逆立って少し太くなってぶんぶん動いている。めっちゃ可愛い、驚いた時の猫ちゃんの尻尾だ。
視界の端っこで動く尻尾が気になってしまって仕方がない。ネロと合わせていた視線を、一度尻尾に向けて観察させて貰いますよ。やっぱネロの尻尾はフサフサもふもふの極上な尻尾ですね。驚いて太くなるとヤバい可愛さじゃん。
尻尾を堪能したから、ネロの目に視線を戻しておく。開いた瞳孔がゆっくりと収縮して細く縦長になっていくのが見える。今までの驚いた顔より、更に上位の驚愕と言える程の表情だったネロは大変可愛かったです。ご馳走様でした。
「指輪の効果がどうかしたの?」
「凄い効果、だな。これがあの武器達の心という事か。」
「えへへ。胡蝶と白雪。凄い?」
「凄い。」
ネロが唐突に二人の事を褒めてくれた。ちょっと、マジで嬉しいんだけど。俺が褒められた訳じゃないけど、照れ笑いを浮かべてしまう。ネロは頬を少し緩めて優しい表情になってくれた。胡蝶と白雪を褒めてくれるのは凄く嬉しい。髪を撫でる指を再開したネロが、一言で凄いと断定してくれた。更に笑顔になってしまうのを止められない。
「琥珀はこの世界の平均的な能力を知っているか?」
「ん~、知らない。」
イキナリ聞かれても、平均的な能力なんて分かんないよ。そんなモノ知る訳がない。
「全種族の精神力の平均値が凡そ48程度、魅力の平均値は凡そ43程度。各耐性の平均値は少し前後するかもしれないが凡そ5程度だ。これで、その装備の凄さが伝わるか?」
「全種族ってどういう事?」
「各種族で多少の差異はあるが、魚人を除く地上の全ての種族を総合した世界の平均。一応、ソピアの学者共が統計を取って導き出した結論。概ねあっている、筈。少し前の情報ではあるがそこまでの大差はない、筈だ。」
「そっか。やっぱ胡蝶と白雪は凄いね。」
ネロの説明を聞いて、凄さが少し理解できて人差し指の指輪を左手で撫でてしまう。精神力も魅力も、平均値の倍以上、耐性値に関しては凄い事になってるのは理解できた。指輪1つにあの子達の想いがぎゅっと詰まってる感じがして、凄く嬉しい。
「効果を聞いても、やはり人の手でそれを作成する事は不可能という結論になる。魔法であっても紋様であっても不可能。」
「そっか。魔法のアイテムとかじゃないのか。」
「不満か?」
指輪を見つめる俺を覗き込んできたネロをちらっと見て、また指輪を眺めてしまった。光沢のある深紅の指輪に、白い雪の結晶と白い蝶の可愛くも綺麗にも見える指輪。あの子達を模った美しい指輪。
「俺のイメージする魔法のアイテムなら、胡蝶も白雪も呼び出せるのかなって思っちゃった。」
「呼び出す。召喚か。古い魔法だな。」
「古い魔法?召喚って、俺はそれで呼び出されたっぽい。古い魔法なの?」
いつか、この指輪に念じたらあの子達が帰ってきてくれたらいいなって、イメージを口に出してみた。ネロがそれに対して答えてくれた言葉を聞いて、ネロを見つめてしまった。
召喚、俺がこの世界にいる事になった元凶、というか要因。誰に呼び出されたのか、何をさせる為に呼び出したのか、何一つ分かってない状況で俺はこの世界に存在している。
「今は伝承の中にしか存在しない古い魔法。先程の説明した魔法のどこにも属さない、或いは究極の複合魔法の可能性が高い魔法。学者共が再現しようと研究を重ねているが、未だ発動に至っていない古い魔法。」
「なんで古い魔法が俺にかけられたんだろ。俺は今ここにいるよ?」
「分からない。俺の知識の範疇では答えられない。すまない。」
「そっか。ありがと。」
あとは温かい手が髪を梳いてくれる感触を感じながら、ネロに寄りかかって本に目を通していく。やっぱりなんにも入ってこない本の内容だけど、分かる事もあるかな?と一応、文字を目で追ってみた。
内容を理解できないながらも、頑張って読み進めてみる。不意に頭から手が離れて、疑問からネロに視線を向けてしまった。俺が寄りかかるのを止めると、ネロが隣から移動してしまった。
ネロを目で追っていくとテーブルの向こう側の椅子に腰を下ろした。そして、ネロは足を組んで背もたれに寄り掛かり、ぼんやりと俺を眺め始める。
「ごめん、重かった?」
「問題無い。集中する琥珀の邪魔になると判断した。」
めっちゃ体重をかけて寄りかかってた気がしてネロに謝ってみた。ネロ的には、俺の読書の邪魔をしないように移動してくれただけらしい。ネロの気遣いに頷いて本に戻る事にする。少し本を読み進めたトコロで、肌寒さを覚えてネロに視線を向けてしまった。
「ネロの体温が温かかったから、ぬくぬくで気持ち良かった。」
「琥珀も体温が高かった時は温かかった。」
「今日みたいな雨の日はくっついてたいよね。」
ネロは温かいからね、っとニコっとしてみたら、ネロが目を細めてくれる。そのまま、俺はまたいつものようにクッションを手繰り寄せて、ソファに腹這いになって本を読み続けた。途中、茶を飲むか?と声とかけられたけど首を振って本に集中させて貰う。
読んでた項目の中で、〈浄化〉と〈照明〉の魔法については理解できた。ほぼ、スツィの説明通りの事が長い文章と回りくどい感じで書かれている。少しだけ違うのはRUの方法だ。
俺はスツィに、DBでランダムに引き当てる事ができればRUすると説明された。でも、本によると、使用すれば使用した分だけ修練度が上がっていってRUに至ると記されている。
Rが上がる程、次のRへの修練度の必要値が上がっていく。最終的には、Rを最大まで上げ切った状態で修練度を貯めてくと、限界値でMとなるみたいだ。
Mした魔法は、消費MPがゴリッと減ったり、無詠唱になったり、持続時間が永久継続になったり、効果が比べ物にならないくらい上がったり、と別物のような使い勝手になるらしい。
因みにMする程迄、修練度を上げたと確認されている人物は、数える程しかいないっぽい。Mとはまだ未知数の可能性を秘めていて、まだまだ研究が続けられてるんだって。
みんなはいいな。覚えちゃえば、後は使うだけでRUなのか。ふ~っと深い溜息を吐き出しながら体を起こしてソファに座り直してみた。




